Local communities and their own
business activities
●なぜコミュニティビジネス(コミュニティ・ビジネス)が必要となるのか?
地域社会(ローカル・コミュニティ)には、さまざまな魅力がある
のに、少子高齢化や人口流失により人口減少が引き起こされ、コミュニティの魅力が活力が急速に失われつつある。そのなかで、域外との連携を通して、地域社会(コミュニティ)の魅力を再活性化させるために生まれたのがコ
ミュニティビジネスである。
●ここで学ぶべき用語の確認
地域(コミュニティ)には、3つのタイプのビジネスモデルがある。それは「コミュニティビジネス」「ビジネス」「社会ビジネス」の3種類であ る。
(1)コミュニティビジネスによってどのような財が供給されるか
供給される財とはなにか? |
by business
activities in communities |
域外との連携を通して、地域
社会(コミュニティ)の魅力を再活性化させる経済活動。企業経営学が主たる研究のターゲットとしている。コミュニティビジネスの活動のタイプには「一般的
なビジネス」と「社会ビジネス/ソーシャルビジネス」の2種類ある。 |
(A)地域公共財 (B)地域コミュニティ財 |
A. local public
goods B. local community goods |
(A)主に自治体が供給する財やサービ
ス。地域経済学が主たる研究のターゲットとしている。 (B)地域社会(community)固有の消費可能経済財 |
ビジネス(一般的なビジネス) | bussiness | 利益(営利)を追求する企業経営や営利 活動と呼ばれている活動のこと |
地域コミュニティ財 | local community goods | 地域社会(community)固有の 消費可能経済財 |
社会ビジネス | social bussiness | ソーシャルビジネスともいう。ノーベル 平和賞受賞者で経済学者のムハマド・ユヌス(Muhammad Yunus, 1940- )さんが提唱しているところによると「持続可能性を 実現することを目的とする、非営利で、投資家は投資額以上のものを回収しない、環境と労働条件に配慮した、楽しみのある活動である」と定義できる。このこ とは、現在日本でも注目されているSDGsとの関わりをもつことも明らかである。 |
地方政府 | local government | 地方自治体のことだが、日本では3割自 治といって、中央政府の財源に依存することがおおい。他方で、以前にくらべれば、地方政府が独自のイニシアチブを発揮できる余地は増えてきたし、中央政府 のような促進を図りつつある。 |
ここでの疑問は、日本では、地方自治体や国が、公共投資などでおこなっている活動がコミュニティビジネスにあたるでしょうか?。みなさんは、日本の地 方自治体や国が、公共投資などでおこなっている活動は「持続可能性を実現することを目的とする、非営利で、投資家は投資額以上のものを回収しない、環境と 労働条件に配慮した、楽しみのある」ものと果たして言えるでしょうか?答えは「地方 自治体や国が、公共投資などでおこなっている活動はソーシャルビジネスには言えないのではないか」ということです。他方で、政府サービスについては、費用便益分析があり、公共投資に対して、経済効果がそれ以上あることを実証することが、法律で義務付けれられていることがあります。そのことが、地方自治体や国が、社会ビジネスに容易に踏み込めない理由でもある。
●コミュニティ・ビジネスとは?(定義)
この項目では、コミュニティビジネスの定義を「域外との地域連
携や経済を含めて、地域社会(コミュニティ)の魅力を再活性化させるための経済活動を
含むプロジェクトの全体」をコミュニティビジネスとする。
経済産業 省関東経済産業局によると「コミュニティビジネスは、地域課題の解決を「ビジネス」の手法で取り組むものであり、地域の人材やノウハウ、施設、資 金を活用することによ り、地域における新たな創業や雇用の創出、働きがい、生きがいを生み出し、地域コミュニティの活性化に寄与するもの」と定義されるものです。また、それを 生み出す動機は、地域で生活する人たちの「アイデアと熱意により生まれてくるもの」 であり、「生活(する中)で困っていること、普段気づかない身の回りの地域 資源が」それに取り組む契機となると言われている。この場合のコミュニティは、後述するように、地域社会と同義で使われているようである。
今回の定義づけについて「域外との地域・経済連携も含めてという点がもっとも重要なポイントである。
●コミュニティビジネスと社会ビジネスと企業 活動(通常のビジネス)を区分しよう!
コミュニティビジネスには、地域コミュニティ形成に重要な役割を果たす社会ビジネス(Social business) と、一般的な企業がおこなうビジネス(business)に分けられると、定義する。
社会ビジネス(social business)は、ここではノーベル平和賞受賞者で経済学者のムハマド・ユヌス(Muhammad Yunus, 1940- )さんが提唱しているところによると「持続可能性を実現することを目的 とする、非営利で、投資家は投資額以上のものを回収しない、環境と労働条件に配慮した、楽しみのある活動である」と定義できる。ユヌスさんは、のちにその総裁の任を解かれるが、グラミン銀行(Grameen Bank) というアイディアの提唱した。それは、貧しい住民が銀行の融資を受けられることが困難だったバングラディシュの農村に、「貧困者向けの金融サービス拡大理 論」を提唱し、農村の貧困者に小規模ローンを提供してしても、貧しい女性の借り手たちを銀行の所有者にすることで、責任性をもたせることで、著しく焦げ付 き(=返済不履行)を少なくすることに成功し、貧しい農村にも信用金融経済を浸透させたことによる。
そして、企業がおこなうビジネス(bussiness) とは、通常は企業や営利活動と呼ばれているものがそれに相当する。この場合のビジネスは、生計あるいは営利(=お金をもうけること)のために、売買活動を おこなってお金を稼ぐ活動である、と定義できる。人間は生きていかねばならないので、どのような社会でも人間の活動としてのビジネスは基本的な権利として 認められている。社会は、ビジネス行為に関わる倫理や道徳(=ビジネス倫理)を定めて、自分の営利活動が、他者に不当に迷惑をかけたり、収奪する ことがないよう公正な取引ができるようにもしている。
(左)ソーシャル・ビジネスとビジネス(一般)の包摂関係;(右)A diagram of Clarence Perry's
neighbourhood unit, illustrating the spatiality of the core principles
of the concept, from the New York Regional Survey, Vol 7. 1929
【定義にまつわる問題点】
さきに定義したように、コミュニティビジネスは「域外との連携を通して、地域社会(コミュニティ)の魅力を再活性化させる」活動のことであ
る。この域外の活動そのものが上掲の、社会ビジネスと企業によるビジネスである。
経済産業 省関東経済産業局は、コミュニティビジネスの定義を「地域の課題を地域住民が主体的に、ビジネスの手法を用いて解決する取り組み」と呼び、ソー シャル・ビジネスと区別して使っている。後者のソーシャル・ビジネス——関東経済産業局は 「ソーシャルビジネス」と表記している——は地域の課題を地域住民が主体的に「社 会的課題全般の解決を目指す」のに対して、前者は「地域的な課題」に着目すると、その対象となる課題の領域を狭めて説明している。ただし、この説明は、論 理的でも理論的でもなく、ソーシャルは、コミュニティよりも空間分布が広く、コミュニティは小さいと「独自解釈」をしているという点で、知慮が足らないよ うに思われる。コミュニティ概念は小さな集団から距離のハンディをこえたSNS空間 やクラウドファンディングネットワーク、さらには、地方自治体、国、東アジア経済圏、ユーラシア、そして全地球レベルまで、さまざまな広がりをもつからで ある。コミュニティには、地域社会(ローカル・ソサイエティ)と いう古 典的な定義で捉えられる範疇と、(患者団体や職能団体などのように)テーマコミュニティという必ずしも地理空間領域の制限から外れたコミュニティ集団もあ るからだ。とりわけ経済 産業省が注力するICT(情報コミュニケーション技術)により現代社会では、地域社会とテーマコミュニティをどのように連携(リンケージ)させる かが課題になっているからだ。
●【派生的な問題と課題】
1)コミュニティ(地域社会)のサイズをどのように考えるの か?:Clarence A.Perry (1929)の近隣住区(neighborhood unit)のサイズか?このサイズとは、日本では小学校の校区を想定するとわかりやすい。
2)地域資源の開発と進展のためには、ベースラインの経済活動を、文献と足による聞き取り(フィールドワーク)により調べ上げる必要がある。他の地域での比較のために一覧表(ルーブ リック)を整理するのがよい
3)足による聞き取り(フィールドワーク)により、住民にアンケートやインタビューをとり、居住者からの生活の中での困りごとというニーズ (=困りごとの経済)探索のほか に、地域住民が生活の中で実践していて何気におこなっていることが、第三者や経済学の観点から思わぬ潜在的資源になることがある。そのためには、エスノグ ラフィーという手法がいい。
4)コミュニティビジネスにとって重要なポイントはビジネス一般の観点から成功ないしは持続的成長観点である。そして、それをつねに住民の 観点や価値を優先する補助線である(=コミュニティに基礎をおく参加型研究;CBPR)。 営そして営利だけの成功ではなく、住民のアイデンティティや経済の活性化や、住民のたのしみ(=ソーシャルビジネス)の観点も必要である。ビジネス=住民 =コミュニティのトリプルウィンが達成されなければならない。プロジェクトは調査段階から、なるべく住民主体の視点を重視し、関わりにおいても研究倫理・ 調査倫理上の節度と関わりに関する責任性の自覚を、学生ならびに教師には持たせておくことが重要である。
【組織形態と活動分野】
関東経済 産業局の 説明の続き「組織形態・活動分野とも特に決まったものはない。 組織形態では、NPO法人が比較的多くを占めるが、個人、会社組織、組合組織等、様々な形態が存在する。 また、活動分野としては、まちづくり、環境、介護・福祉、IT、観光、地域資源活用、農業、就業支援等、あらゆる分野に活動が拡がっている。 形・数などの定量的側面ではなく、地域課題解決というミッションを第一義に活動していることが、コミュニティビジネスたる所以」だという(引用文中:敬体 を簡体に変えた、以下同様)。
【コミュニティビジネスと行政と企業との関係】
コミュニティビジネスの定義にもとづき、行政や企業とコミュニティビジネスの関係についてはこう考えるべきである。まず基本的に、身近な地
域の資源を活用して、最終的に地域社会(コミュニティ)の経済が潤うことが重要である。潤うためには、形容詞のつかないビジネス(=営利企業活動)が定め
る経済原則が実現しなければ話にならない。すなわち、労働による雇用の発生、資本の
集中が見込めるか、コミュニティビジネスの導入が地域内の経済総生産にどのようインパクトをもたらすのか、がまず考慮されなければならな
い。また、コミュニティビジネスならでは、持続可能なチェックポイントがある。それは、コミュニティビジネスが、人材育成と健全な(経済的)競争条件をもたらすか?
域外のライバルと比較しても、質の高い商品やサービス提供が可能か、
さらには地域の伝統産業への刺激や活性化がなければ、地域のアイデンティティ形成や伝統の継承も途絶えてしまう。
【その効果】
関東経済 産業局の 説明の続き「地域課題解決のためのビジネスの場を形成することで、地域における創業機会・就業機会を拡大する効果が望まれる。また、地域住民自らが主導し 実践することによって、地域社会の自立・活性化、地域コミュニティの再生などの効果が期待されると同時に、活動主体たる地域住民にとっては、社会活動へ参 画することで自己実現を図ったり、生き甲斐を得る機会とな」る。
【その課題】
関東経済 産業局の 説明の続き「ミュニティビジネス最大の課題は、事業の自立・継続である。 コミュニティビジネスの担い手もまた様々な層で構成されるが、経営のプロではない方も多く含まれる。また、そもそも事業収益をあげづらい分野に挑戦してい る団体も数多く存在する。 このため、個々のコミュニティビジネス事業者がビジネススキルを磨くとともに、周囲の組織・人が様々な形で支援の手を差し伸べることで、地域一体の取り組 みに昇華させていくことが重要」となる。
※下図は、(地域の)コミュニティビジネスに関する成立プ
ロセス、である
構
成要素 |
調
査発見項目と方法 |
達
成目標 |
域
外連携 |
(1)経済 | 1)身近な地域資源を列挙した上で、関連 する経済統計ならびにフィールドワークと関係機関への聞き取りにより発掘する | 地域コミュニティ内での商業サービス発展 | 地域外からの訪問(近隣周辺住民・国内・
国際観光客) |
(2)生活環境 | 2)地域での困りごと、生活での実感を、 フィールドワークと住民に対しての聞き取りにより発掘する | 地域コミュニティ内の人と人のつながり、 生きがい | 地域間との交流、コミュニティビジネスサ
ミット、アイデンティティ向上プロジェクト |
【具体的なテーマ】
「地域資源活用」「まちづくり推進」「子育て支援」「健康・高齢者生活支援サービス」「地域自立型買い物弱者対策」。またその機能(ファン クション)として「地域産業活性化」「社会参加促進」「地域の魅力向上」という観点から分類する方法もある。
これまで、紹介してきた「コミュニティビジネス」というものが、コミュニティのにぎわい・経済・生活にどのように関係するのかをまとめると、以下のような図としてしめされる。みんなも、この図に足らない要素やサービスがあれば、加筆してみよう。
地域社会とは
ニッポニカ百科事典による地域社会(community)の定義:「一定の地域的範域において形成される人々の社会生活のまとまりをいう。 地域社会の範域としては、一つには、居住の場、消費の場としての家族集団を中心とした近隣関係を、いま一つには、居住の場や消費の場だけではなく、生産労 働の場としての企業体とか事業所や、余暇活動の場としての盛り場などを含んだものを考えることができる」園田恭一)。
ブリタニカ国際大百科での地域社会(community)の定義:「共同社会,地域社会と訳されるが,この用語の概念規定は数多くあるが, 包括的な概念はないといえる。最初に学問的に使用したのは R.M.マッキーパーで,アソシエーションの対概念としてとらえ,「共同生活が営まれているあらゆる地域,または地域的基盤をもったあらゆる共同生活」と 定義づけた。その後,幾多の実証的研究を経て,多くの研究者によって再規定が行われているが,今日では社会計画の有力な手段の一つとしてのコミュニティー 形式という実践的概念として用いられることが多い」
地域社会をコミュニティという原語の翻訳であるならば、池田光穂のコミュニティの定義は次のようなものである;「コミュニティ(共同体)
は、人々のイメージによると、(i)おなじ空間に[一時的あるいは永続的に]存在し、(ii)さまざまな活動を通して
(iii)[仮想的にも現実的にも]紐帯を維持している(iv)集団のことを、原
義的にはさす。コミュニティのこの4つの属性からなる集団を、原初的あるいは本源的コミュニティ=primordial
communityとまず名づけておこう——モデル・コミュニティ(typical
community)と言ってもいいかもしれない。……今日ではコミュニティ概念は、地域的なつながりの集団(=これを地域コミュニティ=local community[すなわち地域社会]
と呼ぶ)と、 構成員の属性や帰属意識からなりたつコミュニティ (=これをテーマ・コミュニティ= Thematic communityと
呼ぼう)に大きく大別できるだろう。後者の集団が現代社会(近代社会)において重要になっているのは、言うまでもなく情報
通信手段の発達によるものである。」コミュニティ)
クレジット:(旧クレジット)池田光穂「地域社会とコミュニティビジネス」;現クレジットは「コミュニティビジネス」です。
謝辞:このページの改善には、山形大学准教授の田北俊昭(たきた・としあき)先生のご助言により大きな改善を得ることができました。先生のお名
前を徴して謝意とします。もちろん、その文責は池田光穂にあります(2021年7月9-15日)。
リンク
文献
その他の情報
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1997-2099