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倫理委員会(IRB)の社会的機能

Social Functions of the Institutional Research Board, IRB

池田光穂

倫理委員会とは,日本ではしばしば「医の倫理委員 会」と言われるものに相当する。おもに医学研究や治療行為において,その妥当性の判断をおこなうことの独自性を保証された組織内機関のことをさす。日本に 定着する以前に,先行して存在していた,欧米とくに米国における,施設内委員会,施設審査委員会(共に Institutional Review Board, IRBの翻訳)や,独立倫理委員会(Independent Ethics Committee, IEC)を模倣して作られ定着したと考えられている。

さて文化人類学では,他者および他者の集団に対し て,自己とは異なった存在であることを容認し,自分たちの価値や見解(=自文化)において問われていな いことがらを問い直し,他者に対する理解と対話をめざす倫理的態度のことを文化相対主義という。平たく言えば,自文化からの先入見でもって,異文化である 他者の立場を軽々に判断を下してならないというものである。文化相対主義という観点か らみると,医学研究や治療行為においても,その価値判断には文化的・ 社会的・状況論的なものが影響するために,歴史的ならびに文化的バイアスがかかった価値判断がされている可能性がある。これゆえに,日本における倫理委員 会も,その組織化のされ方,議事進行,意思決定さらに判断の責任の負い方などに日本文化固有の特異性があり,倫理委員会の判断は,社会に埋め込まれた結 果,永遠に正しい判断を持ち続けることができるわけではない。

医学研究や治療行為においても,人類学や社会学の調 査,あるいは心理学にもとづくカウンセリングなどでも,倫理的な逸脱が起こりうる。それゆえに組織に よっては事前審査を要求するものがあり,また組織内で設置されていることがある。

倫理委員会が則る,倫理的判断の基準や指針(ガイド ライン)は,歴史的に定められた国際間の合意や,所轄の省庁が定めた倫理指針(ethical guideline)などを踏襲することが期待されている。その代表格の指針には世界医師会「ヘルシンキ宣言」がある。これは1964年に,ナチスドイツ の医学人体実験を教訓につくられたものである。ただし旧日本軍による731部隊の教訓は ここには生かされていない。ヘルシンキ宣言は,1975年に改訂さ れた際にヒトを対象とする医学研究には〈独立の委員会〉による審査判断が必要であることを,世界で初めて明文化した(その後8回改訂されて最新版は 2013年)。それ以外に,米国・国家研究規制法(Title 45 CFR, Code of Federal Regulation, Part 46)があり,これも1974年,組織内に倫理委員会の設置を義務づけた法律である。日本では,厚生労働省「ヒトゲノム・遺伝子解析研究」倫理指針 (2001),厚生労働省「ヒトES細胞の樹立および使用」倫理指針(2001),クローン技術規制法「特定胚の取り扱いに関する指針」(2001),厚 生労働省「遺伝子治療臨床試験」倫理指針(2002),厚生労働省「疫学研究」倫理指針(2002),厚生労働省「臨床研究」倫理指針(2003),厚生 労働省「ヒト幹細胞を用いる臨床研究」倫理指針(2006)等がある。

通常,ひとつの研究倫理申請がなされるのは,ある研 究テーマの一課題においてであり,研究期間(数ヶ月から数年に及ぶものがある)を限定して申請する。 申請書に記載した研究終了期間を超える場合は,再度の申請が必要になる。被験者のデータの秘密保護において,(仮名にした時の実名との)連結可能と不可能 という技術的操作の条項を分けることがあり,研究期間の終了後は,データの完全な破棄を宣言するものもある。しかしながら,研究不正,とりわけデータの捏 造が問題になると,研究期間が終わっても機密の保持を維持しながら,そのデータが捏造でないことを保証するために,(臨床試験であっても)実験データの保 存管理することは必要とされるだろう。倫理委員会の審理によって判断がくだされるものは研究計画という「設計図」に対してであり,これから生ずる研究の過 程ならびに結果に対して,それらが倫理的であるということを保証するものではないのである。

文献



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