エイジズム
Ageinsmエルドマン・パルモア(Erdman B. Palmore)によると、エイジズムとは「ある年齢集団に対する否定的もしくは肯定的偏見または差別である」(パルモア 2002:20)。エイジズムは、レイシズムとセクシズムにつづく、三番目の重い差別であるとパルモアは主張しているからである――パルモアの学問的出発はエスニック関係およびレイシズム研究からはじまった(パルモア 2002:13-14)。
エイジズムをもっとも早く主張したのは米国国立老化研究所(National Institute on Aging, NIA)の1969年ロバート・ニール・バトラー(Robert Neil Butler, 1927-2010)である。
他方で、パルモアは1999年に改訂された『エイジズム(2版)』で、エイジズムには、差別的色彩のあるレッテル(=「否定的エイジズム」)の他に「肯定的なエイジズム」の到来についても触れている(→「エイジレス・セルフ」「高齢者研究への招待」)。
これは、WHOが中心に、グローバル・エイジングの問題と課題を掲げ、より積極的な加齢の意義すなわち「アクティブ・エイジング(2002年〜)」を説こうとしていることでもわかる。
さて、エイジズムには、差別というものが、個人的な方向へむかう「個人的エイジズム」と、集合的な概念としての老人/高齢に関する差別にむかう「制度的エイジズム」がある。
また、単に「老人嫌悪」だけでなく「老人愛」や「老人支配(gerontocracy)」も、老人あるいはそれ以外の人々に派生すると、それはエイジズムになる(→「老人が尊敬される/軽蔑される社会的メカニズムについて」)。
高齢化社会において、高齢者の全体の人口に占める割 合が高くても、老人に権利や権限(エンタイトルメント)が与えられていない場合は、多数者である高齢者集団そのものが(権力関係における)少数者=マイノ リティになる事態もまた、ありえる。私のフィールドワークで明らかになったように、中米のグアテマラ共和国で は、24の言語集団(マヤ系21言語、非マヤ2言語、およびスペイン語)からなるマヤ民族などからなる先住民の全体の人口に対する割合は多数派であるが、 植民地時代から征服者である白人や混血の支配・権力者層――人口においては少数派に定義される――に経済的支配あるいは政治的に従属的な位置にあり、《多 数派であるにも関わらず権力的に少数派の位置取りをする》という事態が生じている。
医学はエイジズムの影響をうけやすい。それは、医師 は症状や障害に注目するために、加齢(エイジング)の過程を医療化しやすい傾向をもつ。また、高齢者へのサービス提供者である老年医学者は、自分たちの役 割に忠実になりすぎて、年齢の違いや高齢者のニーズを誇張し、かつ、加齢を生物医学的現象からしかみることができなくなる傾向をもつ( Estes 1979; Estes and Binney 1989; パルモア 2002:37)。
■前半の部分
基本的に、パルモアの前半の論理構成は、エイジズムがおこる原因や、具体的な現象を描くと同時に、高齢者と非高齢者のあらゆるエージェント(環境を含む)の相互作用から、エイジズムがおこる現象を説明しようとしているように思われる。
■社会の側の対応
第III部の制度的パターンでは、「8章 経済」 「9章 政府」「10章 家族」「11章 住宅とヘルスケア」への対応モデルが描かれている。ここでは、経済、政府、家族などが、「否定的エイジズム」で 差別構造を助長すると同時に、「肯定的エイジズム」によりパターナリズムや高齢者の自己決定権を尊重することで高齢者をケアするという、異なる2つのモー メントで説明しようとしているように思われる。
いずれにせよ、エイジズムの最大の問題は、高齢者のカテゴリー化により、限られた類型の中に彼/彼女らを閉じこめておくことにあり、非高齢者のヘゲモニーを握っているアクターないしはエージェントは、そのことに無反省であるということになる。
■エイジズムの解消にむけた方策
第IV部のエイジズムの解消にむけて、がその章群である。具体的には「12章 人間を変える」「13章 構造をかえる」「14章 改革のための戦略」「15章 未来」の章構成からなる。
まず、人間を変えるということで、パルモアは、エイジズムを生み出す4つの人間類型を考案する。
人間の4つの類型(パルモア 2002:247-248)
(4象限分類) |
差別する |
差別しない |
偏見をもつ |
偏見をもち、かつ、差別する |
偏見をもつが、差別しない |
偏見をもたない |
偏見をもたないが、差別する |
偏見をもたず、差別もしない |
パルモアの実践論
これに対する、実践論は、1)教育、2)宣伝、3)説得、である(パルモア 2002:250)。
高齢者をエンパワメントするスローガンなどが披露される(パルモア 2002:252-254)。ただし、その多くは、この書物が出版された北米の標準的な(白人、中産階級、男性)人たちを中心とするモデルであるように思われる。
また、高齢者の5つのポジティブなイメージと、北米(アメリカ合衆国)での13の高齢者であることの利点――同時に肯定的エイジズムから派生するとパルモアは指摘する――が列挙される。
高齢者のポジティブなイメージ(5項目) |
高齢者に利益をもたらす利点(13項目) |
1. 法律を遵守する |
1. 犯罪の被害者になることが少ない |
2. 政治参加度が高い |
2. 事故に遭うことが少ない |
3. ボランティア活動が活発 |
3. 社会保障やその他の年金受給がある |
4. よりよい働き手になる |
4. 補足的所得保障(Supplemental Security Income, SSI)がある |
5. 豊かな知恵をもつ |
5. 税率が低い |
6. メディケア |
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7. 無料サービスや割引サービス |
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8. 育児からの解放 |
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9. 妊娠からの解放 |
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10. 仕事からの解放 |
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11. 精神疾患が少ない |
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12. アルコール依存や薬物依存がすくない |
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13. 風変わりであることの自由 |
「構造をかえる」――高齢者の虐待を防ぐ(パルモア 2002:280)。
改革のための戦略
◎個人的行動
◎組織的行動
◎エイジズムに反対する組織(リスト)
未来についてのパルモアの現状認識(趨勢)――7項目(パルモア 2002:303-307)
1.加齢についての知識の増大
2.加齢に関する科学的知識の進展
3.高齢者の健康の増進
4.教育の向上
5.裕福さの増大
6.連邦政府による緊縮財政の強化
7.人種差別と性差別の後退
健康とは、私たちをじぶんのあ らゆる仕事へと向かわせる状態であるということになるだろう――カント「判断力批判」(→参照)
出典:内閣府、高齢化の状況(上掲図をクリックすると出典HPにたどり着けます)
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パルモア、アードマン『エイジズム』目次
I.概念
II.原因と結果
III.制度的パターン
IV.エイジズムの解消にむけて
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I.概念
1 序論および基本的定義
2 エイジズムの諸形態
3 年齢の意味
II.原因と結果
4.エイジズムの個人的原因
5.社会的影響
6.文化的原因
7.結果
III.制度的パターン
8.経済
9.政府
10.家族
11.住宅とヘルスケア
IV.エイジズムの解消にむけて
12.人間を変える
13.構造を変える
14.改革のための戦略
15.未来
附録:
加齢の事実についてのクイズ
年齢差別的ユーモア
エイジズム関連文献注解(1990年以降:1990年は初版刊行の年)
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An anthropologist in void, May 2018