漢方、漢方医学
Kanpo medicine, KANPOO IGAKU, Japanese-Chinese Traditional
Medicine
漢方(かんぽう)あるいは漢方医学とは、中国医学の大きな影響をうけて日本で発達した独自の伝統医学・伝統医療のことである。漢方 (KANPOO)とは、16世紀にオランダ医学(蘭方)が導入された後に、それと区分されるためにはじめて「漢方」という用語が使わ れたと興味ふかい解説を、大塚 (1996)は、おこなっている(「漢方医学の独自性の相対化」)。つまり「16世紀以降は西洋医学が日本に導入されてきた。当初はポルトガル・ス ペイン系の医学を南蛮医学あるいは紅毛医学と呼んでいたが、西洋系医学をオランダ人がほぼ独占するにいたって、これを蘭方あるいは洋方と呼び、これに対して従来の中国系の医学を漢方と呼ぶにいたったのである」(大塚 1996:i)と。
さて、漢方医学は日本では、東洋医学とも呼ばれる。日本語で使われている東洋医学(TOYOO IGAKU)の定義は大塚恭男(Yasuo OHTSUKA, 1930-2009)の解説によると「古い時代に中国から導入された医学が、長い時代を経て日本的な修飾を経つつ体系化された医療体系のことである」とさ れている(大塚 1996:i)。
用語としての、東洋医学はいつ頃から使われるようになったのか? 明治25[1892]年6月11日開催の第三回帝国議会衆議院議事速記録第25号(『官 報』号外、明治25[1892]年6月12日発行、578(11)-591(15)ページ)に、医師免許規則改正法律案を提案した議員の代表である塩田 (鹽田)奥造[温知社のメンバー]が、明治新政府が西洋医養成により新たな漢方医の養成に国家制度を保証しなかったために、あらたに「東洋醫術」の医師をあわせて認証しようと するものである。この際に、塩田は、発言中に、東洋醫術を皇漢醫術と同義として使っており、発言の内容の比重も後者のほうが若干多い。この議案は可決に至らず、小委員会でさらに審議されるが、最終的に明治28年2月6日の本会議で76〈対〉105で否決され、廃案となる(第8回)。後者では、木暮武太夫(Budayū Kogure, 1860-1926)が廃案のための反対演説をして、次のような論難をおこなう:「又此醫術なるものは病に対するの武器である、然るに東洋醫術は弓矢の如きものものである、日進醫術は鉄砲の如きものである、強敵たるの所の——吾々同胞が襲撃される所の強敵に向かって弓矢を以って防ぐというは実に怪しからぬのである……又此を船に譬えて見ますればです、今の東洋醫術なるものは和船と同様のものである、西洋醫術はしっかりした堅牢なる汽船と同じものである……東洋醫術であれば、裁判医学と云うものがないのである、それ故に裁判の証人となることの権利を欠くのである。又国家有事の時に方ッて 軍医と為ることができないので、漢方醫であれば外科醫と云うのは切口を焼酎で洗って卵を附ける位のもので、さうして此節柄何をするのであるか、則ち軍事 ——国家有事の際に方ッて軍醫を為すことの能力を欠くと云うことである」(速記録第25号、明治28年2月6日、403ページ)
大塚(2006)『東洋医学』の内容は、実質的に漢方医学入門になっている。その章立てを紹介すると以下のようになる。
1.東洋医学と西洋医学
2.日本における東洋医学の歴史
3.日本の東洋医学と中国の医学
4.東洋の身体観と病気観
5.本草の歴史
6.漢方の診断法
7.漢方薬
8.消化器系疾患の漢方治療
9.産婦人科系疾患の漢方治療
10.老人性疾患の漢方治療
11.小児科疾患の漢方治療
12.痛みの漢方治療
あとがき——東洋医学とわたし(大塚恭男)
百味箪笥(HYAKUMI-DANSU)Traditional drug cabinet for Kampo medicine.
■あとがき——東洋医学とわたし(大塚恭男:1930-2009)
1875 医師開業試験科目として西洋医学(西洋七科)が採用されて、漢方医の医学継承が否定される。浅田宗伯[家茂の奥医師]らが西洋七科に対抗して漢方六科を主張する。
1879 3月10日「東京の漢方医山田業広、浅田宗伯らが同志をつのって東京に温知社を設立して全国に呼びかけ,機関誌『温知医談』を発行,さらに後進の育成のために和漢医学講習所(のちの温知医学校)を設置して運動を展開」コトバンク)。同年、皇太子明宮が脳病を発し、浅田宗伯ら漢方で治療。
1882 内務省が漢方開業医の子弟で25歳のものに限り開業許可を与える。
1883 医術開業試験規則及医師免許規則を布告。
1887 温知社全国大会で存続を討議し、2年後に『温知医談』105号をもって廃刊。
1895 医師免許規則改正法律案が、明治28年2月6日の本会議で76〈対〉105で否決。
1900 大塚敬節(おおつか・よしのり:1900-1980)高知市に生まれる。父は恵迪[けいてき]、祖父は恭斎[きょうさい]、曽祖父は希斎。恭斎はナウマンと親交する(→小堀桂一郎『若き日の森鴎外』東京大學出版會、1969年)。
1910 和田啓十郎『醫界之鐵椎』南江堂(湯本求真はこれを読み和田に弟子入りの手紙を書くが、両者は生涯見えず)
1920 湯本求真、東京市北区滝野川で開業し、「皇漢醫學」の執筆を開始する。
1923 敬節、熊本医専卒。父(恵迪)が死亡して医業(大塚医院)を継ぐ。
1924 敬節、松木福栄と結婚。
1927 中山忠直『漢方医学の新研究』宝文館(→国立国会図書館デジタルコレクション) (「西洋醫學てふ偶像を盲拝する土人部落の中には或は本書を読んで、あたかも自分が侮辱されたかの如き誤解を懐いて憤慨する向きも少なくないであらう—— 然りかかる杞憂は、学界の現状に照らして余りにも当然である」3ページ「序」より。「漢方は支那の直訳に非らず」という表題も見いだせる)湯本求真『皇漢医学』(1927-)の刊行が始まる。
1930 恭男(敬節の長男)、高知県香美郡日章村田村で生まれる。敬節、湯本求真[1876-]『皇漢医学』(1927-)に啓発され、上京して入門する。湯本の弟子には、他に、佐藤省吾、清水藤太郎らがいる。
1931 敬節、牛込に「漢方大塚医院」開業。
1934 漢方専門科名禁止令(2月)。敬節「大塚医院」に改称。日本漢方医学会創立(『漢方と漢薬』創刊)。深川晨堂『漢洋醫學闘争史(上巻)』上梓。※下巻は発行されず。
1935 漢方講習会偕行学苑(東亜医学協会の前身)が結成。
1936 偕行学苑が拓殖大学漢方講座に昇格する(矢数道明 1981:1)。
1938 矢数道明[1905-2002]、東亜医学協会を結成して機関誌『東亜医学』(戦後は『漢方の臨床』)を刊行。
1941 湯本求真(65歳)、姫路で客死。
1942 恭男、この頃、荒木性次についての作文「A先生」を認め、府立一中報国団『学友』2号に掲載。東洋医学の復権についての決意を書く。
1943 敬節、同愛記念病院東方治療研究所設立。
1944 荒木性次『古方藥嚢』刊行。
1950 敬節、日本東洋医学会創立などを主導(東洋医学綜合研究所2代目所長、矢数道明 (やかず どうめい)協力)。日本漢方医学研究所を設立。
1955 恭男、東大医学部卒、附属病院内科(第一内科)に勤務
1957 恭男、薬理学教室に入局。中枢神経の薬理を研究。その後、脳波の研究で医学博士。
1962-1966 恭男、西独・オーストリアに留学。
1967 恭男、父・敬節に連れられ日本医史学会(名古屋)の総会に出席。小川鼎三、大島蘭三郎と知己を得る。順天堂大学医史学教室に通う。(その後、酒井シヅも入門)
1968 恭男「附子の医史学的考察 (古代・中世)」『日本東洋醫學會誌』19(2):12-21,1969, https://doi.org/10.14868/kampomed1950.19.62
1971 7月ウェンナー・グレン人類学研究財団主催の「アジア諸医学体系の比較研究」の国際シンポジウム(於:ブルク・ワルテンシュタイン、組織者:チャールズ・レスリー)に参加。
1972 敬節、武見太郎の協力を得て、北里研究所に東洋医学総含研究所を創設し初代所長に就任。
1975 恭男、東洋医学総合研究所に入所。臨床研究部長、副所長を歴任。
1980 敬節、死去(享年80歳)。矢数道明が2代目所長
1982 花輪壽彦、北里研究所東洋医学総合研究所に勤務がはじまる。
1986 恭男、矢数道明のあとを承けて所長に就任。
1996 花輪壽彦、研究所第四代所長となる。
2002 矢数道明、死去(享年96歳)
2005 花輪、WHO伝統医学研究協力センター長。
2009 恭男、死去(享年79歳)
2014 花輪、北里大学医学部 医学教育研究開発センター 東洋医学教育研究部門 教授・同大学大学院医療系研究科 臨床医科学群 東洋医学教授に就任。
参照文献
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・漢方医学は、徹底的な実証的伝統と、伝統的な中国の自然哲学的考察から由来する(5)
+++
●漢方医学のグローバルスタンダード化にむけて(資料:渡辺賢治・星野卓之・及川恵美子鼎談「漢方医学を世界の医学に」『医学界新聞』3347号、2019年11月18日)の分析
序文:「2019年5月,国際疾病分類(International Classification of Diseases;ICD)の19年ぶりの改訂が第72回世界保健総会で承認された。1900年に策定されてから百年以上もの間,西洋医学のみを規定してきたICDが伝統医学導入へかじを切ったこ
とで注目を集めたのが,新たに導入された伝統医学に関する新章「Supplementary Chapter Traditional
Medicine Conditions――Module
I」(伝統医学の病態――モジュールI,※本記事での和訳は全て仮訳である。正式な和訳は2022年に公表予定。なお,ICD-11全文はhttps://icd.who.int/browse11/l-m/enで
閲覧できる(英語・西語のみ))である。本章(ママ)では,世界中の伝統医学導入の先駆けとして,日本の漢方医学や中国の中医学など東アジアの伝統医学が
定められた。一時は日本国内ですら軽視される傾向にあった漢方医学を含む東アジアの伝統医学がICD-11に収載された意義とは何か。伝統医学章導入の中
心人物である3氏が,その経緯と今後の伝統医学発展の展望を語った。」
渡辺(慶應義塾大学医学部漢方医学センター客員教授) |
星野(北里大学東洋医学総合研究所漢方鍼灸治療センター副部長) |
及川(厚生労働省国際分類情報管理室国際生活機能分類分析官) |
分析・コメント(池田) |
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渡辺 国際疾病分類第11版(以下,ICD-11)が,2019年5月の世界保健総会で正式に採択されました。ICD-10からの大きな変更の一つに伝統医学章が初めて導入されたことがあります。今回はModule Iとして,漢方医学を含む東アジアの伝統医学が導入さ
れました。2016年に東京で開催されたICD-11改訂会議では,当時WHO事務局長だったマーガレット・チャン氏が「ICDに伝統医学が収載されるこ
とは歴史的である」と何度も強調されました。/本日は,伝統医学収載までの道を一緒に切り開いてきた厚生労働省の及川さんと,伝統医学章のフィールドテス
トを主導するなど国内での利活用に中心的役割を果たす星野先生と3人で,伝統医学,中でも特に漢方医学がICD-11に収載された意義を探っていきます。 |
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2 |
渡辺 議論の本質に入る前に,国内外の漢方医学にまつわる動向を整理しましょう。漢方医学は古代中国由来の医学体系が,日本の風土に合わせて独自の発展を遂げたものです。明治時代に西洋医学中心の医療体系になって以降,漢方医学は下火になっていました。しかしながら,近年漢方薬を処方する医師が大変増えています。 |
・漢方医学の独自性の強調 ・漢方医学の衰退の歴史性についてはさほど気にならないようだ。 ・漢方医学のリバイバルに関する意識への突っ込み方も甘い |
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3 |
星野 ええ。日本の医師の9割が漢方を日常的に処方しているとのデータ(日本漢方生薬製剤協会.漢方薬処方実態調査(定量)Summary Report.2011.)があるくらいです。医療者にとっても患者にとっても,漢方は広く普及したと言っていいでしょう |
・「日本の医師の9割が漢方を日常的に処方している」 ・漢方は「普及した」という認識。 ・市場ベースや公的保険投入ベースでのシェアも知りたいところである。 |
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4 |
渡辺 伝統医学普及の契機となったのが1970年代の伝統医学ブームです。西洋医学の細分化が進み,不定愁訴に対応できる体全体を診る診療科が減ったこと,さらに同時期に起きたサリドマイド事件等で薬害への不安感が生じたことから,体全体を診る医療として漢方医学が注目されるようになりました。漢方薬の原料が自然由来で安全性が高いこともブームの一因です。 |
・医療人類学の西洋社会での誕生と軌を一にする(医療人類学史)。 ・西洋医療不安・不審 ・ホリズムへの期待 ・「自然」「安全」というキーワード |
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5 |
星野 1976年にはエキス製剤という使いやすい形で多数の漢方薬が保険適用になりました。西洋医学的な病名で漢方を処方できるようになったため,漢方医学を学んでこなかった医師にも使いやすくなり,一気に広まるきっかけになったと思います。 |
・1976年は重要(よく覚えておこう!) |
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6 |
渡辺 1990年代には英米等で補完代替医療がブームになり,漢方薬をはじめとした伝統医学が広まりましたね。米NIHは,1992年に代替医療事務局(現・米国立補完統合衛生センター)を設置し,現在では年間1.5億ドルもの予算が充てられています。NIH全体では約4.5億ドルの予算が伝統医学に投じられている現状です。/このように,世界および日本の伝統医学ブームは,どちらかというと西洋医学への不安や不信感からアンチテーゼとしてスタートした歴史を持ちます |
・ホリスティック医療運動 ・「1992年に代替医療事務局(National Center for complementary and Integretive Health, NCCIH)を設置し,現在では年間1.5億ドルもの予算が充てられています。NIH全体では約4.5億ドルの予算が伝統医学に投じられている現状」の出典が知りたい。 ・Complementary and Alternative Medicine - NCI/NIH |
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7 |
渡辺 とはいえ漢方処方が普及したことで漢方医学の魅力が広まるとともに,漢方医学のエビデンス構築が進んだのも確かです。もはや漢方医学を無視して医療を進めることはできず,2001年には医学教育モデル・コア・カリキュラムに「和漢薬を概説できる」と記されました。漢方医学の知識は,医師にとって必要なものと言っていいでしょう。 |
・「漢方医学のエビデンス構築が進んだのも確か」と渡辺は書くが、その根拠を示していない。例示でもいいので欲しいところだ。 ・「医学教育モデル・コア・カリキュラム(平成28=2016年度改訂版)pdf」における漢方の検索語では2箇所 1)漢方医学の特徴や、主な和漢薬(漢方薬)の適応、薬理作用を概説できる。 2)薬の作用と体の変化(身体の病的変化を知る、薬物治療の位置づけ、医薬品の安全性)、病態・薬物治療(神経系の疾患、免疫・炎症・アレルギー及び骨・ 関節の疾患、循環器系・血液系・造血器系・泌尿器系・生殖器系の疾患、呼吸器系・消化器系の疾患、代謝系・内分泌系の疾患、感覚器・皮膚の疾患、感染症・ 悪性新生物(がん)、医療の中の漢方薬、バイオ・細胞医薬品とゲノム情報)、薬物治療に役立つ情報(医薬品情報、患者情報、個別化医療) |
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8 |
及川 そうした背景から,国にとって漢方医学に関するデータの重要性が増しています。ところが,日本で得られる関連データはといえば,医療用漢方製剤の販売額と生薬の輸入額くらいしかありません。伝統医学の需要に関するデータはないのです。これでは医療制度の構築や医療費削減に向けた十分な検討ができていないことになります。漢方医学に関するデータが取れるように,この現状を克服したいとの思いがあります。 |
・「国にとって漢方医学に関するデータの重要性が増しています」というが、どのような背景(理由)なのかが不明瞭。 ・「伝統医学の需要に関するデータはない」という驚愕の事実! ・漢方薬の処方が「医療制度の構築や医療費削減に向けた」ものについての具体的な構想はまだ途上ということは明白。 |
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9 |
星野 WHOも類似の見解を持っていたと明示するエピソードが残っています。夜の地球の衛星写真を思い浮かべてください。「WHOの持つ保健統計データもそれと同じ」だと,WHO本部でICD担当だったベデルハン・ウースタン(T. Bedirhan Ustun, Koç University- Koç Üniversitesi)氏がWHO-FIC(WHO国際統計分類ファミリー,註2→「WHO
国際統計分類ファミリー(WHO Family of International
Classification)は,WHOが勧告した国際疾病分類(ICD)と国際生活機能分類(ICF),および開発中の医療行為の分類(ICHI)を
中心とした健康に関する国際統計分類の集まり。異なる国,時点で集計されたデータの記録や分析を容易にするための共通言語の役割を果たす。上記3つから成
る中心分類の他,プライマリ・ケア国際分類(ICPC)などの関連分類,国際疾病分類腫瘍学第3版(ICD-O-3)などの派生分類をまとめて呼称され
る。」)年次会議の場で言ったのです。「国際的」な疾病統計と言いながら,WHOで実際に取れているデータは西洋医学を用いる国のみなのです。伝統医学を持たない国のほうが少ないくらい,世界中にはありとあらゆる伝統医学が存在します。加えて昨今の人口動態を考慮すれば,今後,伝統医学をベースとした医療を提供するアジア・アフリカ各国の比重はますます高まり,WHOで集められるデータが相対的に少なくなり得るでしょう。 |
・「国際的」な疾病統計と言いながら,WHOで実際に取れているデータは西洋医学を用いる国のみなのです。伝統医学を持たない国のほうが少ないくらい,世界中にはありとあらゆる伝統医学が存在します」。これ自体は正しい(→「医療的多元論」)。だから、チャールズ・レスリーでしょう!(→Asian Medical System) ・「非西洋医療モデルとしての体液 理論、熱/冷理論」 ・「今後,伝統医学をベースとした医療を提供するアジア・アフリカ各国の比重はますます高まり,WHOで集められるデータが相対的に少なくなり得るでしょう」の「WHOで集められるデータが相対的に少なくな」るの主張は、少し不明瞭だ。 ・「WHO本部でICD担当だったベデルハン・ウースタン(T. Bedirhan Ustun, Koç University- Koç Üniversitesi)」のウースタンの特定は筆者(引用者)によるものである。 |
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及川 おっしゃる通りです。WHO本部の伝統医学担当官だったジャン・シャオイル氏も,アジア地域をはじめ伝統医学受療者の疾病データが取れていないことを非常に憂えていました。 |
・Jean Shaoul ? 例えば、How the World Trade Organisation is shaping domestic policies in health care. Lancet. 1999 Nov 27;354(9193):1889-92. |
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渡辺 伝統医学のデータを集めようとの動きが2000年ごろに各国で加速しました。こうした背景からWHOとしてもデータのギャップを埋めるために,ICDへの伝統医学章導入を画策したのです。 |
・伝統医学章導入?→伝統医学の章(チャプター)導入の誤植か? | ||
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渡辺 伝統医学章の開発の経緯を少し整理させてください。WHOの地域事務局の一つで,日中韓など37か国が所属するWHO西太平洋地域事務局(Western Pacific Regional Office;WPRO)で2005年に東アジアの伝統医学分類作成プロジェクトがスタートしました。WPRO
でプロジェクトを進めていた2006年に,WHO本部でICDを担当していたウースタン氏が会議に参加してくれて「次のICD改訂時に伝統医学を加えるこ
とは可能だ」とおっしゃったのです。ウースタン氏のその言葉を聞いて,われわれは途端に活気付きましたね。その勢いのまま,2008年に東アジア伝統医学
分類の草案を作成しました。/
せっかく草案を作ったものの,2008年にWPROの伝統医学担当官が任期を終えて帰国してしまい,せっかく作成した東アジア伝統医学分類をどう活用する
かは決まっていませんでした。暗澹たる思いを抱えていたところ,WHO本部のジャン氏がWHO本部でのプロジェクト再始動を提案してくれたのです。 |
・「伝統医学章」→「伝統医学の章(チャプター)」誤植? ・医学のローカライゼーションの社会的ないしは領域政治的な運動がはじまっている! ・「WHO本部でICD担当だったベデルハン・ウースタン(T. Bedirhan Ustun, Koç University- Koç Üniversitesi)」のウースタンの特定は筆者(引用者)によるものである。 ・「2008年に東アジア伝統医学 分類の草案を作成しました」 ・「WHO本部のジャン氏」は不詳 |
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及川 その年のWHO本部でのICD改訂に関する会議で,ICD-11に伝統医学を加えること自体には大筋賛成を頂きました。ICD-10の改訂を進めるべき時期に来ている流れの中で,今まで収集できなかったデータを集めるべきとの機運が高まったためです。 |
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渡辺 全体として伝統医学章を導入すると
決めたとはいえ,その後の道のりが楽だったわけではありません。例えば,世界中にある伝統医学のどれをICD-11に加えるか。母体がWPROのプロジェ
クトであることを加味せず,各伝統医学における国際標準化の取り組みや国内標準の存在などによって決定すべきとの意見が上がりました。アーユルヴェーダや
ホメオパシーなどの代表者とも議論した結果,WPROでの東アジア伝統医学の国際分類草案が評価され,東アジアの伝統医学を第一候補にすると決定したので
す。 |
・【障害】「世界中にある伝統医学のどれをICD-11に加えるか。母体がWPROのプロジェ
クトであることを加味せず,各伝統医学における国際標準化の取り組みや国内標準の存在などによって決定すべきとの意見が上がりました」 ・【伝統医学のなかのヘゲモニーの確立】「アーユルヴェーダや ホメオパシーなどの代表者とも議論した結果,WPROでの東アジア伝統医学の国際分類草案が評価され,東アジアの伝統医学を第一候補にする」 |
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及川 ルーツを同じくする日中韓の伝統医学をまとめて提案できるのも,WHOとしては好都合のようでした。 |
・医学は、科学ではなくポリティクス(広義の政治)で決まることがよくわかる発言である。 |
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渡辺 ただ実際の会議では,同根とはいえ
国に合った形でそれぞれ成熟した個別の医療体系を作り上げていたので,折り合いを付けるには多くの困難がありました。それぞれが国の威信を懸けて議論に来
ているので仕方ありません。ですがここで団結しなければICDに伝統医学が仲間入りする機会は二度とないかもしれない。「日中韓の小さな違いのために,こ
んな大きなチャンスを逃すのはばかげている」と呼び掛けたことをきっかけに,以降の協働が生まれました。 |
・渡辺=中医学という伝統医療にもダイヴァーシティがある:「同根とはいえ
国に合った形でそれぞれ成熟した個別の医療体系を作り上げていたので,折り合いを付けるには多くの困難がありました」 ・小異を捨てて大同団結主義の主張 |
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17 |
星野 西洋医学の医師にとって伝統医学は
なじみが薄く,抵抗感も少なくなかったのではないでしょうか。エビデンスが乏しいとされる伝統医学をWHOが承認,利用を勧奨するような印象を与えないほ
うがいいとの意見があり,最終的にはSupplementary Chapterに位置付けられたと聞いています。 |
・星野の主張はきわめて常識的で経験的にも正しい:「西洋医学の医師にとって伝統医学は
なじみが薄く,抵抗感も少なくなかったのではないでしょうか。エビデンスが乏しいとされる伝統医学をWHOが承認,利用を勧奨するような印象を与えないほ
うがいいとの意見があり,最終的にはSupplementary Chapterに位置付けられたと聞いています」 ・渡辺はそれを受けて正直に吐露し(それまで力強さからみてトーンダウン」→「西洋医学の医師にとって伝統医学はなじみが薄く,抵抗感も少なくなかったの ではないでしょうか。エビデンスが乏しいとされる伝統医学をWHOが承認,利用を勧奨するような印象を与えないほうがいいとの意見があり,最終的には Supplementary Chapterに位置付けられたと聞いています」 |
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18 |
渡辺 残念ながら,西洋医学と同じ土俵に
乗せることに対する嫌悪感はやっぱりあるんですよね。WHO-FIC会議には2006年からほぼ毎回欠かさず参加していますが,昼間の会議もさることなが
ら,夜のレセプションのたびに伝統医学を訝しむ人たちを説得して回ったことがいい思い出です。/こうした努力や多くの人・団体の協力のおかげで,2019
年の5月にWHOから勧告が出て,晴れて伝統医学の分類を皆さんに使っていただくことになりました。WPROで国際分類作成に向けて動き出してから14年
たってのことです。 |
・「昼間の会議もさることなが
ら,夜のレセプションのたびに伝統医学を訝しむ人たちを説得して回ったことがいい思い出です」→この達成感はまだ早すぎではないか? ・「WPROで国際分類作成に向けて動き出してから14年 たってのこと」→陽暮れて道遠し感をもつのは引用者だけか? |
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渡辺 改めて,伝統医学章の内容を説明し
ます。本章は,伝統医学的疾病(Traditional medicine disorders)と伝統医学の証(Traditional
medicine
patterns,以下,証,MEMO)の2節から成ります。伝統医学的疾病は西洋医学の病名と同様,病気を表現するものです。一方証は,体全体の病への
反応を表すものです。日本では,従来の西洋医学中心の医療の在り方を支持しつつ,「西洋医学では病名を,漢方医学はパターンを付ける」ものと考えました。
また,日本では西洋医学の基盤の上で漢方医学が成立しているため,伝統医学的病名を用いないと決定し,日本からは証のみを20個提案しました。 ※証,MEMO:漢方医学の用語で,ある時点における患者の正確な臨床像を示すひとまとまりの徴候・症状・所見(患者の体質を含む)のこと。一般的には「体質」や「症状」ととらえられている。/適応症を漢方医学の文脈で表現したもので,証は診断であると同時に治療の指示となる。したがって本来的には,漢方薬は西洋医学的病名ではなく証に基づき患者個別の病態・経時変化を加味して処方されることが望ましい。 |
・ICDは疾病分類体系で、それが西洋近代医学の分類体系にもとづいているので、そこに伝統医学の分類体系(それも無数にある)を導入するという思考法は、どう考えても尋常ではない(=論理的に支離滅裂)あるいはトーマス・クーン流の「パラダイム論」からみてもやはり、異常科学に属する。しかし、あらゆる科学の進歩も異常科学——ただしそれが正常化するのは極めて稀で歴史的にはほとんどありえない——により担保されるので、このような試みには何らかの意味がある。 ・問題は、NIHがどのような経緯で「異常サイエンスとしてのCAN」研究を続けているのかは、興味のあるところである(→「エリア51(Area 51)」) |
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20 |
星野 東
アジアの伝統医学に慣れていない医師にとって,分類が増えると難解になり,使用してもらえない可能性がありますからね。証も可能な限り減らして提案しまし
た。20の証の提案で,20パターンしか表せないのではありません。2つ3つと組み合わせることで,たった20の言葉で多様な証を表現できるのです。 |
・折衷=妥協案としての20の「証」 |
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21 |
及川 各国での使いやすさを意識した提案なのですね。西洋医学的な病名を用いながら漢方医学的な処方を考えられるという日本の伝統医学の在り方は,西洋医学の医師にもとらえやすいと国際会議の場でも認識されていました。世界中のデータが実際に集まるのが今から楽しみです。 |
・及川は、ちょっと手前味噌の糠(味噌)喜びなのでは?あるいは、官僚的お世辞か? |
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22 |
渡辺 日本でのICD-11使用開始は2022年度の予定です。とはいえ,実際に統計情報をどのように集積するかは世界的な課題です。使われない分類として削除されることを免れるために,日本ではどのようにデータを取り進める必要があるでしょうか。 |
・スキームができたから、「後はデータ収集だ」という渡辺の判断は妥当。 ・ただし、データが出てこなかったらどうするのか?データを作成者の責任に将来帰してしまえば、元の黙阿弥だ。 |
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23 |
星野 医師が書いたカルテを見ながらICDのコードを実際に割り付ける診療情報管理士への教育がまず大切です。※「診療情報管理士とは患者の診療記録(カルテ)の管理や診療情報の分析をおこなう専門職」 |
・診療情報管理士への外挿は、大丈夫か?本当に臨床医はきちんと教育できるのか? 私は悲観的だ。 |
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24 |
渡辺 ところが証は,カルテを読んで決められるものではありません。証は,患者さんの症状や病歴を尋ねる問診に加え,患者さんの顔色や体格,声の調子,腹の緊張度などを加味して決定するものだからです。現場の医師が漢方医学的な診察をした上で,証の診断をしなければなりません。 |
・こんな発言はちゃぶ台返し→「ところが証は,カルテを読んで決められるものではありません。証は,患者さんの症状や病歴を尋ねる問診に加え,患者さんの顔色や体格,声の調子,腹の緊張度などを加味して決定するものだからです。」 ・もちろんこちらは、正しいが、メソドロジーの提案がない→「現場の医師が漢方医学的な診察をした上で,証の診断をしなければなりません」 ・「証」には西洋近代科学的な根拠がないというジレンマに回帰してしまう。 |
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25 |
星野 漢方関連学会では,専門医資格更新時に提出する症例へのコーディングの義務化を検討しています。証には慣れ親しんでいるので,コードがわかればすぐ取り組めるようになると思います。 |
・コーディング化は、西洋近代科学的方法だが、その根拠をさぐるためのコーディング化なので、それをもって「根拠」のベースを決めることはできない。 | ||
26 |
渡辺 一方で,医師の多くが漢方を処方している現実を考えると,非専門医が圧倒的多数です。これらの人へはどんなアプローチが必要でしょうか。 |
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星野 まずは地道に,私たち専門医が講習
をしたり資料を作ったりする必要があります。病名に加えて証を加味することで患者さんに適した処方を選択できる利点や,現在保険診療で使える漢方薬の数と
比べれば少ないコード数で足りることを伝えていくつもりです。さらにICD-11では,電子機器で簡単に分類を検索できます。非専門医の方には,サーチエ
ンジンで検索しながら気楽に証やコードを付けてみるところから始めてもらえればうれしいです。/とはいえ,非専門医は証そのものに慣れていない方が多数だ
と思います。証の勉強法として処方から証の振り返りを提案したいです。漢方医学では証と基本処方が1対1で定まる潔さがあるので,処方した漢方薬から証の
特徴を学ぶことにつなげられると思います。 |
・医師によるコード化→診療情報管理士による入力 ・「非専門医の方には,サーチエ ンジンで検索しながら気楽に証やコードを付けてみるところから始めてもらえればうれしいです」→甘くないか? |
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渡辺 東アジアの伝統医学について共通の
言葉を持てたことで,世界中の医療関係者が東アジアの伝統医学を学ぶ基盤が整いました。ICD-11という枠を用いてデータを蓄積すれば,漢方医学に関す
る今までなかった統計データがやっと,しかも世界中で産出できるようになります。 |
・あまりにも楽観的すぎないか?「東アジアの伝統医学について共通の
言葉を持てたことで,世界中の医療関係者が東アジアの伝統医学を学ぶ基盤が整いました。ICD-11という枠を用いてデータを蓄積すれば,漢方医学に関す
る今までなかった統計データがやっと,しかも世界中で産出できるようになります」 |
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及川 これらのデータをもとに,国内外の伝統医学の概況を把握し,公衆衛生施策に役立てたいと考えます。今までも,死亡診断書に基づく原死因の集計データ が厚生行政の基礎になる重要なデータとして,WHOにも集積され,世界の公衆衛生検討に役立てられてきました。高齢化が進む今後は,ICD-11に基づく 死亡や疾病データに加えて生活機能の程度をデータ化することが期待されます。/例えば,がんの患者さんで治療をしながら仕事を続けていらっしゃる人もたくさんいますね。同じ「がん」という疾患であっても,ICDのコードは一緒で あっても,仕事ができる人も入院生活を送る人もいる。その人の生活機能は違う場合があります。その違いを国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health;ICF)を用いて表せば,生活機能の程度の違いまで示すことができるのです。ぜひ,日本の医療データの質を高める役割を医師の皆さんも積極 的に担っていってほしいと思います。 | ・一般論 ・データサイエンス主義 |
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星野 それらのデータを解析することで伝統医学の新たなエビデンス構築にもつなげたいですね。こ
れまでは標準化された分類が存在せず,伝統医学の疾病分類に基づいた研究が困難でした。東アジア伝統医学の共通理解基盤を英語で得た今,国境を越えて,全
世界的な比較研究も行いやすくなります。コードをもとに分析・介入することで,伝統医学の診断・治療を精度高く評価できるでしょう。漢方医学の病態に基づいて漢方薬を使用するほうが安全で効果的に使えるという私たち漢方医の主張に,他科の医師も納得するデータが生まれるかもしれません。最終的には,漢方を支持し存続させてきた患者の期待に応えていくことが学会としての目標です。 |
・情報を蓄積すると、エビデンスが出るというのは、単純な「信仰」だ。情報を蓄積すると、いままでエビデンスがあると思っていたものが、副要因であったり、エビデンスがなくても使われ続けることがある(例:ドネペジル(Donepezil )の惰性的利用) | ||
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及川 ICD-11に基づくコードの分析
結果をぜひ学会主導で発信していってほしいと思います。例えば季節的に陥りやすい疾病をパターン分析して漢方医学的に診るとこんな傾向がある,こんなデー
タが集まるのだと学会のウェブサイトで公表する。地域別,年齢別,男女別のデータなどが示されたら,情報の受け手は興味を持つと思うんです。国としてデー
タを収集・処理するには法制化で時間がどうしてもかかってしまいます。こうしたデータを見た非専門医が,自らコードを付けてみたいと思えるようになった
ら,データがさらに充実する好循環につながると思います。 |
・「例えば季節的に陥りやすい疾病をパターン分析して漢方医学的に診るとこんな傾向がある,こんなデー
タが集まるのだと学会のウェブサイトで公表する」→これは適切なアドバイスだ。学会は真剣に取り組めるのか? ・及川は、国による制度化は時間がかかり非効率であることきちんと自覚している。 |
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渡辺 ICD-11に伝統医学章が導入されたのは,ゴールでありながらスタートです。得たデータを漢方医学や漢方医学を含む伝統医学の発展につなげるために,さらに精力的に活動していきましょう。 |
・本当にスタートにすぎない気がする。つまり、未来はまだ「霧の中」である。 |
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東洋医学における ICD-11 活用(pdf) |
出典:http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03347_01
National Center for complementary and Integretive Health, NCCIH
26 Supplementary Chapter Traditional Medicine Conditions - Module I
26 Supplementary Chapter Traditional Medicine Conditions - Module I Description ********* This supplementary chapter is a subclassification for optional use. This chapter is not intended for mortality reporting. Coding should always include also a category from the chapters 1-24 of ICD. This supplementary chapter refers to disorders and patterns which originated in ancient Chinese Medicine and are commonly used in China, Japan, Korea, and elsewhere around the world. This list represents a union set of harmonized traditional medicine conditions of the Chinese, Japanese, and Korean classifications. For an extended list of traditional medicine conditions, please refer to the International Classification of Traditional Medicine (ICTM). Definitions: A disorder in traditional medicine, disorder (TM1)[1], refers to a set of dysfunctions in any of the body systems which presents with associated manifestations, i.e. a single or a group of specified signs, symptoms, or findings. Each disorder (TM1) may be defined by its symptomatology, etiology, course and outcome, or treatment response. Symptomatology: signs, symptoms or unique findings by traditional medicine diagnostic methods, including inspection such as tongue examination, history taking (inquiry), listening and smelling examination, palpation such as pulse taking, abdominal examination, and other methods. TM Etiology: the underlying traditional medicine explanatory style, such as environmental factors (historically known in TM translations as the external contractions), emotional factors (historically known in TM translations as the seven emotions), or other pathological factors, processes, and products. Course and outcome: a unique path of development of the disorder (TM1) over time. 4 Treatment response: known response to traditional medicine interventions. In defining a disorder (TM1), symptomology and etiology are required. Course and outcome, and treatment response are optional. A pattern in traditional medicine, pattern (TM1), refers to the complete clinical presentation of the patient at a given moment in time including all findings. Findings may include symptomology or patient constitution, among other things. Symptomatology (as above). Constitution: the characteristics of an individual, including structural and functional characteristics, temperament, ability to adapt to environmental changes, or susceptibility to various health conditions. This is relatively stable, being in part genetically determined while partially acquired. [1]:'TM1' refers to Traditional Medicine conditions - Module I. The (TM1) designation is used throughout this chapter for every traditional medicine diagnostic category in order to be clearly distinguishable from conventional medicine concepts. *** Traditional medicine disorders (TM1) Organ system disorders (TM1) Other body system disorders (TM1) Qi, blood and fluid disorders (TM1) Mental and emotional disorders (TM1) External contraction disorders (TM1) Childhood and adolescence associated disorders (TM1) SE5Y Other specified traditional medicine disorders (TM1) SE5Z Traditional medicine disorders (TM1), unspecified *** Traditional medicine patterns (TM1) Principle-based patterns (TM1) Environmental factor patterns (TM1) Body constituents patterns (TM1) Organ system patterns (TM1) Meridian and collateral patterns (TM1) Six stage patterns (TM1) Triple energizer stage patterns (TM1) Four phase patterns (TM1) Four constitution medicine patterns (TM1) *** SJ1Y Other specified traditional medicine patterns (TM1) SJ1Z Traditional medicine patterns (TM1), unspecified SJ3Y Other specified supplementary Chapter Traditional Medicine Conditions - Module I SJ3Z Supplementary Chapter Traditional Medicine Conditions - Module I, unspecified |
●●漢方医学とISO規格に関する分析(資料:並木 隆雄「科学的根拠に基づいた伝統医学のISO規格策定をめざして」『医学界新聞』3347号、2019年11月18日)の分析
並木 隆雄(日本東洋医学会副会長・理事/千葉大学大学院医学研究院和漢診療学准教授) | 分析とコメント(池田) | |
1 |
全世界で数十億人が伝統医学を使用して
いるといわれる。この中で,漢方を含む東アジアの伝統医学は医療の多様化の観点から国際的にも需要が高まっている。2005年頃より国際疾病分類第11版
(ICD-11)の改訂作業が始まり,改訂の目玉の一つとして東アジア伝統医学を盛り込むことが検討された。調整には長い道のりがあったが,ついに
2019年5月の第72回世界保健総会で採択が決定された。 |
・伝統医学・伝統医療への希求は古くからある(実質定番化している表現) ・ICD-11改定のなかで、今般ようやく「東アジア伝統医学を盛り込むこと」が実現された。 |
2 |
一方,中国が国際標準化機構(ISO)
に新しい委員会の設立を申し出て,中医学を中心に伝統医学を世界的に広めようとTC
249(のちに名称が中医学となる)を2010年に発足させた。天然薬物(朝鮮人参・葛根・麻黄などの生薬),製剤,医療機器,医療情報にわたる規格案が
検討され,伝統医学関係の産業化に資することとなる。 |
・他方、中国はISO/TC249を通して、2010年以降、「伝統医学関係の産業化」に血道をあげている(だから問題があるというニュアンス) |
3 |
ISO/TC 249は,
伝統医学の流通促進を目的に,生薬や製剤,伝統医学で用いる診療機器,医療情報に関する国際規格を定める場である。ICDも同様に国際標準規格のひとつで
あるが,両者の標準化の違いは,ICDは各国の採用が任意であるのに対し,ISOは成立した規格に強制力がある点である。 |
・ISO/TC 249の機能は「 伝統医学の流通促進を目的に,生薬や製剤,伝統医学で用いる診療機器,医療情報に関する国際規格を定める」ものである。 |
4 |
東アジア伝統医学は,もともとは古代中国医学から分かれ,中国は中医学,韓国の韓医学,モンゴルの蒙古医学,日本は漢方医学となった(図:ただしモンゴル医学は分岐図には収載されていない)。同根ではあるが,それぞれの国の気候,風土,食事などの違いを背景に発展したこともあり,別の医療体系である。そのため,日本の漢方医学と中医学・韓医学をICD-11では「東アジア伝統医学の分類」として統一していく必要があった。 |
・中医学と漢方医学は「異なる」という日本の漢方派の伝統的な主張を維持。 ・だが実際には、何らかの政治的妥協で、「日本の漢方医学と中医学・韓医学をICD-11では「東アジア伝統医学の分類」として統一していく必要があ」る。 |
5 |
一方,ISO/TC249は逆に各国の医療システムに影響がないようにする点などで対応が異なっている。例えば,日本は西洋医学を基礎とし,伝統医学との密接な連携のもとに患者に最良の治療を提供する日本型統合医療を展開している。これに一致しない提案は,西洋医学を基礎に置く日本の伝統医学の実践に影響を及ぼすわけである。ISO/TC 249は2019年までに10回の全体会議が開催され,国際規格は成立45規格,検討中も46規格と多数となっている(2019年9月現在)。 |
・中医学と漢方医学は「異なる」という日本の漢方派の伝統的な主張を維持がバラフレイズされる→「日本は西洋医学を基礎とし,伝統医学との密接な連携のもとに患者に最良の治療を提供する日本型統合医療を展開している」 ・統合医療あるいは「日本型統合医療」という言葉がここで初出。だが、ここでは定義なるものはない。 |
6 |
日本ではJLOM(日本東洋医学サミット会議,註)がISO/TC249の対応において,学術団体の立場で中心的な役割を果たしている。伝統医学を西洋医学とは独立した医療システムとして確立する国々(which country? - by author)からの提案の一部には,科学的根拠を欠く規格案も少なくない。こうした規格が採用されることで起こる,西洋医学を基礎に置く日本をはじめとした国々の伝統医学実践への悪影響を阻止するためにも,JLOMには科学的根拠をもって規格策定を主導することが求められる。 ※日本東洋医学サミット会議(The Japan Liaison of Oriental Medicine;JLOM)は,WHO西太平洋地域事務局での伝統医学国際標準化活動に関連して,それらの対策や人選目的で複数のアカデミアが集まって 2005年に設立された。現在は日本東洋医学会,北里大東洋医学総合研究所,富山大大学院和漢診療学講座,日本鍼灸師会など10団体から成る。2011年 にWHO国際統計分類協力センターの国内審議団体に登録され,ICD-11の伝統医学章作成や伝統医学のISO化に尽力している。 |
・JLOM(日本東洋医学サミット会議)の役割の強調 ・伝統医学を西洋医学とは独立した医療システムとして確立する国々(which country? - by author)とはどこをさすのか?明示されていない。 ・「西洋医学を基礎に置く日本をはじめとした国々の伝統医学実践への悪影響」にみられる中国医療に対する不審感の表明。だからJLOMが重要と理由が明かされる。またJLOMに期待を表明する。 |
7 |
東アジア伝統医学がWHOのもとで公式にICD-11として紹介されたことで,西洋医学の診断と病態分類が併記でき,さらなる伝統医学の普及につながると期待される。そのため日本国内でも,医療者に対し学会主催の講演会などを通じた啓発活動や,研究目的での利用推進に励む必要がある。ISO/TC249に対して,ICD-11に東アジアの伝統医学が収載された悪影響は,現時点では出ていないと考える。 |
・ICD-11改定のなかで、「西洋医学の診断と病態分類が併記でき,さらなる伝統医学の普及につながると期待される」と希望的観測を表明。 ・日本ががんばらなければならない。 ・現状分析では「ISO/TC249に対して,ICD-11に東アジアの伝統医学が収載された悪影響は,現時点では出ていない」という論評。 |
8 |
しかし今後,一
国の伝統医学が「伝統医学」のISO規格として採用されては,既存の伝統医学のレギュレーションの修正や,科学的でない国際規格の成立,知的財産を独占し
経済的利益を一国が得ることが懸念される。日本は,多様性を守る観点から,複数の伝統医学が共存できるように各提案での監視を続ける。ただし,中国に比し
て人的資源,資金,時間が慢性的に不足しており,関係者の世代交代に対応する体制や方法を模索していく必要がある。 |
・再度、中国に対する露骨な警戒心の表明。 ・ただし、それは防衛的態度。少なくとも攻めの姿勢ではない:「日本は,多様性を守る観点から,複数の伝統医学が共存できるように各提案での監視を続ける」 ・そして、日本は中国に対して劣勢であることの表明:「中国に比し て人的資源,資金,時間が慢性的に不足しており,関係者の世代交代に対応する体制や方法を模索していく必要」 |
9 |
漢方医学は気候風土の違いから独自発展したこともあり,知的財産の見地からも他の国際的な機構(UNESCOなど)や条約(生物多様性条約など)との複雑な関連を考える必要がある。今後も国際的な観点からも,伝統医学の標準化を注視し,長年にわたり蓄積された人類の英知が正しく活用される環境を守るべく,日本として活動していくことが重要と考えている。 |
・「知的財産の見地からも他の国際的な機構(UNESCOなど)や条約(生物多様性条約など)との複雑な関連を考える必要」と言うが、はたして、それは上掲の「監視」や「日本での漢方支援体制」にどれだけ寄するのかは不明なまま。 ・中心的課題は「伝統医学の標準化」においてイニシアチブを取ることが重要と、言外に言っている。(言外ではなくてきちっと明言しないのは残念) |
出典:http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03347_02 |
ISO/TC 249 https://www.iso.org/committee/598435.html
日本東洋医学サミット会議 http://jlom.umin.jp/
袴塚 高志「ISO/TC249における生薬・薬用植物の国際標準化の現状」
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