はじめによんでください

西太平洋の遠洋航海者

—メラネシアニューギニア島嶼における先住民の事業と冒険の一記録—

ブロニスラウ・マリノフスキー:解説:池田光穂

Argonauts of the western Pacific : an account of native enterprise and adventure in the archipelagoes of Melanesian New Guinea / by Bronisla w Malinowski ; with a preface by James George Frazer. -- George Routle dge & Sons, Ltd., 1922. -- (Studies in economics and political science ; no. 65)

フ ルテキスト:ARGONAUTS OF THE WESTERN PACIFIC


私自身が経験した民族学者の苦 難をざっと書くだけで……

「ク ラの説明にはいるまえに、民族誌的材料を集めるのに使う方法を述べておいたほうがよ いと思う。どんな学問分野であれ、学術的研究の結果は、絶対に公明、率直に発表されるべ きである。物理学あるいは化学の実験的研究ならば、実験の仕方の詳細な説明、使用した器 具、観察の方法やその回数、それに費やした時間、測定の近似度などについての正確な記載 なしに、その結果が役にたとうなどとは夢にも考えられまい。物理学、化学ほど精密科学で ない、生物学や地質学のような学問では、研究を同様の厳密さで行なうことはできない。し かし、どんな研究者でも、実験または観察が行なわれたあらゆる条件を、読者にわからせよ うとして最善をつくすだろう。/ 民族誌学では、そのようなデータの率直な説明が、おそらくもっと必要であるとさえ思わ れるのに、いままでは不幸にして、つねに十分なぺージをさいてその説明がなされたとはか ぎらず、また多くの報告者は、事実の堆積のなかに分けいり、暗闇のなかからそれらをつか みだしてみせるときに、方法論的に十分な誠実さをもって自分のやり方をあきらかにしよう としない。[p.31]/ 評判も高く、科学的であると折紙をつけられた研究でありながら、大ざっぱにまとめただ けの説明を呈示し、しかも著者が、どのような実地の経験からその結論に達したかがぜんぜ ん説明されていないような例を引くのはたやすい。観察を行ない、情報を集めたさいの状況 を読者に知らせるための特別の一章はおろか、一節もないのである。/ 私の考えでは、そのような点を記載した民族学的資料だけが、まぎれもなく学問的価値を もつものであって、それがあってはじめて、直接の観察結果および現地住民による口述説明 と、著者の常識や心理学的洞察にもとづく推測との二つのあいだに明瞭な一線を画すること ができるのである。/ 本当のところ、あとにあげる表に含まれているような調査が、これからは 行なわれねばならず、そうしてこそはじめて、著者が記述している事実をどのていど個人的 に知っているか、読者は一目ではっきりと知ることができるのであり、また、どのような状 況下で現地住民からの資料が得られたかが理解される。/ また、歴史科学においては、もし学者が資料の出所を神秘のヴェールに隠し、あたかも直 感によって知っているかのように過去のことを語るならば、だれも本気で相手にしないこと は十分わかりきっているだろう。/ 民族誌学では、著者はみずから記録者であると同時に、歴史家でもある。そして一方、彼 にとっての資料は、たしかに簡単に手を触れられるような近さにありながら、同時にひどく とらえがたく、複雑なものである。つまり、それは固定した具体的な文書の形で存在するの[p.33] ではなく、生きた人間の行動と記憶のなかに含まれているのである。/ 民族誌学では、情報という生の材料と——これは研究者自身の観察、住民たちの陳述、部 族生活の種々相から得られる——研究成果の正式の最終発表とのあいだには、しばしばはな はだしい距離がある。民族誌学者は、対象住民の土地の浜辺に足をふみいれて、そこに住む 人々と接触しようと努力をはじめた瞬間から、結果をまとめて文章に綴りおわるときまで、 何年間も骨折って、この距離を歩まねばならないのである。私自身が経験した民族学者の苦 難をざっと書くだけで、どのような長い抽象的議論よりも、その問題に多くの照明をあてる ことができるかもしれない」(マリノフスキー 2010:31-33)※増田訳

"Before proceeding to the account of the Kula, it will be well to give a description of the methods used in the collecting of the ethnographic material. The results of scientific research in any branch of learning ought to be presented in a manner absolutely candid and above board. No one would dream of making an experimental contribution to physical or chemical science, without giving a detailed account of all the arrange- ments of the experiments ; an exact description of the apparatus used ; of the manner in which the observations were conducted ; of their number ; of the length of time devoted to them, and of the degree of approximation with which each measurement was made. In less exact sciences, as in biology or geology,this cannot be done as rigorously, but every student will do his best to bring home to the reader all the conditions in which the experiment or the observations were made. In Ethno- graphy, where a candid account of such data is perhaps even more necessary, it has unfortunately in the past not always been supplied with sufficient generosity, and many writers do not ply the full searchlight of methodic sincerity, as they move among their facts and produce them before us out of complete obscurity." -ARGONAUTS OF THE WESTERN PACIFIC.

■■あなたが突然、住民 たちの集落に近い熱帯の浜辺に置き去りにされ……

「あ なたが突然、住民たちの集落に近い熱帯の浜辺に置き去りにされ、荷物のなかにただひとり 立っているとご想像願いたい。あなたを乗せてきたランチ[小船]か小舟はすでに去って影も見え ない。隣人となる白人の商人か宣教師のなかに住居を定めてからあとは、すぐに民族誌学的 調査をはじめる以外、何もすることはない。さらに、あなたが経験のない初心者で、手引き となるものもなく、助ける人もいないとご承知いただきたい。/ 白人はたまたま留守であるか、さもなければあなたのために時間を浪費することができな いか、そんな気持はもっていないとしよう。ニューギニアの南海岸で、生まれて初めての[p.34] 野外調査にとりかかったときの私の状態は、まさにこのとおりであった。初めの何週間か、 村々をたずねまわった長い期間のことを、いまでもよく覚えている。住民たちとほんとうに 接触し、材料を手に入れようとなんども執搬に努力してみたがむだだったときの絶望感、情 けなさを思い出す。それは落胆の時期であった。熱帯の退屈とれるように、私は小説を読みふけった。/ それから、白人の案内者といっしょに、または一人で、集落のなかにはじめてはいったと ご想像願いたい。何人かの村人たちが、あなたをとりまく。とくに、た つけたときには。しかしえらぶった人や年配の者たちは、すわったきりである。あなたの連 れの白人は、住民たちを扱うのに型にはまったやり方を身につけている。彼は、あなたが民 族誌学者として現地の住民に接触するときにとるべき方法を理解しないし、たいしてそんな ことに関心をもちもしない。/ この第一回訪問で、あなたは、もしここでひとりでここにもう一度くれば、万事うまくいくだろうとという希望的な感情をもつことになるだろう。すくなくとも 私はそのように希望した」(マリノフスキー 2010:33-34)※増田訳

"Imagine yourself suddenly set down surrounded by all your gear, alone on a tropical' beach close to a native village, while the launch or dinghy which has brought you sails away out of sight. Since you take up your abode in the compound of some neighbouring white man, trader or missionary, you have nothing to do, but to start at once on your ethnographic work. Imagine further that you are a beginner, without previous experience, with nothing to guide you and no one to help you. For the white man is temporarily absent, or else unable or unwilling to waste any of his time on you. This exactly describes my first initiation into field work on the south coast of New Guinea. I well remember the long visits I paid to the villages during the first weeks ; the feeling of hopelessness and despair after many obstinate but futile attempts had entirely failed to bring me into real touch with the natives, or supply me with any material. I had periods of despondency, when I buried myself in the reading ot novels, as a man might take to drink in a fit of tropical depression and boredom." - ARGONAUTS OF THE WESTERN PACIFIC.

4. Canoes and Sailing.
5. The Ceremonial Building of A Waga.
6. Launching of a Conoe and Ceremonial Visiting - Tribal Economics in The Trobriands.
7. The Departure of an Overseas Expedition.
8. The First Halt of The Fleet on Muwa.
9. Sailing on the Sea-Arm of Pilolu
10. The Story of Shipwreck.
11. In the Amphletts- Sociology of The Kula.
12. In Teewara and Sanaroa- Mythology of the Kula.
13. On the Beach of Sarubwoyna.
14. The Kula in Dobu-Technicalities of The Exchange.
15. The Journey Home- The Fishing and Working of The Kaloma Shell.
16. The Return Visit of The Dobuans to Sinaketa.
17. Magic and the Kula.
18. The Power of Words in Magic-Some Linguistic Data.
19. The Inland Kula.
20. Expeditions Between Kiriwina and Kitava.
21. The Remaining Branches and Offshoots of The Kula.
22. The Meaning of Kula.

●フィールドワークの研究倫理/調査倫理

●地理的な情報

20世紀初頭の南太平洋のドイツ領(出典:http://bit.ly/2Yj6TRC

やさしいクイズ!

問 題:この地図の中でトロブリアンド諸島はだいたいどの辺りにあるでしょう?

オセアニア・マップ

●マリノフスキーの調査から30年後には、同地域では何があったのか?

日 本陸軍戦力喪失一覧圖、ニューギニア・ソロモン、1945年

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リ ンク(関連概念)

文 献

そ の他の情報

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