Distance education or distance learning, correspondence courses, online education
池田光穂・松浦博一・宮本友介
◎このページは、ダイキン工業株式会社による「基礎 検討フェーズ報告書・研究テーマ提案」から「2020年度共同研究委受託研究」のフィージビリティ調査研究である。調査研究班は、池田光穂・松浦博一(大 阪大学COデザインセンター教員)と宮本友介(大阪大学大学院人間科学研究科)である。
命題04:コロナ禍における大学が真にオープンにな
るために
2020年当初からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的蔓延のため世界の大学は遠隔教育あるいはオンライン授業に切り替わった。こ
れまで北米の大学は遠隔教育(distance learning, online
education)は流行以前から行われており、日本の大学関係者におけるその導入の騒ぎや混乱は無縁のようである。他方でこの劇的な変化を契機に、日
本の大学教育環境が抜本的に刷新する可能性も否定できない。
エコシステム:「ITやインターネットにおいて も、さまざまなネットワークと端末とそれを利用するさまざまな人間のシステムをなしていることがわかる。そのため、生態学理論から用語とインスピレーショ ンを借りて、比喩的にエコシステムと言うようになったのである。エヴァンズとシュマレンジーは『マッチメイカー』朝日新聞社(2018)において、企業間 の連携を促すサービスや物流の場(=プラットフォーム)の外側にあり、積極的/消極的に影響をもたらすビジネス、会社や組織などを含めた環境要因を、まと めてエコシステム(生態系)と読んでいる」。このエコシステムでの問いはこうである;大学がキャンパスをすてて、インターネットだけで「営業」をはじめた 時に、どのような形の大学に「変貌する」か?
日本、ヨーロッパ、米国、アジアにおける遠隔教育 に関する実践の比較研究を手掛かりにして、それぞれの国の大学が抱える具体的問題(出席確認、学習効果、実習実験の代替可能性、遠隔PBL(問題に基づく 学習)の可否、課題評価、最終評価、単位認定等)に関する調査をし、比較表(ルーブリック)を作成し、それらの問題解消と、それらの国や地域の比較大学改 革論を感染爆発後の、大学に実装できるかについて考えてみよう。マーシャル・マクルーハン(M. McLuhan)は、すでに大昔にこう言っている。オートメーションとは情報であり、仕事の世界で課題(ジョブ)を終わらせるだけでなく、学習の世界では 学びの科目そのものを終焉に導く("Automation is information and it not only ends jobs in the world of work, it ends subjects in the world of learning.")。彼が言うことが予言が現在実現したとすれば、ICTは情報供給のオートメーションを達成しただけではなく、それ自体が自律した情 報体そのものになり、マルクスのいう労働の終焉であると同時に、科目に分断された科目課題そのものが終焉し、課題を学際的実装するPBLそのものが学習の 世界=教育の現場での空気になると。
「2.研究開発最終目標」で触れた内破の議論の続 きである。内破とは、改善がもたらす持続的イノベーションではなく、破壊的イノベーションを意味すると主張した。従来の大学の研究と教育のあり方に対する 改善ではなくシステムの破壊と構築を提言する。大阪大学を改善するのではなく、内側から(物理的にではなく観念的に)「破壊」する計画である。すなわち、 内破とは組織やその上位の社会の変革のための初発の偶発的運動のことを言う——この表現は以前の内破のイメージから変化している。
社会がかわるための原則を、ドン・タプスコットら の『マクロウィキノミクス』という著作から手がかりにして考えてみよう。かれらは、著作の内容をまとめて、次の6つの未来原則をまとめている。すなわち、 (I)クリエイターではなくキュレイターをめざせ。(II)共有財の価値を見直せ。(III)参加者には徹頭徹尾、自由にさせよ。(IV)活動をになう前 衛を発掘し、強化せよ。(V)コラボレーションの文化をつくれ。そして、(VI)ネット世代(Generation Z)に権限を委譲せよ、という6つの行動指針である。本研究での探求の成果においても、これらの指摘は大いに参考になった。
これまでの大阪大学への従来の大学評価基準は、基
準となる年度のベースラインからの成長や効率向上を測るものだが、それを内破する上のような提案を大学が「本当に」実装することは、社会からみた大学への
見方が根本的に変化するものと思われる。大学を内破する共同研究と提言と大学の動きを観察することで、スポンサーもまた企業体として外部の社会環境から改
善が求められるだけでなく、内側から変革する意識が芽生える可能性がある(承前)。
●クレジット:「04:「空 気と空間づくり」から考えるイノベーション・キャンパスの実現:コロナ禍における大学が真
にオープンになるために」
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