はじめによんでください

フロネーシス

Phronesis

解説:池田光穂

プロネーシスあるいはフローニシス(Phronesis, φρονησιζ)とも言う。思慮あるいは実践知(practical wisdom, prudentia)と訳されるアリストテレスの知識や知恵のあり方のひとつのことである。彼の『ニコマコス倫理学』には真理に到達する際の5つの状態の ひとつ がこのフロネーシスとなっている。他の四つは、それぞれ技術(テクネー、 真理には与らない知識)、学問的知識(エピステーメー)、知恵(ソピアー、技術の 卓越性)、知性(ヌース、直感的なもの)である。そのうち、とりわ け、エピステーメ、テクネー、およびフロネーシス(プロネーシス)が、人間の経験知の3 つの要素として強調されている。フローニシスを兼ね備えた人は、フ ローニモスとよばれる。つまり、フローニモスは、自分にとっての善なることがらや、 利益あることがらを巧みに思慮できる人のことである。

まさに、日本語の語感の思慮の深いに近い概念であるが、人間の善悪の判断に関わったり、言葉で説明できる論理(ロゴス)をともなった「性格の状 態」(ヘクシス=習性)と彼が説明(とりわけ『ニコマコス倫理学』第6 巻)するように、倫理や情動、説明の明晰さ、および身体性などが加味された総合的な知識や知恵(智慧)だ と思えばよい。

それゆえ思慮は学問的知識ではありえず、また技術でもない、と説明されている。

以 下は、フロニーシス(プルデンチア=思慮)について分類である。上位には、フローニシス=思慮を「人間についての知的態度(habitus intellectualis circa res humanas)」と説明している。フローニシスは、さらに、3つの領域にわけられ、(1)狭義のフローニシス(ひとりの人間の知恵:unius hominis prudentia)、(2)オイコノミカ(unius familiae prudentia:ある家族的な知恵)、(3)ポリティカ(totius civitatis prudentia: 市民共同体の知恵)に分けられている。ポリティカは、(4)狭義のポリティカ(legis executiva circa particularia:個別の行政手法)、(5)モノセティカ(legis positiua circa universalia:世界に関する立法)。また(4)狭義のポリティカ(個別の行政手法)には、助言(consiliativa)と司法 (judicativa)とわけている。

藤井義夫『アリストテレスの倫理学』p.137, 岩波書店, 1949

人間の経験=知恵のあり方に関するアリストテレスの3つの分類。

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