医療人類学の諸領域
What is the field for Medical
Anthropologists
? : Past and Present.
もくじ:
【1990年代末の結論です。作者の今日/現在の 結論は 異なる可能性があります】
1990年代に個人で医療人類学全体の総説あるいは完璧な教科書を書くこ とは不可 能であろう。あるいはもし存在しても、それ はきわめて中途半端なものに終わっていることだろう。医療人類学は過去30年以上の学問的な発展の全貌を把握するにはほとん ど個人の能力でカバーできる範囲をはるかに越えたところにある。私が個別の論文を読むときに、いまそれが医療人類学である かどうかと見なす私自身の判断基準は、医療を分析する際にちょうどリヴァースが指摘したような発想との距離の近さによって である。
アメリカ合衆国における医療人類学の誕生において、当時の社会状況が近代 医療批判 をおこなったことは、その学問のその後 の発展の方向性において重大な影響を与えた。近代医療における全体性の回復が、学問の方法・スタイル・理念の中に要求され かつ実際に反映されたのである。アメリカ人類学連合に参加する医療人類学会は毎年若手の意欲的な研究論文を表彰しているが それはW・H・R・リヴァースの名を冠している。このことの理由は彼がこの学問的領域の先駆的な研究をおこなった以上に、 彼の民族医学研究のなかに医療を社会総体の営為として見ようとするモーメントがあり、この領域の学問をおこなうエートスと も言うべきものを形づくっているからではないかと思われる。学問を知ろうとする人は、その学者たちが何をやっているか知る べきであるというC・ギアツの指摘は、すくなくともこの領域の研究にはうってつけの言葉だと我々に思えるのは、この理由か らである。