はじめに よんでください

論文・レポートの構成

Structure of thesis and report

The Roaster, 1938 by Picasso

解説:池田光穂

■ レポートの構造(ここは復習の部分

レポートは次のような最小限の構成からなる。

表題:著者名:本文:補足文

しかし、より具体的には、それを修飾するさまざまな必要要 素が加わり次のような構成が一般的である。

表題:{表題}:著者名{著者に関する情報}:概要{要約・ キーワー ド}:本文{序論・本論・結論}:補足文{注・文献・謝辞・資料}

この部分の説明がわからない人は、こちらにもどって復習してください。

また池田光穂の授業の受講者は[提 出書類のルール]を熟知しているという前提で話しています。

■ 調査報告論文の構成(ここから本編)

アメリカ医師会(the American Medical Association)が発行するアメリカ医師会誌の電子版に以下のような記述を見つけた。調査報告——実証的論証を基礎にする報告——のスタイルとし て、規格化され、かつ論理的にわかりやすく構成されているのでここで紹介しよう。(それ以外のものとして本頁末に記載があります)

1. コンテクスト:「調査にいたる 背景」

2. 目的

3. デザイン:「調査計画」

4. 対象者(参与者)

5. 得られた結果:(測定された情 報)

6. 結果

7. 結論

より積極的には、私の授業における実証主義的な方法論にも とづく調査レポートの採用してほしい[=強く推奨するレベル]書式とします。

最初に原語(=英語)、次に番号を振って翻訳語とします。

________________________________________________

  • Context.
  • Objectives.
  • Design.
  • Participants.
  • Main Outcome Measures.
  • Results.
  • Conclusions.
  • ________________________________________________

  • 1. コンテクスト:「調査にいたる背景」
  • 2. 目的
  • 3. デザイン:「調査計画」
  • 4. 対象者:(原語では参与者)
  • 5. 得られた結果:(あるいは)測定された定量値
  • 6. 結果
  • 7. 結論
  • 8. 利益相反に関する記載
  • ________________________________________________

    1. コンテクスト:「調査にいたる背景」

    ここでは、研究にいたる動機(個人的動機ではなく、学 問的動機=研究しなくちゃならない理由)、これまでの先行研究のレビュー、(調査者本人による)先行研究の結果など、背景に関する予備知識の無い人にもわ かるようにかく。

    ここでの知的水準は、あまりに幼稚でも、高度すぎてもならない。大学のレポートでは、同 じクラスの学生か読んでもらう先生の知的水準を想定するのが妥当なところだ。また学会誌では、通常研究者のレベルであるが、(総説的意味も兼ねて)より広 い読者に読んで貰うのなら、ちょっとくどいぐらい丁寧なものがよいし、最先端のことを議論したいのであれば、多少ペダンチック(知識を十分にもっているよ うに振る舞う)に書いてもよい。

    2. 目的

    ここでは、前項の研究にいたる動機や先行研究のレ ビューを踏まえて、何をやらなきゃならないかが明らかに主張される。つまり、明らかにしなければならないこと(=目的)が書かれる。論文末尾では、結果的 に明らかになっている必要性があるから、できない目的や論証もできないような仮説を提示するのは控えるべきである。仮説提示にもとづく具体的な手続きと、 それに効率よくむすびつく調査デザイン(次項)が射程に入っていないと、読む人に無用な混乱をまねく。

    論文の定義を再確認しよう:「論文とは議論する問いを立てて、それを論証することである」。 そのためには、論文には、まず「問い」つまり「自分ならびに読者に対する問いかけ」がないと、論文を書くものも読むものも、その理解が困難になる。君のメ ンター(=指導教員)が、「君の文章はエッセーで、論文じゃない」と指摘するときに、君の文章のなかに「問い」や「問いかけ」がないので、エッセーだと 怒っているわけである。でも、君の心の中では、きちんと「問い」や「問いかけ」があるので、メンターの発言に対して「認知的不協和」を起こしている可能性がある。そのためには、どうすればいいのか。単純である。君の「問い」や「問いかけ」をより明確に書けばいい、ということになる。

    3. デザイン:「調査計画」

    ここでは、前項の目的をうけて、具体的明らかにするた めの手続きつまり方法が説明される。実証主義では具体的手続きが最大の関心事になるから、個々の説明においてはくどいくらいの説明があってもかまわない。 また、類似の作業をおこなって、別のコンテクストによる証明をおこない人が使える手続き(=追試ができる)について説明される必要がある。

    調査デザインは、線形で平板なものであってはならな い。論理的には先行研究について知ることを目的とする文献調査の後に、実証的な現地報告が続くのであるが、実際には、調査をおこなった後にも文献調査は続 くし、最終報告後においても、自分の調査報告を含めた文献調査が続くわけであるから、文献調査→実態調査という「常識」(=嘘)を書いてはならない。調査 は、立体的多角的におこなわれ、知識収集における文献と実証的調査は、<検証>という至上命題を追求しているという形式を踏みながら説明されるものであ り、また実際もそうである。

    デザインは、研究者の能力とくにスマートさが発揮され る部分であるので、とくに慎重に書かれる必要がある。デザインは、場合によっては職人芸的秘技に裏付けられることもあるが、公的にはそのことに触れる必要 はない。その理由は、秘技は研究者の独自性の売りであるから安易に同業者に手渡される必要もないし、職業的勘のように非合理的な面もあり、披瀝しすぎると 過小評価される危険性があるからだ。

    ポイントは、調査の(別の研究者による)再現性を保証 する範囲での合理的説明をおこなうことである。

    4. 対象者:(原語では参与者)

    ここでは、研究対象をさすが、医療や社会科学において は対象は人間であるので、たんなる対象=オブジェ=モノではなく、生身の人間である。ここから研究対象と調査者の倫理問題が派生する。社会調査における倫 理問題については<ここでリンク>する情報を参照してください。

    ここでの説明のポイントは、それらの当該調査対象者が 選ばれたことの必然性(個人か集団か、恣意的に選択したものか、無作為抽出か、調査を通しての相互作用があったか、たんなる観察かなど)が十分に説明され る必要がある。

    社会調査についてのサンプリングについての基本的知識 (→自己チェック問題)は不可欠である。

    5. 得られた結果:(あるいは)測定された定量値

    ここでは、調査から得られたデータ(資料)が開示され る。薬を使った実験などの場合は、どのように<効力=アウトカム>が現れたかということが提示される部分である。

    データには、大きくわけて定量的なもの(数値で計れる もの)と定性的なもの(数値より記述や描写が優先するもの)がわかれるが、数量だけなら表が、定性データだけなら、だらだらとした記述だけでよいことにな るが、現実は、この2つのアマルガム(混合体)である必要がある。

    よく事実をして現象を語らしめるという評語があるが、 解釈なくして事実なし、事実なくして解釈なしと理解するほうが、社会現象を理解する際には実用的であることを肝に銘じてください。

    ただし、データの部分は、それを引用する人たちによっ て恣意的に解釈されることがあるので、説明のなかに「このデータが導く不適切な/ありえない解釈」の実例をあげ、それに対して釘を刺しておくことは、賢明 である。

    6. 結果

    この部分は具体的な調査戦略であるデザインに対応し て、その調査デザインを立案実行した結果、煎じ詰めれば何がえられたのか、について書かれる部分である。

    ここではおおむね、前項の説明と重複するが、データの 部分をくどくど説明するのではなく、その事実をして語らしめる部分の、語らしめられた部分が開陳される必要がある。

    7. 結論

    ここでは、目的の部分に対応する事柄が主張される。つ まり、目的が完遂されたかどうかがチェックしてある。つまり、形式的には目的が完了するように書かれている必要がある。

    論理的説明は以上だが、実態的には、結論に調整するよ うな形で、目的が書き変わることもありえる。ちょうど調査の前と後で、調査者の意識が変わっているように。この論文の形式においては、その問題を取り扱わ うことが論理的に不可能であるので、目的を修正するという論理的事柄を優先する事態がおこるのである。

    ただし、結論の部分には、そのような実証主義における 形式論理性の規則を逸脱して、内省的なことや反省などが吐露されることが経験的に観察されるので、多少なりとも、それらのことに触れておくことも許される だろう。

    忙しい研究者(ないしはレポートの査読者)は、君の論 文をチェックする時には、目的・デザイン・結論の3つの要素に集中して、他は読み飛ばす傾向があるので、(冒頭に振り返って)論文を査読者にきちんと読ん でもらうためには、この部分(=7.結論)は、君にとって、そして査読者にとっても超重要な部分であることを特に銘記しておくこと。

    8. 利益相反(COI)の記載法

    利益相反がない場合→「なお,本論文に関して,開示すべき 利益相反関連事項はない」。"The authors declare no conflicts of interest associated with this manuscript. The authors have no conflicts of interest directly relevant to the content of this article. "

    示すべき利益相反情報がある場合 →「第 1 著者は,「企業名」より,報酬を受理している 」などの記述。

    ++

    ■ おさらい

    1. 調査論文の構成要素は7つである。

    2. 調査論文の構成要素の7つは論理的に繋がっ ている。

    3. 調査論文を正当化するイデオロギーは実証主 義である。

    4. 調査論文の構成要素のうち、デザイン (3.)とアウトカム(5.)および結果(6.)が対応し、目的(2.)と結論(6.)が論理的には対応しているので、論文作成後はチェックが必要であ る。

    5. 調査報告論文の中で、最重要の部分とは、目 的・デザイン・結論であり、この部分は簡潔ではあるが、もっとも気合いを入れて細心の注意をもって書かれなければならない。なぜなら君の論文の査読者が もっとも力点をおいてチェックする部分だからである。

    6. 調査データばかりの「糞[失礼!]実証主義」の報告(本当はデータ提示だけというのは、実証主義精神から の最大の逸脱なのだが説明すると長くなるのでここでは控える)は、「枝豆のないビール」のようなものである。理論と資料 のバランス、および結論部分には示唆に富む内省的反省があるものが、秀逸な論文を形成する。

    ■ 著者からのメッセージ

  • 学術論文執筆要項
  • リサーチプロポー ザルへの5つのステップ
  • 論文・レポート作成のヒント集
  • ——がんばるのだぞ!——(箴言集

    その他の情報として

    ◎論文の構成(https://www.gfd- dennou.org/arch/hiroki/homepage-old/main015.html)として以下のようなものがある。とても有 益である。

  • Title (題目)
  • Introduction (はじめに)
  • [Literature synthesis (立論方法)]
  • Data and Methods (データと解析手法)
  • Results (結果)
  • Discussion (議論)
  • Conclusion(s)/summary (結論/まとめ)
  • Acknowledgements (謝辞)
  • Appendices (付録)
  • References (参考文献)
  • +++付加的ないしは最初に執筆するような情報として以 下のものがある+++
  • Conference abstract and extended abstract (学会の予稿)
  • +++

    Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099

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