はじめに よんでください

リヴァイアサン・テーゼ

Political Thesis of Leviathan 1651

池田光穂

リヴァイアサ ン・テーゼ

1.ホッブスは、国家を神から与えられた神聖不可侵 なものとみない。国家は、人間がつくりあげた人工物であるとみる。

2.人間の生活は、思考を伴わない運動(生命的運 動)と、思考を伴う運動(アニマル的運動)に分かれる(→ゾーエとビオスというアガンベン的区別を 参照)。

3.人間の生存の手段は、力(=権力)と呼ばれる。 人間は不快を避け快をもとめ、また権力への意思をもつために、人間の運動とは力(=権力)を追求する運動である。

4.bellum omnium contra omnes  つまり、万人の万人対する闘争とは、人間の自然状態は、各人が他者にむかって剥き出しの暴力によって対峙することで(自然状態のままの人間は)秩序をもっ た社会(=コモンウェルス、キウィタス)を維持することができない。 人間は自然状態にあると、自然権そのものを自分自身により否定してしまう存在になってし まう

5.そのために、各人がもつ暴力を権力というひとつ の機関(ホッブスの場合は「王権力」)に委ねること により、各人が他の個人に対して剥き出しの暴力をもって対峙することがなくなり、協力の機会が生まれるとするものだ。このような教えは、人間が理性の知恵 である自然法という観点から示される必要がある。平和を実現させるためには、各人各人に優越する主権の存在が必要である。

6.それゆえに、生存権と自然権は、ホッブスにとっ ては絶対不可侵であるが、この論理は、個人の平等 な状態から出発し、最終的に個人の平等な生存権を保証しようとする論理となっている。(ホッブスは、処罰 をうける人が抵抗する権利を認めているが、集団的反抗=革命権というものは(否定もしなかったが)承認しなかった。)

7.このテーゼで、ホッブスは、権力を統一する機関 としての「王権力」を措定したが、同時に第16章「人格、本人、および人格化されたもの」(水田・田中訳, Pp.107-111)のなかで、群集は代表者によって人格を代表することをできるという、今日における民主主義における主権者としての国民や市民の可能 性についても指摘している。それゆえに、ホッブス は、近代の民主主義における社会契約論を考案した始祖の一人として評価されることが多いのである。

では、リヴァイ アサ ンとはなにか?

リヴァイアサンとは、コモンウェルスであり、ラテン 語のキウィタスを可能にする強大な権力である。上掲の、リヴァイアサン・テーゼにおける、人びとの平等の自由と権力を配分することができる《各人各人に優 越する主権》のことである。第17章「コモンウェルスについて」の章で、リヴァイアサンは、「不死なる神」のもとで、平和を維持し、外敵から防衛されるこ とを可能にするものが「可死の神」をリヴァイアサンと呼んでいる。(原著, p.87:水田・田中訳, p115)

結論

1651年の英国のトーマス・ホッブスの政治学書。 「万人の万人対する闘争」を回避して社会契約論による民主的な社会をつくる根拠たる理論を構築した書物。ホッブスはベーコン、デカルト、スピノザなどと同 時代の人であり、邦訳もあり名著であるにも関わらず専門の学生でもよく読まれない不幸な書籍。それもそのはずタイトルを含めて旧約聖書の喩えが随所に出て くるからであろう。逆にきちんとホッブスがわかれば西洋の政治思想が面白いようにわかるために、いわばビデオゲームにおけるボス戦に相応しい本なのであ る。

さ らに勉強する人のために→(国家は我々自身を形づくる、あるいは リヴァイアサン入門)(自由をめぐる「狭い回廊」仮説

ホッブスを、社会的・歴史的文脈から解釈しなければ ならないという主張は「クエンティン・スキナーの2つの結論」を参照してくだ さい

参照点としてのジョン・ロックについて考えることも 重要かもしれない。ブロノフスキーによる「ホッブスとロック」の冒頭の以下の文章をよく読んでみよう。

"Thomas Hobbes published his Leviathan in 1651, expressly stating that his 'Discourse of Civil and Ecclesiastical Government' was 'occasioned by the disorders of the present time'.I And John Locke, in the preface to his Two Treatises.of Government, published in 1690, openly declared that his work was to 'justify' the 1688 continuation of the 1640-60 struggle and 'to establish the throne of our great restorer, our present KingWilliam', against the Stuart claims./ In their works, however, Hobbes and Locke rose far above the exigencies of contemporary politics and gave classic statements of two positions. Hobbes stated the case for absolute sovereignty and the Leviathan state; while Locke put forth the defence of parliamentary government and the limited, liberal state. They wrote two of the great books around which political argument, to a large extent, henceforth revolved." (Bronowski 1960:227)

クレジット

リンク集

文献

冒頭 図の拡大図

「技術は、コモン—ウェルスあるいは国家(ラテン語 のキウィタス)、と呼ばれるかの 偉大なリヴァイアサンを創造するが、それは、人工的人間にほかならないからである。もっともこの人工的人間は、本来の人間を保護し防衛する目的をもってい るから、本来の人間よりも大きくて強い」


旧約 聖書・ヨブ記の版画本(20世紀)



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