先住民コミュニティにおけるデジタルトランフォーメーション
(あるいは先住民レトリックそのもののデジタルトランスフォーメーション)
Digital Transformation
in Indigenous Communities
☆2026
年科学研究費補助金基盤(C)に応募して不幸にも落選した申請書である。この審査に関わった審査員たちの力量を「測量」するために、落選した申請書(一部)を公開
する。
| (概要) |
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| 本研究課題「デジタルテクノロジー(DT)はどのように先住民表象を再
形成したか:事例比較研究」は、近年のAIを含めた情報通信技術(ICT)の進展が、先住民を表現する形式すなわち先住民表象をどのように変容=再形成
(re-shaping)させているかを明らかにする。先住民表象には、(1)自らの集団を表現する自己表象と[国際社会からを含めて](2)他者から表
現される他者表象に分けられるが、実証研究調査を通してそれらの関係を明らかにすることを旨としている。なおDTの導入以前の過去の先住民像は、この研究
における(a)ベースラインすなわち変容する以前の状態をさし、DT導入後の現在の状態を(b)変容後の表象像と定義する。 |
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| (本文) |
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| (1)本研究の学術的背景や着想に至った経緯、研究課題の核心をなす学
術的「問い」 |
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| 毎年8月9日は国連が定める国際先住民デーであるが2025年のテーマ
は「先住民と人工知能」である。しかし周知のようにAIを含めたデジタルテクノロジーが非先住民社会と対等に利用されているのではない状況が厳然としてあ
る。すなわちUNESCO Issue Brief
によると「74カ国308人の先住民メディア関係者のうち30%、41カ国128人の非先住民メディア関係者のうち26%が、デジタルメディア環境への完
全な参加において大きな障壁に直面していると回答」している。国連先住民問題に関する常設フォーラム(UNPFII)第22会期では、国連機関と先住民の
パートナーシップのもとで先住民とメディアに関する調査を実施するように勧告され。翌年にUNESCOは調査結果を集計し『先住民とメディア』という報告
書が公開された(UNESCO
2025)。そこでは、先住民メディアは、先住民自身により創られ管理されることが謳われている。また、外部からの調査研究を含むジャーナリズムは、先住
民メディアの特徴であるアドボカシー、異文化コミュニケーション、コミュニティエンゲージメント、さらには開発のためのコミュニケーションに加え、真実
性、公平性、正確性、ならびに説明責任という機能が強調されている。それが本研究課題の学術的問いの背景にあり、調査と「対話」を通して先住民自身が先住
民像の現在を外部に伝えていくことに実践的に応えようとする。 |
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| (2)本研究の目的および学術的独自性と創造性 |
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| 本研究の目的は、近年のAIを含めた情報通信技術(ICT)の進展が、
先住民を表現する形式すなわち先住民表象をどのように変容させているかを明らかにするものである。また本研究の学術的独創性は、(a)先住民のメディア利
用による自画像の変容=再形成(re-shaping)に注目した点にある。なぜデジタルテクノロジーを利用した「先住民の自己像の提示」が科学技術社会
学の研究において重要になるのだろうか。それはメディア技術支援のツール(media-technology assisted
tools)が先住民の自己表象とアイデンティティの形成に寄与し、彼らの社会運動の行方を左右する要因になっているからである。Nancy
Frazer(2000)は「承認を再考する」論文のなかで、文化的アイデンティティを優先するアプローチは、経済的再配分を犠牲にして、集団のこれまで
の定義を再考させ、社会的正義の概念を相対化することで問題が生じると指摘している。他方、経験科学としての社会学は、まず先住民自身が抱くアイデンティ
ティの多元性やそれらの要素間のダイナミズムに着目すべきである。そのため、メディアのなかに現れる先住民集団の自己提示(Goffman
1959)の分析とその理論的議論が欠かせない。研究代表者の池田は『世界民族百科事典』(丸善
2014)の「民族表象と運動」の項目を執筆し、民族や民族表象の定義や規定をする際に、本質主義(essentialism)的なものよりも構成主義
(constructivism)的なことが民族運動の当事者たちにおいても採用される傾向が増加し、一度何らかの理由で廃絶した伝統文化が復興される際
には、現実には想像的に復元されたにも関わらず、当事者自身にも本質主義的なものとして普遍的な価値が主張されることを指摘した。文化の客体化
(objectification)ないしは再領域化(re-territorialization)と呼ばれる現象である。 |
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| 本研究創造性の二番目は、それが(b)先住民の脱植民地化の世界的なト
レンドの一環であることである。先住民による脱植民地化(decolonization)とは、先住民のコミュニティの歴史や、植民地拡大、人種差別や性
差別、文化同化、搾取的な西洋の研究、そしてジェノサイドを含む文化的抑圧化の影響に関する物語を収集編纂し、彼らが帰属する国家に対する先住民の側から
の理論的かつ政治的プロセスを指す(太田
2003)。脱植民地化に取り組む先住民は、一般的には西洋中心の研究手法や言説に対して批判的な立場を取り、︎知識を先住民の文化的な慣習の中に再配置
しようとしている——それは「交差する闘い」でもある(Smith
2016)。他方、西洋の政治思想の構造に依存する脱植民地化の取り組みは、逆説的に文化的所有権の国家[=支配民族]による剥奪をさらに進めるものとし
て特徴づけられることもある。この文脈において、先住民の実践が政治的な承認に直接に結びつかないとしても、独立した知的、精神的、社会的、物理的な回復
と再生の取り組みを行うべきであるという呼びかけは結果的に広がる。デジタルテクノロジーはこのプロセスにいかなる影響を与えるのかが問われている。 |
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| (3)関連分野の研究動向と本研究の位置づけ |
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| 世界の先住民は、DTやICTの利用に関して複雑でしばしば逆説的な状
況に直面している。ICTはエンパワーメントと文化保護のための重要な機会(Meadows
2009)を提供する一方で、インフラ、デジタルリテラシー、文化的流用に関連する根強い課題が、重大な「デジタルデバイド」を生み出している
(UNESCO 2025)。 |
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| このような状況のもとで、デジタルテクノロジーを通した先住民像の形成
に寄与しているのは、西洋世界を中心とした先住民の参加度の低い投稿型SNSのメディア産業であり、その表象の消費者も圧倒的に非先住民の比率が高い。つ
まり先住民表象管理のヘゲモニーを握っているのはグローバル化したメディア産業であり、その市場の大部分も非先住民向けである。だがICTの普及は先住民
発の表象の流通を促すだけでなく、先住民に対してその情報発信の力(ちから)も授けることもある。先住民とデジタルテクノロジー(DT)の関係が深くなっ
たのは、ミレニアム以降のここ四半世紀とりわけ近年の10年間で急速に進んだ。しかし、それは利用効率を調べるアンケートやコミュニティ内部でどのような
変化を起こしたのかの事例報告をおこなうジェネラルサーベイがほとんどであった。例外として、メキシコのサポテク先住民が自らの携帯電話ネットワークを構
築したコミュニティ連携に関するエスノグラフィーがある(Gonzales
2020)。それ以外にも、先住民の政治的発言に字幕がつき、吹き替え音声で、先住民のメッセージを直接聞くことができる。他方それは治安当局に証拠とし
て採用され不当弾圧の口実にされることもある(Doe and Smith 2022; Brown 2023; White 2024)。 世界の先住民がメディアを使いさまざまな情報発信をしていることは周知の事実で、脱植民地化方法論(Rigney 1997; Smith 2016; Watson 2016)、ラジオ活用(Cojti et al. 2019; Rodríguez 2007; Tudesq 2002)、代替政策メッセージ(Amolef 2014; Carlson et al. 2021)、植民地主義と国際法(Watson 2016)などの事例報告がある。また対象地域も、オーストラリア、アフリカ、スカンジナビア、ラテンアメリカ、東南アジアなど広域にわたっている。 さて日本での研究はまだ端緒についたばかりであるが、日本の研究者たちが学術雑誌『季刊民族学』(189号, 2024)の特集号「先住民のデジタル世界」に寄稿している。そこには文化人類学者を中心として9本の論文が収載されている。しかしながら、本研究課題の ように先住民表象がICT時代に突入後にどのように変貌したのか、また、先住民のZ世代のネット利用が、非先住民のそれとどのような利用の違いがあるのか についてはよく知られていない。探索の方法論の開発とともにその利用実態についての質的な情報の収集が求められるのみでなく、アクターネットワーク (Akrich 2023 ; Latour 2005[2019])などを援用したメゾレベルでの理論分析が急務である(引用文献リストは https://x.gd/SlQBM にある)。 |
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| (4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか |
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| 研究題目「デジタルテクノロジーはどのように先住民表象を再形成した
か」にあるように、本研究は、先住民の人たちが直面している社会課題に対処しているなかで、対内的また対外的に「先住民であること」という自画像をどのよ
うに提示しているのかについて、質的に明らかにすることである。そのなかで先住民が利用するデジタルテクノロジー(DT)の導入は、先住民像をどう変えた
のか/変えていないのかに着目する。そのためDTの導入以前の過去の先住民像は、この研究における(a)ベースラインすなわち変容する前の状態のことをさ
し、DT導入後の現在の状態を(b)変容後の表象像と定義する。以下に述べる、研究対象地域と集団の(a)と(b)の変化には、DT導入という外部からの
影響だけでなく、現地社会の先住民の側の主体的な関与も大きな影響を与えるので、固有の社会背景についての情報収集は不可欠だ。 本研究は、研究班のメンバーが知悉しているフィールドと研究協力者のネットワーク形成によるインタビューと現地調査にもとづく実践とも言える。その対象 は、台湾におけるエコツーリズム開発を中心としたSDGs地域開発、南米エクアドルにある先住民文化教育大学 Amautay Washi の教育実践、コスタリカでNが継続して調査をおこなっているブリブリ先住民居住区、そしてYを中心としたフィリピン先住民NGO団体(ICCAs)を中心 とする計画である。その統一した研究テーマは、地域開発のDT利用形態と先住民アイデンティティ形成(IIF)ならびに、先住民文化教育大学におけるDT 教育の事例分析、および先住民居住区における生態的知識(Traditional Knowledge, TK)の広報戦略とその実際のアウトカム評価(=ICT教育一般における質的な評価指標を本研究用に流用するために独自に開発する)である。 ![]() |
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| (5)本研究の目的を達成するための準備状況 |
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| 研究代表者の池田は2010-2014年科研費基盤(B)「中米先住民
運動における政治的アイデンティティ:メキシコとグアテマラの比較研究」を得てメソアメリカ地域の先住民の民主化要求運動、すなわち自治権獲得運動、言語
使用の権利主張や言語復興、土地問題、国政への参加、地方自治などを調査した。さらに2018-2022年科研費基盤(B)「先住民の視点からグローバ
ル・スタディーズを再構築する領域横断研究」を通してそれまでのグローバル研究が近代の普遍化が前提とするような自体が先住民には起こっていないことを明
らかにした。すなわち、2007年国連先住民権利宣言(UNDRIP)以降の先住民運動は、ICTなどの共通のコミュニケーションツールを用いながらも、
グローバル化は、決して世界の均質化を引き起さず、むしろ文化の多様性の尊重と独自性に関する歴史的反省を全世界に発信している実態を明らかにした。第二
のプロジェクトが終了したその年、国連先住民問題に関する常設フォーラムから先住民とメディアに関する調査が提案され、今後の先住民問題の課題のあぶり出
しと解決むけての議論では、先住民のメディア利用が重要になりつつあることがわかる。そのため、上記の表の「関係機関・関係者」には、池田(台湾、エクア
ドル)、N(コスタリカ)、Y(フィリピン)の各メンバーはすでに連絡をとりつつあり内諾等は得ている。 |
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| (6)本研究がどのような国際性を有するか。 |
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| 本研究は、広域的なジェネラルサーベイではなく、ピンポイントの民族誌
的記録収集(エスノグラフィー)の方法を取る。つまり各先住民の集団や団体が具体的にどのようにデジタルテクノロジー(DT)を利用して、他者表象を提示
すると同時に、創られた(あるいは再形成された)自己表象をパフォーマティブに実践しているかの実態解明を試みる。とりわけ2020年以降のZ世代を含む
先住民集団のIC利用戦略の概観を把握することに注力してゆく。Onjewu et al.
(2024)によるZ世代の利用形態の英国とナイジェリアの比較研究では、ビデオゲーム、インターネット検索、スマートフォン利用のうち、ネット検索のみ
が学習の効果に優位な影響を与えている。つまり生成AIのようなDTに依存する学習には効果があるどころか非先住民へのステレオタイプ生成にも加担する可
能性があるが、そこから自由になることの方途としての民族誌的方法を強調したい。例えばSNSやSMSの文字数を縮減して現地語と英語の新造語創造があ
り、その世界流通をSNS等を使って報告することは単純なステレオタイプに警鐘を鳴らすことにつながる。先住民ネットユーザーと研究者は、かつて指摘され
た「グローバル村」(McLuhan 1962)化のヴァージョンアップを夢見ているはずだろう。 |
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| 2 応募者の研究遂行能力及び研究環境(省略) |
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| 3 人権の保護及び法令等の遵守への対応 |
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| 1.本研究は、文献図書調査、フィールドワーク民族誌調査、ならびにイ
ンターネットを用いたオンラインフィールドワーク等の手法を使う。そのため、参与観察、インタビュー、データ収集等において、個人のプライバシーに関わる
情報を取得する可能性を有する。倫理遵守項目は採択時における研究倫理審査のプロトコルに従うが口頭による説明、文書による説明などによる、インフォーム
ドコンセントルールを遵守するものとする。とりわけ調査対象者に関わる国連先住民の権利宣言(UNDRIP)で謳われた先住民の権利擁護を尊重し、調査者
と研究対象の「対話」を最優先する(→「データ主権」)。 2. 本研究においては、調査対象者から要請がある場合はもちろんのこと、当事者に不利益をもたらす可能性があると調査者が判断した場合も情報の開示は行わな い。 3. 研究情報の保護に関しては、調査対象者に文書および口頭において、事前に確認をとり、被調査者との信頼性の確保に務める。また、データを記載したフィール ドノートならびにパーソナル端末などは管理を厳格にして漏えいがないように務める。 4. 本研究で利用する論文や図書あるいは研究発表においては各国における著作権に関する法令や規定を遵守し、それら遵守項目を研究班員の全員で共有するものと する。 5. 共同研究調査においては、直面する具体的な研究倫理上議題を定期的に取り上げ、各種の問題に対峙し、議論の機会を設け、研究チーム全体のコンセンサスを確 立する。 6. 先住民地域での調査においては、現地社会が属する法律にもとづき、地元関係者NGO等との調整において、現地関連の先住民権利法等(例えばフィリピンでは IPRA、以下同様)に従って、現地で公聴会(FPIC)等を行った上で、先住民委員会(NCIP)等の現地事務所から調査の承諾を得ることとする。 7. これらの調査上における個人情報の保護と、それぞれの分野としての研究上の責務に関しては「日本文化人類学会倫理綱領」 (www.jasca.org/onjasca/ethics.html);「日本社会学会倫理綱領」( http://www.gakkai.ne.jp/jss/about/ethicalcodes.php )に記載されている理念を本研究に関わるすべての人と共有するように努める。これらの要綱は研究の各年度の初回の会合・集会のごとに印刷配布あるいは口頭 で説明して、倫理上のミスコンダクトがおこらないように確認することとする。 8.[採択通知後には]研究代表者(池田)の所属する大阪大学COデザインセンター[あるいは他の所属]の研究倫理委員会の審査を受け、承認を得た上で調 査が速やかに実施できるように準備する。 |
★Arola, Kristin.“Indigenous Interfaces.” Social Writing/Social Media: Pedagogy, Presentation, and Publics. Eds. Douglas Walls and Stephanie Vie. Parlor Press, WAC Clearinghouse Perspectives on Writing Series. 2017.
| this article tells a
story about what happened when college-aged American Indians were asked
the question, “What would Facebook look like were it designed by and
for American Indians?” I first describe the two main categories
of answers received: 1) The Visible Indian: answers relating to images
typically thought of as representing true “indianness” such as eagle
feathers, the four colors, tobacco bundles, etc. 2) Enacting Indian:
answers relating to actions typically associated with being Indian such
as powwow updates, use of heritage languages, and insider jokes about
rez life. I unpack these answers to problematize both my question and
the challenges of looking for race online. |
この記事は、大学生世代のアメリカ先住民に対し、「もし
Facebookがアメリカ先住民によって、そしてアメリカ先住民のためにデザインされたら、どのようなものになるだろうか」という質問を投げかけた際に
何が起きたかについて語っている。まず、寄せられた回答を2つの主なカテゴリーに分けて説明する。1)
「可視化されたインディアン」:ワシの羽根、4色、タバコの束など、典型的な「インディアンらしさ」を象徴すると考えられているイメージに関連する回答。
2)
「インディアンとしての振る舞い」:パウワウの近況報告、先祖伝来の言語の使用、保留地生活に関する内輪のジョークなど、インディアンであることと一般的
に結びつけられる行動に関連する回答。私はこれらの回答を分析し、自身の問いそのものと、オンライン上で人種を探求することの難しさの両方を問題提起する。 |
| https://kristinarola.com/research.html |
リ ンク
文 献
そ の他の情報
CC
Copyleft,
CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099