現代暴力論2002・シラバス
[授業形態] 講 義(一部に演習) [授業目標] (1)人間が行使する暴力の多様な 様相について理解する。
(2)アカデミズムの世界において暴力について語られてきた、さまざまな思想・主張・意見を概観 する。
(3)さまざまな暴力の事例について多角的に考察することができる。
(4)さまざまな暴力の事例について、どのように向き合い、対処する実践が可能であるかについて 意見表明ができるようになる。
[授業の内容] 20 世紀は戦争と革命の世紀だとレーニンは予言したが、「革命」の現実が無残な姿をさらけ出した 今、アーレントの言うようにそれはまさに暴力の世紀であり、暴力の世紀はいまだに終わっているわけではない。授業目標に掲げているが、暴力はあまりにも我 々の前に圧倒的で多様な姿を現し、とりつく島がないという絶望感を覚えるものがいるかもしれない。元来、暴力について語ることは、おもに政治経済学(歴史 を含む)と心理学(精神医学をふくむ)の「言語」で語られることが多かった。硬直した紋切り型の「暴力」理解を打破しうる社会と文化を機軸にした人間の暴 力への理解——解釈と実践——に道を切り開くべく、教師は授業を盛り上げていきたい。 [キーワード] 暴 力、革命、戦争、拷問、解放、和解 [スケジュール] ※別表を参照してください
[授業のチェックポイント] ここよりリンク [テキスト] 歴 史的記憶の回復プロジェクト編、2000『グアテマラ 虐殺の記憶』飯島みどり他訳、東京:岩波書 店。それ以外の印刷物は授業で配布。 [参考文献:順 不同] こ ちらに移動しました。リンクはこちら。 [関連リンク] 戦争の人類学的研究 [評価方法] 課 題論文の評価点、平常点、試験の総合評価 [履修上の指導] 予 習と復習をきっちりとしましょう。 [さ らに勉強したい方のために]
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「現代暴力論」スケジュール(日付は2002年度です)
2002年
4月22日 ____________ |
イントロダクション |
4月30日 | 暴力の諸相 I
暴力装置論についてお話しました。 虐殺する側 の論理 第三世界に おける職業軍人の多くが米国・西欧あるいはソ連で軍事教育を受ける。そのことが第三世界の軍隊を‘近代化‘あるいは‘西欧化’を推進する勢力になってき た。と、同時にそのような軍隊の‘印象操作’を通して、軍人が政治のイニシアチブを掌握する‘根拠’としてきた。(p.173-175):メアリー・カル ドー『バロック的兵器廠』(邦訳:兵器と文明)、1986,Kaldor,Mary.,"The baroque Arsenal",Marsh and Sheil,1981 シャー(イ ラン国王)の白色革命と‘保健と識字の軍隊’:「白色革命は農地改革と急激な工業化を含み、もともとは一九六〇年代初期に米国のアドバイザーによってけし かけられたものである。」(p.195-196);「地位を確保するためにシャーは軍に大きく依存した。彼も(一九五三年に)また彼の父も(一九二二年 に)軍事クーデターによって地位を獲得している。・・シャーは秘密警察と情報機関を作り上げたが、それは監視、拷問、無差別逮捕などを任務とし、またお互 い同士の、さらには軍隊内部のスパイ活動にも使われた。・・彼はまた開発計画の組織化のために軍を直接に使用した。そして”保健と識字の軍隊”を作りだし 農村に送り込んだ。」(p.196):メアリー・カルドー『バロック的兵器廠』(邦訳:兵器と文明)、1986,Kaldor,Mary., "The baroque Arsenal",Marsh and Sheil,1981 |
5月7日 | 暴力の諸相 II
ハンナ・アーレントの暴力論 意味の四角形について紹介し、分析しました。 ■ 政治的暴力と人類学を 考える(要ID) ■ 物神化する文化: グレマスの意味の四角形解説 |
5月14日 | 虐殺の記憶:はじめに(pp.3-)
皆さんが選択したチェックポイントには傾向があることを指摘しました。抽象的問題を指向する人は復習の際には具体的なテー マを、逆に具体的なテーマを選択する傾向がある人は今度からは抽象的なテーマに取り組んでみてはいかがでしょうか? |
5月21日 | 『風の記憶:先住民族の500年』Alter Cine Inc./
Alba Films 、1992年
■ 風の記憶メモほか授業資料(要 ID) |
5月28日 | 虐殺の記憶:第 I 部 証言−破壊(pp.33-) |
6月4日 | 『グアテマラ:二度と再び』NHKBS1(2000.02.20)
60min.
【質問】 秘密墓地は政府軍が虐殺の証拠を隠滅するために作られたのでは? 【お答え】 確かにその通りです。他方で、虐殺をおこなった軍は死体をそのまま放置 することもありました。死体を集めたのは住民です。 ただし死体を集めるのは命がけでした。これが授業でしたお話。 ただし、こういうのもあります。 処刑の対象者に穴を掘らせて殺害した後に火をつけて埋める場合があります。 Haunted Landに出てきたケースには、それを推測するようなものでした。 しかし一般に秘密墓地というのは、誰が埋葬したかという観点よりも、墓場以外に 埋葬されている場所のことを指す言葉であるように思われます。 池田光穂 |
6月11日 | 虐殺の記憶:第 II 部 恐怖のメカニズム(pp.95-) |
6月18日 | 『兵士たちの帰宅』 : グアテマラ, NHKソフトウェア,
1998
■ ここから得られる教訓 (1)ゲリラとは英雄伝として語られる人の物語にあるのではなく、その 思想に共鳴したり、またさまざまな社会状況のなかでゲリラとして参入することを余儀なくされた、あるいは自ら選択して参入した多様な人たちの生活実践その ものである。 (2)革命か死か(キューバ革命のスローガン)という二者択一の理想的 な論理が現実には起こり得ない。限られた可能性にチャンスをかけて勝利するまで生き延びるか、講和・敗走・転向などのプロセスを経て、紛争(革命)後の生 活を生き延びることである。つまり、永続革命という状態などがありえない以上、我々はどこかで日常性を回復しなければならないし、またそのように生きるこ とを運命づけられている。 (3)生き延びることを決めた人たちの主体的選択とその責任:紛争後の 生活は苦痛であろうが、生き延びねばならない。絶望のみが死を将来する。そこでの至上命令は、ただただ「生きろ」ということだけだ。生きる以上、希望と希 望を実現にむける実践はいかに儚いものでも捨て去るわけにはいかない。 |
6月25日 | 虐殺の記憶:第 III 部 二度と再び(pp.179-) |
7月2日 | Olivia Carrescia (Dir.), "Todos
Santos:The
Surviviors", First Run / Icaarus Films, 1989.
この映像配給元のレビューは【こちら】[画像あり] この映画に先行して撮影された民族誌映像は次のものです。 Olivia Carrescia (Dir.), "Todos Santos Cuchumatan: Report from a Guatemalan Village" , First Run / Icaarus Films, 1982. この映像配給元のレビューは【こちら】[画像あり] |
7月9日 | 虐殺の記憶:勧告—社会再建への道(p.237-) |
7月16日 | まとめの授業:『スペシャリスト』(英語版)
参照:Patricio Guzma'n監督「ピノチェト将軍のケース」2001年【リンク】[画像あり] |
7月23日 | 試験(この下の欄外にあります) |
7月30日 | 休講 |
2002年度現代暴力論試験問題
注釈つき文献リスト(順不同)
池田光穂
エリザベス・ブルゴス編著*『私の名はリゴベルタ・メンチュウ : マヤ=キチェ族インディオ女性の記録』高橋早代訳、東京:新潮社、1987年
*この本の著作権めぐってブルゴスとメンチュの間に争いがあります。またこの本に記載さ れている内容をめぐって、メンチュとストールの間に論争があります。これについての知るには次の太田好信(2001)を参照すること。
太田好信『民族誌的近代への介入 : 文化を語る権利は誰にあるのか』京都 : 人文書院、2001年
ハンナ・アーレント『暴力について : 共和国の危機』山田正行訳、東京 : みすず書房、2000年
ハンナ・アーレント『全体主義の起源 1.反ユダヤ主義』大久保和郎訳、東京 : みすず書房、1986年
「この本は(引用者注:『全体主義の起源』)、最初一瞥したときには、いやもう一度見直したときにすらも、まったく言語道断としか見え ないことを理解しようとする試みなのである。/理解ということはしかし、前代未聞のことを前例から演繹する こと、もしくは現実のインパクトや経験のショックがもはや感じられないようなアナロジーや一般原則によっていろいろの現象を説明することによって言語同断 さを打ち消すことを意味するのではない。それはむしろ、事件がわれわれの肩に載せた重荷を良心的に検討し担う——そうした事件の存在を否定 するのでも、現実におこったことは別の形では起こり得なかったのだとでもいうように意気地なくその重みに屈するのでもなく——ということである。要するに理解するということは、現実——それがいかなるものであるにしろ、またあっ たにしろ——に成心なく、しかし注意深く直面し、抵抗することなのだ」(ハンナ・アーレント 『全体主義の起源 1.反ユダヤ主義』大久保和郎訳、p.viii、1986年)。
現代思想「和解の政治学」『現代思想』Vol.28(13)、2000年11月号、東京:青土社
Carmack, Robert M. ed. 1988. Harvest of violence : the Maya Indians and the Guatemalan crisis. Norman : University of Oklahoma Press.
フォルジュ、ジャン−フランソワ『21世紀の子どもたちに、アウシュビッツをいかに教えるか?』高橋武智 訳、作品社
ファッセル、ポール(Paul Fassell)『誰にも書けなかった戦争の現実』宮崎尊訳、草思社、1997年
歴史の修正主義者に読ませたい一冊。あるいは全体主義者の戦争は糞で、連合軍の戦争行為 はよいという浅はかな認識も、この本の前では無力だ。前線でも、銃後でも、そこには愚かな幻影に動かされる人びとがいる。そのような挑発に載らないために は、ただひとつ。反省心なしに社会全体のために奉仕することは美しいという条件反射をやめることだ。
真鍋祐子『光 州事件で読む現代韓国』東京:平凡社、2000年(増補版:2010年)
限定辞がつかない民主化ではなく「韓国ナショナリズムにとっての民主化」のパブリックメ モリーを考える必読書。分析は紋切り型かもしれない、人類学者にとっては「恨」を解釈図式に持ち込むよりも、研究者をも巻き込んだその民衆的再生産のほう に興味がある。
Z・ブレジンスキー『アウト・オブ・コントロール』鈴木主税訳、草思社、1994年
暴力の強度の数量化について[リンク]
このページのクレジット
かつて熊本大学文学部・文化表象学特殊講義/熊本大学大学院文学研究科文化政策論として、行
われ
ていたものでした。現在は、著者の所属も変わり、このような授業は行われておりません。でも、みなさんの心のなかで鳴り響いていたとしたら、それは私の望
外の幸せです!
[科目分類]専門基礎科目 [時間割コード]60100 [授業科目]地域科学入門 [授業題目] [英文科目名] [担当教官] 池田光穂[開講年次]2[学期]通年 [曜日]火 [時限]3 [選択/必修]必修 [単位数]4、熊本大学文学部開講授業2002年
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099