生態学と観光
Ecology and Tourism
Barro Colorado Island: The Smithsonian’s research outpost in the Panama Canal - Smithsonian Insider
Farrell, Bryan and Dean Runyan, 1991, Ecology and Tourism, Annals of Tourism Research 18:26-40.
27-1. Ecology and Tourism(生態学と観光)
・エコツーリズムのトレンド:自然資源管理と計画、環境景観、レクリエーション的機会という正統的(=古典的:引用者)関与から、持続的開発の一翼を担うエコツーリズムへと移りつつある。・Ecological Tourism という専門領域はないけれど、そのような観念や理念を追求する傾向に対して、そのようなラベルをつけて考察する。
・生態学=エコロジーというのは、一般の人びとがいだくイメージでは、動植物の関係あるはそれらと環境の関係についての生物学的研究と理解する。
【文献】
Farrell, Bryan and Dean Runyan, 1991, Ecology and Tourism, Annals of Tourism Research 18:26-40.
・基本的テキスト: Pearce, Tourist Development(1989); Mathieson and Wall, Tourism: Economic, Physical and Social Impacts(1987).後者のテキストは、観光が環境に対して悪影響を与えてきたことを指摘する。・そこから観光開発における自然環境のマネージメントの発想がでてくる。eg. Gunn, Tourism Planning(1988)・観光と自然環境に関する論文がある(p.28参照)。とくに沿岸保護関連のものなど。
・国連環境計画の出版物には環境収容力への言及がある。United Nations Envirnmental Program, Industry and Environment(1986)
・文献の完備したエコツーリズム文献は、Boo, Elizabeth, 1990, Ecotourism: The Potentials and Pitfalls(2 volumes), Washington DC: World Wildlife Found.
【文献】
Farrell, Bryan and Dean Runyan, 1991, Ecology and Tourism, Annals of Tourism Research 18:26-40.
・個人による研究と、研究施設による研究があるが、後者に関する情報は入手しにくい。・研究施設には、政府・非政府(NGO)・私的組織のものがある。
・諸研究には、OECD(1980), Budowski(1976), Dasmann et al.(1973), Bosselman(1978)。
・1970年代前半にはアジアやヨーロッパの旅行代理業者の集まりで環境に配慮したシンポジウムや集会が企画された。
・1980年WTOがマニラ宣言のなかで、82年の国連環境計画の宣言のなかで、観光と環境の調和について提言がなされている。
【文献】
Farrell, Bryan and Dean Runyan, 1991, Ecology and Tourism, Annals of Tourism Research 18:26-40.
27-22 Special Topics and Particular Places
・アルプス地方における環境と観光の研究(p.29)・北米では、人類学者Rodriguez(1989)が、ニューメキシコ・タオスのスキー場 の開発が複雑な文化的および環境的問題を引き起こしたことを指摘した。観光と都市開発が、リオ・オンド川流域の水質を悪化させ、下流域の農業や、観光に関 与するすべての人たち(観光客、開発業者、現地の都市住民、観光組織、環境団体、政府組織、初期のスペイン入植者たちの末裔)に影響を与えた。
・カリフォルニアTahoe湖周辺の長期にわたる環境研究をおこなってきたGoldman(1989)では、環境問題は様々な機関の間で論争がおこなわれ、60年代には環境保護団体と開発派のあいだで紛争がおこった、ことを指摘。
・この種の問題は、沿岸地域、島嶼部、熱帯の珊瑚礁、熱帯雨林でひろくおこってきた。(文献はp.30を参照)
【文献】
Farrell, Bryan and Dean Runyan, 1991, Ecology and Tourism, Annals of Tourism Research 18:26-40.
27-3. Natural Resource manegement and Tourism
・観光開発に関しては、公的機関とその政策(国立公園局、環境維持と開発政策)は重要な局面に直面する。開発と環境維持が、基本的に相反するためである。・環境に与える破壊の度合いは、環境収容力、ダメージの量と頻度、ダメージの性質などによって決定されるので、環境の維持管理(manegement)もそこから立案されるべきことは明らか。
・相異なる維持管理を論じた二文献、Sax, Mountains without Handrails(1980); Chase, Playing God in Yellowstone(1986)。
・観光の維持管理文献(p.31)。米国森林局の維持管理の文献(p.32)。また維持管理よりも積極的に構築的アプローチ――自然環境の消費ではなく育成や拡張――もある。その例として、Wisconsin Department of Natural Resourses, Watchable Wildlife(1988)などがある。
・維持管理や管理技術の発展は、予算やそれらが容認されるような期待に依存する。その代表が費用-便益分析という方法で、いくつかの関連文献がある(p.32)。
【文献】
Farrell, Bryan and Dean Runyan, 1991, Ecology and Tourism, Annals of Tourism Research 18:26-40.
27-4. Tourism and Envirnmental Quality
・通常の観光以上に直接自然に関与する観光形態がある。例えば自然観光(nature tourism)、生物観光(biotourism)、あるいは冒険観光(adventure tourism)と呼ばれるものである。
・例えば、カナダではかっては殺戮していたラブラドルハープアザラシ(Labrador harp seals)の写真をとりにチャーター機が飛ばされ、マニトバのチャーチヒルでは海氷をまつホッキョクグマ見学などがある。
・似たような例は、ガラパゴス、アフリカの野生動物保護区、ネパールのトレッキングなどでよく知られている。
・ 南極圏への旅行は、人間の側の僅かな過失が環境への多大な影響を与えることで有名になった例である。アルゼンチンのバイア・パライソ(パライソ湾)でタン カーが座礁し、17万ガロンの原油がパルマー・ステーションの周りに流出する。この地域は南米のネイチャーツアーの航海客を年間三千五百ほどを受け入れて いる箇所である。南極地方のリビエラ地方へのアクセスポイントであった。チリでは犬ぞりやスキーなどを含めたキャンプ&ハイクを解説していた。この事件が きっかけになって、責任あるツアーオペレーターは、無責任な観光客にペナルティなどを科すような規則を作ったが、実際の南極観光は規制や限度なしに行われ ている。
・環境観光は脆弱な基盤のうえにたっている。【文献】
Farrell, Bryan and Dean Runyan, 1991, Ecology and Tourism, Annals of Tourism Research 18:26-40.
・熱帯研究機関(OTS: the Organization for Tropical Studies)がコスタリカでおこなっているプロジェクト。・熱帯研究(とくに生態学を中心とした)に関係する研究者、学生、研究に関連するワーカーを コスタリカ内の研究地域(国立公園に隣接したOTSが管理する保護地域)への受け入れを行っている。たんに研究の機会やフィールドにおける快適さを保証す るだけでなく、国内外の大学(海外ではほとんどが米国の有名大学)と提携して、エコツーリズムの単位なども用意している。
・科学観光の文献は、Laarrman and Perdue,1988,1989。またコスタリカのエコツーリズムに関しては、Hill, 1990がある。
・科学観光においては自然が一義的に引かれる要因になるが、調査のために最初に引かれるアプローチは、自然観光(Nature Tourism)とは微妙に異なる。自然観光では観光客は自然に密接に親しむことにあるからである。他方、科学観光では、自然環境は異なった目的――つまり研究――のために利用されるからである。・観光研究における環境と気候問題は、Wall(1991)を参照。
【文献】
Farrell, Bryan and Dean Runyan, 1991, Ecology and Tourism, Annals of Tourism Research 18:26-40.
・エコツーリズムは極めて最近にでてきた観光研究の領域である。観光客と自然保護論者の両方が見るような環境に焦点があてられ、観光形態を保持しながら環境の保護を図る形態とされる。
・絶滅の危機に瀕する種のいる熱帯林や湿原を共同戦略によって保護できるようになるとき、それはエコツーリズムと呼ばれる。義理の両親である自然観光(nature tourism)の一構成要素であり、自然と観光を同等のパートナーとみるようなもの(p.34)。Boo(1990)もこの立場にちかい。
・定義には異同があり、自然観光とエコツーリズムを分けるものがある。エコツーリズムをより 排他的に、観光を通して自然を保護ないしは補強することを目的ないしは焦点にしたものと、著者たちは位置づけている(ibid.)。(コメント;エコツー リズムの定義は、行動の理念を表明し、そこに具体的な戦略を盛り込ませるためには、有益な概念装置であると、みなしてよいだろう。)
・エコツーリズム研究には、ケニアのもの(Lusigi,1981; Myers,1974)、カラハリ(Hitchcock nad Bradenburs, 1990)がある。ブリティッシュコロンビアのポートアルベニー(Port Alberni)では保護論者と観光客が協力してダグラス樅の完全伐採を阻止しながら、ログハウスに有用な材を確保しようとしている。ジャマイカでは水田や泥炭採掘よりも湿原を保存して観光と連携することを決めたさまざまな団体がある(Bacon, 1987)。
・ユカタン半島での研究(Daltabuit and Pi-Sunyer, 1990)。ハイダ族での研究(May, 1990)。パナマ(Johnston,1990)。これらの研究は、観光が利益をもたらす場所では共同戦略がいつも施策だけに終わることはないことを示している。
・エコツーリズムを健全な生態系を維持するために活気に満ちた現代的戦略としてみる研究者がある。このような研究者は、WWFなどの路線にそって生物とその多様性を保護することに関心がある。Boo(1990)の研究は先駆的で非常に重要である。
【文献】
Farrell, Bryan and Dean Runyan, 1991, Ecology and Tourism, Annals of Tourism Research 18:26-40.
・持続的開発の議論はいまだムラがあり、その用語も素人を惑わせる専門用語に満ちている。これについての有益な文献はO'Riordan(1988)がある。
・環境と開発に関する世界委員会(the World Commission on Environment and Development; WCED)あるいはブルントランド報告のインパクトは大きく経済および社会――とくに先進国――に大きな影響力をもった。
・観光研究における持続的開発を取り扱ったものに、その影響をもっとも強く受けた国であるカナダのアルバータ州での調査報告、Wright, Tourism in Alberta(1988)がある。
・WTOなどでもその方針に沿った行動方針をたてている。
・ネパールとマラウイの事例研究では、持続可能性の問題が、権威筋が押しつけてくる「基本的ニーズ」のモデルと共同体が行おうとするアプローチ――つまりボトムアップモデルの対立の中で描かれる(Hough and Serpa, 1989)。
・コスタリカでは生態学者D・ジャンセンがグアナカステ国立公園プロジェクトにかかわり、生息域の再強化、現地のリクリエーション、教育的必要性のほかに、観光にも適切な位置を与えている。
・同様のことがハワイでもあった(Farrell,1982)
【文献】
Farrell, Bryan and Dean Runyan, 1991, Ecology and Tourism, Annals of Tourism Research 18:26-40.
27-6 Ecology and Tourism(Farrell, Bryan and Dean Runyan)
・環境と観光は学問領域ではなかなか具体的な問題とならなかったが、現実にはその間の関係が以前にも増して重要な課題になりつつある。現在では、生態学的な観光に触れないような観光研究の入門はあり得ない。
・さらに持続可能開発に触れない研究もない。熱帯や地域研究も重要だが、疑いもなく、それは理論化されていて維持管理=マネージメントの問題と統合される[必要がある]。
・観光は、自然環境のなかでそうあるべきだというよりも、なるようなかたちのままできたのが現状である。自然をそのまま享受してだけで、それを維持運営管理するという発想が、観光にはなかったが、現在では関連する会議などでは盛んに論じられるようになってきた。
・観光が観光客に対して真空の環境を提供することを任じてきた、また観光客も観光のシステム に対してそのように期待してきた。しかし、エコロジーの理念が観光にも重要な影響を及ぼすまでにいたって、観光が社会性をもつことを、つまり観光地の自然 環境や社会や文化との関わりが強調されるようになってきたのである。
・観光することが、何かの責任の一端を担うようなものにかわりつつある。そのような状況(イ デオロギーである――引用者)は持続可能開発の中から生まれてきた。それは観光研究アカデミーの89年の集会でもとりあげられた「観光のもうひとつの形 態」「責任ある観光(responsible tourism)」などの動きと明らかに連動している。
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文献
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