ダンス(舞踊)と疫病
Dance and Plague
Dancing
plague of 1518 by Pieter Brueghel and The Dance of Death (1493) by Michael
Wolgemut, from the Nuremberg Chronicle of Hartmann Schedel
ダンスと疫病を考える際には、この2つの単語のあい だの関係を整理する必要があるだろう。まず、ダンスすることが疫病のように流行り、みんなが狂ったように踊りまくることである。それが上の版画の右側のも の「1518年の踊り病の蔓延(Dancing plague of 1518)」 である。他方では、疫病が蔓延しまくり、死人が大量に出て、「あたかも死人が喜んで踊り狂うぐらい」蔓延すると いうものだ。それが左の図で「気味の悪い踊り(Danse Macabre)」というもので、上掲のものは骸骨だけがダンスをしているが、その死の舞踊(Totentanz)は生きている人と骸骨が踊るというもの もある。ともに、死が隣り合わせということを意味している。人類史におけるダンスや舞踊の起源は、生き物の動きを模倣したものとか神や精霊とのコミュニ ケーションのために生まれたという主張があるが、実際のところは明確ではないが、すくなくとも、バタバタと人が亡くなっていく状況のなかで踊りというもの が、歴史のもっと後になってから生まれた可能性もある(映像紹介(YouTube):The Plague That Made People Dance Themselves to Death)→(病気の文明史)
Bernt Notke:
Surmatants (Totentanz) from St. Nicholas' Church, Tallinn, end of 15th
century (today in the Art Museum of Estonia)
病気に関する近代医学学問の一分野に病理学(びょう りがく:パソロジー:pathology)というものがある。病気の原因がどういうもので、体の一部あるいは全体に、どのようなメカニズム(作用機序)で 悪さをして、その病状の持続時間はどれくらい、病気は発病後どのような変化を遂げるのかということを詳細に研究する分野である。
舞踏の名前の冠した病名がある。それを「ハンティン トン舞踏病(Huntington's Chorea)」という。Chorea(こりあ)とは、ギリシャ語の踊り(χορεία)起源とする舞踏病のこと である。ハンチントン病は、日本では難病指定の病気で「常 染色体優性遺伝 型式を示す遺伝性の 神経変性 疾患で、 舞踏運動 などの 不随意運動 、精神症状、行動異常、認知障害などを臨床像の特徴と」 するものである——難病症状センター。舞踏運動(chorea)の説明は、術語だらけで難しいが次のように説明されて いる:「…自分の意志に反して運動を行う不随意運動の一つ。不規則で非律動的な運動。ア テトーゼ(=自分の意志に反して運動を行う不随意運動のひとつ)と同様に錐体外路障害が原因であるが、アテトーゼより素早い運動である。手 を曲げたり伸ばしたりする運動、舌を出したり引っ込めたりする運動、首を回す運動、首を後ろに伸ばしたりする運動など、一見日常動作の一部となっている場 合がある。代表疾患としては脳性麻痺、ハンチントン舞踏病がある」。つまり医学的には、舞踏運動はアテトーゼと区分されているが、両方とも、人間の創作・ 芸術行為としてのダンスが「意図的な随意運動」であるのに対して、舞踏運動やアテトーゼは、自分の意思でコントロールできない状態のことである。そのた め、後者には病的な異常という判断がなされる。
今般(2020年の全期間)のコロナ禍(SARS- CoV-2というウィルスが引き起こす呼吸器系を中心とした病気COVID-19が世界的に蔓延した状態、つまりパンデミック)において、舞踊家や舞踏家 が、創作行為として人びとの苦しみや生き方を表現するとは、どういうことなのか?についてさらに、思いを馳せたい。
病気は身体のところにさまざまな病変をもたらすこと がある。ハンセン病における身体や顔貌の変形は、これまでさまざまな宗教家や芸術家に表現されてきた。例えば、韓国・朝鮮の民衆の踊りにおける仮面踊り (タルチュム)において、ハンセン病者(ムンドゥイ)に扮した踊り手が太鼓を叩きながら踊る独特の形式(Goseong Ogwangdae leprosy drum dance)がある。
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고성오광대 문둥북춤; Goseong Ogwangdae leprosy drum dance
したがって、人類が直面するさまざまな疫病や災害の 危機に対してダンス(舞踊)の表現行為を通して、そのような「人々の心のパニック」を鎮めていこうという芸術家が登場することは、ある意味で理に叶ってい るはずだ。人びとは、そのようなダンス(舞踊)を鑑賞したり、共に踊るという行為を通して、「人々の心のパニック」である疫病(COVID-19)を、な んとか精神的に「飼い慣らして」ゆくのかもしれない。誕生の喜び、死の悲しみ、病気の苦しみ、恋愛の喜びや人生の失敗の辛酸などなど、芸術家が人間の生き 生きとしたありさまを、楽曲、絵画、映像記録、そして、ダンス(舞踊)を残そうとする。
私は、ジャワ舞踊家の佐久間新さんから、誘いを受けて「コロナ禍におけるダンスというものをどのように考えたらいいのか?一緒に考えてほしい」という要請を受けて、このページを作成した次第である。
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