どのようにして問題発見能力を鍛えるか?
経営者のみならず、学生、院生、生徒にも、会得可能な問題発見の方法について(ロベルト 2010:7-8)
1)情報のフィルターをかける(→情報ありすぎでもこ まる「インフォデミック」)
2)人 類学者のように観察する
3)パターンを探し、分類しソートをする
4)バラバラの点を線でつなぐ(KJ法ではなくなるべ くロジックツリーで)
5)価値ある失敗を奨励する
6)話し方と聴き方を訓練する
7)行動を振り返り、反省のプロフェッショナルになる(→
「反省的実践家」)
ノーベル経済学賞受賞者のアマルティア・センによると(社会の)開発・発 展・成長とは、富や所得を増大させることではなく、(その社会にいる)人々が享受できる自由を増大させることが重要だと考えた。人が自分自 身で自由であることを保証するのは、人間が自由を獲得できる能力をみずから持ち・選択し・かつ行使することができなくてはならない。そのような、人々が価 値を見出し、選択できる機能の集合をケイパビリティ(capability)の概念で捉えた。端的に言うと、ケイパビリティとは、その人が何をできるのか という可能性を示していることでもある。マーサ・ヌスバウムは、後に、センと協力して、生活の質/生 命の質(Quality ofLife)という従来は保健や人間の安全保障に関する用語であったものを、さらに鍛えあげ、ケイパビリティを「あら ゆる諸国の憲法で保障されるべき人間の資質であり、また、可能なるもの(可能態)」として位置づけ、経済的な成功が人間の人生の充実と善の達成と結びつく ための基盤構造について構想した(→「人間にとっての真のケイパビリティとは?」)。
ここで私がいう「問題発見能力」は、人間がもつ、そして保障してあげなければない、権利と権原そのものである。
■ 問題発見能力を鍛える骨太の教育は、オープンでなければならない
このような基本的認識がなく闇雲に「イノベーション教育が必 要だ」と 声高に叫ぶ連中は、端的に間抜け(moron)か、それともウルトラ級の愚者 (ultra-idiot)である。
オープン・イノヴェーションの最初の提唱者は、ヘン
リー・チェスブローによるものであり、「オープンイノベーション」とは、これまで会社(ファー
ム)が囲い込んでいたイノベーションの現場を、会社(ファーム)の外にまで広げて、イノベーションのスピードを促進させようとすること。要は、イノベー
ションにまつわる開発の現場を、密室(クローズド)的な環境から、オープンな環境に置くことで、よりスピードアップさせようとする方法である。これで一番
喜ぶのは、(従来型の)会社のほうではなく、市場と消費者である。(従来型の)会社は、これに対して抵抗する傾向がある。しかし、米国のP&G社
(→ Connect + Development
)や日本のユニクロなどは、この方式を採用して、次々とヒット商品を出して、市場も消費者も喜びだしたので、(従来型の)会社は、オープンイノベーション
のトレンドを無視することができなくなった。ウィキノミクスを提唱するドン・タプスコットなども、このトレンドに大きな関心をもっている。
■高度汎用力(higher capability)の定義
そのようなセンとヌスバウムの提唱にヒントを得て、高度汎用力(higher capability)を定義する。つまり「大学・大学院という教育環境のもとで、 この制度が理想とする各人が教育や研究をとおしてより自由な存在になる ための、価値を見出し、選択できる機能の集合を高度汎用力(higher capability)と呼ぶ」ことができる。
このようなリベラルアーツ的な定義以外にも、合理主義的なプラグマティズムの塊のようなハーバードビジネススクールのクレイトン・クステンセン 教授ですら、その共著『教育×破壊的イノベーション』(2008:1)のなかで、今日の学校教育機関に対して現代人がもつつぎのような4つの期待を掲げて いる。その4つの最初の期待こそが、人間のもつ潜在能力(ケイパビリティ)への期待である。
「1.人間の持つ潜在能力を最大限に高めること。2.
自己の利益のみに関心のある指導者によって『操られる』ことのない、見聞の広い有識者による、活気に満ちた参加型の民主主義を促すこと。3.わが国[米国
—引用者]の経済の繁栄と競争力を維持する上で役立つ技能や能力を、意識を高めること。4.人はそれぞれ違う考え方をもっており、その違いは迫害されるの
ではなく、尊重されるべきものだという理解を育むこと」(クリステンセンら 2008:1)。
私がこのような概念を提唱するのは、既存の「高度汎用力」の定義と提唱には「人間の能力とはなにか?」というビジョンに対して認識論的限界があ と感じたためである。ちなみにそのような実例について解説しておこう。
■超域イノベーション(ver
1.0)という幻影(超域イノ
ベーションプログラムを「正しく批判」する)
「高度汎用力」(大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムが定義するもの)では、高度汎用力(transferable skills)は、《課題発見力》+《課題解決力》 +《社会実践力》からなるものとして定義されている(それぞれの《中味》についてはリンク先を参照)。しかしそれでは、3つの用語の定義をしたにすぎず、 高度汎用力を大きくひとくくりに定義するという 思考判断力を全くもたないものになっている。つまり、高度汎用力は、その3つの概念を社会的に実装するときに、論理的かつ時系列的に進む、《課題を発見》 し、《課題の解決》を模索し、そして、 それを《社会に実践》するということである。これを「高度汎用力のリニア適用モデル」としておこう。その概念図式は下記のとおりである。
別のところ、つまり「古典的なリベラルアーツ教育と、現代大学教育におけるリ ベラルアーツの共通点と相違点」で述べたように、人間を「自由」にしない教 育は、真の教養教育ではないのである。
そして、これらの三段階方式は、デザイン思考(シンキング)の 亜流と言えば、亜流である。
もっとまともな、高 度汎用力(transferable skills)by SkillsYouNeed, Co. Ltdの 定義がある。もっともこれ(下記に同サイトからの項目を列挙)は、私の前の職場であった旧「大阪大学【旧】コミュニケーションデザイン・センター (CSCD Ver. 1.0)」での教育研究目標のリストとそれほど変わらない。
■わが職場での高度汎用力と命名の経緯(→「人間社会の「空気」を入れ替えて、再び人間に「息」をもたらす斬新な方法について」)
「大阪大学COデザインセンターは「社会課題の解決のために、専門知を社会で発展させながら、イノベーション×デザイン×実現するカ=『高度汎用力』を育成する機関」とし て、設立されました」/「本センターの名称にある「CO」には、Crossing Borders (既存の専門等の境域を超える)、Communication(対話)、Co-creation (共創)、Collaboration(連携)、Concerto(協奏)など、センターの機能と役割を示す多くの意味が込められています」/「口ゴは、 本センターを象徴する「CO」と無限の展開可能性を示す「*(アスタリスク)」を構成要素とし、創られました。「O」は広域な学術の場を表しています」/ 「「*」はその周りをまわる「星」であり、「C」はその星の環です。そしてロゴが描かれる背景は「社会」そのものです」/「口ゴは利用場面に応じて「回 転」し、配置されます。これはスタッフの専門分野が多様である証(あかし)。本センターは「スタッフがどの角度から見て関わるかによって、その姿を変えて いく」柔軟性の高い組織なのです。これは、すべてをうつす鏡としてのシルバーをキーカラーにして、今後口ゴがマルチカラーで展開していくことにもつながっ ていきます。「星=*」や「星の環= C」 が、「知= O」と「社会=背景」のはざまを創造的に繋ぎながら、力強い運動を繰り広げる場——それがCOデザインセンターです」出典:http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/co/about/logo.html
■ 超域イノベーション(ver 1.0)・カリキュラムは6の 超域力=高度汎用力のカリキュラムに即した定義
かつて存在した、超域イノベーション・カリキュラムは6の超域力=高度汎用力を定義している。それはカリキュラムの設置理念にそったものだが、 超域イノベーションという、そこそこ成功した(5割程度の社会的評価があるらしいので、偶然の出来(3割)に比べればよいほうである)このプログラムの自 己評価軸とそのガイドラインをみてとることができる。それは6つの力の中身を定義するものであるが、あまりにも細かく重複があり、いささかバロック化はい なめない(出典:http://www.cbi.osaka-u.ac.jp/)。
●それでもなお、超域イノベーション(ver 2.0)を擁護すると……
それでもなお、超域イノベーションを擁護すると次のようになる
1)人材の育成
2)オールラウンド型の教育経験のノウハウの蓄積
3)地域や社会との連携
4)文理融合型のコアプログラム
5)統合学術基礎論(名称はうんざりするが)イニシアチブ
6)知と社会の統合をめざす
7)無形資産としての教育経験と、それを狭い財産として囲い込み資源化するのではなく、オーブンイノベーション(またはオープン・イノベーション)の教育モデルにでき る。
8)超域イノベーション(国際共創大学院学位プログラム推進機構)、COデザインセンター、SSIとの協働が可能
9)知の深堀の卓越型大学院との協働
10)既存の組織のスクラップ&ビルドでサステイナブルな改良が可能!!!!
***
以上をまとめると、それらのような微に入り細を穿つ項目で示された、実践的なスキルを身に付ける/付けさせるというのも、画餅であろう。つい た 帰結こそが、高度汎用力だからである。
そんな瑣末なことに、我々はかまっている暇はない、先に述べたように、高 度汎用力とは「大学・大学院という教育環境のもとで、 この制度が理想とする各人が教育や研究をとおしてより自由な存在になる ための、価値を見出し、選択できる機能の集合」のことである。集合なのであるから、それらの個々の要素は、各人が持ち寄り、あるいはその「現場」 で造り出し、コラボレーションがなければ、それらの機能の集合を、その参加者(プレイヤーやプロシューマー)たちが具有することができないだろう。
高度汎用力の陶冶には、他者の存在、そして他者とのコラボレーションが不可欠なのである。これを無視した、スキル学習としての高度汎用力教育が
できるなどとは、夢思ってはならないだろう。その意味では、他者とのコラボレーションとは、私が長年主張してきた「対話論理」と在り方ととてもよくにていると、このページの読者なら思うはずだろう。
■コミュニケーション・デザイン力こそが、真 の「高度汎用力」である
「大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(CSCD:Center for the Study of Communication-Design)は、平成17(2005)年4月に発足し平成28(2016)年6月まで存続した組織。当時、コミュニケー ションデザインを銘打った日本初の組織で、これまでの日本の大学にはなかった新しいタイプの教育研究機関でした。全学部の学部高学年から全研究科のすべて の修士ならびに博士課程の院生を対象にし全学共通教育を行うこと、社学連携・市民サポートを先頭に立って実践し、プロデュースすることが二つの大きなミッ ションになっていた。学部や研究科ではないので、学生・院生は所属しておらず、各学部・各研究科に所属した上で、コミュニケーションデザインの多様な科目 を履修できるサービスを提供していた。平成28(2016)年7月から、超域イノベーション大学院と統合され、現在は大阪大学COデザインセンターとなっ ている」
コミュニケーションデザインとは、情報のやり取りや対人コミュニケーションのような情動を含んだ広義の交通と、計画性にもとづく合理的な設計と
いう2つの意味の複合語で、(1)情報通信の効率性をあげるための設計理念や実践という意味と、(2)人間のあいだの適切な対人コミュニケーションの具体
的な設計および実践などのことをさす(→「コミュニケーションデザインの定義」)。
■デザイン思考/デザイン・シンキング(design thinking)という援軍の存在
デザイン思考/デザイン・シンキング(design thinking)は、創造的な問題解決のための方法である。 IDEOのCEOのティム・ブラウンは、デ ザイン・シンキングを「デザイナーの道具箱から、1)人民のニーズ、2)テクノロジーを動員できること(可能 性)、そして、3)ビジネス上の成功という要求を満たす、ように統合するように描かれた、イノベーションへのひとつの人間中心的アプローチである」と述べ ている。
“Design thinking is a human-centered approach to innovation that
draws from the designer's toolkit to integrate the needs of people, the
possibilities of technology, and the requirements for business success.”
— Tim Brown, CEO of IDEO Source: https://www.ideou.com/pages/design-thinking
手前味噌だが、創造的な問題解決のためには、1)解決され
るべき問題(=人民のニーズ)の発見 すなわち問題発見能力、2)課
題
解決に必要な知識と情報の収集力と理解 力と統合力(=テクノロジーを動員できること)すなわち課題解決力、
そして3)実際に社会にその問題解決の技法を社会に実装すること(=ビジネス上の成功)すなわち解法実装力、の3つの能力の陶冶が必要となる。
旧版ク レジット:「高度汎用力とは?」→「問題発見能力が大切です」
こ
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費より支援を受けて作成されました。
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