イノベーションの倫理学
Innovation Ethics, Ethics for
Innovative Science
「チャレンジャー号の参事は、今日の組織行動や個人の行動に関する研究の中で、最も解決を要する難問のひとつ、すなわち既存の倫理学的理論によって、新しい科学技術や新しい形態の組織、そして発達し続ける社会シス テムが提示する諸問題を適切に説明することができるかという問題をじかに突きつけてくる。この事実が示しているのは、チャレンジャー号の参 事について倫理的に分析することの重要性である。この問題の中心にあ るのは責任の概念である」[ラッセル・ボジョリーほか2005 [1997]:235](訳文は変えた)
01■チャレンジャーの技術倫理の問題
スペースシャトル「チャレンジャー号」の事故(1986年1月28日)における事故調査委員会(ロジャーズ委員会=Rogers Commition) に招かれたファインマンさんが、事故の原因を探求するプロセスについて考える。
ファインマンさんのプロセスを、科学コミュニケーションの問題として考えると、大きくわけて次の3つのポイントに絞られる。
1.NASAの官僚制度のあり方。ポスト・アポロ計画における宇宙開発への連邦政府の予算獲得のために、安全性よりも話題性(=広報)に力 点が注がれ、肝心かなめの飛行の安全性に関する問題解決がないがしろにされたこと。
2.NASAシャトルの「安全率」の計算は、従来の他のロケット開発のように計画がボトムアップにおこなわれる安全率の低さにくらべて、 トップダウンで設計されたために、安全率を高く見積もる(=事故率を低く見積もる)という問題が、構造的にあった。
3.Oリングが、寒冷条件で硬化して、その気密性が大いに損傷を受け、致命的なものになることについて、「想定されて」いなかった? 発射 時の早朝に、氷 点下を示していたこと、また、現場では、Oリングの低温での硬化については、早くから問題が指摘されていたのに、改善されなかったこと。——チャレン ジャーの発射時に氷点下を切っていたことは不運であると同時に、氷点下時におけるリスクマネジメントの発想が「なかった」ということ。
出典:「チャレンジャー号事故とファインマンさん」
02■アウシュヴィッツ=ビルケナウにおけるイノベーション(同サイトより)
ナチスは害虫駆除用Zyklon B をどうして主にアウシュビッツでユダヤ人虐殺に使ったのか?ウィキペディア「アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所(Auschwitz concentration camp)」 によると害虫用の殺虫である本剤の在庫が十分にあったので、ユダヤ人殺害に試しに使ってみたら、その有効性・即効性が発見されたという。そのため、オート メーションで収容者を殺戮するようになり、また効率のよい殺戮操業の成績がSSの中で評価され、このことが(アイヒマンなどが深く関わった)移送ルートが 強化される。これは、ジョセフ・シュンペーターのいう、言葉正しい意味でのイノベーション(innovation)ということになってしまう。
【設問】
この反倫理(anti-ethics)のイノベーションの何が問題なのか?シュンペーターのいうイノベーションのそれぞれの段階に応じて、反倫理的な項目を指摘しなさい(→「イノベーションの定義」)。
1)「新しい財貨すなわち消費者の間でまだ知られて いない財貨、あるいは新しい品質の財貨の 生産:The introduction of a new good — that is one with which consumers are not yet familiar — or of a new quality of a good.
2) 新しい生産方法の導入:The introduction of an improved or better method of production, which need by no means be founded upon a discovery scientifically new, and can also exist in a better way of handling a commodity commercially.
3)新しい販路の開拓:The opening of a new market that is a market into which the particular branch of manufacture of the country in question has not previously entered, whether or not this market has existed before.
4)原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得: The conquest of a new source of supply of raw materials or half-manufactured goods, again irrespective of whether this source already exists or whether it has first to be created.
5)新しい組織の実現」:The carrying out of the better organization of any
industry, like the creation of a monopoly position or the breaking up
of a monopoly position.
左:Tyklon B (アウシュヴィツ博物館等にありますが多くは精巧な複製品)/右:Aamulehden uutinen vuodelta 1929 paljastaa, mihin Zyklon B -kaasua todella käytettiin.(フィンランドのサイトから)
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