はじめによんでください

言語に優劣はあるのですか?

Is there a superiority or inferiority between languages?

かいとうしゃ:いけだ・みつほ池田光穂

質問: 授業で「言語の不平等性」について課題が 出ました。これについて教えてください。

質問の趣旨:「言語に不平等性はある か?」

さまざま答え方があります。

(1)

いぢわるな答え方ですが、言語に不平等性などはありません。というのは、コミュニ ケーション体系として個別言語を研究対象とする際の言語学者の学問的姿勢は、言語 の価値づけに関する相対性から出発しているからです。やさしく言うと、文化 人類学文化相対主義から議論を出発させるように、言語学者は言語相対主義か ら議論をは じめるからです。つまり、あらゆる言語は(少なくとも言語学者の前においては)平 等であります。だから言語の不平等性はありません。というのが最初の答えです。しかし、先生はそんな答えに満足するだろうか? また生徒はこの線で、問題 を出された先生と論戦して真正面から勝負を挑むことができるだろうか? そうすると次の作戦を練る必要があるようだ(→「さまざまな相対主義」)。

(2)

こんどはより実践的解釈。宿題を出された先生が考えているのは特定の歴史的・社会 的文脈における言語の価値づけに関する問題、つまり不平等性についてである、とい うことではないかということです。ただし、これは、あなたの講義ノートをひっくり 返して、先生がこのテーマを出題された前後に、特定の言語(少数民族言語)が絶滅 したり、方言差と公用語の問題などについて話されておられたら、という条件がつき ます。もしそうだったら、まさにこのことについて問われているのです。

(2*)謝辞

もし、英語や英文学の先生の出題であれば、英語とそれ以外の言語の不平等な取り扱いについて考え ている可能性があります。つまりどういうことでしょうか? 例として、インターネットやアマゾン・ドット・コムを考えてください。例えば、バイリンガルに ついての議論は、現在、日本語でおこわれている学問的議論よりも、はるかに英語でおこなわれている議論のほうが、質量ともに勝っています。ということは、 日本語の資料でしか勉強できない学生は、英語と日本語の両方の資料が使いこなせる学生よりも不利な立場になる、つまり成績が相対的に低くなる可能性があり ます。要するに、この場合、英語と日本語は、前者が有利で後者が不利ということになります(正確な表現では、英語運用力をもつことが日本語運用力をもつこ とより有利)。英語は、学術教育において「ヘゲモニー(=誰もが認める覇権的)言 語」だというゆえんです。

そのために、先住民や少数民族の文化的主権が国家によって復権された時に、先住民言語教育のみならず、そ の社会にあるヘゲモニー言語運用能力を高める教育も保証されるべきだという権利要求が、少数民族言語を母語とする人たちからも出てくることになります。

そうすると、(1)で述べた、諸言語間の学問的平等性という主張もどこか元気がないように思われ るのも無理はなくなります。そうすると、言語学がどのような政治性をもつのか?という研究や、社会的な文脈における言語使用の実態に関心をもつ社会言語学 などが、言語の不平等性についてより示唆のある答えを用意している可能性があります。

(3)

私は言語学や社会言語学の専門家ではありませんが、関心があって、ルイ=ジャン・ カウヴェ『言語政策とは何か』西山教行訳、白水社クセジュ文庫、2000年を手に とっているところです。国家がその領域内における複数の言語に介入したり主要な言 語の標準化を図ろうとすること——これが言語政策です——が見られるところには、 言語の価値づけをめぐって様々な議論が交錯しますから、ある特定の言語集団からみ て「言語政策は言語に不平等性が存在するあかしである」という議論も当然でてきま す。この本がおすすめなのは、この問題に関して巻末に三浦信孝先生という人が近刊 の類書をあげながら紹介——なんと言語学そのものの植民地主義性(!)について の批判もあります——していることです(まったくオマケとしては最高ですね。私も 買ったかいがありました)。

(4)

課題を課した先生が、どのような文脈でこの問題を課したのかについてもう少し教え てもらえば、もっと具体的にお答えできるでしょう。しかし、そこまでサポートする と誰のための授業か、わからなくなります。君がこの問題について箸にも棒に もかからない状態であればお手上げですが、言語の不平等性について、その前後の授 業において何が話されたのかについて知っており、そのことについてよく考え、さら に抱いた疑問をその先生に質問すればよいと思います。今日日の大学の教師とは、ど んな些細なことでも学生に質問されればたいがいの人は嬉しくなって親切に答えてく れるものです。

今流行りのAIに聞く前に、出題された先生の趣旨をよく考えてからAIに聞いてみましょう。きっとよい回答に出会えるはずです。

***

ながくなりましたが、私の返答は以上です。 垂 水源之介

謝辞:(2*)の記述部分はロックンロール・コダマ先生か ら大いなる示唆を受けました。記して感謝します(2001.05.24)。(→本文に 戻る

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  • 文献

  • 言 語と社会 / P.トラッドギル著 ; 土田滋訳, 東京 : 岩波書店 , 1975.12. - (岩波新書 ; 青-950, C99)/Sociolinguistics : an introduction to language and society / Peter Trudgill. London : Penguin , 1983. - (Penguin language and linguistics)
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