かならずよんで ね!

メディア・カニバリズム論

On media_cannibalism

池田光穂

カニバリズムの表題をつける書物には、以下のジャンルがある。

覗き見的カニバリズム(peeping Tom's cannibalism) ・カニバリズムはスキャンダルなので、人が抱くカニバリズムへの興味に 応えるために、あらゆる文献情報から、真贋の吟味なしに、あるいは、文献考証や、叙述論理の検討なしに、恣意的にカニバリズムに関する情報を、自分の著作 を散りばめる、いわゆる面白本。儲け主義に染まった書肆のそそのかしに乗る博学の文筆家は言うまでもなく、専門家ですら「面白おかしく」このジャンルにつ いて適当なことを言って、恥ずかしげもなく出版する。
カニバリズムは西洋人のオリエンタリズムである派(Orientalism genre cannibalism)
・ウィリアム・アレンズ(William Arens, 1941-2019)The Man-Eating Myth, Oxford University Press.1979.を嚆矢として、カ ニバリズムは西洋人のオリエンタリズムである派ともいうべきPC(politically correct)を振り回す人。創始者アレンズもそうだが、人間には、同種間の喰人には禁忌がかかり、仮に機会的喰人はあっても、習慣的喰人は「絶対な かった」と信じる人たち。素直で素朴といえばそうなのだが、習慣的喰人を否定することにかけては、頑迷である。
隠喩的カニバリズム派(metaphorical cannibal Écrivain )
・喰人の実在/不在、どのように人を食べるのか?などについては一切興味がなく、カニバリズム的思考こそが、文化のレパートリーとして重要であり、自分のチープな文明論を、カニバリズムの用語で表現する浅薄な連中。ジャック・アタリや久 保明教などがその「論客」。そのなかでも、狂牛病の蔓延をプリオンを含んだ同種間のカニバリズムだと喝破した——じつは同種間でなく羊由来のスクレイピー の可能性が高いが——レヴィ=ストロースのものは、修辞としてはなかなか巧妙で、クロイツフェルト-ヤコブ病を、食牛肥育の「文明」の科学技術は「野蛮」 人のカニバリズム慣習そのものであり、文明こそが野蛮であり、文明人が野蛮人を蔑むことは悪であると示唆する点で、自分の青春時代のデビュー作『親族の基 本構造』における文化と自然の議論に重ねているところは、見事という他はない。
戦争の非人道性を訴えるために、戦時の機会的カニバリズムを取り上げる人道派(humanitalian against war in general)
・補給が絶たれた兵士たちが戦時において見せる狂気の極北としてのカニ バリズムを列挙し、戦争とは人間性を失わせる酷いものであると、カニバル兵士の罪業を糾弾するよりも、「戦争という非人道メカニズム」を訴えるために、カ ニバリズムをことさら取り上げる。このような作家のなかには、実際に見たり聞いたりした実体験に基づくものと、それを書き物として読み、上手に編纂まとめ るという2つのジャンルがある。先に述べたように、個々の兵士に対する恨みよりも、戦争というシステムに対する憎悪があるために、小説やルポルタージュ化 されるときには、多くは潤色が加わり、登場人物は匿名になるために、虚実皮膜の上を読者は彷徨する結果になる。九州大学「生体解剖事」において、米国兵を生体解剖した後に犠牲者の肝臓をたべたというのは、風評であることを平光吾一「戦争医学の汚辱にふれて;生体解剖事件始末記」が語っている。
栄養学派あるは生態学的バランス説信奉者
・カニバリズムを理解可能なものとして飼いならすために、カニバリズム には栄養学的に根拠があると主張したり、また、人口学や生態学的なコスト=ベネフィットのバランスで説明できるとする学派。アメリカの文化人類学の泰斗で あるマービン・ハリスは、古代アステカの人身供犠は、人口稠密なテスココ湖を埋め立てた地のアステカ人に良質なタンパク質を提供したと主張したり、ヒン ドゥーの聖なる牛は、生態学的理由により禁忌にしたと解釈した。このような世界観は、儀礼行為(人身供儀や殺傷禁忌)には、かならず生態学的に説明できる 合理的な根拠があるために、ハリスはその晩年は「文化唯物論」というパラダイムを構想した。
理由を問わないカニバリズム愛好趣味(cannibalism-phile without reason)
・中野美代子のカニバリズム論は、桑原隲蔵のような東洋学者=オリエン タリストのような偏見は少なく、純粋に中国におけるカニバリズムの細部に入り、微に入り細を穿つ議論を展開する。その資料収集の才能や、叙述スタイルの洗 練さで読むものを惚れ惚れさせるが、カニバリズム論は、なんらかの価値判断を背景に潜ませているテキストなので、オリエンタリズム批判という観点からみる と不満が残る。
カニバリズムは未開なる慣行であるという強い信念をもつオリエンタリストども
・カニバリズムは未開なる慣行であるという強い信念をもつオリエンタリストども(オリエンタリズム信奉者)


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