はじめによんでください

人種主義科学者の言葉の言い換え

Paraphrasing words among racist scientists

池田光穂

☆第 二次大戦後に、それまでの「人種概念の濫用」とそれにともなう犠牲者が二度とふたたび出ないように、人種概念というものの無益性が科学者と国際社会のあい だで芽生えた。その結果が「人種に関するユネスコ宣言(UNESCO statements on race, 1950)」である。そのなかで宣言は「人種について話す際には 「人種」という用語を一切使用せず、民族グループについて話すほうが望ましい」と勧告した。

★しかし、戦前の優生学者(戦後、それをカモフラージュした「人類遺伝学者」)を含む、人種概念を本質的なものとして教 育を受け、また、その人種研究パラダイムを捨てきれない人たちが、上掲の国連宣言に対して違和感をもちつつけていた。その間に、何度も、人種概念の有害性 を、多くの科学者たちが警鐘をならしてきたが、現在においても、人種概念は科学的に有効であり、依然として「研究する価値」があると信じているものがい る。そのような人たちは、あからさまな用語を避けて、無難な人種用語に置き換えて、現在においても、研究費を取得したいがために、言葉の言い換えをつづけ ている。

レイシストあるいは従来の用語
カモフラージュ集団

Race population

racial difference
human variation
東郷えりか、解説(pp.350-351)
土着の集団
歴史的に興味ふかい孤立集団
(サイニー 2020;176)
mixed race
hybrid


dual heritage

half-cast


biracial


ancestry


lineage

リ ネージ(lineage)は、リニッジとも表記したり発音したりしますが、同じ意味を持ちます。リネージは、始祖を含む成員の構成が具体的にたどれる出自 集団(=多くは父系か母系だが現在ではその両方あ るいは任意の親族集団)のことをさします。出自(しゅつじ)とは「自分はなになに一族、なになに家の出身だ」という、親族の出身の出所を示す用語です。主 に名前のうちファミリーネーム=苗字などが日本では使われますが、同じ苗字でも異なる出自集団がありますので、「〜地区、〜ムラのなになに家」と、居住地 域や出身集団の地名などを充ててそれらの間を区別することが行われます。現代の日本語ではシンルイがそれに対応します(→「リネージとクラン」)。
Black


East Asian


++

neo-racism
Étienne Balibar's term for the prevalent new modality of racism he calls ‘racism without race’, which emerged in the 1970s. Whereas racism used to be premised on the idea of race as biological heredity, now in the postcolonial era it tends to be focused on ‘cultural differences’. It surfaces in debates about immigration, assimilation, and multiculturalism and although its tone tends to be respectful its intent is always to preserve the pillars of racial segregation both ideologically and practically. Indeed, the very question of whether or not immigration might cause ‘cultural’ difficulties (whatever form these might take—e.g. the loss of cultural distinctness, or dilution of tradition) is neo-racist in form according to Balibar. Samuel P. Huntington's highly influential The Clash of Civilizations and the Remaking of the World Order (1998) is a highly sophisticated example of neo-racism inasmuch as it insists on the universality and immutability of ethnic characteristics.

Ê. Balibar and I. Wallerstein Race, nation, classe: les identités ambiguës (1988), translated as Race, Nation, Class: Ambiguous Identities (1991).
ネオ-レイシズム
エティエンヌ・バリバールは、1970年代に出現した「人種なき人種主義」と呼ぶ、人種差別の新しい様式を指す言葉である。かつて人種差別は、生物学的遺 伝としての人種という考え方を前提としていたが、ポストコロニアル時代の現在では、「文化的差異」に焦点が当てられる傾向にある。移民、同化、多文化主義 をめぐる議論の中で表面化し、その論調は尊重される傾向にあるが、その意図は常に、イデオロギー的にも実際的にも人種隔離の柱を維持することにある。実 際、バリバールによれば、移民が「文化的」な困難(それがどのような形であれ、例えば文化的独自性の喪失や伝統の希薄化など)を引き起こすかどうかという 問題そのものが、新人種主義的なものなのである。サミュエル・P・ハンティントン(Samuel P. Huntington)の『文明の衝突と世界秩序の再構築』(The Clash of Civilizations and the Remaking of the World Order、1998年)は、民族的特質の普遍性と不変性を主張している点で、ネオ・レイシズムの非常に洗練された例である。

人種・国民・階級 : 「民族」という曖昧なアイデンティティ / エティエンヌ・バリバール, イマニュエル・ウォーラーステイン著 ; 若森章孝, 岡田光正, 須田文明, 奥西達也訳, 東京 : 唯学書房. - [東京] : アジール・プロダクション (発売) , 2014.6












遺伝学者、レイシストに反論する : 差別と偏見を止めるために知っておきたい人種のこと  / アダム・ラザフォード著 ; 小林由香利訳、フィルムアート社 , 2022/How to argue with a racist : what our genes do (and don't) say about human difference. Adam Rutherford. The Experiment, LLC 2020


遺伝学者、レイシストに反論する : 差別と偏見を止めるために知っておきたい人種のこと  / アダム・ラザフォード著 ; 小林由香利訳、フィルムアート社 , 2022
AS HEARD ON BBC RADIO 4 BOOK OF THE WEEK --- THE SUNDAY TIMES BESTSELLER 'Seriously important' BILL BRYSON 'A book that could save lives' SPECTATOR 'An enthralling, illuminating book' MAIL ON SUNDAY 'The ultimate anti-racism guide' CAROLINE CRIADO PEREZ 'A fascinating debunking of racial pseudoscience' GUARDIAN Race is real because we perceive it. Racism is real because we enact it. But the appeal to science to strengthen racist ideologies is on the rise - and increasingly part of the public discourse on politics, migration, education, sport and intelligence. Stereotypes and myths about race are expressed not just by overt racists, but also by well-intentioned people whose experience and cultural baggage steer them towards views that are not supported by the modern study of human genetics. Even some scientists are uncomfortable expressing opinions deriving from their research where it relates to race. Yet, if understood correctly, science and history can be powerful allies against racism, granting the clearest view of how people actually are, rather than how we judge them to be. HOW TO ARGUE WITH A RACIST is a vital manifesto for a twenty-first century understanding of human evolution and variation, and a timely weapon against the misuse of science to justify bigotry.

BBCラジオ4の番組で聞いた 本の週刊誌 --- サンデー・タイムズのベストセラー 「非常に重要」 ビル・ブライソン 「命を救う本」 スペクテイター 「魅惑的で、啓発的な本」 メール・オン・サンデー 「究極の反人種差別ガイド」 キャロライン・クリアド・ペレス 「人種に関する疑似科学の魅力的な論破」 ガーディアン 人種は、私たちがそれを知覚しているからこそ存在する。人種差別は、私たちがそれを実行するからこそ現実のものとなる。しかし、人種差別的なイデオロギー を強化するために科学に訴える動きは増加しており、政治、移民、教育、スポーツ、知能に関する公の議論の一部となりつつある。人種に関するステレオタイプ や神話は、あからさまな人種差別主義者だけでなく、善意の人々によっても表現されている。彼らの経験や文化的背景は、現代の人間遺伝学の研究では裏付けら れていない見解へと導いている。一部の科学者でさえ、人種に関する研究から得られた意見を表明することにためらいを感じている。しかし、科学と歴史を正し く理解すれば、人種差別に対する強力な味方となり、人々をどう判断するかではなく、人々が実際にはどうであるかについて、最も明確な見解を示すことができ る。『HOW TO ARGUE WITH A RACIST』は、21世紀における人類の進化と多様性に対する理解にとって不可欠なマニフェストであり、偏見を正当化するために科学を悪用することに対 する時宜を得た武器である。
https://ci.nii.ac.jp/ncid/BC02856725
内容説明
遺伝学の「わかること」と「わからないこと」から人種差別主義者の論理をぶち破る。
目次
第1章 「色分け」に潜むリスク(「色」で分けられる人びと;「人種」という発明品;遺伝学の誕生;遺伝学は人種をどう見ているのか)
第2章 あなたの祖先は私の祖先(祖先はあいまいなもの;私たちは祖先を共有している;アフリカの途方もない複雑さ;イギリスにおける人種;不確かなルーツ;遺伝子に「国」は刻まれない;レイシストは遺伝学を悪用する)
第3章 黒人アスリートは強い?(身体能力は人種の問題なのか;奴隷制が生み出した偏見;「強い」遺伝子はあるのか;文化というファクター;複雑さを受け入れる;根深く無自覚な偏見)
第4章 知能は遺伝か(人種差別主義者、ジェームズ・ワトソン;IQは変わる;それでも知能は遺伝する?;ユダヤ人は賢いのか;文化を見誤ってはならない)
終章 結論とまとめ


リ ンク

文 献

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