マーガレット・ミード『サモアの思春期』読書ノート
Margaret Mead, Coming of age in Samoa, 1928
【書 誌】
Coming of age in Samoa : a psychological study of primitive youth for Western civilization / by Margaret Mead ; foreword by Franz Boas. -- ( BA43568465) New York : Morrow, 1928 xv, 297 p. ; 21 cm : Mead, Margaret, 1901-1978 分類: LCC : DU813 ; DC19 : 306/.099613 件名: Samoans -- Psychology ; Girls -- Samoan Islands ; Children -- Samoan Islands ; Women -- Samoan Islands ; Adolescence ; Samoan Isla nds -- Social life and customs
サ モアの思春期 / M.ミード著 ; 畑中幸子, 山本真鳥訳<サモア ノ シシュン キ>. -- (BN00665982) 東京 : 蒼樹書房, 1976.3 249p ; 20cm 別タイトル: Coming of age in Samoa 著者標目: Mead, Margaret, 1901-1978 ; 山本, 真鳥(1950-)<ヤマモト, マ トリ> ; 畑中, 幸子(1930-)<ハタナカ, サチコ> 分類: NDC8 : 389.75 件名: サモア諸島 -- 風俗・習慣 ; 未開社会 ; 青年期
【参考文献】
Freeman, Derek. 1999. The Fateful Hoaxing of Margaret Mead: A historical analysis of her Samoan Research. Bouder, Co: Westview.
第1章 はじめに < も どる>
単純=文明から孤立した社会/複雑=文明社会、という前提
単純な社会を研究することで、複雑な社会を理解できるという信念
理論家<兼>実証主義者としての人類学者
1.思春期少女とその前後の段階の少女の生活
2.兄弟の生活
3.両親祖父母の生活
問題意識
思春期の若者の精神的不安定は、成長の一特性か、それとも文明に原因があるのか?
異なった社会状況で思春期はことなった様相を呈するのか?
サモアの少女の社会的背景(成人になる過程、問題群、価値観、運命観など)を通して、自文化の生活様式の評価批判に役立つ。
第2章 サモアの1日 < もどる>
目の前に繰り広げられたものと、仮定状況を混合したかたちで、典型的な1日を夜明けから夜更けまでの時間的変化にしたがって描 き出す。
第3章 子供の養育 < もどる>
子供の誕生に関する父系、母系の親族の分業
父系(=夫の実家):食物を妻の実家に持たせる、新生児の世話
母系(=妻の実家):樹皮布、おしめを実家から家にかえすときに、持たせる。出産の世話。
サモアの子供の社会化は、年少者をみる面倒を通しておこなわれる。
男児は、子守を7,8歳までした後、年長との協同作業にはいる。
女児は、子守の期間が長く、肉体的に強くなると、子守から解放されて力仕事をおこなう。
こうした子供の時期からおこなわれる協同作業の有無は、成人男女の仕事ぶりの違いに反映される。
教育制度は、サモアの「家」を子守役の不在状況を生み出すという混乱を引き起こす。
アウマガ
アウマガは、若者と称号のない年長集団からなる結社に入会する。ここでは、競争、訓戒、実践によって鍛え上げられる。一 方、性的成 熟の突出は嫌われて、厳しく見張られている。青年にとっても早熟だとチーフ集団に加入させられる。チーフ集団では、メンバーだけの交流や行動が許されて、 また大きな責任をともなう。
若者は責任はとりたくないが、仲間よりも優れていたいというアンビバレントな感情をもつ。
第4章 サモアの家族 < もどる>
村は3,40戸からなる。
家にはマタイという家長(チーフ、弁士、トーキングチーフのいずれかの称号をもつ)を中心に構成され、地縁的単位である。
年齢による順位づけ。言いつけ/言いつけられる関係。社会的身分が、地位をめぐる結婚、交友関係の取り結び方、行動の自覚など 様々なか たちで、子供たちに影響する。
第5章 少女と年齢集団 < もどる>
少女の集団:性別対抗の自発的集団、地縁血縁によって組織される。8から12歳までの肉体的に強靱になる前の少女達
居住場所による集団参加の有無の事例
固有名により、ある文章や多様性を説明する方法
「少女の場合、年齢集団は原則的に思春期前に消滅してしまう。個人で行う家事仕事に飲み込まれてしまい、また恋人との恋愛 関係を年 上の猜疑心に満ちた目から逃れるためである。彼女たちにとって友人とは親族集団と性に関する共通の関心が決定要因となる関係である。これに対して少年達の 場合には年齢集団は生涯を通じて続くものであり、恋愛関係の仲介役として、また共同作業の仲間として時には割礼仲間として、年齢集団は社会構造上要請され た強固なものである」p.73
第6章 集団社会での少女 < もどる>
フォノ:チーフやトーキングチーフの称号をもつ男性たち(マタイ)の組織
アウマガ:若者組織。フォノを模倣して編成される。集団活動の計画、村の重労働に際する社交をおこなう。
アウマルマ:娘と称号をもたないものの妻と未亡人で組織。タウポーを中心にして編成される侍女集団。アウマガほど公に認められ ていな い。マタイの妻達の集会の手伝い。多くの地域でほとんど解体している。
主に、社会と家族の2つのレベルでの女性の扱いについて述べられている。
社会では、女性は軽視されていて、トーキングチーフの妻やタウポーを除いて、社会的取り決めや伝承知識から疎外されている。タ ブーや刑 罰も非常に限られた場合のみで穏やかである(厳しい?)。(→女性の公的側面における劣勢)
これに対して、親族集団における女性の地位は重要視されていて、経済上の権限や家族間の不和を取り仕切ったりする。
男女の分業は比較的しっかりとしているが、儀礼的な場合以外では、このタブーは穏やかである。
女性の関心は、小集団に注がれ、個人的な色彩がつよい。
第7章 普通にみられる異性関係 < もどる>
逸脱例として、男女ともに年長者との恋愛がある
正式な結婚以外に、世間に正式に認められている異性関係は、年齢が近い未婚の若者同士の恋愛と姦通
未婚のものの男女関係には3つ(4つの?)の型がある。
1.ヤシの木の下(=戸外?)での密会
2.駆け落ちして後に、公表
3.娘の前に座る形式的求婚
4.その他に夜這い
ソア:恋愛のキューピッドとなる親友、ただし選ぶのは難しい。
姦通しても結婚が失敗するわけではなく、償いのイフォガによって済むこともある。
離婚は、簡単で非公式的である。
結婚は、感情の紐帯を重視するものではなく、ご都合主義な面がある。
第8章 踊りの役割 < もどる>
踊りは年齢性別に関係なく参加できる唯一の活動である。
正式な教師はいなく、高度に個人的な行為で、独創的な振りが重要視される。
ここでは、早熟であることは非難されず、賞賛される。
踊りが教育的要因として働くのは準公式的な場である。
1.踊ることを通して、厳しい服従から自由になる
2.はにかみを無くする
サモアにおける劣等感:異性関係における不器用さと踊りの場での不器用さが主たる原因となる。
身体のハンディキャップは? 踊りの独自性に役立つことになるから、個人の個性の発達に寄与する。
つまり、踊りは個性を発達させ、生活の他の局面でのパーソナリティの抑圧を代償する。
第9章 パーソナリティに対する考え方 <もどる>
ムス:気が進まない気持ち、手に負えないこと。
パーソナリティに対する評価には慎重さと運命論が混じっている。個人的な人間関係において相手にムスが生じないように祈り、慎 重に行動 するが、ひとたびこの態度が現れると努力をやめてしまう。それを人間間の差異をムスという鋳型に入れることにより差異をぼかす役割をもつ。
ムスの存在により、サモアの人々は個人の動機や個性の差異に無関心となる。
感情の表出の説明は、個人の性格についての言及ではなく、個人の気質を持ち出す傾向がある。
大人の描く望ましい人間像はp.124にある。
第10章 平均的少女の個性と体験 <もどる>
少女は村の社会組織についてはなにも知らず敬語にも不慣れである。
幼いときから、生と性と死は目の前にある。
自慰は6,8歳からはじめる
子供たちは性についてよく知っていても思春期以前に異性愛の体験をもつことはない。なぜなら、制度化された両性の間の敵対関係 (敵 意?)が存在し、親密なつきあいに対するタブーがあるためである。
同性愛は稀で、異性愛の模倣か、その代用とみなされる。
家庭環境の影響は。集団行動によって絶えず次の世代で相殺されてゆく。
大家族と小家族の子供のパーソナリティの違いについて。大家族は分をわきまえた子供。小家族は、責任感とイニシアチブを備えた 子供。
同性愛は楽しい気晴らしとみなされる。これに対して異性愛は愛情や個人に対する執着というよりも、子供・経済構造・社会構造の 中にしめ る結婚の一などのために、重要なものとみなされている。
同性愛関係は、まず性関係に関心がもたれるが、異性愛では——性行動はそれほど重要視されないので、(性行為を目標とする)同 性愛に対 して強い関心をもたれないのだ。
第11章 葛藤する少女 < もどる>
葛藤がおこらない少女のまとめ
子供の面倒見=年下のものへの権威の転嫁
親の圧力や躾=逃亡の可能性により、権威に対する反抗を緩和する
親による少女の制御の失敗:働き手が逃げる。駆け落ちによる結婚の価値低下への恐れからくる親の権威の行使の軽減
複数の家=もめ事からの逃避場所の提供
年齢集団=形式的で思春期前に崩壊、グループの団結よりも家の秩序を優先
子供特有の寛容さ=ハンディキャップを受け入れるだけの寛容さ
少女の村への制度化された組み込みがない。
恋愛や性に対する執着が薄い
宗教的環境も形式主義的で妥協的
プロテスタンティズムの厳しさ、性や罪に対する個人的意識は確立されていない。しかし、宗教自体は葛藤の場をほとんど 提供しな い。宗教のつくった新しい制度は、新たな選択への刺激として作用する。
逸脱行動を伴う「非行少女」の具体例がある。
サモアの少女たちは、気質的には多様だが、知識・技術・態度には画一的な面がある。
第12章 成熟と老齢 < もどる>
思春期を除く男女のライフコースが叙述されている
男女の差異:女性は「型」の一生、男性=地位を求めての一生
社会が女性に課す要求の差異は、生産活動と役割への期待の差異である。
夫婦の居住場所について
嫁姑関係は、もっぱら目下目上の関係で、親子の情緒的結びつきは弱い。そのため、葛藤もほとんどない。
チーフ以外は、結婚後も独立世帯をつくらない。
子供の世話や将来の決定も親だけではない。
妊娠時のタブー:一人の行動は禁止
初産の女性は社会的に目立つ存在となる
男性は称号を求めてがんばる。マタイの名を得て、フォノに入ると気質が変わるといわれている。つまり、若者からの訣別
老人になってから:
女性:編み物や薬などの教師としての役割は増える。家での権力は男性の老人よりも大きくなる。人柄についての知識が権 力の源泉 である。
男性:教師としての役割が減る。権力の源泉は、称号にある。
第13章 サモアとくらべたアメリカ合州国の教育問題 <もどる>
問題:思春期は肉体の成長と同じように人間に不可避の特定の精神症状を生み出す時期か?
こたえ:いいえ。思春期前後の少女には肉体的変化という区別しかない。社会的扱いも肉体的資質や成長の差異によって決定されて いる。
アメリカとサモアでは異なる環境で同じ過程が異なる形態をとっている。この原因は、社会環境である。
サモア的性格
=深い感情の欠如が人生に関する全ての態度を決める枠組となるまで習慣化されていること。感情が特殊化しないこと。
サモア的性格の理由は、1.個人ではなく集団への信頼、2.子供から服従することに慣れて人間関係には愛情を分散させ る、3. 少年少女の隔離、4.人間関係の類型化による
未開的性格
=宗教や道徳規範といった選択の幅の狭さやそれらの困難な選択状況がない。
遊びと仕事の区分の見解が、サモアとアメリカでは異なる。
身近に生死があり、それについて慣れている
アメリカは、サモアに学ぶことが多いとミードは主張
第14章 選択のための教育 < もどる>
アメリカ合州国における青少年の困難がおこる原因
「いくつかの相矛盾する規範と、さらに個人はすべて自らを選択しなければならないという信念と、それに加えて選択とは重要なも のだとい う感覚」という文化的態度
アメリカの教育と職業
アメリカ教育:金銭による躾、職業:アメリカンドリーム
選択の可能性を保持しつつ個人の諸影響を受け止める、「器」を大きくする(=寛容を養う)ことを教育の最善の姿である
TextEngine Preject (TEP), Medical Anthropology Project in Japan(MAP-J)
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