マヤ医学の身体観
Body and Soul Concepts on Maya Medicine
Maya stone carving from Copan
5.マヤ医学の身体観:Body and Soul Concepts on Maya
Medicine
マヤの身体観をもっとも典型的に表すのは熱/冷二元 論にもとづく体液理論であり、これらは病因や(食事を含む)薬草との調和のなかで考えらえる全体論的思考の産物でもあることはすでに指摘した。この節で検 討するのは、マヤの全体論的思考のなかで、身体は空間的および時間的秩序と、どのような関係をもつかということである。
マヤの健康を理解するには、宇宙観を表象する四つの 方位(東西南北)にもとづく空間概念と、260日周期のマヤ暦にもとづく時間概念は重要である。空間概念における方位は太陽の運行を出生(日の出)と死滅 (日没)と類推され、身体の位置とも関連づけられる。また太陽は男性、月は女性というジェンダー(社会的性別)の区分に対応するが、これらは天体の運行に より、身体の状態や心の欲望の在り方を規定する。上下の空間概念としては(しばしば四方位を包括する)山の主(ぬし)は上方で男性(=父)、大地は下方で 女性(=母)に割り当てられる。マヤ諸語のひとつのマム語の語彙では北(jawna)の方位は上方、南(kumna)は下方の範疇に属し、東 (elnex)は太陽が出る(el-il)、西(oknex)は太陽が入る(ok-il)という意味に対応している。埋葬時の身体の方位は、大人は頭を西 にし、幼児は東を向けるが、(二次葬を除いて)カトリックもプロテスタントもそれに従う文化的拘束がつよいものである。
マヤ暦については我が国でも比較的よく紹介されてい る(e.g. 八杉 2003)。グアテマラのマヤ司祭にとっては20の名称と13の数字の組み合わせからなる260日暦の日々の意味と解釈は、儀礼の日時の決定や依頼主の誕 生日にもとづく吉凶や人生を通しての運命などの知る上で重要である。かつては多くのマヤ共同体で秘儀的にマヤ暦を維持していた司祭の伝統(e.g. Oakes 1951)があったが、現在のマヤ司祭はグレゴリオ暦からマヤ暦をマニュアルに基づいて計算したり、市販されている暦手帳を利用している。
繰り返しになるが、マヤ医学は全体論的であることを
特徴とするので、患者が病気になった時には、人びとはその原因を単一のものに遡及的に発見するよりも、症状の展開を含めて多面的に考え、功利的観点から試
行錯誤する傾向がある。病気の原因を多面的に見る傾向は、その思考パターンとしては因果論よりも経験論に比重がおかれ、またマヤの考え方に拮抗したり矛盾
しないかぎりは、近代医療の知識や思考法には寛容的であり、置き換えることにもみられる。マヤの人たちは自己の伝統文化に対するプライドは一般的に高い。
しかしながらマヤの全体論的思考は、自民族中心主義がもたらしがちな自己優越的で排
他的な他者観を和らげていることに寄与している。
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