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先住民と人類学のポストコロニアルな関係を模索する総合的研究から
先住民の視点からグローバル・スタディーズを再構築する領域横断研究へ
Interdisciplinary Research on Postcolonial Action Accounts between the Ainu Indigenous people and General Anthropology in Japan
(当たらなかった科研申請書と当たった申請書の対位法的読解で す。採択されたのはこちら→「領域横断研究 (18KT0005)」)
[ヘッダーのコピペはこちら[先住民と人類学のポストコロニアルな関 係を模索する総合的研究から先住民の視点からグローバル・スタディーズを再構築する領域横断研究へ]]

池田光穂

1.グローバル・イシュー (地球規模の課題)と呼ばれる課題がある。

2.それらは「移民や難民あるいは環境問題(Environmental issue)」に代表されるように〈地球上のさまざまなところで生起している「問題」〉である。

3.それらの問題は、その発生メカニズムが解明され、かつそのメカニズムが分かれば 難題は解決される可能性が ある。

4.それらの問題解決のためにそのアプローチは学際的でなければ ならない

5.私たちが直面している問題には2つの矛盾するモーメント、(A)個別地域の固有性に密着して考えること、 ならびに、(B)地域横断的に志向する必要性、がある。


6.実践的目標としては、抽象的表現で分かりづらいが「普遍性や一般化というより も、つながりを求めて個別に密着すること」が重要である。

7.そのような実践目標をもって「個々の対象や場所への熱い思いと、つながりを希求 してそこから飛び立つ決断」が必要であると思われる。

出典:「
グローバル・スタディーズというスキームへの批判

ジュリアン・スチュワードと地域研究(「グローバルスタディーズ vs. 地域研究」という枠組で見る)

行 動科学研究と関連しつつ独自の発 展をとげたのが地域研究あるいは地域文化研究(cultural area studies)である。本来、地域文化の研究は地理学が先鞭をつけていたが、その議論は気候決定論――人間の思考はその土地の気候=風土(英語では共に climate)が決定する――に代表される環境決定論の一種であった。しかしながら文化人類学者アルフレッド・クローバーが戦前にすでに先鞭をつけてい たが、生態学的条件や社会構造あるいは文化伝播、さらには当該の文化における伝統技術の変化など、環境決定論をよりさらに洗練された文化地域的概念がエル マン・サービスやジュリアン・スチュワード(Julian Haynes Steward, 1902-1972) などによって戦後に提唱された。この学派は、文化的広がりには環境決定論だけでは説明できない多様性があると主 張し、多角的な方法論による地域社会の情報収集と分析、すなわち地域文化研究の重要性を指摘した。彼らはその多様性を生みだす背景にはきちんとした説明可 能な理論があると考え、その根拠を生物進化論の基礎に立った文化の進化というモデルに求めた。それゆえ彼らは新進化主義者と呼ばれることがある。

学際研究を継続させる要因とは何か

私 が専門的に関わる文化人類学に関連する研究領域において、学際研究の重要性が説かれるようになったのは、すくなくとも第二次大戦後の2 つの重要な出来事においてであったと思われる。それらは双方とも、学際研究の中心的拠点となったアメリカ合州国でおこった。すなわち(i)行動科学研究、 と(ii)地域研究である。行動科学研究は、戦前にはフォード財団 (Ford Foundation, 1936-) を中心に構想されていたが、実質的にその基礎を作ったのは、後に述べる地域研究と深 く関連する人類 学・心理学・社会学を中心とした研究者であった。彼らは第二次大戦中は社会科学者の戦争協力と深く関わっていた。すなわち、地域社会におけ る人々の固有の 行動や、現地社会におけるその意味理解が、戦争当事国ならびに戦闘地域において重要であることをさまざまな形で力説した。我々の分野におけるこの端的な成 果は、文化の型(pattern of culture)という理論研究の成果を、戦時情報局(United States Office of War Information, OWI)が便宜を図って入手した豊富な資料――敵国国民である日本人収容所におけるインタービューを含む―― にもとづいて分析したルース・ベネディクト『菊と刀』の中にもっとも典型的に現れる。戦後にマーガレット・ミードやグレゴ リー・ベイトソンら が参加した同様の研究では、単に現地あるいは敵国の文化に関する情報だけではな く、人々の行動やその意味理解、その伝統的あるいは歴史的展開、育児や発達における文化の影響、比較精神分析、異常行動や紛争パターンなどについて、多角 的に調査し、さまざまな方法論が動員されることが期待された。行動科学という名称は1950年代の心理学研究におけるシカゴ学派がその研究内容を最も有名 にしたが、行動科学という学問領域の広域性と、密度の濃い学際研究の必要性とその成果に対する期待は1946年のハーバード大学社会関係学部の設立、 1952年フォード財団によって設立されたスタンフォード大学にある高等行動科学研究院(Center for Advanced Study in Behavioral Sciences)などの存在でも明らかである。これらの研究機関は、戦後アメリカの社会科学研究の発展の原動力となったことは言うまでもない (池田 online)。

◎これまでの、挑戦の記録等はこちら「【ポータルサイト】:先住民の視 点から グ ローバル・スタディーズを再考する

【過去の資料編】秋季研究会の事前資料: 日時:2017年9月28日11:00〜18:00(予定:スケジュールにより早く終了する予定もあり ます) 場所:国立民族学博物館4階第2演習室その他の情報:門衛所にて国立民族学博物館・関雄二先生の研究会の旨をお伝えし、臨時入館証(あるいは共同研究員の ための入館証)を受け取ってください。

項目
平成29(2017)年度申請分
平成30(2018)年度申請分
研究種目、審査、分野、分科、細目、 細目 表キーワード
研究種目:基盤研究(B) 審査:一 般
分野:人文学、分科:文化人類学、細目:文化人類学・民俗学、細目表キーワード:マイノリティ
これは「先住民の視点から グローバル・スタディーズを再構築する領域横断研究」(18KT0005)として採択されました!
▶▶▶▶(再掲)これまでの、挑戦の記録等はこちら「作業ファイル:先住民の視点 からグ ローバル・スタディーズを再考する


代表者氏名・所属機関・所属部局 (職)
池田光穂・大阪大学・COデザインセ ン ター(教授)
上は、科研DBです。こちらのサイト での プロジェクトは「先住民の視点からグ ローバル・スタディーズを再考する」 でリンクしてください。
研究課題
先住民と人類学のポストコロニアルな 関係 を模索する総合的研究
先住民の視点から グローバル・スタディーズを再構築する領域横断研究
研究経費


研究組織(研究代表者・研究分担者・ 連携 研究者)


研究目的
本研究の目的は、人類学と変化しつつ ある 先住民との新しい関係のパラダイムを模索する試みである。この人類学は言語・考古・自然・文化の4分野の総称である。グローバル規模の「先住民の回帰」 は、研究対象としての先住民という枠組みに反省を迫る。言語学は言語復興運動に寄与し、形質人類学は司法人類学的鑑定を補助する活動が始まっている。博物 館 学では、器物・資料の返還や共同展示が実施されている。だが、それらの試みは先住民との関係を反省のもとで新しい学問としての再生には未だ遠い。コロニア ルからポストコロニアルへの移行期といえる現在、研究者と協働する先住民の尊厳について市民とともに考え、社会と密接に結び付いた学問としての人類学の姿 を、市民と先住民に対して協働の可能性について新たに提言する。
本研究は、日本と海外を研究対象地域 とし て、先住民が実践している(1)「遺骨や副葬品等 の返還運動」、博物館における先住民による文化提示の際の敬意への要求といった(2)「文 化復興運動」、および先住民アイデンティティの復興のシンボルとなった(3)「先住民言語 教育運動」という、3つの大きなテーマの現状を探ることにより、これまでのグローバル ・スタディーズにおける先住民の位置づけの再構築をめざす。これらの現象は、世界の均 質化が引き起こすグローバル化現象とは異なり、グローバル化現象が先住民をして自らの アイデンティティを再定義し、国民国家が求める同化政策に抗して、言語的文化的多様性 を担保しつつ、国家との連携や和解を求める動きとして捉えられる。この研究の成果が明 らかになると、グローバル文脈のなかで、先住民をエージェンシーと捉えることが可能に なり、実践者としての研究者が先住民とのモラルコミットメントの枠組みが変化すること が期待できる。そして先住民による先住民ための学としての新しい「先住民学」の教育の 場をデザインできるようなカリキュラム作成をその実践目標とする。
研究目的(具体)
■脱植 民地状況における先住民

 コロニアリズムを背景に成立してきた学問は、21世紀を迎える現在大きく変容している。たとえば、コ ロニアリズムの正当化とともに成立した国際法は、い までは脱植民地化の再創造である先住民運動をエンパワーする(e.g. James Araya 1996)。征服、布教活動とともに歩んだ記述言語学は、自らの蓄積を還元するかのように、先住民の言語復興に寄与するようになっている(Summer Institute of Linguisticsの活動、Judy MaxwellやNora Englandらの仕事)。身体計測などをおこなったスティグマを帯びた形質人類学 も、内戦の暴力を立証する証人である司法人類学(forensic anthropology)となり、先住民に貢献している(グアテマラではFredrick Snowの仕事)。日本の状況においては、最近、考古学では「先住民考古学」が脚光を浴びている(国際考古学会:京都2016, Mark Hudson)。そのような状況に比べれば、確かに一部の例外(土地権原をめぐる先住民たちの訴訟に証言者として資料を提供)はあるものの、それは個人と しての積極的関与であり、文化人類学として理論化された介入とはいいがたい。(例:佐々木利和(2010)と大塚和義(2011)の論争)。文化人類学 は、先住民の現在には不要な学問なのであろうか?そうでないとすれば、どのような寄与が可能なのであろうか?先住民と人類学のポストコロニアルな関係が真 に求められる。

人類学の4分類復権と先住民

 住民と人類学との新たな関係を目指すとき、人類学は広く4分野(言語、考古学、自然=形質→生 物、文化)として捉えるべきである。なぜなら、現状ではそれぞれ の分野が同一の歴史的制約の下、研究を進めざるをえないからである。たとえば、4分野すべてが、研究対象からの研究許可と了解、研究対象への知識の還元要 請(=「私たちにはどのような利益があるのですか?」)、研究そのものへの批判(=「人類学には植民地主義時代からの反省がないのですか?」「なぜ我々の 発話をさえぎって私たちに発言させようとしないのですか?」)に直面しながら、学問を実践せざるをえない状況にある。これらの制約は、現在でも脱植民地化 の影響が継続していることの証である。

■移行期における先住民研究の位相

 植民地状況Leiris 1950)における先住民の位置づけ(Phase I)から独立期の脱植民地初期の開発人類学的状況(Phase II)における開発の「主体」への変貌、さらには、21世紀の脱植民地化の再創造される先住民(Phase III)の時期に直面している(次ページの「移行期における先住研究の位相」を参照)。
 本研究は、21世紀における脱植民地化の再創造として先住民を捉えたとき、文化人類学を含めた広義の人類学(4分野)とその周辺(e.g. 博物館学)を相互連携し、ポストコロニアルという移行期にある現在、人類学という学問が先住民と、どのような関係を結ぶことができるのか、その一つのモデ ルを提示したい。とくに、日本において文化人類学を実践するとき、日本の先住民の存在を無視できないわけであり、アイヌ(そして、琉球の民)と文化人類学 との新しい関係を模索したい。この提言は専門家とそれを支える市民社会の双方に対しておこなうものである。

■国内外の研究動向を踏まえた実践的な社会還元への模索

 1980年代中盤から世界の先住民族間での国際連携は、21世紀になり歴史的変革を促した。2007年、国連における「先住民族の権利に関する宣言」 が、その好例である(窪田・野林 2009;太田 2012)。一方において、先住民族の活動家たちは近代国家の枠を超え連携する中、他方において、先住民運動に関心をもつ研究者は、ローカルな状況への配 慮のためか、国際的ネットワークを築いているとはいいがたい。たとえば、(世界の先住民運動を牽引してきた)ラテンアメリカの研究者は、オセアニア、アジ ア、北欧地域などの先住民族運動研究者との連携を築けていない。それどころかグローバルなレベルで展開する先住民族運動では、文化人類学者・民俗学者と先 住民族活動家が衝突する状況すらもあり、その痛手を被った研究者は象牙の塔から専門的な学術的な場において抽象的で高度な「批判」をおこなうという悲劇す らおこっている。総括すれば、先住民族運動という現象の急激な変化に、研究者が対応できていないといえる(e.g. 太田2010)。先住民族どうしの国際連携についてはどうであろうか?国際先住民の10年(1994-2004)に国際交流NGO/NPOがグアテマラの 平和運動家を招致しアイヌ民族との交流をおこなっているが市民を巻き込む持続的な活動には現在のところ結実していない。そのなかで人類学(4分野)の復権 は急務であり、それぞれの分野が、先住民とどのように取り組もうとしているかの情報とその公開による市民からのフィードバックに応答することは最重要課題 となっている。

■先住民の問いかけに真摯に答えること——本研究の特色と意義

 20世紀の最後の10年間における文化人類学、カルチュラル・スタディーズの動向は、ディアスポラという概念が流行したことでも明らかだが、移民をモデ ルとして展開した。移動、混淆、越境がキーワードであった。反対に、先住民は定住、本質、伝統などの諸概念と結びついて構想されてきた。移民は近代を、先 住民はいまだに近代的存在ではないかのようである。しかし、このような対比は誤りである。そればかりか、21世紀において国際法の主体として先住民が歴史 へと回帰してきた事実は、いまだにわたしたちに対し先住民への責任を問う。先住民は、すべての人類学者に「ポストコロニアルになれるのか?」と問うてき た。本研究はそれに対する応答である。


1.研究目的、研究方法など

本研究課題は「先住民の視点からグローバル・スタディーズを再構築する領域横断研究」 である。この研究は、グローバル化現象にまつわる視点が西洋近代の中心地からの眼差しに より構成され、近代の普遍化がグローバル化と同一視されていることを批判する。もしグロ ーバル化が「世界の連結」現象であるならば、連結されている末端は先住民を含む周辺民族 である。だが現在のグローバル・スタディーズは周辺からの声を研究に反映しているであろ うか。先住民はグローバル化現象における「土地との絆を保ち」「伝統的生業形態のもと で」「現地の文化の担い手」として固定的な機能を果たす代名詞になっていないだろうか。 もちろんそうではない。周辺からの声や眼差しに応えようとするのが本研究の出発点だ。 具体的には、民族誌学的方法を用いて、先住民が実践している(1)「遺骨や副葬品等の返還 運動」、博物館における先住民による文化提示の際の敬意への要求といった(2)「文化復興 運動」、および先住民アイデンティティの復興のシンボルとなった(3)「先住民言語教育運 動」という、3つの大きなテーマの現状を探る。研究対象地域は、日本(北海道、沖縄)と 海外(台湾、ロシア、オーストラリア、北米、中南米)のそれぞれの先住民(アイヌ、「ウ チナンチュー」、ブヌン、ニブフ、オーストラリア・アボリジニ、ネイティブ・アメリカン、 マヤ、ケチュア等)である。またグローバル化の進展により、もはや「土着民」という古典 的概念は相対化されるため、研究対象と調査地はマルチサイトなものになり、その他の地域 も含まれている(研究の分担は下表のとおり)。

【作図】
研究の体制は、個別報告を通した「共同研究」と、各人が日本国内の所属機関でおこない かつ旅費・日当を利用した現地を調査する「個別研究」からなる。本研究班は、員数が10名 であるが、3つの文化・政治運動に関する各民族の動向を調査し、報告・検討するために、おおまかに3つのセグメントに分ける。共同研究会の開催のほかに、 日本国内の先住民調査 についてはグループによる訪問調査をおこなう。またメーリングリストやテレビ電話会議 (Skype, FaceTime)を活用して相互に研究交流を行う。以上の点を踏まえて、本研究課題では以下の具体的な8項目が、明らかにされる。
 (a) 遺骨返還運動に関連する学問と先住民からの要求の位相、
 (b) 言語復興運動と先住民の社会的地位、
 (c) 博物館展示をめぐる政治的交渉、
 (d) 博物館における文化を表象する権利の動き、
 (e) 先史考古学と近隣コミュニティの関係、
 (f) アイヌ言語復興運動の現状と課題、
 (g) 博物館における言語提示とその継承、
 (h) 言語教育運動と文化復興運動との接続、で ある。
 これらの具体的な課題を通して、先住民からの指摘とされる「名指し」行為が、これから の人文社会科学にとって、どのような反省的契機になるのかを考察する。これまでの他の研 究プロジェクトにはない、(i)独特の実践的企てと(ii)倫理的スタンスを持っている。それらは、 一方では、(i)先住民を研究する研究者が研究を通した先住民との関わりのなかで、それぞれ の学問の認識論を組み替える試みであり、他方では、(ii)これまでの研究における眼差しの政 治力学や立場を反省し、学問そのものを脱植民地化することである。

 2.本研究の着想に至った経緯など

 研究分担者の太田による国立民族学博物館・共同研究会「政治的分類——被支配者の視点 からエスニシティ・人類学を再考する」(2014-2017年度)は、支配の対象として集団化さ れてきた人たちの視点を名指し行為としてみて、従来の人種や民族(エスニシティ)を再考 するプロジェクトであった。この研究会はそのような名指しをローカルな人種や民族として 捉えることをやめ、その名指しをコロニアリズムへの反省へと照射し、他者と相対するため の倫理の構築学として構想された(太田2015,2017)。研究代表者の太田のこの指摘はきわ めて重要であり、人類学を含めた人文社会科学の脱植民地化のためには重要なプロジェクト をなす提案だと考えるに至った。

3.研究代表者および研究分担者の研究業績(6-7頁の業績番号を参照)

研究代表者(池田;1,18,27,28)と分担者(太田; 25,22,29,37,38,39,40)は、これまで中米の マヤ系先住民の調査にもとづく民族誌的研究を積み上げてきた。とりわけ太田は、琉球・ア イヌ・マヤ民族が直面している脱植民地化の課題に取り組んできた。分担者(瀬口; 8,20,34)は北米とアイヌを中心とする自然(形質)人類学の研究のみならず、北米では1990 年制定の「ネイティブ・アメリカン墳墓保護と返還に関する法律(NAGPRA)」に関わる遺 骨の鑑定や先住民組織との連携という業務に携わってきた。分担者( 加藤・關; 3,5,10,13,21)は先史考古学が専門であるが先住民考古学という文化帰属に関わる実践研究や、 出土展示の博物館の運営などでの実績をもつ。分担者(山崎;9,14,23,32)はアイヌ展示の博 物館学で先住民と展示物に関する業績が数多くある。分担者(丹菊・細川;15,16,33,35)は言 語人類学ならびに口頭伝承研究、分担者(石垣;11,17,24,26)は台湾の先住民権利回復運動や 言語復興研究に長く従事してきた。分担者(辻;4,30)は政治哲学および公共哲学の専門家で、 カナダおよびアイヌにかんする研究実績をもっている。
研究計画・方法
【概 要】

[1]連携研究者と研究協力者からなる共同研究会を組織する。[2]連携研究者は(i)テーマ研究会の主催者となりテーマ別の共同研究会を運営すると同時 に、(ii)国内外の質的調査をおこないそれらの情報をテーマ研究会で発表し、理論ならびに情報を共有する。[3]テーマ研究会で共有される問題認識は、 コロニアル/ポストコロニアルという歴史状況において、人類学の下位研究領域(4分類)と 隣接社会科学における先住民の関係について考察する。[4]国立博物館開館の平成32年に専門家向けの学会ならびに市民向けシンポジウムにおいて、先住民 と人類学という学問領域の新たな関係性の構築のための提言をおこなう。(→作図「研究のトピックスの流れ」を参照)

■平成29年度 ※助成がないために、各人が準備中である。

〈人類学と先住民の新たな関係のパラダイム構築〉研究プロジェクト・ロードマップ(次ページ参照)に基づいて、初年度は (i) テーマ研究会01(文化人類 学と先住民、自然人類学と先住民、博物館学と先住民)と、海外の先住民の状況に関する地域研究会01をそれぞれ1回ずつ都合2回開催する。また、文献によ る事前調査を踏まえた上で、(ii)人類学と先住民が取り結んだ様々な社会的関係についての現地フィールドワーク調査を、国内(北海道、東京、沖縄)と海 外(中米とロシア)を中心に行う。各連携研究者は、それぞれの役割分担にしたがって、調査と研究をおこない、これまでの事前調査や文献資料にもとづき、国 内の専門家による学会・研究会等で、この研究の概要や理論的枠組みについて発表し、研究班以外の専門家からのコメントや助言を聴取する。2017年は国連 において「開発のための持続可能な観光の国際年」が予定されており、先住民が関わるイベントに参加する。日本ではアイヌの民族観光における文化表象の様々 な提示のされ方と、形質人類学における身体計測や「人種起源論」研究などが複雑に交錯して展開した歴史があり、これに関する国内外の社会的動きについて も、注目する予定である。



 まとめると、平成29年度の研究は、国内でのテーマ研究会と、海外状況調査である。後者では、文化人類学の民族誌手法と専門家へのインタビューにより、 調査地の先住民と研究者(研究分野)との関わりについての状況を調査し、その後のテーマ研究会に各メンバーは還元するものと予定している。
 研究班は大きな組織のため研究代表者(池田)に加えて、研究分担者から副代表(格)を置き(太田氏を予定)、組織内のコミュニケーションと研究の遂行を 円滑に促進させる。
 研究班組織は、利益相反に留意しつつ、人類学以外の専門家(ピア)による助言者を選定し、研究協力謝金を利用して年に1、2度の点検をうけることとし、 研究計画の進捗状況の検証やもし遅延等が起こった際の改善策に関わる助言を受けるものとする。

◎平成29年度を含む全研究期間(2017-2020年)のロードマップ



■平成30年度以降の計画(「研究のトピックスの流れ」(下図)も参照)

(平成30年度)——2年目
 研究の2年目では(i)テーマ研究会02(政治学と先住民、考古学と先住民、言語学と先住民)と、海外の先住民の状況に関する地域研究会02をそれぞれ 1回ずつ都合2回開催する。また、文献による事前調査を踏まえた上で、(ii)人類学と先住民が取り結んだ様々な社会的関係についての現地フィールドワー ク調査を、国内(北海道、東京、沖縄)と海外(北米/南米とヨーロッパ)を中心に行う。各連携研究者は、それぞれの役割分担にしたがって、現地調査と研究 をおこない、これまでの事前調査や文献資料にもとづき、国内の専門家による学会・研究会等で、この研究の概要や理論的枠組みについて発表し、研究班以外の 専門家からのコメントや助言を聴取する。初年および2年目に得られた資料やそれにもとづく仮説的な提言については、適宜とりまとめ、個別発表論文の形で公 表し、専門家(ピア助言者)によるさまざまなチェックをうけることで、研究と調査の質の向上を図る。

■(平成31年度)——3年目

 研究の3年目では、研究資料の取りまとめの後半にあたり、テーマ研究会03と04「人類学と先住民の新たな関係性の構築」をメインテーマとしてサブテー マ「理論的展望」と「実践的応答」を2回開催する。(ii)現地フィールドワーク調査は海外(中米と台湾)にとどめて、国内では市民向けの講演会を開催す る。平成31年度では随時報告される成果をもとにさまざまな試論を国内学会で報告する予定である。

■(平成32年度)——最終年度

  研究の4年目の最終年度では、研究資料の取りまとめの後半にあたり、テーマ研究会05「人類学と先住民の新たな関係性の構築:提言とりまとめ会議」を 1回開催する。(ii)この年(2020年)は、国立アイヌ文化博物館(仮称)が開館予定である。その開館にあわせて、独自に(あるいは協賛などの支援も 模索しつつ)北海道において北海道アイヌ協会などとの連携した市民向けの公開シンポジウムをおこない、この研究プロジェクトの過去3年間の成果発表と公開 とする。また(iii)成果の外国語での発表を予定し、海外学会(例えばIUAES, AAA)などで、世界の先住民と人類学の「新たなる関係性」を模索している世界の人類学者にむけて積極的に提言を公表していく。


●本特設研究への応募理由

(1) グローバル化研究の枠組みを再検討するための「先住民」というイシュー
 グローバル・スタディーズの研究の多くは、全世界のグローバル・イシューを、均質化・ 画一化する現象として捉え、ローカルな文脈への影響や応答関係を描出し、その変化の一般 モデル化を目指す傾向にある。しかしながら、先住民が現代社会に提起している文化・政治 運動は、グローバル化現象への抵抗というよりも、先住民をして自らのアイデンティティを 再定義し、国民国家が求める同化政策に抗して、言語的文化的多様性を担保しつつ、世界各 地での帰属する国家との連携や和解を求める動きとしても捉えられるはずである。先住民は グローバル化現象における「土地との絆を保ち」「伝統的生業形態のもとで」「現地の文化 の担い手」として固定的な機能を果たす代名詞のことではないからである。先住民の視点か ら、グローバル化を捉え直すのは、より包括的なグローバル・スタディーズを構想するため には不可欠である、という理由から本特設分野研究に応募した。

(2) グローバル・コンテクストにおける先住民の意義
 2007年、「先住民族の権利に関する国際連合宣言(Declaration on the Rights of Indigenous Peoples, UNDRIP)」の採択後、世界には3億5000万人以上存在する先住民の人びとは、個別 の民族名の他に、先住民(Indigenous Peoples)という国際法で認められているグローバルな 権利を有する政治主体として自己同定(アイデンティファイ)できるようになった。先住民 はこの10年間に、これらの諸権利を定めた国際法を通し自己同定することによって、グロー バル規模での連携を一層強化している。本研究は、連携と連帯を強化する先住民が、国民国 家に対してその存在を認知させ、文化的・言語的・多民族社会をまとめる責務を主張するこ とを通して、国民国家そのものを〈民主化〉する力となっている過程を、いくつかの社会的 課題を異なった場所からの情報を比較検討することにより明らかにする。グローバル化はリ ベラリズムの規範化を通して多様性の尊重を理念とするが、先住民の存在は独自性や固有性 を強調することでリベラリズムを批判する視点を提供するために、ナショナリズムの再演と 誤解されてしまいがちである。これらの見解を打破するグローバル・スタディーズの構築/ 再構築が求められている。

(3) 小区分よりも本特設分野に応募することが相応しい理由について
 申請者たちは、先住民からの視点と彼らの文化運動の実態の分析から、最終的には、先住 民の先住民による先住民のための、いわば新しい「先住民学」が構想される必要を感じてい る。すなわち、これらの成果が明らかになるとグローバル文脈のなかで、先住民をエージェ ンシーと捉えることが可能になる。そして実践者としての研究者が先住民とのモラルコミッ トメントを通して反省する人文社会科学のあり方を提唱することができる。先住民による先 住民ための学としての新しい「先住民学」の教育の場をデザインする糸口までに到達するた めの学術的資料の収集と分析が、本研究の創造性のひとつであると指摘することができる。 文化人類学、自然(形質)人類学、先史考古学、先住民言語学、博物館学、政治学(公共 哲学)の分野の専門家による学際的な集団が取り組む関係上、小区分による応募よりも、グ ローバル化における先住民が直面する文化・政治的現況の分析とそこから得られる未来への 提言の可能性を拓く、本特設分野研究「グローバル・スタディーズ」に応募することが重要 だと考えた。

●1 研究目的、研究方法など
(1) 本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」
 コロニアリズムを背景に成立してきた先住民に関する学問は、21世紀を迎える現在大きく 変容している。たとえば、コロニアリズムの正当化とともに成立した国際法は、いまでは脱 植民地化の再創造である先住民運動をエンパワーする(e.g. James Araya 1996)。征服、布教 活動とともに歩んだ記述言語学は、自らの蓄積を還元するかのように、先住民の言語復興に 寄与するようになっている(Summer Institute of Linguisticsの活動、Judy MaxwellやNora Englandらの仕事)。身体計測などをおこなったスティグマを帯びた自然(形質)人類学も、 内戦の暴力を立証する証人である法人類学(forensic anthropology)や先住民の末裔や親族を 同定するDNA鑑定業務と連携し、先住民に貢献している(グアテマラではFredrick Snowの仕 事)。 日本の状況においては、考古学では「先住民考古学」が脚光を浴びている(国際考古学 会:京都2016, Mark Hudson)。そのような状況に比べれば、確かに一部の例外(土地権原を めぐる先住民たちの訴訟に証言者として資料を提供)はあるものの、それは個人としての積 極的関与であり、グローバル・スタディーズの影響を受けて理論的に洗練された介入が起こ っているとはいいがたい。(e.g. 佐々木(2010)と大塚(2011)の論争)。文化人類学を中 心とした人文社会科学は、先住民の現在には不要な学問なのであろうか。そうでないとすれ ば、どのような寄与が可能なのであろうか。 1980年代中盤から21世紀にむけて世界の先住民の間での国際連携は歴史的変革を促した。 2007年、国連における「先住民族の権利に関する宣言(UNDRIP)」が、その好例である (窪田・野林2009;太田2012)。一方において、先住民の活動家たちは近代国家の枠を超え 連携する中、他方において、先住民運動に関心をもつ研究者は、ローカルな状況への配慮の ためか、グローバルなネットワークを築いているとはいいがたい。たとえば、(世界の先住 民運動を牽引してきた)ラテンアメリカの研究者は、オセアニア、アジア、北欧地域などの 先住民運動研究者との連携を築けていない。それどころかグローバルなレベルで展開する先 住民運動では、文化人類学者・民俗学者と先住民活動家が衝突する状況すらもあり、その痛 手を被った研究者は象牙の塔から専門的な学術的な場において抽象的で高度な「批判」をお こなうという悲劇すらおこっている(Kuper 2003)。総括すれば、先住民運動という現象の 急激な変化に、研究者が対応できていないといえる(e.g. 太田2010)。先住民の国際連携に ついてはどうであろうか。国際先住民の10年(1994-2004)に国際交流NGO/NPOがグアテマ ラの平和運動家を招致したアイヌ民族との交流があったが、市民を巻き込む持続的な活動に は現在のところ結実していない。そして本申請時の2017年はUNDRIPから10周年を迎える。

(2) 本研究の目的および学術的独自性と創造性
本研究は国連「先住民族の権利に関する宣言」からの10年を迎える現在、グローバルなネ ットワークを構築して、それぞれのローカルな文脈で活動をおこなう、先住民の3つの文化・政治運動に着目する。すなわち民族誌学的方法を用いて、先住民が 実践している(1)「遺 骨や副葬品等の返還運動」、博物館における先住民による文化提示の際の敬意への要求とい った(2)「文化復興運動」、および先住民アイデンティティの復興のシンボルとなった(3) 「先住民言語教育運動」という、3つの大きなテーマの現状を探るのが本研究の目的である。 2007年「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(Declaration on the Rights of Indigenous Peoples, UNDRIP)の採択後、世界に3億5000万人以上存在する先住民の人びとは、個別の民 族名の他に、先住民(Indigenous Peoples)という国際法で認められているグローバルな権利 を有する政治主体として自己同定(アイデンティファイ)できるようになった。先住民はこ れらの諸権利を定めた国際法を通し自己同定することによって、グローバル規模での連携を 一層強化している。本研究は、そのように連携を強化する先住民が、国民国家に対してその 存在を認知させ、文化的・言語的・多民族社会をまとめる国民国家に対しより包括的社会を 構築するように求めるという主張を通して、国民国家そのものを〈民主化〉する力となって いる過程を、いくつかの社会的課題を異なった場所からの情報を比較検討することにより明 らかにする。ここで焦点化される〈民主化〉=democratizationとは、先住民が暮らすそれぞ れ個別の国民国家の変容を先住民たちのグローバルな連携強化により促すことを意味する。 グローバル・スタディーズの研究の多くは、全世界で生起しているグローバル・イシュー の現象を均質化・画一化する現象の中でローカルな文脈への影響や応答関係を描出し、その 変化の一般的モデル化をする傾向にある。しかしながら本研究が焦点を当てる、これら上記 (1)〜(3)の3つ文化・政治運動は、世界の均質化が引き起こすグローバル化現象とは異なり、 グローバル化現象が先住民をして自らのアイデンティティを再定義し、国民国家が求める同 化政策に抗して、言語的文化的多様性を担保しつつ、世界各地での帰属する国家との連携や 和解を求める動きとして捉えられる。したがって、本研究の学術的独自性と創造性は、グロ ーバル・スタディーズの新しい展開——本研究ではそれを「再構築」と呼ぶ——のためには、先 住民の視点と彼/彼女らの動きのなかから、現代のグローバル化の諸課題を考察することが 不可欠であること指摘した点にある。 申請者たちは、先住民からの視点と彼らの文化運動の実態の分析から、最終的には、先住 民の先住民による先住民のための、いわば新しい「先住民学」が構想される必要を感じてい る。すなわち、これらの成果が明らかになるとグローバル文脈のなかで、先住民をエージェ ンシーと捉えることが可能になる。また実践者としての研究者が先住民とのモラルコミット メントの枠組みを変化させることの契機としても期待できる。先住民による先住民ための学 としての新しい「先住民学」の教育の場をデザインする糸口まで到達することを実践目標に することが、もうひとつの本研究の創造性と指摘することができる。

(3) 本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか
本研究では、具体的には、文献的調査、先住民ならびに先住民出身の知識人・専門家への インタビュー・質的調査、そして民族誌学的方法を用いて、先住民が実践している(1)「遺骨 や副葬品等の返還運動」、博物館における先住民による文化提示の際の敬意への要求といっ た(2)「文化復興運動」、および先住民アイデンティティの復興のシンボルとなった(3)「先 住民言語教育運動」という、3つの大きなテーマの現状を探る。これが研究対象に相対して 「何をどのように」研究するかという点に相当する。研究対象地域は、日本(北海道、沖縄)と海外(台湾、ロシア、オーストラリア、北米、 中南米)のそれぞれの先住民(アイヌ、「ウチナンチュー」、ブヌン、ニブフ、オーストラ リア・アボリジニ、ネイティブ・アメリカン、マヤ、ケチュア等)である。またグローバル 化の進展により、もはや「土着民」という古典的概念は相対化されるため、研究対象と調査 地はマルチサイトなものになり、その他の地域も含まれている。研究代表者ならびに研究分 担者は、当該最低10年以上の調査キャリアを持ち、先住民運動に関連する論文、著作を多く 公刊している(テーマ・地域・担当の分担は下表のとおりである)。 研究の体制は、共同研究会での報告を通した「共同研究」と、各人が日本国内の所属機関 でおこないかつ旅費・日当を利用した現地の調査による「個別研究」からなる。本研究班は、 員数が10名であるが、(1)〜(3)の3つの文化・政治運動に関する各民族の動向を調査し、報 告・検討するためにおおまかに3つのセグメントに分ける。共同研究会の開催のほかに、日 本国内の先住民調査については共同研究やグループによる訪問調査をおこなう。またメーリ ングリストやテレビ電話会議(Skype, FaceTime)を活用して相互に研究交流を行う。なお、 このスタイルは本研究グループの過去の類似の申請時期に結成確立され、申請時時点でも過 去に複数回、実際に研究交流を行っている。

【作図】
以上の点を踏まえて、先住民の(1)「遺骨や副葬品等の返還運動」、(2)「文化復興運動」、 (3)「先住民言語教育運動」に着目し、「先住民の視点からの名指し行為」が、従来のグロ ーバル・スタディーズがもつ先住民像に反省と変更をもたらすという仮説を、先行研究の文 献渉猟とフィールド調査により明らかにすることが本研究の目論みである。それぞれの具体 的な着眼点は、(a)遺骨返還運動に関連する学問と先住民からの要求の位相、(b)言語復興運 動と先住民の社会的地位、(c)博物館展示をめぐる政治的交渉、(d) 博物館における文化を 表象する権利の動き、 (e) 先史考古学と近隣コミュニティの関係、(f) アイヌ言語復興運 動の現状と課題、(g)博物館における言語提示とその継承、(h)言語教育運動と文化復興運動 との接続、という8項目に分類され、すべての項目に検証を加えてゆくものとする。

2 本研究の着想に至った経緯など

(1)本研究の着想に至った経緯
研究分担者の太田による国立民族学博物館・共同研究会「政治的分類——被支配者の視点か らエスニシティ・人類学を再考する」(2014-2017年度)は、支配の対象として集団化され てきた人たちの視点から人種や民族(エスニシティ)を再考するプロジェクトであった。カ シュラン(カクチケル語)、シナクやシヌーラ(マム語)、ハオレ(ハワイ語)、シャモ (アイヌ語)、ヤマトゥ(シマクトゥバ[沖縄語])など、先住民が外部の人を名指しする 言葉の中には、敵意・反感・服従・差別などの対抗的な概念が付与されており、国民国家に 先住民が包摂されてもコロニアルな関係が今なお継続していることが明らかである。この研 究会はそのような名指しをローカルな人種や民族として捉える(=再定義する)ことをやめ、 その名指しをコロニアリズムへの反省へと照射し、他者と相対するための倫理の構築学とし て構想された(太田2015,2017)。研究代表者の太田の指摘はきわめて重要であると同時に、 人類学を含めた人文社会科学の脱植民地化のためには重要なプロジェクトをなす提案である と、申請者たちは受け止めている。

(2)関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ
さて、21世紀においてグローバル化(globalization)とは、世界の相互連関がこれまで以上 に強化されつつある世界を名指す概念となっている(e.g. Clifford 2013)。その世界は、情報 と物流と人の流れの流動化に伴いなんらかの秩序の(再)構築に向かっている。そこで、相 互連関が強化されるこの世界を分析する現状を把握しようとする分析的理性が、現状で起こ っている一方、それに抗う社会運動をグローバル化への保守的で後ろ向きのものとして捉え かねない状況がある。私たちが捉えようとしている、世界の先住民の存在もまた、自己の集 団的アイデンティティに基づき、ローカル性を体現するという理由により、研究者には時代 錯誤な印象を与え、民主的世界の構築に寄与していないと判断を下されている。たとえば、 先住民は土地に固執し、個別性を主張する集団だと見なされるような事柄である。 文化社会学やカルチュラル・スタディーズでは、グローバル化と親和性があると無批判に 想定された「ディアスポラ(離散)」や異種混淆が支配的であったことは否めない。同様の 想定のもとに、政治学では多文化主義、多様性(ダイヴァーシティ)などが積極的に理論化 されている。だが、それらの動向に反して、先住民は土地との絆を重視し、時代錯誤であり、 その世界観は本質主義的とみなされ、先住民からの視点は現代社会に理論的問題提起をしな いとされている。先住民との関係が深い文化人類学においても、学問が現在の先住民理解の 助けになるわけではない(cf. Kuper 2003, 2005;清水2012)。 これらのジレンマを打破するためのヒントになるのが、研究分担者の太田が組織した先の 共同研究会「政治的分類」であった。そこでの、脱植民地化プロジェクトの対象になるのは 本申請課題であるグローバル・スタディーズも例外ではなく含まれうる。さて、脱植民地化 の方法論と経路は単一なものではないだろう。アクション・リサーチはその手法の一つであ る。国内での研究者にはかつて「北海道における先住民族の「知」の接合に関するアクショ ン・リサーチ研究(26284135)」(研究代表者:小田博志:2014-2017年度)があった。最 終報告書は公刊されていないが、アイヌ当事者を研究協力者に加え、先住民言語や教育での国際学会などの成果があるものの受益者としてのアイヌ研究者〈対〉 提供者(スポンサー) としての研究者という応用人類学的枠組みを越えず、受益者への研究のイニシアチブの権限 委譲をモデルとするアクション・リサーチの理念を十分に満たしたものとは言えない。 本研究の位置づけは、アクション・リサーチが措定する研究者と被調査者の関係をブリッ ジするようなものではない。先住民が本研究テーマにあげた文化・政治運動の過程を通して、 これまでの研究成果の収集や展示という学術活動が、何が先住民にとって違和感があり不満 であり、研究者と先住民の間の非対称な政治的力学が浮かびあがるのを具体的に確認する。 そして、その指摘(名指し)行為が、これからの人文社会科学にとって、どのような反省的 契機になるのかを考察する。それゆえ、本研究課題は、これまでの他の研究プロジェクトに はない(a)独特の実践的企てと(b)倫理的スタンスを持っている。それは(a)先住民を研究する 研究者が研究を通した先住民との関わりのなかでそれぞれの学問の認識論を変更する試みで あり、(b)これまでの研究におけるまなざしの政治力学や立場を反省し、学問そのものを脱植 民地化することでもある。

(3)これまでの研究活動
本研究の申請者の半分は、(1)本研究の着想に至った経緯でのプロジェクト研究者が10人 中7名(7割)を占める。7割の研究者は、過去3年間にわたり「政治的分類」の研究会に従 事しており、研究期間が完了した2017年度後に、太田編による論集の公刊を予定している。 すなわち、本研究における研究の枠組みや本研究の倫理的スタンスに関しての合意はほぼ得 られており、残りのメンバーにも本研究上のコミュニケーションを通して合意を得られた。

(4)準備状況と実行可能性
準備状況については、本欄(1) と(3)で述べたとおりである。その実行可能性については、 1 研究目的、研究方法など(3)で述べたとおりである。さらに実行可能性を確実にするため には、研究の着地点後のアウトカムとして期待される本邦の大学・大学院で提供される新し い「先住民学(indigenous studies in Japan)」の構想の位置づけを示す。最後に本研究の弱点 と、それに対する対応策をあわせて示しておき、研究調査の確度をあげる予定である。

【作図】
※「先住民学」のカリキュラムについてはウェブ上(https://bit.ly/3uLlLYV)で試案を提示したが、研 究の進捗にあわせて今後内容を詰めていく予定。
研究を実施するにあたっての準備状況 およ び研究成果を社会・国民に発信する方法
(1) 本研究を実施するために使用する研究施設は、研究代表者の本務場所である大阪大学COデザイン・センターがある。北海道側では北海道大学アイヌ・先住民研 究センターが利用可能である。研究分担者も九州大学大学院比較社会文化研究院を研究連絡のための場所として提供することについて同意している。研究代表者 と研究分担者は、これまでの科学研究費補助金の取得歴とそれに関する民族誌的資料がある。研究班のメンバーは現地社会にも数年から10数年の長期的な友好 関係をもち、文化実践家とも知悉している。

(2)研究分担者の連絡調整の状況においては、これまでの科学研究費補助金のメンバーであるものが多い。また日本文化人類学会および日本ラテンアメリカ学 会でのシンポジウムや分科会、国立民族学博物館の共同研究会等で共に研究活動を続けてきた経験があり、研究者間の学術的かつ人間的関係は極めて良好であ り、すべての関係者がお互いに信頼して研究できる状態にある。

(3)本研究の研究成果を社会・国民に発信する方法。研究代表者はインターネットにより文化人類学のサイトを提供しており情報公開には鋭意努力をしてい る。

研究業績
2016以降
1.Kato, Hirofumi., Archaeological heritage and Hokkaido Ainu: ethnicity and research ethics, Archaeologies of ‘us’ and ‘them’. C. Hillerdal et al. eds., Routledge (in press).査読有
2.池田光穂「社会的健康とコミュニケーション:介入をめぐる公衆衛生と倫理について」保健医療社会学論集、27(1):62-72,2016、査読有
3. Mitsuho Ikeda and Suh, Sookja. From Where does Our Health Come?: The Sociology of Antonovsky's Salutogenesis. Communication-Design 14:83-93, 2016 査読有
4.太田好信「文化人類学と『菊と刀』のアフターライフ」『日本はどのように語られたか』桑山敬己編、Pp.31-56、昭和堂、2016、査読有
5.太田好信「ポストコロニアルになるとは?」『民博通信』154:10-11.2016,査読無
6.辻康夫「承認の政治と再配分の問題」『北大法学論集』67-3, Pp.312-348 2016、査読無
7.山崎幸治「在外アイヌ資料調査の経験から」、2016、伊藤敦規編『伝統知、記憶、情報、イメージの再収集と共有』国立民族学博物館調査報告 137.Pp. 109- 117.2016、査読有
8. Seki, Yuji. Participation of the Local Community in Archaeological Heritage Management in the North Highlands of Peru. Finding Solutions for Protecting and Sharing Archaeological Heritage Resources, Underhill, A.P. et al. eds., Pp.103-119, Springer. 2016 査読有
9.石垣直「交錯する「植民地経験」」三尾裕子ほか編『帝国の記憶』Pp.233-260, 慶應義塾大学出版会,2016,査読無
10.石垣直「現代台湾における原住民母語復興(2)教科書・教材内容の検討」『南島文化』 38:1-27,2016,査読有
2015
11.Suh, Sookja and Mitsuho Ikeda, Compassionate Pragmatism on the Harm Reduction Continuum: Expanding the Options for Drug and Alcohol Addiction Treatment in Japan, Communication-Design 13:63-72,2015.査読有
12.太田好信「見返され,名指される経験から生まれる反省」『民博通信』149:14-15, 2015、査読無
13.辻康夫「イギリスにおける社会統合政策と多文化主義:安達智史『リベラル・ナショナリズムと多文化主義』をめぐって」『北大法学論集』66-2, pp.391-402. 2015、査読無
14.加藤博文「アイヌ考古学とパブリック考古学」、『季刊考古学』第133号、雄山閣、pp.72-75、2015、査読有
15.山崎幸治「映像作品をめぐる対話—北海道における<アイヌと境界>展」高倉浩樹編『展示する人類学—異文化と日本をつなぐ対話』昭和 堂.Pp. 171-198.2015、査読無
16.丹菊逸治「アイヌと「民族」をめぐる誤解」『アイヌ民族否定論に抗する』岡和田晃ほか編、河出書房新社、pp231-247、2015、査読有
17.細川弘明「民族語の同時多発的な再生力」『オルタ』469号、アジア太平洋資料センター、2015、査読無
18.石垣直「現代台湾における原住民母語復興(1)諸政策の歴史的展開と現在」『南島文化』 (37) 1-24. 2015.査読有
基盤A・B(一般)—8
研究業績(つづき)
2014
19.池田光穂『生命倫理と医療倫理(改訂3版)』[共著]伏木信次・樫則章・霜田求編、金芳堂(担当箇所:第21章「医療人類学」Pp.224- 233)255pp.2014年、査読無
20.池田光穂『世界民族百科事典』[共著]国立民族学博物館編、丸善(担当箇所:「病気観と身体観」Pp.686-687;「民族表象と運動」 Pp.738-739)、816pp. 2014年、査読有
21.池田光穂「科学における認識論的アナーキズムについて」『現代思想』42巻12号、Pp.192-203、2014年、査読無
22.池田光穂「研究不正とどのように向き合うのか?:実践的審問」『質的心理学フォーラム』6巻、Pp.18-25、2014年、査読有
23.Ota, Y., , “Strange Tales from the Road: A Lesson Learned in an Epistemology for Anthropology.” The Challenge of Epistemology: Anthropological Perspectives.  Christiana Toren and Joao de Pina-Cabral, eds., pp. 191-206.  London: Berghan. 2014, 査読有
24.Brace CL, Seguchi N, et al, . The Ainu and Jomon Connection. Kennewick Man: The Scientific Investigation of an Ancient American Skeleton. Douglas W. eds., Texas A&M Press, College Station. pp.463-471. 2014, 査読有
25.辻康夫「ロック:宗教的自由と政治的自由」川出良枝編『主権と自由』岩波書店, pp.193-215. 2014年 査読有
26.Kato,Hirofumi, The Hokkaido sequence and the archaeology of the Ainu people”, in C. Smith ed. The Encyclopedia of Global Archaeology, Springer, New York, 2014, 査読有
27.関雄二「中米グアテマラにおける内戦の記憶と和解」小田博志・関雄二編『平和の人類学』pp.95-117、京都:法律文化社。2014,査読無
28.山崎幸治「境界を展示する—「アイヌと境界」展における試み—」『境界研究』特別号.pp.141-149.査読無.2014.
29.岩下明裕・木山克彦・水谷裕佳・山崎幸治「先住民という視座からの眺め」『図説ユーラシアと日本の国境ボーダー・ミュージアム』岩下明裕・木山克彦 (編著).北海道大学出版会.pp. 89-96. 査読無.2014.
30.石垣直「現代台湾における原住民族運動:ナショナル/グローバルな潮流とローカル社会の現実」『台湾原住民研究の射程』日本順益台湾原住民研究会 編、77-105.風響社、2014 査読無

2013
31. 池田光穂「ヘルスコミュニケーションの生命倫理学」Pp.234-256『医療情報』板井孝壱郎・村岡潔編、丸善出版(担当箇所:第12章)260pp, 2013.(査読有)
32. 池田光穂「情動の文化理論にむけて」Communication-Design, 8:1-34,2013.(査読有)
33. 太田好信「アイデンティティ論の歴史化—批判人類学の視点から」『文化人類学』第78巻2号、245-264頁。2013.(査読有)
34. 太田好信「アイデンティティと帰属をめぐるアポリア—理論・継承・歴史」『文化人類学』第78巻2号、198-203頁。2013(査読有)
35.Seguchi N and Heiner C. 2013. Differences in prevelence of Tuberculosis mortality among the Ainu and the Ethnic Japanese during the early Twentieth Century: Socio-Economic and political structural influences.『人種表象の日本型グローバル研究』京都大学人文科学研究所、Pp.14-28、2013、査読無
36.辻康夫「多文化主義理論の諸類型の検討」『法政理論』45巻3号、pp.35-59.2013年、査読無
37.Weber, A., Jordan P., and Kato H. Environmental change and cultural dynamics of Holocene hunter-gatherers in Northeast Asia: Comparative analyses and research potentials in Cis-Baikal (Siberia, Russia) and Hokkaido (Japan). Quaternary International, 290-291: 3-20, 2013,査読有
38. 関雄二「最初のアメリカ人の移動ルート」印東道子編『人類の移動誌』、臨川書店、pp.206-218、2013, 査読無。
39. 丹菊逸治「サハリン口承文学の地域差」『口承文芸研究 第三十六号』2013, 査読有
40.石垣直「先住民族運動と琉球・沖縄:歴史的経緯と様々な取り組み」沖縄国際大学編,『世変わりの後で復帰40年を考える』Pp.271-309,東 洋企画,2013, 査読無

基盤A・B(一般)—9
研究業績(つづき)
2012
41. 池田光穂編『コンフリクトと移民』池田光穂編10名執筆、大阪大学出版会、(担当箇所:「序論コンフリクトと移民:新しい研究の射程」Pp.3-30、 「第2章外国人労働・構造的暴力・トナンスナショナリティ」Pp.49-74、「第11章「コンフリクトと移民」を考えるブックガイド」Pp.303- 335)339pp,2012.(査読無)
42. 池田光穂「地方分権における先住民コミュニティの自治:グアテマラ西部高地における事例の考察、『ラテンアメリカ研究年報』(日本ラテンアメリカ学会, ISSN: 02861127)No.32、Pp.1-31, 2012.(査読有)
43. 太田好信『政治的アイデンティティの人類学』昭和堂、2012, 査読無
44. 太田好信『ミーカガン—沖縄県八重山地方の潜水漁民の眼からみた世界』 櫂歌書房2012,(査読無)
45.辻康夫「マイノリティと政治理論」、『政治思想学会会報』第37号、pp.1-5. 2012年 査読無
46.加藤博文ほか編『新しいアイヌ史の構築:先史編・古代編・中世編』、北海道大学アイヌ・先住民研究センター、221頁、2012、査読無
47.加藤博文ほか編『先住民文化遺産とツーリズム:アイヌ民族における文化遺産活用の理論と実践』、北海道大学アイヌ・先住民研究センター、160頁、 2012、査読無
48. 山崎幸治ほか編『世界のなかのアイヌ・アート』北海道大学アイヌ・先住民研究センター、2012, 査読無
49. 関雄二他2名編『アンデス世界 交渉と創造の力学』世界思想社、2012,査読無
50.細川弘明「アイヌ民族」「先住民族」『現代社会学事典』大澤真幸ほか編、弘文堂、2012年、査読無
51.石垣直「現代台湾社会をめぐる「求心力・遠心力」」『交錯する台湾社会』沼崎一郎ほか編Pp.101-137、アジア経済研究所、2012、査読有
2011以前
52. 関雄二「東京大学文化人類学教室のアンデス考古学調査」山路編『日本の人類学 植民地主義、異文化研究、学術調査の歴史』pp.517-571、関学出版会(無)、2011
53. 丹菊逸治「アイヌ異類婚譚における「守護神」--ニブフ民族の伝承との比較から」『和光大学表現学部紀要11号』p122-130、査読無、2011
54. 丹菊逸治「ニヴフ語の複数表示 —ポロナイスク方言の-gunの特殊用法」『北方人文研究 第5号』(北方言語ネットワーク編)査読無、2011
55. YAMASAKI, Koji “Sustainability and Indigenous people: A case study of the Ainu people,” Sustainability Science IV - Designing Our Future. Okazaki,M. et al., eds., United Nations University Press. (IR3S book series vol. 4). pp. 360-374. 査読有.2011.
56. 池田光穂『国際ボランティア論』内海成治・中村安秀編、ナカニシヤ書店、(担当箇所:「国際ボランティアと学び」Pp.26-40)186pp. (査読無)、2011
57. 池田光穂「拡張するヘルスコミュニケーションの現場」、『保健医療社会学論集』22(2):1-4(査読無)、2011
58. Ota, Y., “Strange Tales from the Road: A Lesson Learned in an Epistemology for Anthropology.” In The Challenge of Epistemology: Anthropological Perspectives.  Christiana Toren and Joao de Pina-Cabral, eds., pp. 191-206.  London: Berghan. 、2011 査読有
59.太田好信『トランスポジションの思想(増補版)』世界思想社、2010、査読無
60.太田好信『亡霊としての歴史』人文書院、2008、査読無
61.太田好信『人類学と脱植民地化』岩波書店、2003、査読無
62.太田好信『民族誌的近代への介入』人文書院、2001、査読無
1.- 池田光穂, 2017, 政治紛争のなかの先住民コミュニティ:グアテマラ・マヤ系先住民の文 化と自治、Co* Design、2:1-16.査読有 2.- 太田好信, 2017, 「先住民から学び、変容する学問をめざして」『民博通信』158号、20-21, 査読無 3.- KATO, Hirofumi., 2017. Archaeological heritage and Hokkaido Ainu: ethnicity and research ethics, Archaeologies of ‘us’ and ‘them’. C. Hillerdal et al. eds., Routledge.査読有 4.- Yasuo TSUJI, 2017, Supporting Migrant Youths in the Late-Modern Period”, OMNES, Vol.7, No.2, pp.190-198.査読有 5.- 関雄二, 2017「遺跡をめぐるコミュニティの生成—南米ペルー北高地の事例から」飯田卓 編『文明史のなかの文化遺産』pp.63-93、京都:臨川書店。査読有 6.- 太田好信, 2016,「文化人類学と『菊と刀』のアフターライフ」『日本はどのように語られ たか』桑山敬己編、Pp.31-56、昭和堂、査読有 7.- 太田好信, 2016「ポストコロニアルになるとは?」『民博通信』154:10-11.査読無 8.- 瀬口典子、シュミット・ライアンW. 2016, 皮膚色と頭蓋骨形態からみたヒトの多様性: 『科学と社会の知』竹沢泰子編、東京大学出版会pp. 215-242. 2016、査読有 9.- 山崎幸治, 2016,「在外アイヌ資料調査の経験から」、2016、伊藤敦規編『伝統知、記憶、 情報、イメージの再収集と共有』国立民族学博物館調査報告137.Pp. 109- 117.査読有 10.- SEKI, Yuji. 2016, Participation of the Local Community in Archaeological Heritage Management in the North Highlands of Peru. Finding Solutions for Protecting and Sharing Archaeological Heritage Resources, Underhill, A.P. et al. eds., Pp.103-119, Springer.査読有 11.- 石垣直,2016,「現代台湾における原住民母語復興(2 )」『南島文化』38:1-27.査読有 12.- 太田好信, 2015,「見返され,名指される経験から生まれる反省」『民博通信』149:14-15,査 読無 13.- 加藤博文, 2015,「アイヌ考古学とパブリック考古学」、『季刊考古学』第133号、雄山閣、 pp.72-75.査読有 14.- 山崎幸治, 2015,「映像作品をめぐる対話—北海道における<アイヌと境界>展」高倉浩樹編 『展示する人類学—異文化と日本をつなぐ対話』昭和堂.Pp. 171-198.査読無 15.- 丹菊逸治,2015,「アイヌと「民族」をめぐる誤解」『アイヌ民族否定論に抗する』岡和 田晃ほか編、河出書房新社、pp231-247.査読有 16.- 細川弘明・小林純子, 2015.「先住民族の20年を振り返って、そしてこれから」『先住民 族の10年News』210号、pp. 2-15.査読無 17.- 石垣直, 2015,「現代台湾における原住民母語復興(1)諸政策の歴史的展開と現在」 『南島文化』(37) 1-24.査読有 18- 池田光穂, 2014,『世界民族百科事典』[共著]国立民族学博物館編、丸善, 816pp.査読有。19.- OTA, Y.,2014, "Strange Tales from the Road: A Lesson Learned in an Epistemology for Anthropology." The Challenge of Epistemology: Anthropological Perspectives. Christiana Toren and Joao de Pina-Cabral, eds., pp. 191-206. London: Berghan.査読有 20.- Brace CL, SEGUCHI N, et al., 2014, The Ainu and Jomon Connection. Kennewick Man: The Scientific Investigation of an Ancient American Skeleton. Douglas W. eds., Texas A&M Press, College Station. pp.463-471.査読有 21.- KATO,Hirofumi, 2014, The Hokkaido sequence and the archaeology of the Ainu people”, in C. Smith ed. The Encyclopedia of Global Archaeology, Springer, New York,査読有 22.- 小田博志・関雄二編, 2014,『平和の人類学』京都:法律文化社。査読無 23.- 山崎幸治, 2014「境界を展示する—「アイヌと境界」展における試み—」『境界研究』特 別号.pp.141-149.査読無 24.- 石垣直, 2014,「現代台湾における原住民族運動」『台湾原住民研究の射程』日本順益台 湾原住民研究会編、77-105.風響社.査読無 25.- 太田好信, 2013,「アイデンティティ論の歴史化—批判人類学の視点から」『文化人類学』 第78巻2号、245-264頁。(査読有) 26.- 石垣直, 2013,「先住民族運動と琉球・沖縄」沖縄国際大学編,『世変わりの後で復帰40 年を考える』Pp.271-309,東洋企画.査読無 27.- 池田光穂編,2012,『コンフリクトと移民』他10名執筆、大阪大学出版会、査読無 28.- 池田光穂, 2012,「地方分権における先住民コミュニティの自治:グアテマラ西部高地に おける事例の考察、『ラテンアメリカ研究年報』No.32、Pp.1-31.査読有 29.- 太田好信, 2012『政治的アイデンティティの人類学』昭和堂.査読無 30.- 辻康夫,2012,「マイノリティと政治理論」『政治思想学会会報』第37号、pp.1-5.査読無 31.- 加藤博文・鈴木建治編, 2012,『新しいアイヌ史の構築:先史編・古代編・中世編』、北 海道大学アイヌ・先住民研究センター、221頁.査読無 32.- 山崎幸治・伊藤敦規編, 2012,『世界のなかのアイヌ・アート』北海道大学アイヌ・先住 民研究センター、査読無 33.- 細川弘明「アイヌ民族」「先住民族」,2012,『現代社会学事典』大澤真幸ほか編、弘文 堂.査読無 34.- SEGUCHI Noriko,他4名, 2011,An alternative view of the peopling of South America: Lagoa Santa in craniometric perspective. Anthropological Science119 (1): 21-38. 査読有 35.- 丹菊逸治, 2011,「アイヌ異類婚譚における「守護神」--ニブフ民族の伝承との比較か ら」『和光大学表現学部紀要11号』p122-130.査読無、 36.- YAMASAKI, Koji 2011, "Sustainability and Indigenous people: A case study of the Ainu people," Sustainability Science IV - Designing Our Future. Okazaki, M. et al., eds., United Nations University Press. (IR3S book series vol. 4). pp. 360-374. 査読有.. 37.- 太田好信, 2010,『トランスポジションの思想(増補版)』世界思想社.査読無 38.- 太田好信, 2008,『亡霊としての歴史』人文書院.査読無 39.- 太田好信, 2003『人類学と脱植民地化』岩波書店.査読無 40.- 太田好信, 2001『民族誌的近代への介入』人文書院.査読無。
これまでに受けた研究費とその成果等
【科学研究費補助金】
●基盤研究(C)2015〜2018年度「先住民性が 可視化する白人性に関する比較研究」太田好信(本研究課題の研究分担者)直接経費(205年900千円,2016年900千円,2017年900 千円,2018年600千円)

 本研究は、先住民運動の中心にある先住民性という概念を、米国ハワイ州、沖縄県、北海道という三つのフィールドにおける支配的多数派との関係を考察する ことにより可視化する。先住民性と先住性とは異なり、コロニアリズムという歴史を開示する。ハオレ(カナカ・マオリが白人入植者を呼ぶ名)、ヤマトゥ(沖 縄の住民が日本本土人を呼ぶ名)、シャモ(アイヌから和人を呼ぶ名)は、リベラル民主主義国家では、時代遅れのナショナリズムとして扱われがちだが、それ らの意義を先住民の視点から解明する。

【成果と意義】「本研究は、人種から遊離し、暗黙の前提となっている視点を白人性と 呼ぶことから出発した。近年、先住民(族)という表現をしばしば耳にするようになっているが、白人性と先住民性との関係を考察した。先住民性は、白人性を 入植者植民地主義としてとして意識することを可能にする。本研究では、ハワイ先住民主権運動、アイヌ民族運動、琉球独立論の比較検討をおこない、白人性と 先住民性との関係を明らかにした。/近年、日本ではアイヌ民族が先住民族として認められ、また大規模なアイヌ民族博物館も建設されつつある。先住民(族) は、過去に存在した人びとではなく、近代を生きるわたしたちの隣人であり、歴史的にみても、日本を構成する大切な人びとと再認識されている。しかし、残念 ながら、先住民(族)と国家の歴史を捉える視点は、十分に国民の間では広がっているとはいえない。博物館は過去の遺物の展示という印象も与えてしまうこと もあり、今後はアイヌ民族や琉球民族の存在を同時代の人びと、隣人と捉え、相互理解を進めてゆくべきであろう。本研究はそのような社会的貢献を目標として いる


●基盤研究(C)2011〜2014年度「ポストヴァ ナキュラー論構築の試み」研究代表者:太田好信(本研究課題の研究分担者)直接経費(2011年1,100千円,2012年900千円,2013 年900千円)

 ポストヴァナキュラー論の観点から、グアテマラ・マヤ系言語、アイヌ語の言語研究・言語復興運動、ハワイ日系人の日本語教育運動などの比較研究が進行中 である。言語共同体を完全に喪失した言語の復興の課題が明らかにされ、コミュニケーションの手段と一義的に定義されてきた言語が、断片化された価値を象徴 的に表現する可能性を新たに持ちうるという社会的機能の発見等、篤実に成果があがっている。それゆえ、この研究の成果の延長上に、メソアメリカのマヤ系先 住民研究者とアイヌ研究者が連携や「対話」を試みようとする本研究課題に関する基本的アイディアを提供していると評価できる。

【成果】「20世紀を通して、国民国家形成から脱植民地化までを牽引してきたのは、 言語、文化、アイデンティティが一体化した「ヴァナキュラー論」である。だが、これに代わり、21世紀の現代社会における複雑な社会集団の現状を把握する ため、言語、文化、アイデンティティ間にある新しい関係を想定する「ポストヴァナキュラー論」を提示した。

●基盤研究(B)2010〜2013年度「中米先住民 運動における政治的アイデンティティ:メキシコとグアテマラの比較研究」研究代表者:池田光穂(本研究課題の研究代表者)直接経費(2010年度 3,500千円,2011年度3,100千円,2012年度3,100千円,2013年度2,800千円)

 メキシコおよびグアテマラの先住民(先住民族)について、彼/彼女らを本質主義的な文化的アイデンティティの担い手とみるのではなく、周縁化による排除 から自らの権利行使としての国政への参加や存在の文化的顕示の実践、すなわち先住民の政治的アイデンティティの主体(およびその構築)という観点から捉え 直すことがこの研究の目的である。言語復興運動における先住民が果たす社会的役割の意義や、地方自治や自警活動、国政への参画などの調査結果は、本研究課 題が模索している先住民族の文化実践家の今後の課題などの研究に役立つはずである。

【研究概要】「私たちの研究は、メキシコとグアテマラ両国における先住民(先住民 族)について、先住民運動の中にみられる政治的アイデンティティについて現地に赴く民族誌調査を通して明らかにしてきた。具体的には、世界の他の地域での 民主化要求運動、すなわち自治権獲得運動、言語使用の権利主張や言語復興、土地問題、国政への参加、地方自治などの研究を通して、(a)外部から見える社 会的な政治文化としての「抵抗」の実践と(b)内部の構成員から現れてくる文化政治を実践する際の「アイデンティティ構築」という二つのモーメントと、そ の組み合わせのダイナミズムからなる資料を数多く得ることができた

●基盤研究(B)2005〜2007年度「先住民の文 化顕示における土着性の主張と植民国家の変容」研究代表者:太田好信(本研究課題の研究分担者)直接経費(2005年度4,700千円,2006 年度4,200千円,2007年度4,500千円)

 過去20年近く先住民(先住民族)たちの政治活動は活発になってきた。この研究課題は、先住民運動が活発であるラテンアメリカと太平洋地域において、国 家と先住民がお互いに土着性の主張をめぐり競合する状況を解明することにあり、ラテンアメリカやニューカレドニアにおいて、土着性は先住民が国家の市民で ありながら、同時に文化と政治を横断する数少ない概念であり、ラテンアメリカと太平洋地域では先住性が主題化され文化の政治化が著しく進行していることが 判明した。この研究課題を遂行途上にて、2007年の国連における「先住民族の権利に関する宣言」がなされ、我々の研究は、文化の政治化の概念が重要であ ることが確認された。このテーマは、3年後に採択されることになる「中米先住民運動における政治的アイデンティティ」の研究に多いに影響を与え、かつ先住 民族における言語や文化復興運動の意義をより一層強調することになった。

研究概要:「近代国家内では、先住民は消滅してしまったという進歩の物語に抗するよ うにして、ここ20年近く先住民たちの政治活動は活発になってきた。本研究の目的は、先住民運動が活発であるラテンアメリカと太平洋地域において、国家と 先住民がお互いに土着性の主張をめぐり競合する状況を解明することであった。独立後近代国家内部に先住民を抱え込むことになるラテンアメリカやいまだ完全 に脱植民地化を達成していないニューカレドニアにおいて、土着性は先住民が国家の市民でありながら、同時に自らの文化的独自性を主張できる(文化と政治を 横断する)数少ない概念である。本研究の成果として、ラテンアメリカと太平洋地域では文化の政治化が著しく進行していることが判明した。たとえば、エクア ドルの二言語教育では、国家の多文化主義政策が、先住民たちの文化に基盤をおいた主張を回収し、先住民の承認が完了しているかのような印象を与えている。 グアテマラでも、文化遺産は国家の管理対象なのか、それともマヤたちの現在に帰属するのか、いまでも論争の的になっている。ニューカレドニアでも、カナ ク・アイデンティティの承認は、ニューカレドニア独立派を分断する事態となっている。これからの課題として、先住民が新自由主義(経済)や多文化主義によ り再編されている国家内で、どのようにして先住民として生き抜くのか、先住民の現在から未来へと向けた活動に着目する必要がある



人権の保護および法令等への遵守への 対応
・本研究は、日本および海外での現地 調査 を予定しているため、参与観察、インタビュー、民族誌的データの収集等において、個人のプライバシーに関わる情報を取得する可能性を有する。
・人類学の歴史において先住民との関わりにおいて、さまざまな社会的影響や問題についての議論(e.g.泉靖一;祖父江孝男;本多vs.山口論争)があ り、つねに細心の注意をもって、また国内外の研究倫理上の諸成果をつねに反映させる体制で臨む。
・研究情報の保護に関しては、調査対象者に文書および口頭において、事前に確認をとり、被調査者との信頼性を確保することに努める。また、データを記載し たフィールドノートならびにパーソナル端末等は管理を厳格にして漏えいがないように努める。また研究発表に関しては、個人情報と当人とが「連結可能」にな る危険性をもつ場合は、必ず本人に照会するようにする。
・これらの調査上における個人情報の保護と、文化人類学者としての研究上の責務に関しては「日本文化人類学会倫理綱領」(www.jasca.org/onjasca/ethics.html) に記載されている理念を本研究に関わるすべての人と共有するように努める。また、この要綱は研究の各年度の初回の会合・集会のごとに(事前にメールあるい は)印刷配布して、倫理上のミスコンダクトがおこらないように留意する。研究代表者はウェブで「研究倫理入門」を公開しているが、この研究での最新情報を 適宜紹介するようにつとめ人類学研究の説明責任と倫理について内外に啓蒙活動をしている。
・研究代表者が所属する大阪大学COデザイン・センターには、研究倫理委員会が設置されており、研究が採択されることがわかった時点で、審査のための具体 的な調査項目に関する研究計画書を別途作成し、その研究倫理上の審査を受けるものとする。
1.本研究は、日本および海外での訪 問調 査を予定しているため、参与観察、インタビュー、 民族誌的データの収集等において、個人のプライバシーに関わる情報を取得する可能性を有 する。
 2.とりわけ先住民族研究においては、人類学ならびに隣接分野の研究の歴史において、さ まざまな社会的功罪について議論があり、つねに細心の注意をもって、また国内外の研究倫 理上の諸成果をつねに反映させる体制で臨む。
 3.研究情報の保護に関しては、調査対象者に文書および口頭において、事前に確認をとり、 被調査者との信頼性を確保することに努める。また、データを記載したフィールドノートな らびにパーソナル端末等は管理を厳格にして漏えいがないように努める。また研究発表に関 しては、個人情報と当人とが「連結可能」になる危険性をもつ場合は、必ず本人に照会する ようにする。
 4.これらの調査上における個人情報の保護と、それぞれの分野としての研究上の責務に関 しては「日本文化人類学会倫理綱領」(www.jasca.org/onjasca/ethics.html);アメリカ人類学 連合Code of Ethics (https://goo.gl/8XgQwm),「人類学の研究倫理に関する基本姿勢と基本指針 (日本人類学会)」(http://anthropology.jp/assets/docs/kenkyurinri.pdf);「日本考古学協会倫 理綱領」( http://archaeology.jp/proceedings/rinrikoryo.htm) ; 「日本社会学会倫理綱領」 ( http://www.gakkai.ne.jp/jss/about/ethicalcodes.php ) ; 「日本政治学会倫理綱領」 ( http://www.jpsa-web.org/doc/kitei/kitei_rinri.pdf ) ; 「日本国際政治学会」 (http://jair.or.jp/documents/code_of_ethics.html)に記載されている理念を本研究に関わるすべ ての人と共有するように努める。これらの要綱は研究の各年度の初回の会合・集会のごとに (事前にメールあるいは)印刷配布して、倫理上のミスコンダクトがおこらないように留意 する。したがって、この調整過程は、学際研究における研究倫理のあり方に対する提言ある いはモデル化としても位置づけることができる。
 5.研究代表者が所属する大阪大学COデザイン・センターには、研究倫理委員会が設置さ れており、研究が採択されることが判明した時点で、審査のための具体的な調査項目に関す る研究計画書を別途作成し、その研究倫理上の審査を受けるものとする
研究経費の妥当性・必要性
1. 設備備品では、本研究を遂行する上で必要な支出項目とその金額を算定して、「先住民と人類学の関係性関連文献」を初年度以降3研究機関に収書することと し、1機関あたり平均して40冊、40冊、20冊、10冊(単価見込8千円)の年度により低減する購入にあてた。消耗品費については必要かつ最小限の文具 雑費を見込んだ。
2.国内旅費については、各年、研究分担者による(北海道大学で開催を予定している)国内調査旅費と研究会出席および研究打合旅費を計上した。最終年度 は、アイヌコミュニティを交えた公開シンポジウムを予定しているために国内移動の費用を計上している。これらは研究を円滑に遂行するための適切なインター バルと回数であると査定した。
3.海外旅費については、現地調査費(目的地は「研究目的及び研究計画の概要」等に記載)をそれぞれの研究者の旅程にあわせて計上している。海外調査計画 は安価でかつ安全な経路の最安値のものであり、また日数も成果をあげるための適切な期間を、これまでの現地調査の結果から設定している。それぞれの研究者 とも、現地社会の言語・文化・最新の治安情報については知悉しており、海外のカウンターパートとなる研究者や現地情報提供者とのラポールが良好である。
4.人件費・謝金については、研究代表者が所掌する連携研究者への旅費計算・支払い手続等の事務処理のために不可欠な時間と人員を確保するとともに、必要 かつ最小限の支出に抑えてある。研究協力謝金は、国内および海外の情報提供者ならびに専門知識の提供を求めるために計上した。
5.科学研究費補助金の趣旨に鑑み、それぞれの研究者は勤務地でのエフォート管理にもとづき、その施設のファシリティや機器を使える条件にあり、その他の 費用は必要かつ最小限に設定している。それらの項目を含む、すべての各項目が研究経費の90%を超えることはない
国内旅費は、日本国内における先住民 によ る文化返還運動の実態把握と関係者への聞き取り、ならびに現地での打ち 合わせに関する共同研究のための費用である。外国旅費は、海外のそれぞれの研究代表者・研究分担者が関係をもつ 先住民団体協会への訪問調査、および最終年度の海外成果発表のための旅費である。人件費は、資料整理や録音の筆 耕等への事務謝金、論文校閲のための費用、ならびに専門知識提供への研究協力謝金からなる


先住民の視 点からグローバル・スタディーズを再構築する領域横断研究【2020年度報告】  
■当初計画では、令和2(2020)年度は、(A)この研究班のそれぞれの研究分野における、先住民(先住民族)を対象とする現在の研究倫理要綱の情報を 入手し、先住民を研究対象とする調査研究の際に、どのような新たな課題が生まれるのか、また、グローバルな比較研究の中で、より一般性を持たせるためには どのような観点の導入が必要なのかを、全員で検討する、というものであった。また、その成果を踏まえて、(B)令和元(2019)年度から着手している、 先住民学のシラバス構成について、アイヌ・先住民学専修を参照にしつつ、個別の授業科目のモデル・シラバスを各人、1あるいは2科目つくり、それらを総合 した先住民学入門の確立と定着をめざす提言をして、研究の区切りをつける計画であった。しかしながら、新型コロナウイルス感染流行と、それに伴う政府や大 学機関による国内外への移動制限や、オンラン会議化への移行措置のために、研究計画は、それぞれの研究班員の個別業績の蓄積にとどまり、当初計画を完遂す ることができなかった。ただし、研究班がかかわる、国立のウポポイ(民族共生象徴空間)の開館、先住民学のさらなる研究拠点形成のための共同研究事業や市 民向けのセミナー、琉球遺骨返還運動への関わりを通して、本研究課題をさらに進展させるためのさまざまな動きがあった。そのために、研究最終年度をさらに 1年延長し、オンラインによるイベント事業や報告書等をまとめるための年度にするために、準備を進めた。そのため、(A)研究倫理を整備することについて は、オンラインイベント開催をもって、その成果を報告し、(B)モデルシラバスに関しては、年度内に報告会を開催し、研究班の有志による報告書のとりまと めを計画するという合意を得た。


先住民の視 点からグローバル・スタディーズを再構築する領域横断研究【2021年度報告】
■令和2(2020)年度末をもって、研究代表者・池田と分担者・瀬口を除き、研究分担者の研究を終了した。研究を当該年度で終了した業績に関しては最終 報告でとりまとめる。令和3(2021)年度の池田は先住民を研究対象とする調査研究の倫理について考察すると共に先住民学のシラバス構成について、アイ ヌ・先住民学専修を参照にしつつ、個別の授業科目のモデル・シラバスのためのカリキュラム試案をつくりそれぞれの成果をウェブで公開した。瀬口は、明治以 来のアイヌ遺骨収集、1980年に本格的に始まったアイヌの遺骨返還要求、政府の遺骨返還指針に至るまでの歴史を中心に調査し、アメリカのNAGPRAの 歴史を交えながら調査内容をまとめた。とりわけ、米国でのNAGPRA施行後の30年の間に研究者と先住民はお互いに信頼関係の構築に努め、先住民が提案 するリサーチクエスチョンに基づき協働研究を続けており、NAGPRAによる返還は研究を阻止したわけではなく、隣接分野も含めた脱植民地化の過程にある ことが明らかにされた。またそれらの成果を第91回アメリカ生物人類学会大会でのシンポジウムEthics in the Curation and Use of Human Skeletal Remainsにおいて瀬口は発表した。池田と瀬口は京都地裁で公判中である琉球遺骨返還請求訴訟団の主催するシンポジウムに参加し、脱植民地化に貢献し つつある米国のNAGPRAの経験から、日本における遺骨返還の停滞が打開される可能性について議論をもった。それにより日本の人類学会や考古学協会が、 調査対象になっている先住民や地域住民に対して、人道的配慮を欠き、未だ研究優先の傾向があることが明らかになった。

【緒言】この【左側のコラムの】プロジェクトは、平成29年度科学研究費補助金・基盤研究(B)に申請して、落選したものである。研究班の メン バーと周到な計画を たててほ とんど無理のない計画に仕上げたつもりであるが、審査員からは承認されなかったようだ。今日では、審査員が守秘義務を守らないとか、研究の先取権を不当に も横取される(→これは明確な「研究不正」であるのであ らかじめ警告しておく) ケースもあるので、ここで、公開し類似のプロジェクトへの剽窃を防ぐものである——これは言うならば(先に情報公開をおこない、研究手法法の透明化、公正 化をインタネットコミュニティに示す)一種のアナログ的な「ブ ロックチェーン」的措置である。

●国際的な取り組みの例:World Archaeological Congress, WAC.

"WAC is committed to diversity and to redressing global inequities in archaeology through conferences, publications and scholarly programs. It has a special interest in protecting the cultural heritage of Indigenous peoples, minorities and economically disadvantaged countries, and encourages the participation of Indigenous peoples, researchers from economically disadvantaged countries and members of the public."

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●これまでの挑戦の記録等はこちら「作業ファイル:先住民の視点か らグ ローバル・スタディーズを再考する

リンク(サイト外)

リンク(研究者所属のサイト)——データ当時です

  • 大阪大学COデザインセンター
  • 九州大学大学 院・地球社会統合科学府(教育組織)・比較社会文化研究院(研究組織)
  • 北 海道 大学公共政策学大学院
  • 北海道大学 アイヌ・先住民研究センター
  • 国立民族学博物館・研究
  • 京都精華大 学・人 文学部
  • 沖縄国際大学・総合文化学 部
  • 文献(上記「研究業績」を参考のこと)
  • Naohiro Nakamura, Cultural affiliation is not enough: the repatriation of Ainu human remains. Polar Record, 53(2):220-224, DOI: https://doi.org/10.1017/S0032247416000905
  • Us and them : archaeology and ethnicity in the Andes / edited by Richard Martin Reycraft, Cotsen Institute of Archaeology, University of California (2005)
  • その他の情報

    Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099


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