医療人類学
(平成20=2008年度高知大学)
2008年度 高知大学 授業題目:Course Title 医療人類学
申請コード:Course Code 単位数:Course Credits (Units) 06602 2単位 授業種別:Course Classification 履修開始年次:Start Annual
講義 1年次 履修期間:Semester 時間割:Day/Period 2学期 集中授業 区分等 Students are classified differently according to year of university admission. 平成20年度以降入学生 共通教育)教養科目人文分野:平成19年度以前入学生 適用なし 履修における注意点 Special mention of any other prerequisites than those required by K.U. for the course.
岡豊キャンパス開講 資格等:CERTIFICATION (if it applies) 資格等 副題 Medical Anthropology in Evolutionary and Cultural Perspectives
担当教員 池田 光穂 講師(非常勤講師) 所属 大阪大学コミュニケーションデザイン・センター、文化人類学
電話 非公開(教務を通して照会してください)
E-Mail tiocaima7n[at]yahoo.co.jp [at]の部分を@に変更してください
履修希望学生に求めるもの
授業に集中でき(そのため授業中の私語とパソコンへのアクセスは禁止)他の受講生と協調精神をもって課題に積極的に取り組める受講生を歓迎 します。
オフィスアワー 非常勤講師のため特に設けず 、講義期間中にはリクエストに応じて対応します。
学生相談場所 非常勤講師のため特に設けず 、講義期間中にはリクエストに応じて対応します。
キーワード 文化、人類学、医療、公衆衛生、医学史、民族誌、フィールドワーク、参与観察
授業テーマと目的
この授業は、医療人類学の面白さを受講生に理解してもらい、この学問を修めることがいかに有意義であるかをご紹介します。またこの学問の 学習と実践を通して、皆さんにもっとも身近な問題である医療の実践的課題に答えようとします。
医療人類学について聞きかじったことのある学生、この学問の名を全く知らなかったけれども、がんばって勉強に取り組みたいと思う学生、そ して楽してサバイバルの技を身に付けたい、ちょっとものぐさな学生にも是非受講されることをお奨めします。
授業はレクチャー(講義)と質疑応答、および討論からなります。ものおじせずに発言し、他者と協調精神をもって課題に積極的に取り組める 受講生を歓迎します。
授業計画
全授業コマの構成は以下のようになっています。文中のレッスン(Lesson)の数字は指定された教科書の章に対応しています。
回 主題
1. イントロダクション・はじまりのワーク
2. リプロダクション:「産むこと」は単純ではないのか?(Lesson 7):教科書の章に相当[以下同様]
3. 心と社会:狂気をどのように捉えればよいのか?(Lesson 10)
4. 医療人類学の可能性:健康の未来とは何か?(Lesson 1)
5. 病気と文化:人間の医療とはなにか?(Lesson 2)
6. 女性の身体:身体は所与のものか?(Lesson 8)
7. 呪術:理不尽な闇あるいはリアリティか?(Lesson 3)
8. 憑依:病める身体は誰のものか?(Lesson 4)
9. シャーマニズム:シャーマンは風変わりな医者か?(Lesson 5)
10. グローバル化する近代医療:医療は帝国的権力か?(Lesson 6)
11. エイジングと文化:老いはどのように捉えられているか?(Lesson 9)
12. 今日における健康問題:なぜある人びとは病気にかからないのか?(Lesson 11)
13. 受講評価A:全体プレゼンテーション(グループ単位の評価試験)。
14. 受講評価B:個人達成評価(個人単位の評価試験)。
15. まとめの授業
<授業内容>
1. イントロダクション・はじまりのワーク
身近な題材を提示しながら、医療人類学とは何かについて考えます。医療とはなにか、人類学(=文化人類学)とはなにかということが明らかに され、さらに医療(保健、ヘルス)を対象とする人類学的研究が現代社会にもたらす意義について考えます。
2. リプロダクション:「産むこと」は単純ではないのか?(Lesson 7):教科書の章に相当[以下同様]
人間社会が世代を超えて存続するためには出産=再生産は不可欠です。しかしながら他の生物とは異なり人間社会には、出産に関する知識や実践 が高度に社会化・文化化されていることが特徴です。出産は、生物学的事実でありますが、それ以上に社会的事実であることを確認します。
3. 心と社会:狂気をどのように捉えればよいのか?(Lesson 10)
西欧近代精神医学者の非西洋社会の〈狂気〉への関心は、やがて文化結合症候群に関する膨大な病気のラベルとその症状記載に溢れることに結実 しました。しかし神経伝達物質説や脳の代謝のイメージングの技術が、精神症状の文化的多様性への関心を衰退させ、その伝統を放棄しようとしています。心と 社会のありようの現在を非西洋世界を眺める精神医学の観点から考えます。
4. 医療人類学の可能性:健康の未来とは何か?(Lesson 1)
最初のまとめをここでおこないます。これまで、その学問が扱う素材とその検討方法から医療人類学とはなにかということを考えてきました。医 療人類学という科学が生み出した豊饒な理論装置のいくつかについて検討を加えます。医療人類学についての暫定的だが強いイメージを抱くことが期待されま す。
5. 病気と文化:人間の医療とはなにか?(Lesson 2)
人間が生物の一員である限り他の生物の疾患と共通する普遍的現象をもつことは明らかです。しかし、人間がかかる多くの病気は人獣感染症に由 来します。人獣感染症は農耕の定着以降の人間と家畜との共存によりうまれてきたものですが、さらに人間の集住により中間宿主としての家畜を媒介にしない感 染様式を進化させました。さらに健康転換(Lesson 11参照)など新しい病気への人類社会の対応などについて検討します。
ふたたび〈産む主体〉としての女性について考えます。しかしここでは、人間の身体に関するジェンダー的構成が、文化を媒介にしてどのように 編成されるのかを学びます。女性の身体についての文化的拘束性とそこからの抵抗と解放の可能性を、インドの社会を例にとって考えます。
7. 呪術:理不尽な闇あるいはリアリティか?(Lesson 3)
呪術を信じないと公言する人の行動を詳細に観察しても人は〈呪術的世界〉を無視して生きることはできません。世界を理性と非理性に分けて、 呪術を後者の世界の出来事だけのことであると考えることは愚かなことです。呪術的な思考が人間にとってそれほど特異なものではないことを明らかにします。
憑依現象の存在は、身体の固有性を信じてやまない近代的主体の概念に対して以下のような挑戦をつきつけます。こころは、からだの主であるの か? 私のからだは唯一独自な存在なのか? 今日の私と昨日の私ははたして同じものなのか?そして私(心と体)とは何ものか?ということです。[→池田光 穂「憑依の諸相」]
9. シャーマニズム:シャーマンは風変わりな医者か?(Lesson 5)
シャーマンは非西洋社会で働く医療人類学者にとってつねに気になる存在であり、また現地のシャーマニズム的治療システムに心を動かされない ものはいません。シャーマンは何によって病気治療が成功するのでしょうか? そしてどうして現地の人びとから尊敬を受けたり、また逆に迫害されたりするの でしょうか? シャーマンと医療者には多くの類似点がありますが、同時に決定的に異なる点もあります。これらの比較をとおして医療行為の本質に迫ります。
10. グローバル化する近代医療:医療は帝国的権力か?(Lesson 6)
近代医療の拡張が成功した時代とは、西洋列強の国家は世界の周縁部に多くの植民地を抱えており、またそれらの争奪戦に明け暮れていました。 戦線の後背地での軍陣医学において、また新しく征服された植民地とその住民への公衆衛生活動において、医療の有効性は多角的にチェックされました。帝国医 療という分析の視座は、このような制度が近代医療にどのような革新をもたらしたのかを明らかにします。
11. エイジングと文化:老いはどのように捉えられているか?(Lesson 9)
人間には(もちろん動物にも)かならず死が訪れます。感染症や事故あるいは戦闘行為などで死なない限り、老化はかならず訪れます。老年をど のようにとらえ、老人をどのように扱うのか(もちろん老年や老人の定義もまた!)は歴史、文化、社会によって多様でありかつ永遠に続くものではなく大きく 変化するものであると言われています。老人と老年の多様性について考えます。
12. 今日における健康問題:なぜある人びとは病気にかからないのか? (Lesson 11)
医療人類学の使命のひとつに、なぜある人は病気にかかり、なぜある人はそうでないかということについて誰にでも明白な形で証明することがで きるということがあります。みなさんのこれまでの学習を通してそのような答えに自分なりの回答を出せることができるかが重要になります。
13. 受講評価A:全体プレゼンテーション(グループ単位の評価試験)
授業について、受講学生がどれだけ理解できたか、そのことについてグループでの発表成果を求めます。グループでの討論のパフォーマンスが試 されるでしょう。
14. 受講評価B:個人達成評価(個人単位の評価試験)
授業について、受講学生がどれだけ理解したのか、そのことについて個人単位での達成成果について調べます。
15. まとめの授業
質疑応答を中心に授業の全体をふり返ります。
相互授業参観日程 公開(集中講義:下記参照)
相互授業参観日程(コメント)
原則公開ですが希望の方は事前に照会ください。実施側の事由により承諾しかねることもあります。
達成目標(達成水準)
1.医療人類学についての必要かつ最小限の知識と実践を習得する。
2.学んだ医療人類学の知識と思考法によって、身の回りにおこっている文化と社会に関わる諸問題を発見する。
3.諸問題の解決や解消に向かって、具体的な方策を立てそれを実践することができる。あるいは、未来において生じうる問題や困難を予測し、 それを回避しつつ、当初の目的を敢行することができる。
授業時間外の学習
予習復習は「Webテキスト」に挙げられているリンクから行って下さい。また授業中に有益なリンク情報を提示します。
教科書・参考書
(教科書)
※授業ならびに試験を含むレポート作成に不可欠ですので受講生はかならず授業までに入手してください。複写は著作権法に定められた限りのもの で、教科書の代替物のための大部の複写は容認されません。
(参考書)
池田光穂『実践の医療人類学一中央アメリカ・ヘルスケアシステムにおける医療の地政学 的展開』世界思想社、2001年。
医療人類学研究会編『文化としての医療』メディカ出版、1992年。
近藤英俊他『現代医療の民族誌』明石書店、204年。
ジョーダン.B『助産の文化人類学』日本看護協会、2001年。
マッケロイ、A.とP.タウンゼント『医療人類学』大修館書店、1995年。
波平恵美子『医療人類学入門』朝日新聞社、1994年。
吉田正紀『民俗医療の人類学』古今書院、2000年。
※参考書は入手する必要はありませんが、予習復習時には不可欠な資料です。図書館等でチェックしておいてください。
Webテキスト
◎医療人類学プロジェクト
http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/medanth.html
◎医療人類学入門1997
http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/ima-all.html
からリンクするページ
成績評価の基準と方法
8割以上の出席をもって最終試験の受験資格とします。配点は授業中に課されるさまざまなテストや試練による平常点(全体の3割)と、授業に おける質疑やコメントの評価点(3割)、ならびに最終試験の点(4割)。以上の総合点により成績評価の判定をします。 追試等は原則として実施しませんのでご注意ください。
パソコン必要度
授業中は不可、時間外の利用は必須(下記のコメントを参照)
パソコン必要度(コメント)
授業中におけるウェブページへのアクセスは講義内容を聞く態度にとってマイナスになるので禁止します。しかし授業時間外の学習(予習、復 習、発展学習)には不可欠であり、大いに活用されることを推奨します。
記入者 池田光穂(非常勤講師)