実践力とは?
What is your power of practice?
田辺繁治によると、実践(practice)とは「社会的に構成され、慣 習的に行われている」行為や活動であり、それらは「権力が作用する社 会関係の網の目なかで形成されてきた慣習によって強く支配されている」ものである(田辺 2003:11)。
したがって、実践力というものは、自分がおこなっている行為や活動が「社 会的に構成され、慣習的に行われている」ことについて、その主体が自覚的であり、社会という権力場において「権力が作用する社 会関係の網の目なかで形成されてきた慣習によって強く支配されている」ことを自覚するだけでなく、操作できる能力をもつことをいう(→「実践共同体としてのゲリラ部隊」)。
ノーベル経済学賞受賞者のアマルティア・センによると(社会の)開発・発 展・成長とは、富や所得を増大させることではなく、(その社会にいる)人々が享受できる自由を増大させることが重要だと考えた。人が自分自 身で自由であることを保証するのは、人間が自由を獲得できる能力をみずから持ち・選択し・かつ行使することができなくてはならない。そのような、人々が価 値を見出し、選択できる機能の集合をケイパビリティ(capability)の概念で捉えた。端的に言うと、ケイパビリティとは、その人が何をできるのか という可能性を示していることでもある。マーサ・ヌスバウムは、後に、センと協力して、生活の質/生 命の質(Quality ofLife)という従来は保健や人間の安全保障に関する用語であったものを、さらに鍛えあげ、ケイパビリティを「あら ゆる諸国の憲法で保障されるべき人間の資質であり、また、可能なるもの(可能態)」として位置づけ、経済的な成功が人間の人生の充実と善の達成と結びつく ための基盤構造について構想した(→「人間にとっての真のケイパビリティとは?」)。
高度汎用力(higher capability)の定 義:そのようなセンとヌスバウムの提唱にヒントを得て、高度汎用力(higher capability)を定義する。つまり「大学・大学院という教育環境のもとで、 この制度が理想とする各人が教育や研究をとおしてより自由な存在になる ための、価値を見出し、選択できる機能の集合を高度汎用力(higher capability)と呼ぶ」ことができる。
このようなリベラルアーツ的な定義以外にも、合理主義的なプラグマティズムの塊のようなハーバードビジネススクールのクレイトン・クステンセン 教授ですら、その共著『教育×破壊的イノベーション』(2008:1)のなかで、今日の学校教育機関に対して現代人がもつつぎのような4つの期待を掲げて いる。その4つの最初の期待こそが、人間のもつ潜在能力(ケイパビリティ)への期待である。
「1.人間の持つ潜在能力を最大限に高めること。2.
自己の利益のみに関心のある指導者によって『操られる』ことのない、見聞の広い有識者による、活気に満ちた参加型の民主主義を促すこと。3.わが国[米国
—引用者]の経済の繁栄と競争力を維持する上で役立つ技能や能力を、意識を高めること。4.人はそれぞれ違う考え方をもっており、その違いは迫害されるの
ではなく、尊重されるべきものだという理解を育むこと」(クリステンセンら 2008:1)。
私がこのような概念を提唱するのは、既存の「高度汎用力」の定義と提唱には「人間の能力とはなにか?」というビジョンに対して認識論的限界があ と感じたためである。ちなみにそのような実例について解説しておこう。
超域イノベーションという幻影力:「高度汎 用力」(大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムが定義するもの)では、高度汎用力(transferable skills)は、《課題発見力》+《課題解決力》 +《社会実践力》からなるものとして定義されている(それぞれの《中味》についてはリンク先を参照)。しかしそれでは、3つの用語の定義をしたにすぎず、 高度汎用力を大きくひとくくりに定義するという 思考判断力を全くもたないものになっている。つまり、高度汎用力は、その3つの概念を社会的に実装するときに、論理的かつ時系列的に進む、《課題を発見》 し、《課題の解決》を模索し、そして、 それを《社会に実践》するということである。これを「高度汎用力のリニア適用モデル」としておこう。その概念図式は下記のとおりである。
別のところ、つまり「古典的なリベラルアーツ教育と、現代大学教育におけるリ ベラルアーツの共通点と相違点」で述べたように、人間を「自由」にしない教 育は、真の教養教育ではないのである。
もっとまともな、高 度汎用力(transferable skills)by SkillsYouNeed, Co. Ltdの 定義がある。もっともこれ(下記に同サイトからの項目を列挙)は、私の前の職場であった旧「大阪大学【旧】コミュニケーションデザイン・センター (CSCD Ver. 1.0)」での教育研究目標のリストとそれほど変わらない。
以上をまとめると、それらのような微に入り細を穿つ項目で示された、実践的なスキルを身に付ける/付けさせるというのも、画餅であろう。つい た 帰結こそが、高度汎用力だからである。
そんな瑣末なことに、我々はかまっている暇はない、先に述べたように、高 度汎用力とは「大学・大学院という教育環境のもとで、 この制度が理想とする各人が教育や研究をとおしてより自由な存在になる ための、価値を見出し、選択できる機能の集合」のことである。集合なのであるから、それらの個々の要素は、各人が持ち寄り、あるいはその「現場」 で造り出し、コラボレーションがなければ、それらの機能の集合を、その参加者(プレイヤーやプロシューマー)たちが具有することができないだろう。
高度汎用力の陶冶には、他者の存在、そして他者とのコラボレーションが不可欠なのである。これを無視した、スキル学習としての高度汎用力教育が
できるなどとは、夢思ってはならないだろう。その意味では、他者とのコラボレーションとは、私が長年主張してきた「対話論理」と在り方ととてもよくにていると、このページの読者なら思うはずだろう。
■コミュニケーション・デザイン力こそが、真 の「高度汎用力」である
「大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(CSCD:Center for the Study of Communication-Design)は、平成17(2005)年4月に発足し平成28(2016)年6月まで存続した組織。当時、コミュニケー ションデザインを銘打った日本初の組織で、これまでの日本の大学にはなかった新しいタイプの教育研究機関でした。全学部の学部高学年から全研究科のすべて の修士ならびに博士課程の院生を対象にし全学共通教育を行うこと、社学連携・市民サポートを先頭に立って実践し、プロデュースすることが二つの大きなミッ ションになっていた。学部や研究科ではないので、学生・院生は所属しておらず、各学部・各研究科に所属した上で、コミュニケーションデザインの多様な科目 を履修できるサービスを提供していた。平成28(2016)年7月から、超域イノベーション大学院と統合され、現在は大阪大学COデザインセンターとなっ ている」
コミュニケーションデザインとは、情報のやり取りや対人コミュニケーションのような情動を含んだ広義の交通と、計画性にもとづく合理的な設計と
いう2つの意味の複合語で、(1)情報通信の効率性をあげるための設計理念や実践という意味と、(2)人間のあいだの適切な対人コミュニケーションの具体
的な設計および実践などのことをさす(→「コミュニケーションデザインの定義」)。
■デザイン思考/デザイン・シンキング(design thinking)という援軍の存在
デザイン思考/デザイン・シンキング(design thinking)は、創造的な問題解決のための方法である。 IDEOのCEOのティム・ブラウンは、デ ザイン・シンキングを「デザイナーの道具箱から、1)人民のニーズ、2)テクノロジーを動員できること(可能 性)、そして、3)ビジネス上の成功という要求を満たす、ように統合するように描かれた、イノベーションへのひとつの人間中心的アプローチである」と述べ ている。
“Design thinking is a human-centered approach to innovation that
draws from the designer's toolkit to integrate the needs of people, the
possibilities of technology, and the requirements for business success.”
— Tim Brown, CEO of IDEO Source: https://www.ideou.com/pages/design-thinking
手前味噌だが、創造的な問題解決のためには、1)解決され
るべき問題(=人民のニーズ)の発見 すなわち問題発見力、2)課題
解決に必要な知識と情報の収集力と理解 力と統合力(=テクノロジーを動員できること)すなわち課題解決力、
そして3)実際に社会にその問題解決の技法を社会に実装すること(=ビジネス上の成功)すなわち解法実装力、の3つの能力の陶冶が必要となる。
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Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1997-2099
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