分析→戦略→管理→評価サイクル
(ASME)
ASMEサイクル、あるいはPDCA批判
解説:池田光穂
ASMDとは、池田光穂による、行動計画実行のモデル。ASMEサ イクルともいう。ASMEとは、分析 (Analysis)・戦略(Strategy)・管理(Manegemnt)・評価(Evaluation)の頭文字を順に並べ たアクロニム のこと。
Analysis, Strategy, Management, and Evaluation!
これは以下に述べる、ヘルスコミュニケーションのための戦略づくりのための、PDCA批判から生まれたものである。
出典は、 Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health/Center for Communication Programs, "A Field Guide to Designing a health communication straategy: A resource for health communication profeesionals"(pdf)
PDCAとは、品質管理の経営学におけるエドワード・デミング(W. Edwards Deming, 1900-1993)とウォルター・シュハート(Walter A. Shewhart, 1891-1967)の提唱したマネジメントサイ クルのモデル。PDCAサイクルともいう。PDCAとは、計画(Plan)・実行(Do)・点検(Check)・改善の実践(Act)の頭文字を順に並べ たアクロニム のこと。
Plan, Do, Check, and Act
この4つの項目にしたがって具体的な行動を記述すると実践してゆく。つまり、計画(Plan)をし、それを実行(Do)し、その結果を点検 (Check)し、改善の実践(Act)をおこなうことで、次の計画立案に繋げてゆくという発想である。この手法により、生産物の品質をあげてゆくという ことが、当初のデミングとシュハートのアイディアであったが、この手法はサービス産業を含むあらゆるビジネスの現場で応用可能なフィードバックループモデ ルにほかならないことが用意に分かる。
他方で、2017年当初に、日本の大手企業の中堅以上の役員に、日本の大学や文科省はPDCAを回すというスローガンがぶんぶん回ってますとい
うと「もう企業では半世紀前に終わってます」と返事が返ってきたというジョークがある。つまり、2017年の時点で後生大事にPDCAでカイゼンなどとい
う大学経営を謳っている組織は、もうすでに「終わっている」わけだから、そのような組織にいる人は、さっさと転職を考えたほうがいい(この解説の末尾で再
度説明する)。
Multiple iterations of the PDCA cycle
are repeated until the problem is solved.(Source: https://en.wikipedia.org/wiki/PDCA)
例えば、多文化共生に関する教育を半年後に控えている教員のチームは、PDCAサイクルに従うと次のように動くはずである(もちろん実際のチー ムはさまざまに動くのでこれは、解説者が思いついた一例であり、これがすべてではない)。
1.計画(Plan)
5W1Hで計画を練る。誰が(教育のプロジェクトチーム)、何を(大学院生に対して多文化共生の授業を)、いつ(半年後から4か月かけ て)、どこで(本学のXキャンパスのY教室で)、どうして(大学院の共通カリキュラムとして本学の大学院生のすべてが身につけておかねばならない「多文化 共生」のスピリットを陶冶するために)、そして、どのように(一人の教員の独断場とするのではなく、対話型の授業を取り入れ、受講生は事態を複眼的に考え られるようにする)
2.実行(Do)
ここではカリキュラムを作成することが実行である。多文化共生の15コマの授業計画を立てる。それぞれの授業に、どのような教員を割り当て すればよいのか、その教員は全体の理念にもとづいてどのような授業を実行するだろうか、授業で理解したことを学生がどのように発展させてゆけばよいのかな ども、イメージしてカリキュラム案を作成する。
授業のシラバスの事前アナウンスをどうするのか、受講者が多い時/少ない時どう授業を運営するのか、授業の予習復習をどのように提示するの か、途中で情熱ややる気が減退する学生にはどうするのか、やる気がありすぎて授業ではものたりない学生にはどのような発展を促せばよいのかなども考慮のう ちに入る。ただし、この時点で現実原則に合わせる必要はなく、夢は大いに語るべし。
実行=do と次の次に出てくるアクト=act との峻別については、アクトの部分で解説します。
3.点検(Check)
複数の教員が考えたカリキュラムをもちより、相互に批判する。計画で立てた具体的項目にあっているのかを点検する。
講義中心の座学だけではなく、実習やOJT(実際に行われている現場での訓練)を取り込む必要があるか、もしそれらを実行するのであれば、 その評価はどうするのか、実習にともなうリスクはなにかなど、授業の実際の運営に際して生起することなども考慮に入れはじめるのも、この時期である。
4.改善の実践(Act)
点検にもとづいて、それぞれのカリキュラムの内容についてシュミレーションをおこなう。想定される受講生のレベルは授業にきちんとついてい けるか、学生が不明瞭なことはどのような学習の資源(教員、教科書、配布されるハンドアウト、インターネットリソース、辞書辞典類など)によりリカバーで きるのかを複数の教員で多角的に検討する。
場合によっては、その授業を教員同士であるいは、実際にモニターになってくれる学生を徴募して試験的にセミナーをおこなってみる。その際に は、実際にビデオをとって、時間配分、内容の粗密、なども事後的にチェックするようにする。
このようなことを通してシラバス案が完成し、校閲を得て次年度のシラバス集に収載される。
さて、このアクト=act と実行=do の定義の違いについて分からないという質問が出ます。たしかにそのとおりです。でも、アクトがこのサイクルの第1ターンの最後に出てくることから、アクト の結果つまり総括をもとに、新たな計画=planのサイクルに入ることで、アクトは、最初の実行よりもチェック=checkを経由して実行されるわけです から、より進歩したものでしょう。有り体に言えば、Plan - Do, Check - Act の対で構想されているのでしょう。これは、ある意味で、計画と実践というものが行動を取り 込んだ弁証法とも言えるものでしょう。
PDCAのサイクルは、時系列にしたがって次のサイクルを実践することに意味がある。前のサイクルの経験をもとに、次のサイクルをまわし、改善 をルーティン化するだけでなく、サイクルに変化があることから品質改善のフィードバックをつねに持ち続けることができるという利点がある。
1.計画(第2サイクル)
授業が正式科目として承認されてから、実際の授業開始までに、具体的な準備、必要な機材、プレゼンスライドやハンドアウトの具体的作成など のチェックシートをつくる。
2.実行(第2サイクル)
実際に授業をおこなうことである。
3.点検(第2サイクル)
教員同士の相互批判、受講生からのリアクションペーパーからのフィードバックを集約したり、個々のクレームを処理し、それについて学習す る。
4.改善の実践(第2サイクル)
その後の授業に改善点を盛り込んでいったり、授業の実施教員の間で反省会を実施し、具体的にどのようにすれば問題を解決することができるの か(短期・中期・長期)考える。
このようにPDCAのサイクルは、現場で応用可能な簡便な方法でありながら、なかなか奥が深いテクニックである。奥が深いというのは、そのプロ グラムに参加する人たちのプログラムに対する意識化(パウロ・フレイレの言葉)を可能にするからである。
デミングらの思想は、日本では西堀栄三郎(1903-1989)が戦後から精力的に導入したことで、日本型のカイゼン(KAIZEN)と舶来の PDCAに対する信仰が新 しいミレニアムになっても衰えない。むしろ、現在では政府系エージェントや政府の機関でもPDCAによる業務改善 が叫ばれる始末である。
PDCAの経営管理的発想と接点をもちながら大きくことなるのが、問題に基づく学習 (Problem-based Learning, PBL)である。
PDCAというのは独特の用語であるが、実は我々の職域のなかで、PDCAの発想をもとにした、類似の社会行動モデルがたくさんある。その代表 が問題に基づく学習(PBL)である。
出典:池田光穂「問題をあぶり出し、それをまとめ、分析し、対策を考え、実行
してみ る、ための演習」
PDCAの発想をもとにした、類似の社会行動モデルがたくさんあると記したが、このフィードバックループは、PDCAが歴史的に先というより も、どのような社会行動でも自己反省と改善という2つの特性があれば、PDCAをにたりよったりということだ。したがって、君の職場の上司が、PDCA、 PDCAと繰り言のように言うと、それは、PDCAの自己反省と改善という2つの特性がもたらす、社会的効果について、その上司はもはや(無反省な)痴呆 状態に近づきつつあるということになる。
Multiple iterations of the PDCA cycle are repeated until the problem is solved.(Source: https://en.wikipedia.org/wiki/PDCA)
PDCAは、例えば文部科学省が、西暦2000年前後くらいから、さまざまな教育改革や教員組織改革のために官製用語として、現場に導入したた め2010年頃には、それらの組織の管理者が異口同音に叫ぶスローガン化するようになった。しかし、現場改革のための、どのような用語と哲学も、半強制的 に使われるようになると、その用語そのものはプラスティク用語化し、形骸化が起こる。私(池田)は、それを揶揄して、組織がだめになることを、検証と改善 の仕組みの「最終解決」としての廃止というジョークとして Plan, Do, Check, and Abolish !!!! と表現した。
Plan, Do, Check, and Abolish!
現場の皆さんは、決して、廃絶されるメンバー(労働者)にもまた、廃絶を断行するメンバー(管理者)にもならないように願いたい。なお、後日談 ですが、このジョークは民主党政権期に、政府が主導する省庁の「行政仕分け」に対して国会議員の粘着的介入に辟易した下級官僚の間にも流布していたそうで す。PDCAは、本当にうまくいくと、すばらしいモデル(設計図あるいはプラン)ですが、実際の経営や生産物の質の管理(QC)ですべて、それがうまくい くわけではありません。また、うまくいったものを事後的に分析して、このモデルに当てはまることが「証明」されても、未来の別の問題解決にそれが万能に考 えるわけではありません——そう考える人は思慮が足りない人でしょう。
さて、冒頭に、2017年当初に、日本の大手企業の中堅以上の役員に、日本の大学や文科省はPDCAを回すというスローガンがぶんぶん回ってま すというと「もう企業では 半世紀前に終わってます」と返事が返ってきたというジョークがある。つまり、2017年の時点で後生大事にPDCAでカイゼンなどという大学経営を謳って いる組織は、もうすでに「終わっている」わけだから、そのような組織にいる人は、さっさと転職を考えたほうがいい、と書いた。
次の写真は、筆者が名古屋市にある「リニア・鉄道館」を訪問したときに呟いたときに揚げた写真である。
その時の筆者の呟きはこうである!「新幹線の保守点検にPDCAサイクル
があった‼︎ 偉いのは右端の【廃車】‼︎ 大学にはそれがない。だから最初から負けてるな」と。
これと全く似て非なるものが、デイヴィッド・ケリーや ティム・ブラウンのデザイン思考/デザイン・シンキングである。
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