はじめによんでください

工学倫理の基礎

Engineering Ethics: An Introduction

池田光穂

齋藤了文・坂下浩司編『はじめての工学倫理』昭和堂、第3版、2014年の内容は、(1)事例分析、と(2)工学倫理の基礎知識からなりたつ。まずそれらを下記の表に列挙してみよう。

(2)工学倫理の基礎知識 (1)事例分析
1. 安全
1. 組織とエンジニア
2. 知的財産
2. 企業の社会的責任
3. 製造物責任法
3. 安全性と設計
4. ビジネス倫理
4. 事故調査
5. 倫理要綱
5. 製造物責任
6. 応用倫理
6. 知的財産法
7. 倫理概念
7. 施工管理
8. 工学の倫理概念
8. 工程管理

9. 維持管理
【以下、附録】 10. 企業秘密
倫理規定の練習問題 11. 内部告発
工学倫理の資料と文献 12. 倫理規定

13. 専門知識の研鑽

14. 専門家の誇り

15. システム設計の難しさ

16. セクシュアル・ハラスメント

さて、ウィキ(英語)の工学倫理 (Engineering Ethics)には、こう定義してある。

"Engineering ethics is the field of applied ethics and system of moral principles that apply to the practice of engineering. The field examines and sets the obligations by engineers to society, to their clients, and to the profession. As a scholarly discipline, it is closely related to subjects such as the philosophy of science, the philosophy of engineering, and the ethics of technology." - Engineering ethics.

つまり「工学倫理とは、工学の実用化に伴う道徳的原理の体 系と応用倫理のフィールドのことである」

20世紀にはいってからの工学倫理の実例検討で、よくあげられるのが1919年1月15日に発生した「ボストン糖蜜災害(Boston molasses disaster, Great Molasses Flood)」 である。これは、1919年1月15日に発生した事故。ピュリティ・ディスティリング・カンパニー (Purity Distilling Company) の敷地にあった870万リットルの糖蜜を詰めた巨大な貯槽が破裂した。これにより糖蜜の波が推定で時速56キロメートルの速さで街路を襲い、21名が死 亡、約150名が負傷した。

Twenty one people were killed on Commercial Street in the North End when a tank of molasses ruptured and exploded. An eight foot wave of the syrupy brown liquid moved down Commercial Street at a speed of 35mph. Wreckage of the collapsed tank visible in background, center, next to light colored warehouse. Elevated railway structure visible at far left and the North End Park bathing beach to the far right.

The American Society of Civil Engineers (ASCE [1914] (2006))、の7つの項目は最小限のものであるが傾聴に値する。

工学士や技術士たちが、このような倫理教育を具体的 な事例を通して学ぶことは、大変好ましいことであるし、また教育上における必須のことであろう。しかし問題は、これらをお題目のように唱えても倫理 は成就できない。なぜなら、倫理的態度とは、日々の実践のなかで、湧き上がってくるものでなければならないからだ。工学倫理を、日常の倫理と切り分けては ならないとい うのが、このページでの主張である(→「工学倫理あるいは技術者倫理」より)。

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●室蘭工業大学での講演の後の質疑応答の記録:Engineering Ethics: An altenative introduction in Muroran Institute of Technology, MIT

【質問01】医療,バイオ系の研究倫理の題材は山ほ どあります。これと工学の各分野を比較すると,事例がないわけではないですがあまりにも数量的な差が大きいです。

たしかに! JABEE日本技 術者教育認定機構)などが推奨するカリキュラムがしっかりしているからでしょうか?

【質問02】これは論文数,研究者数など数値的な比 例があると言えるのでしょうか。

いえると思います。

【質問03】それとも,生命系には根本的な背景があ るのでしょうか。

保険への認証・認可や安全性など営利が絡むと、実験 データの捏造改竄が増える傾向にあります。工学系も同じような理由で説明できると思います。(→「研究倫理入門」)

【質問04】逆に,機械,電気系には研究倫理違反を しない背景があるのでしょうか。

やっても、実際に、実証実験や応用が可能/必要な分 野は、追試がなされて、捏造や改竄がばれやすい可能性が高くなります。

【回答】

室蘭工大で講演した当時には、問題は少なかったかも しれませんが、その後、「工学倫理、技術者倫理に反する事例が陸続と報道される」 ようになってきました。もはや「工学倫理違反は少ないとは言えなくなりました」。

【総括】

医療・バイオ系にくらべて工学倫理にはなぜ違反事象 が少ないのかという質問は、その現象を低く見積もっている可能性があります。 工学系の人が、医療・バイオ系にくらべて正直で親切であり倫理的にも適格とい う証拠はありません。少ないように見えるのは、1)研究者の数の多さ、論文の多さによる量的な頻度の差異と、2)研究者のパテント収入や(バブル的)名誉 の獲得などがあると、捏造事例が増える傾向にあります。火の無いところに煙は立たずというのが真相でしょうか。ただし、工学研究に職人的な気質がもしある とすれば、倫理違反は、コンプライアンス違反やハラスメントが増える傾向こそあれ、研究倫理上の違反は、研究室ぐるみの組織的なものを除けば起こり難い可 能性があります。言い方を変えると、工学研究では、研究倫理上の違反は、研究室ぐる みの組織的なものになることがしばしばみかけられます。このようなことを、学生・院生とともに教員がよく自覚すると、研究倫理上の違反事象 はますます防げることになろうかと思います。

【謝辞】

このページ作成には、室蘭 工業大学の安居光國先生(くらし環境系領域・研究室)との話し合いやメールのやり取りによって生まれました。安居先生ならびに室蘭工業大学のFD 担当教員 ならびに学長・副学長に謝意を表します。


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