池田光穂
患者の語りを解放しようとする臨床人類学
の企ては、えてして患者の語りの管理という新たな支配を生む
(2000.03.16
M.ikeda)。
この指摘の最終目標は、やがて「病いの語り:批判」
として結実させる予定である。
Arthur Frank's
"The Wounded Storytellor"(1995):傷ついた物語の語り手の章立ては以下のとおり(→リンク)
- 序文と謝辞
- 1.身体が声を必要とする時(When Bodies Need Voices )
- 2.病いをともなった身体の問題(The Body's Problem with Illness )
- 3.物語を召喚するものとしての病い(Illness as a Call for Stories )
- 4.賠償返還の語り(The Restitution Narrative )——鈴木訳では「回復の語り」
- 5.混とんの語り(The Chaos Narrative )
- 6.探求の語り(The Quest Narrative )
- 7.証言(Testimony )
- 8.口が半ば開いた傷(The Wound as Half Opening )
アーサー・フランク(1996:177)
は、病者の
語りを制御したり、語りそのものから、逆に患者の気持ちを忖度することを戒め、個人史や社会的文脈への注視を怠ってはいけないと、「病いの語り」について
正しく理解することへの注意を怠らない。
フランクは、病者の人たちが、自分たちの
ステレオタ
イプにあてはめて、病者役割を実践することへの危惧にも警鐘を与えている(1996:176-178)。
語りへの注視ではなく、病者の自己理解へ
の内面への
注視が必要なのだ(1996:179)。
さて、アーサー・クラインマン『病いの語り』の章立ては以下
のとおりである。
- 1.症状と障害の意味
- 2.病いの個人的意味と社会的意味
- 3.痛みの脆弱性と脆弱性の痛み
- 4.生きることの痛み
- 5.慢性の痛み——欲望の挫折
- 6.神経衰弱症——アメリカと中国における衰弱と疲弊
- 7.慢性の病いをもつ患者のケアにおける相反する説明モデル
- 8.大いなる願望と勝利——慢性の病いへの対処(コーピング)
- 9.死にいたる病い
- 10.病いのスティグマと羞恥心
- 11.慢性であること社会的文脈
- 12.疾患を創り出すこと——虚偽性の病い
- 13.心気症——アイロニックな病い
- 14.治療者たち——医者をするという経験の多様性
- 15.慢性の病いをもつ患者をケアするためのひとつの方法
- 16.医学教育と医療実践のための、意味を中心としたモデルのチャレンジ
このような作品の
批判をとおして、最終的に、「病いの語り:批判」へと議論は展開する予定である。
リンク
文献
- Ian
Parker(イアン・パーカー)の質的心理学
- ナラティブとエビデンスの間 : 括弧付きの、立ち現れる、条件次第の、文脈依存的な医療 / ジェイムズ P. メザ, ダニエル
S. パッサーマン著 ; 岩田健太郎訳, 東京 : メディカル・サイエンス・インターナショナル , 2013.5
- からだの知恵に聴く : 人間尊重の医療を求めて / アーサー・W・フランク著 ; 井上哲彰訳, 日本教文社 , 1996/
At the will of the body : reflections on illness / Arthur W. Frank,
Boston : Houghton Mifflin , 2002. - (Mariner books)
- The wounded storyteller : body, illness, and ethics / Arthur W.
Frank, Chicago : University of Chicago Press , 1995/ 傷ついた物語の語り手 :
身体・病い・倫理 / アーサー・W.フランク著 ; 鈴木智之訳, ゆみる出版 , 2002
- The renewal of generosity : illness, medicine, and how to live
/ Arthur W. Frank, Chicago : University of Chicago Press , 2005
- Letting stories breathe : a socio-narratology / Arthur W.
Frank, Chicago, Ill. : University of Chicago Press , 2012
- The wounded storyteller : body, illness, and ethics / Arthur W.
Frank, 2nd ed. - Chicago : University of Chicago Press , 2013
- ライフストーリー研究に何ができるか : 対話的構築主義の批判的継承 / 桜井厚, 石川良子編,新曜社 (2015)
その他の情報
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