学術論文:審査する側の論理
Review by your peers: Peer Review System in our Academic Lives....
The Roaster, 1938 by Picasso
自分が書いた学術論文が、十分に世間(あるいは学界)に通用するものであるかどうかの判断は、本人のみらなず指導教官もまた気になるところであ る。
私は大学の教員として、また学術雑誌の査読者として、さまざまな論文の審査に携わってきたが、この判断はなかなか難しい。
学術論文をチェックする一般的判断基準のうち、もっともコンセンサスを得られている必要かつ最小限の基準は以下のようなものである。
審査されるべき論文を書かねばならない学徒である君は、審査する側が以下のような判断基準で、君の論文の審査にとりかかるだろう、ということを 十分に自覚せねばならない。
(1)その当時の研究水準や研究の状況が正確に反映されており、問題点が明確に提起されてい る。
(2)[科学研究費補助金の書類の常套句であるが]君が提起する問題について、その論文が何 を、どこまで明らかにするのかということが明示されている。
(3)論文において提起されたテーマについて、上掲の問題意識が論文全体にわたってしっかり と意識されており、かつ結論部分は、それに対して適切に解答が与えられている。
(4)結論にいたるまでの論証が、その当時の研究水準を維持しながら、きちんと説得的に論じ られている。
(5)研究成果は、これまでの研究において指摘されることのなかった、新しい発見や新しい解 釈につながっている。
(6)論文の構造、文章表現(論証スタイルや修辞まで)、先行研究や個々の文献の学術的取り 扱い方が全くもって適切である。
つまり君は、君の論文を審査する学徒が、このようなことを考えながら君の論文を評価しようとしていることについて、十分に自覚的でなければなら ない。
「査読というシステムが、本質的に、利害の衝突という問題をはらんでいる ことは明らかである」——フェデ リコ・ロージとテューダー・ジョンストン(2006)
■利益相反に関する記述(Conflict of Interest:COI)
利益相反がない場合→「なお,本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない」。"The authors declare no conflicts of interest associated with this manuscript.
The authors have no conflicts of interest directly relevant to the content
of this article. "
示すべき利益相反情報がある場合 →「第 1 著者は,「企業名」より,報酬を受理している。 」
■査読とは、英語でPeer Review (ピア・レビュー:ピア=同僚によるレビュー=審査)といいます
査読には一般に、投稿者に対して、査読者のみを匿名にするシングル・ブラ
インド方式と、査読者にも投稿者を匿名にするダブル・ブラインド方式が
あります。しかし、後者の管理は、編集者が投稿原稿に情報をマスクするという加工という作業が入るほかに、論文の性格上「投稿者(たち)」のアイデンティ
ティがわかってしまうという欠点があり、合理的ではありません。また、ブラインド方式を完全に廃止するという合理的な判断もあります。つまり今日では、投
稿者にも査読者の名前を開示したり、査読候補になったときに、双方に利益の相反が生じるか否かをチェックして「投稿査読の透明性」
を確保することにあります。この方法には、さらに利点があります。投稿者にとり不利な査読をする投稿者を回避するために、一度だけ、査読予定者を忌避する
権利を担保してあげることです。これは、実際に、査読者が査読期限を先延ばしにしたり、その研究アイディアを盗み、別のところで関連する研究を発表する
ケースもあるからです。「査読者の倫理規定」において、このようなこ
とは決して許されませんが、多くの場合、明確な罰則規定を定めにくいために、投稿者の権利を確保するためにも、責任ある編集者(ないしは編集委員会)の苦
肉の策かもしれません。
【査読者はどのようにして君の論文を判定するのか?】
私が関係する(社会科学・社会医療系の)学会・研究会の査読者の判定用シートは下記のような項目があります。上記のような抽象的なことをク リアし、論文を書き上げた後に、チェックリストと利用しましょう!
査読チェックリスト
1. テーマは本誌に適していますか・・・・・・・・・・・・適 不適
2. 目的は明確に書かれていますか・・・・・・・・・・・・適 不適
3. 研究方法とデータ処理(統計処理を含む)は適切ですか・適 不適
4. 結果は適切に提示されていますか・・・・・・・・・・・適 不適
5. 考察は適切になされていますか・・・・・・・・・・・・適 不適
6. 表題は内容を適切に表現していますか・・・・・・・・・適 不適
7. 論文の構成と長さは適切ですか・・・・・・・・・・・・適 不適
8. 文章表現は適切ですか・・・・・・・・・・・・・・・・適 不適
9. 概念・用語の用い方は適切ですか・・・・・・・・・・・適 不適
10. 図表の体裁は整っていますか・・・・・・・・・・・・適 不適
11. 英文表題・抄録は適切ですか ・・・・・・・・・・・・適 不適
12. キーワードは適切に選ばれていますか・・・・・・・・適 不適
13. 引用文献は適切に選ばれていますか・・・・・・・・・適 不適
14. その他、不適切な点・・・・・・・・・・・・・・・・有 無
判定結果(○印)
A. 掲載可(ごく僅かな修正の場合を含む)
B. 少しの修正で掲載可(再査読不要)
C. 大幅な修正が必要(掲載の可否は再査読後に決定)
D. 掲載不可
E. 題材、内容が『XXX学会誌』の掲載論文として適切でない
● 無学無恥への墓碑 ●
大学の教員が判断するからまともだろうと世間の人が考えるのは、一番危険で、私の周りを見回しても、自分の研究領域の考え方を中心に考え、他の 領域の研究分野の方法論や概念を、批判的に吟味することなしに、頭ごなしに否定したり軽蔑する〈馬鹿〉が少なからずいる。まったく唾棄すべき存在だが、そ ういう連中は雄弁であるがゆえに、本人が元気なうちは、周囲の連中は怪しいと思いつつ、自身の保身のため、それなりに一目おいて(またそういう連中に限っ て仕事を熱心にする)やり過ごすのである。メッキが剥げるのは、時間がなせる技で、その人に張り付いている権威がなくなれば、誰もその人の業績を省みなく なる。こんな〈アホ〉にならないための自戒のテクニックは、(1)常に自分の無知について自覚的になるということ、と(2)先学の研究の方法論の細部に敬 意を払うということである。
International Committee of Medical Journal Editors Uniform Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical Journals: Writing and Editing for Biomedical Publication (required by passwords)
リンク
文献
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(c) Mitzu Ikeda, 1999-2018
A reviewer at the
American National Institutes of Health evaluates a grant proposal.