古典的民族誌の基礎読解
Reading Classical texts of Anthropological Ethnography
[授業形態] 演習
[授業目標]
1.文化表象学分野における民族誌とは、どういうものであるかということが理解できる。
2.文化人類学における民族誌制作の歴史とその理論的変遷の概観について 把握できる。
3.代表的な民族誌および民族誌を基礎にした文献を読解し、基本的な学説上の知見を用いて適切な論評をすることができる。
[授業の内容]
人々の生活の実態を描いた記述体系といわれる民族誌(エスノグラフィー、民俗誌とも言う)とは、いったいどのようなものでしょう。私たち は、民族誌に描かれた「記述」を読めば、その人たちの生活についてはたして「本当に」わかることができるのでしょうか。
このような疑問は、民族誌について説明をうけたすべての学徒が抱く疑問です。この疑問に答えるためには、具体的な民族誌や民族誌を題材に した議論——民族誌論文と言います——を実際に読んでみて、それについての感想を相互に述べあい、これまでの学説上の位置づけを参照しながら、読解の方式 についてみんなで議論することが必要となります。したがって、幅広く多岐のテーマについて書かれた民族誌を読んで授業をおこないたいと思います。受講学生 は、毎回課せられる民族誌資料を読解し、その批評文を提出しなければなりません。またその批評文にもとづいて授業において口頭で討論しなければなりませ ん。
[寓話]2022年の出来事(追記)
発
表者Aは、エヴァンズ=プリチャード(EP)の『ヌアー族』の冒頭のヌアーの青年チュオルとEPの
リニージ名称の聴取のやり取りが失敗したことを指摘し、具体的な発語の内容をしらなくても、ヌアーは〈調査がやりにくい民族〉をEPが伝えようとしている
と解釈した。それに対してコメンテーターBは、チュオルは調査など一切興味がなく「タバコをくれ」という発語のとおりであり、〈調査がやりにくい民族〉と
いうのは単にEPのステレオタイプにすぎないと反論した。それを受けて発表者Aは、そのような通常の理解に加えて、EPの観点を読者と共有することで、
EPとチュオルの不機嫌な情動に関する記述や相互作用のすれ違いとして読み、法廷での尋問と比較することで、話者の心になかにどのような感覚経験が去来す
るのかという別の視点を導入することで、過去の民族誌記述が現代の民族誌解釈に異なった社会的意味を与え、かつヴィヴィッドに蘇ることを示唆した。
[キーワード]
民族誌、批判的読解、解釈、文化、社会
妖術を信じなくても妖術を理解することは可能である︎▶呪術で人は殺せるのか?︎▶︎︎5分でわかる民族誌研究の現状▶︎民族誌は果たして本質主義の根源的表象なのか?▶民族誌の批判的読解:ミレニアム版︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎
[テキスト]
民族誌のアンソロジーテキスト(印刷物)を配布します。
[スケジュール](概要)
[参考文献]
[評価方法]
毎回の課題レポート、定期レポート、試験による総合評価でおこないます。
[履修上の指導]
大学における授業とは出席するものなので点呼による出席確認はとりません。
【クレジット】古典的民族誌を読む:文化人類学演習用・仮想シラバス
【1】C・レヴィ=ストロース「具体の科学」『野生の思考』(大橋保夫 訳)、pp.1-41、東京:みすず書房、1976 [1962]
【2】M・ミード「人類学者はどのような方法で書くか」『男性と女性』(田中寿美子・加藤秀俊 訳)、Pp.35-69. 東京:東京創元社、1961年(Mead.M.1950, How an Anthropologist writes, in "Male and Female", pp.43-64, New York: Penguin Books.)
【3】A・ラドクリフ=ブラウン「南アフリカにおける母の兄弟」(青柳まち子訳)『未開社会における構造 と機能』、pp.22-24、新泉社、1975[1952], Radcliffe-Brown, A.R., The mother's brother in South Africa, in "Structure and Function in Primitive Society", pp.15-31, 1952
【4】E・エバンズ=プリチャード「呪術の形態と機能」(中島成久訳)『文化人類学入門リーディングス 』、pp.120-147、アカデミア出版会、1982[1929]:Evans-Pritchard, E.E., 1929, The morphology and function of magic, American Anthropologist 31:619-641.
【5】R・フォックス「親族、家族、出自」『親族と婚姻』(川中健二 訳)、Pp.31-68、東京:思索社、1977年(Fox, Robin., 1967. Kinship and marriage : an anthropological perspective. London:Penguin (Pelican anthropology library).)
【6】C・レヴィ=ストロース「原住民社会とその様式」(川田順造訳)『悲しき熱帯(上)』、pp.279-30 6、中央公論社、1977[1955][授業でのテキストは、中公バックス版で、当該ページは、Pp.461-480]
【7】V・ターナー「生と死の儀礼における分類の次元」(冨倉光雄訳)『儀礼の過程』、pp.1-61、思索 社、1976[1969]
【8】C・ギアーツ「厚い記述」(吉田禎吾訳)『文化表象学の解釈学1』、pp.3-56、岩波書店、1987 [1973](Geertz, C., Thick Description, in "Interpretation of Culture", pp.3-30, 1973)
【9】C・レヴィ=ストロース「呪術師とその呪術」(荒川幾男ほか訳)『構造人類学』、pp.183-204、み すず書房、1972[1958](Levi-Strauss, C., The sorcerer and his magic, in "Strucutral Anthropology", pp.167-185, trans. 1963)
【10】C・ギアーツ「ディープ・プレイ」(吉田禎吾訳)『文化の 解釈学2』、pp.389-461、岩波書店、1987 [1973](Geertz, C., Deep Play: Notes on the Balinese Cockfight, in "Interpretation of Culture", pp.412-453, 1973)
この文献リストのリソースは【こちら】で、 引用にあたって修正を加えました(2003.04.08)