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文化人類学

Cultural Anthropology; and or What is Cultural Anthropology? ぶんかじんるいがくとは?/ ¿ Qué es Antropología Cultural?

解説:池田光穂 

文化人類学とは、人間につい て、「文 化」という概念を中心に、経験的な調査法(=おもにインタビューと参与観察)を動員して、〈他者〉と〈他者がおりなす社会〉を観察し、そのことを 具体的に考察する学問分野です。人類学者が考える文化の概念がきわめて多義的であるととも に、人間の生活一般におけるもろもろの 現象を包摂するものであったために、文化人類学はきわめて学際的な学問であることが特徴です(→文 化人類学のさまざまな用語や概念へのリンク)。そして、文化人類学は、その学問の来歴によって制限づけられる歴史的産物でもあります(→日本文化人類学史

いささか不遜で 危険な(そして100%事実な)言い方ですが、文化人類学者ロバート・フランシ ス・マーフィー(Robert F. Murphy, 1924-1990The Body Silent(1980)の著者は、文化人類学者 を、人間社会の「出歯亀(voyeur)」とまで定義しています。でばがめ(=窃視者, voyeur)するとは、相手の文 化(=異文化)に対する強烈な関心があり、また、それが妄想的な 思い込みであっても相手との関与——関係性の構築——を試みようとする企てにほかなりません。文化人類学は、人間社会の文化構築性を明らかにすると同時に、フィールドにおいて、対象社会の関係をなんらかの形で構築することであります。民族 誌エスノグラフィー)は、人類学者と対象社会との関係性に関する再帰的な記録 であると言えましょう。

元祖出歯亀(a voyeur)創作の中の塩冶高貞(え んや・たかさだ)※左奥。覗かれているのは妻顔世御前(出典:月岡芳 年『月百姿』(19世紀末)37「垣間見の月 かほよ」。『仮名手本忠臣蔵』 で高貞(浅野長矩)の夫人とされた顔世御前の裸婦像。奥には高師直(吉良義 央)の姿)

Voyeurism is the sexual interest in or practice of watching other people engaged in intimate behaviors, such as undressing, sexual activity, or other actions of a private nature.The term comes from the French voir which means "to see". A male voyeur is commonly labelled as "Peeping Tom" or a "Jags", a term which originates from the Lady Godiva legend. However, that term is usually applied to a male who observes somebody secretly and, generally, not in a public space.- "Mercury and Herse", scene from The Loves of the Gods by Gian Giacomo Caraglio, showing Mercury, Herse, and Aglaulos.

覗き見あるいは盗視症とは、他人が服を脱 いだり、性行為をしたり、その他プライベートな行為をしているのを見ることに性的関心を持つこと、また はそれを実践することである。この言葉は、「見る」という意味のフランス語voirから来ている。男性の覗き魔は、一般に「Peeping Tom」または「Jags」と呼ばれ、この用語はレディ・ゴディバ伝説に由来するものである。しかし、この言葉は通常、誰かを密かに観察する男性に適用さ れ、一般的に公共の空間では適用されない。 - 「マーキュリーとヘルセ」、ジャン・ジャコモ・カラグリオ作『神々の恋』の一場面で、マーキュリー、ヘルセ、アグラウロスが登場する。

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◎ 整理しましょう

文化人類学は、その学問実践のスタイルが経験的で、その認識論は学際的であるので、異文化での経 験を積めば文化人類学が何となくわかったような気になります。それが他の連中にも教えてやろうという気になると、俄(にわか)文化人類学者が多く生まれる ことになります。

他の連中にも教えてやろうという俄(ニワカ)人類学者には、2つに分かれます。まず(1)文化は 複数あるという主義主張にもとづいて、なんでもかんでも「比較文化論」で説明する輩(やから=バカのことです)。極端な場合こんなバカな説明をします。日 本人はお箸でお米を食べて畳の上で生活する、西洋人はナイフとフォークでパンをたべて椅子に座って食事する、だから2つの「文化」は違っている云々……と いうもの。もうひとつは、人間集団に固有の文化をもつということを吹聴した後に、なんでもかんでも人間の集団の違いを、(2)「それは文化が違う。文化の 違いを理解するためには、その文化に入り込まないとわからない」と説明して、それ以上考察を深めないバカです。

なぜこの2つのタイプが愚かなのか?説明しましょう。(1)文化の比較する「項目」について違っ たものを恣意的に(つまり勝手に拾いあげて)、ほら違うだろう、こんなに違うなどといって文化的差異ばかりを言挙げするからです。私たちが相手の言語を勉 強して、相手とのコミュニケーションをとれるのは、〈異なった文化の間に共通の文化的要素が存在する〉からです。このことに着目していないので、(1)は バカなのです。(2)は、相手の文化に入りこむ「エスノグラフィー」の方法論が多少なりとも分かっている点で(1) よりも多少ましですが、まだ問題点は残ります。相手の言語を使い、相手の文化に入ると、こんどは相手の世界がまともに見えて、我々の世界が以上に見えま す。そうなると確かに「相手の文化が分かったような気」になります。でも、そうなった時の自分の文化の理解はどうなっているのでしょうか?その時点では自 文化を捨ててしまったかに思える自分があります。でも、自分の文化世界に戻ってくれば、最初は違和感があるかもしれませんが、すぐに自分文化に適応できる ようになります。ここで大切なのは、相手の文化から自分の文化がどのように見えるのか?——そんな経験を「異化」といいます——という反省です。つまり、 文化の理解のキモは、異文化の理解を通した自分の理解にあるということです。これをオーストラリアのアボリジニーの人たちの道具に喩えて、文化人類学の 「ブーメラン的」学問と呼んでおきましょう。

◎ 整理しましょう

文化人類学の同義語ないしは類似した学問領域の名称には、人類学、民族学、民俗学、社会人類学な どがあります。

文化人類学の経験的調査(フィー ルド ワークと総称されます)の特徴には、(1)現地語の習得、(2)長期にわたる観察、(3)参与観察、があげられます。このような活動は、人類学者 の実践的立場として考えることのできる文化相対主義と深くかかわる行為であると言われ ています(→「エスノグラフィーを書く」)。

文化人類学の学問成果は、(書物や映像メディアによって表現される)民族誌(エスノグラフィー)と民族誌を素材にした論文、ならびにこれらをめぐる公共の場 での議論(学会や研究会)で発表されます。

◎ 整理しましょう

文化人類学とは?——7つの命題

1.文化という言葉と概念がこの学問を理解するキーワードだ。

2.人間について経験的(かつ実証的)に調べる学問らしい。

3.人間の生活や営み(way of life)についての学問らしい。

4.文化人類学の内実は多様で、かなり奥が深い学問のようだ。

5.この学問を表現するための、いくつかの基本的で重要な言葉がある。

6.フィールドワークとエスノグラフィーという、ふたつの言葉は重要な概念らしい。

7.たんに他者の文化を研究するだけでなく、自文化の研究に戻ってくる「ブーメラン的学問」なんだ!!!

再掲

文化人類学とは?

1.文化という言葉と概念がこの学問を理解するキーワードだ。

2.人間について経験的(かつ実証的)に調べる学問らしい。

3.人間の生活や営み(way of life)についての学問らしい。

4.文化人類学の内実は多様で、かなり奥が深い学問のようだ。

5.この学問を表現するための、いくつかの基本的で重要な言葉がある。

6.フィールドワークとエスノグラフィーという、ふたつの言葉は重要な概念らしい。

7.たんに他者の文化を研究するだけでなく、自文化の研究に戻ってくる「ブーメラン的学問」なんだ!!!

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次のページでのおさらいをしましょう!

リ ンク

Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099

文化人類学入門

「大序」 四代目坂東三津五郎の高師直、三代目岩井粂三郎のかほ世御前。嘉永2年 (1849 年)7月、江戸中村座。三代目歌川豊国画。