老女ナタルクの最期
「老女ナタルクは息子のマラを呼んだ。彼女は息子に言う。
『私は疲れた。私は年をとった。本当に長い旅にたった一人で出かけようと思うから、お前は私に雪の家にをつくらないとならない』
そこでマラはマラはひとつの家を造った。
彼女は自分のために造られた家に這って入り、しなびた皮膚の手足を静かに伸ばした。
まもなくマラがやってきた。彼はナイフをもって雪の固まりを切り、そこで家の入り口を塞いだ。……家の中には死を待つ老女が横たわっている。
死を演じることはいかに難しいものか。ナタルクはもはや生きている者の数には数えられなかった。他のものにとっては、彼女はもう死んでしまっ た。……生きることは死ぬことよりも確かに退屈なことである。しかし、あらゆるものの中でもっとも退屈なことは、この生きていることから死にいたるゆっく りとした移行そのものであった」(Freuchen 1967: 178-181)。
(船津衛訳、1981:485-6、ただし文章は適宜変えています)。
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