エスノメディシンを理解するための10の命題
Ten thesis for understanding Ethnomedicine
解説:池田光穂︎
◎エスノメディシンを理解するための10
のテーゼ
【1】用語法の問題:民族、民俗、などが頭につく「医療」が
つくのは、西洋医療や近代医療だけが「医療」ではないからである。医療とは人を治し癒す方法であるが、それを支える観念(イデオロギー)も医療の概念に含
まれよう。 |
【2】原因論:フォスターとアンダーソンは、エスノメディシ ンを、パーソナリスティクな医療体系とナチュラリスティクな医療体系の2つに分けている。前者は、病気の原因になんらかの人為的なもの人格的なもの(その なかには神霊も含まれる)が病気を起こしたり、治療に役立てたりする(例:神への祈願)ものである。後者は、身体の病気を唯物的に考える見方である。後者 は、西洋医学がそれを代表するが、中国医学や漢方(=日本式中国流医学)の陰陽五行の考え方など、非西洋医療にもナチュラリスティクな医療は多くみかけら れる。 |
【3】体液病理学 ( Humoral
Pathology
)は、古代ギリシャの体液理論から来ている。ラテンアメリカをフィールドにした、ジョージ・フォスターは、新大陸においてひろくみられる民俗体液理論は、
古代ギリシャの体液理論が、ラテン世界での共通した理解になり、スペイン・ポルトガルの植民者たちが、新大陸に持ち込んだという「歴史的伝播説」を信じて
いたので、この章の解説にも生かされている。 |
【4】アーユルベーダー医学は、インド大陸において、西洋医
学が伝わる前には、重要な医学的知識と伝統をもたらした。重要な大文明の医学体系のひとつである。 |
【5】中国医学は、非常に歴史が深く、アジア全域に影響をも たらした、重要な大文明の医学体系のひとつである。 |
【6】病気の原因理解には、なんらかの情動的側面への理解に
は非常に重要である。心の状態が身体に対してさまざまな影響を与えることはよく知られており、また、身体の快不快は、その人をして、心的状態に多大なる影
響を与える。このような医学的研究を心身相関医学とよび、医療人類学者は、この議論に精通する必要がある。 |
【7】なぜ私(たち)が病気になったのか?——という審問
は、医療人類学者のみならず医学者にとっても重要な課題である。そのことをとして、病者への内在的理解と、治療行動、あるいは「何をもって癒されたと考え
るか?」などの研究課題をわれわれにもたらすからである。 |
【8】治療者というカテゴリーを集合的に考えると同時に、そ
れぞれの治療者の間の違いを明らかにし、分類することは、人間の病気理解において重要な課題になる。 |
【9】病気と治療の文化主義的理解には、アーサー・クラインマンによる「説明
モデル」という考え方が重要な分析ツールになる。 |
【10】南北アメリカ大陸のエスノメディシンを考えるために
は「多元的医療体系」と「多元的医療行動論」を理解することが肝要である。 |
◎フォスター&アンダーソン「第4章エスノメディシン」『医療人類学』1978年
□クレジット:理解民族医学的十个主张 (Dix propositions pour comprendre l'ethnomédecine.)
リンク
文献
その他の情報
ch04-FosterAnderson_MA_All1978-4.pdf
このページは、かつてリブロポートから出版されました、フォスターとアンダーソン『医療人類学』の改訳と校訂として、ウェブ上においてその中途作業を公開
するものです。
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