フィールドワーカーの本当の敵は肘掛け椅子の人類学者ではない
The real enemies of fieldworkes are not armchair
anthropologists !
Bronislaw Kasper Malinowski and the Trobriand islanders
池田光穂
自分じしんが偉大なフィールドワーカーであり、かつ弟子にも著名なフィールドワーカーを数多く育てたブロニスラウ・マリノフスキー(1884-1942)は、ジェームズ・フレイザー(1854-1941)の『金枝篇』を読んで、それまで学んできた物 理学者への道を放棄して人類学に転向します。
マリノフスキーはフィールドワーカーではない人類学者を肘掛け椅子(アームチェアー)人類学者と批判することがありましたが、尊敬するフレイ ザーはそのカテゴリーに入らないようでした。なぜなら、マリノフスキーの『西太平洋の遠洋航海者』 (1922)には自分の序文に先立ってジェイムズ・フレ イザーによる序文が入っているからです。
マリノフスキーの民族誌は、マルセル・モースの贈与論(Essai sur le don, 1924)に大きな影響を与えましたが、マリノフスキーの民族誌(p.514)にもモースとアンリ・ユベールとの共著になる呪術論(Esquisse d'une the'orie ge'nerale de la magie, 1902)からのマナの概念についての解説と検討があります。モースは、この時代の典型的な肘掛け椅子人類学者ですが、モースのことをこのような蔑称で呼 ばれることはありませんでした。
つまり、フィールドワーカーの本当の敵は肘掛け椅子の人類学者ではありません。フィールドワークしても、そこから何も学ばず、帰ってからも、先行研究の再分析をおこなわない「考えない」人類学者ほど、真のフィールドワーカー敵はいません!
メアリー・ダグラスも、マルセル・モース『贈与論』の英訳の序文で、 近代人類学の誕生は、アームチェアーの人類学から集約的フィールドワークというこれまでの通説を批判し、近代人類学はモースの『贈与論』にはじまると指摘 している。モースの贈与論(1924)は、それよりも2年先行して刊行されたマリノフスキーの『西太平洋の遠洋航海者』(1922)年のデータにも多くを負うているが、モースのすばらしいところは、そのデータを他の、先行する民族誌家や人類学者の報告と相互参照しながら、《一般理論の素描》に成功しているところである。
「近代人類学の特徴をなしているのは、異なる時間・空間の社会から社会へと、そこに埋め込まれた諸概念(諸表象)を比較する点にある」(アサド 2006:21)
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