かならずよんで ね!

みんなのための喰人 入門

Cannibalism of the People, by the people, for the people

Extermination of Evil, The God of Heavenly Punishment, from the Chinese tradition of yin and yang. Late Heian period (12th-century Japan).

講師:池田光穂

この授業(2022年5月25日)は、食 をテーマにした教養概論のリレー講義の一コマである。今回の授業の課題は「喰人、あるいはカニバリズム」である。皆さんのなかで、人を食ったこと のある人は極めてまれだろう——「自分や他人の排泄物や血液を『食べた』こ とがある」からカニバリズム経験があるというのも、ちょっと屁理屈だ。食事として人間を食べるのであれば、その筋肉組織や、内臓などを、きちんと料理して 食べないと、つまり栄養物として摂取しないと、それはカニバリズムの定義には入らないからだ。というわけで、喰人というのは、私たちの食の経験のなかで は、かなりレア(珍しい)、つまり食の極北経験とも言えるものだ。そして、極北と比喩的に表現するぐらい「血も凍る」おぞましい経験であると、多くの人は 感じるだろう。

いまや栄養たっぷりのジビエとして有名になった鹿肉 や熊肉よりも、犬肉食(こっちのほうが安全で栄養があると思うのだが) のほうが、私たちには抵抗があるし、飼っていたペットを食べる経験でも、鶏や家鴨よりかは、犬や猫のほうが、さらなる抵抗があるし、嫌悪や拒絶、すなわち 「考えることすら恐ろしい」ことだってあるだろう。なので、「喰人、あるいはカニバリズム」のことに、ついて考察するには、私たちには、心理的な抵抗があ るので、テーマとしては、なかなか容易ならざるを得ない。

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1)命題01:「自分たちの民族では、人を食べないが、遠くの野蛮な民族は人を食べる」。

2)命題02:「日本の狩猟者は、害獣駆除した獣の 肉を消費することが多いが、猿を狩猟したり、食べることには忌避の心理が働くらしい。その最大の理由が《猿は人に似る》からである」。

3)命題03:「アメリカの兵士と一緒に戦った南ベ トナム政府軍の将校は、戦闘で殺したばかりの南ベトナム国民解放戦線のゲリラ兵士の腹を裂き肝臓の一部を食べた。これは敵の呪力を調伏し、また敵の戦闘能 力を『自分の体内に取り込む』のだと、将校はアメリカの兵士に説明した」。

4)命題04:「生態学的な観察データによると、カ マキリやセアカゴケグモの交尾(=セックス)をしているカップルのオスのほとんどはメスに食べられてしまう。もちろん、オスも喜んで食べられるつもりでは なくて(=カミカゼセックスではない!)食べられることから回避する行動を取るが、長くセックスをしていると自分の遺伝子を含んだ精子をメスがうむ卵に注 入することができるので、『その誘惑に耐えきれず』不覚にもメスに食べられてしまう、らしい」。mantis, n., Etymology: < post-classical Latin mantis (a1604) < Hellenistic Greek μάντις , a specific application (see below) of the ancient Greek sense ‘prophet, diviner’ (see mantic adj.). Compare French mante (1734 in form mente).

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【本日=2022年5月25 日のメニュー】

・カニバリズムの定義(カニ バリズムの生物学と、カニバリズムの人類学の類似点と相違点)から

・カニバリズムの種類(フォ ルハルト経由の山田仁史解説:世俗的カニバリズム、司法的カニバリズム、呪術的カニバリズム、儀礼的カニバリズム)

・カニバリズムのレシピ (バーベキュー、煮物、蒸し料理、肉団子、塩漬け後にシチュー、人血饅頭)

・カニバリズムの意味や解釈 (ロマンチック喰人論、純粋儀礼説、機能主義仮説[薬→儀礼、タンパク質]、オリエンタリズム批判)

・今日のカニバリズム——イ ンセストのタブーとカニバリズムのタブー:「タブーづくしどっちが怖いか?」「知らぬが仏ならいいのか?(ソイレントグリーン問 題)

・セックスとカニバリズム ——他者とのセックスと、他者を取り込むこと

・本日の結論:「人を食べる という話は存在するが、その頻度は圧倒的に自分たちより他者たちのものの話のほうが多い」

◎サイドメニュー

1)かつてキリスト教徒は人肉食と言われた,と言っ ても2世紀の話です(McGowan, doi.org/10.1353/earl.0.0202)

2)CiNii Books で "cannibalism"の検索用語だけでも検索結果は400件に上る。

3)カニバリズム(cannibalism)を検索 をした人たちの世界分布


4)桑原隲蔵のクソ・オリエンタリズム「支那人 間に於ける食人肉の風習」(1924)、「支那人の 食人肉風習」(1927)は、利用しないと中野美代子先生は おっしゃるが、これなくして「カニバリズム論」はかけなかったので、その言及はちょっと公平さに欠ける。

5)アレンズ『人喰いの神話』の冒頭に、ある東洋学 者との談話のなかで、中国では朝鮮人が喰人嗜好をもっているが、朝鮮では中国人をカニバリストとみなしている資料の存在を、アレンズに示唆したという(出 典はあげられていない:p.vi)。

6)カニバル文献を調べてみると、カニバリズムがみ られる情景のなかでは、同時に、サディズムと、ネクロフィリアが見られることがしばしばある(アレンズ 1982:134)。

7)日本の文学作品で、カニバリズムに言及している 作品に小説では、野上弥生子『海神丸』、武田泰淳『ひかりごけ』、大岡昇平『野火』、筒井康隆「血と肉の愛情」『ベ トナム観光公社』 全集3巻、新潮社、1983年。ドキュメントとしては、コリン・ウィルソン〔ほか〕『狂気にあらず!? : 「パリ人肉事件」佐川一政の精神鑑定』第三書館、1995年。喰人当事者と漫画家の作品佐川一政・根本敬『パリ人肉事件:無法松の一政』河出書房新社、 1998年、唐十郎『佐 川君からの手紙 : 舞踏会の手帖』河出書房新社、1983年。

8)本日の結論の命題「人を食べるという話は存在す るが、その頻度は圧倒的に自分たちより他者たちのものの話のほうが多い」を、日本の人類学の泰斗はこう表現する「アレンズの命題で極めて示唆的なのは、い わゆる食人と言われる事例のうちで他の文化、他の部族による証言または偏見に基づくものが圧倒的多数を占めるという点である。この点でアレンズは食人とい う悪夢の神話学の分析に成功したようである」あるいは「食人という言説が、一文化の内側で妖術についてなされる型を他部族へ投影したもの」(山口 1982:258)。

9)経済機能主義である「文化唯物論」で説明する マービン・ハリスの弁明:(論争へのリンクは  https://www.nybooks.com/contributors/marshall-sahlins/を 参照)

[T]he costs and benefits of cultural materialism refer to the more or less efficacious ways of satisfying the need for food, sex, rest, health, and approbation. Although these costs and benefits cannot be measured with precision, rough approximations can easily be obtained in terms of rising or declining death rates, calorie and protein intake, incidence of disease, ratio of labor input to output, energetic balances, amount of infanticide, casualties in war, and many other “etic” and behavioral indices.
 文化的唯物論の費用と便益とは、食物、性、休息、健康、賞 賛の欲求を満たすための多かれ少なかれ効果的な方法を指す。これらの費用と便益は正確に測定することはできないが、死亡率の上昇や低下、カロリーやたんぱ く質の摂取量、病気の発生率、労働投入量と生産量の比率、エネルギー収支、幼児殺しの量、戦争での犠牲者、その他多くの「エティック」と行動指標から、お およその目安を容易に得ることが可能だ。
https://www.nybooks.com/articles/1979/06/28/cannibals-and-kings-an-exchange/
https://www.deepl.com/ja/translator

The New York Review of books.において、マービン・ハリスの一般向け書籍『食人と王』に対する、マーシャル・サーリンズの文化唯物論の揶揄。ハリスの反論、そして、アレン ズの「サーリンズはハリスの機能主義(ないしは進化論)的なカニバリズムを批判するが、サーリンズは儀礼的カニバリズムを擁護することになり、2人はカニ バリスト支持者だ」と批判。


1 人を喰った話 (praying mantis)
―カニバリズムとその習俗について―
教養概論:テーマ「食」2022年5月25日(水)5限:東京理科大葛飾キャンパス
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    •    1956年大阪市生まれ
    •    大阪大学名誉教授・COデザインセンター招へい教員
    •    先公の専攻は、文化人類学、とくに医療人類学。研究する地域は、ラテンアメリカとくに中央アメリカ、グアテマラ共和国のマヤ先住民。
    •    著作:『実践の医療人類学』『看護人類学』『犬からみた人類史』『暴力の政治民族誌』など。
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文化人類学とは、経験的な調査法(=インタビューと参与観察)を動員して、人間について「文化」という概念を考察する学問分野です。わたくし流に文化人類 学にニックネームをつけると、その学問と実践はまさに「動く哲学!」なのです
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私という(知の)カニバリストとフォーレの人たち
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フィールドから帰って、その人たちがいないところでは、人々の気持ちや生活を代弁してやろうという気持ちになる。たとえ、それが善意にもとづくとしても、 これは無反省に行えば知識の使い方を誤ることになる。それはしばしば自分が現地社会から学んできた過程を忘却することと関連している。映画『スターウォー ズ』のなかで、ジェダイの騎士になるべくヨーダ師のもとに赴いたルーク・スカイウォーカーは、師からこのように忠告される:You must unlearn what you have learned.
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    •    1)カニバリズムの定義
    •    2)カニバリズムの種類
    •    3)カニバルのレシピ
    •    4)カニバリズムの意味や解釈
    •    5)今日のカニバリズム
    •    6)セックスとカニバリズム
    •    7)本日の結論
    •    「人を食べるという話は存在するが、その頻度は圧倒的に自分たちより他者たちのものの話のほうが多い」
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    •    (OED)The practice of eating the flesh of one's own kind.=同類の肉をたべる行為。用例の初出:Thomas Herbert . A relation of some yeares trauaile (=旅行), begunne anno 1626. into Afrique and the greater Asia . 1st edition, 1634 (1 vol.).pp.98-99   “Men from their infancie educated to Canibalisme.”(=ガキの時代から育てられ食人種になった連中)と説明(下記参照)されて拷問のための道具として表現される。
    •    「canibal=人喰い人種」という翻訳語で有名
    •    語源は次のスライド参照
    •    人間よりも人間以外の動物によく見られる
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    •    スペイン語の「カニバル(Canibal)」に由来する。「Canib-」はカリブ族のことを指しており、16世紀頃のスペイン人植民者のあいだでは、西 インド諸島に住むカリブ族が人肉を食べると信じられていた。そのためこの言葉は「西洋のキリスト教の倫理観から外れた蛮族による食人の風習」すなわち「食 人嗜好」を示す意味合いが持たれるようになる。食人は喰人とも書く。
    •    ギリシア語の「アンスロポファギア(ανθρωποφαγία)」に由来する「アントロポファジー」(anthropophagy)すなわち「人間」を意 味する「anthropo-」と「食べる」を意味する「-phagy」の合成語も食人の同義です。ラテン語化した古代の地図の中に登場するように、こちら のほうが古い起源をもつ。
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命題01:世界にはけったいな人種がいる、でも嘘ぴょーん!!
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Schedelsche Weltchronikは「頭蓋骨の世界報告」とも訳せるもの
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報告は鬼の様にある!
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もっとも初期のカニバリズム風景の木版画イラスト:Original 1557 Hans Staden woodcut of the Tupinambá portrayed in a cannibalistic feast; Staden is the naked bearded man at right labeled "H+S"
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Human sacrifice and cannibalism of the Aztecs. Manuscript by Bernardino Sahagun
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    •    1. フォルハルト(Volhard)『カニバリズム』 の4分類を紹介:→次のスライドで解説
    •    2. 桑原隲蔵(1924)のカニバリズム分類:1)飢餓の時に、人肉を食べる——中野美代子はアンデスの「聖餐」と同様で、珍しくもなんともないと喝破。2) 戦争などで籠城して糧がなくなった時に食べる、3)嗜好品として人肉をたべる(珍味?的)——美食に飽きた王様に自分の息子の蒸し物を献上するコックの易 牙(えきが)、4)憎悪きわまり敵の肉をたべる(ドヤ顔食)——漢の高祖劉邦、5)医薬として人肉をたべる(例:肺病の時の人血饅頭)——本草綱目にみら れる.
    •    3. アレンズ(1979)が、ヲタ的な分類を(本質的な議論を外れるものとして)小馬鹿にしている理由は、もっともらしいことを言って自分たちの頭の中 の秩序を押し付けることである(アレンズ 1982:20)1)Endo-Cannibalism、2)Exo-Cannibalism、3)Auto-Cannibalism:セミプロ化した高 校野球生が試合の随分前に採血冷蔵しておいて、試合の直前に自分の血を輸血するのは、このエンドカニバリズムに相当する。+++++動機による分類+++ +++、1)食通的喰人(gastronomic cannibalism)、2)儀礼的/呪術的喰人( ritual, magical cannibalism)、3)生き残りのための喰人(survival cannibalism)。アレンズは、こういう分類にこだわる分類屋はクソであると手厳しい!!
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    •    それでも、授業の進行上、カニバリズムを分類しておく必要がある。1)世俗的カニバリズム、2)司法的カニバリズム、3)呪術的カニバリズム、4)儀礼的 カニバリズム
    •    分類の際に重要なことは、その外面的特徴(=構造)にのみ着目して機能を考えないことである。その理由は説明の構造と機能を混同するから(例:常食的カニ バリズムを続けることができるのは、美味いし、栄養になるからだ!!)
    •    ただし、アレンズが言うようにヲタ的に分類にこだわる奴はやはりバカのままである。バカのままでいないことが重要!!!
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セオドア・ド・ブライ(Theodor de Bry, 1528-1598)さんによるザ・カニバル・ツアーのご案内
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Map of Central and South America, from 'Americae Tertia Pars..', 1562
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'Americae Tertia Pars', attacl of the village by the Tuppinjkinsij (page 364), 1562 (colour engraving)
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'Americae Tertia Pars', attacl of the village by the Tuppinjkinsij (page 364), 1562 (colour engraving)
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Navigatio in Brasiliam Americae, Immolation of a Barbarian (page 525), 1563 (colour engraving)
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Scene of cannibalism, from 'Americae Tertia Pars...', 1592 (colour engraving)
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「わしの絵はアメリカに行った話じゃなくて、ヨーロッパに伝わった旅行記や報告書から再現したものなんじゃ」(たぶん、そう言ってるかも?!)
→スペインに支配されていた南ネーデルランド(今のベルギー)出身のセオドア・ド・ブライ(セオドア・ド・ブライ)(1528–1598年3月27日) は、彫刻家、金細工職人、編集者、出版人であり、ヨーロッパの初期のアメリカ大陸への遠征の描写で有名なひとです。南ネーデルランドからロンドンやフラン クフルトなどで活動をした。
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    •    記した書物によると、バーベキュー、煮物、蒸し料理、肉団子、塩漬け後にシチュー、人血饅頭、などがある。人肉専用の特殊なレシピがあるのではなく、通用 の素材のかわりに人肉を使うだけ。
    •    カニバル文化の背景には、人肉の調達、人体のパーツの意味、頭蓋骨や首級の意味、殺害の方法、人肉の意味づけ、誰が調理するのかなどさまざまな説明があ る。
    •    「食人習慣のある社会の驚くべき特徴は、女性がそこで特別な位置を占めていることである。女性たちにはその実践が禁じられていたり、女性の肉がけっして食 べられなかったり、あるいは食人儀式において女性たちが主要な儀式的役割を果たすからであり、無標というということは決してない。食人は容易に首狩りに置 き換えることができる。夫である狩人が帰還すると、女性たちは誇らしげに頭骸骨をすばやくくつかむ。グレゴリー・ベイトソンの有名な民族学の著作『ナヴェ ン』は、ニューギニアの部族イアトムルの儀式を記述している。母方の伯父は道化師の女浮浪者に扮装し、父方の女性は戦士の衣装を身にまとい、首狩り隊を演 じる。ニューギニアでは、インドシナと同様、この首狩りたちは、自分たちは首狩りのために襲撃した他村の女の「夫」だと呼称する」(クレマン 2014:87-88)。
    •    冷静に考えると、このクレマンの説明は、多くの文化人類学者たちのつまらない論文にみられるように恣意的で場当たり的(ad hoc)な説明である。
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命題03:「野蛮人の食人」と「食人を理由に野蛮人に白人が虐待すること」の、どちらが野蛮かよおく考えてみよう!
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The dogs of Vasco Nunez de Balboa (1475-1571) attacking the Indians
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Description of crimes inflicted on Indians by Spanish settlers - Spaniards torturing Indians - Engraving by Theodore de Bry in “Brevisima Relacion de la Destruction de las Indias”” by Bartolome de las Casas (1484-1566)
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Description of crimes inflicted on Indians by Spanish settlers - Scene of torture of Indians by Spanish Conquistadors. Torture on a grill, amputation of hands - Engraving by Theodore de Bry in “” Narratio regionum indicarum per Hispanos quosdam devastataru
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スペインによる「黒い伝統」はヨーロッパでは、反スペインのプロパガンダになった。スペインにとって都合のわるいことに、その情報のソースは、スペイン人 宣教師Bartolomé de las Casasによるスペインの植民地統治を弾劾する”Hispanos Quosdam devastatarumverissima”によるものだった。

この2枚の版画は、Theodor de Bry のものではなく、フランドル(ベルギーとオランダの中間地帯)の宮廷画家のJoos van Winghe (1544-1603)によるもの。ホスさんは、ラス・カサスの弾劾書のイラスト版画を担当して、この絵で著名になりました

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命題03の答え「野蛮人の食人」よりも「食人を理由に白人が野蛮人に虐待すること」のほうがもっと野蛮だよね?!
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    •    1)ロマンチック食人論:中野美代子のマゾヒズムの極北としての食人。バタイユは人間には形あるものを完璧に使い尽くす、消費しつくす性癖を禁じることは できぬと主張。
    •    2)儀礼的食人論:社会や時代が変われば価値や生き方も変わるはずだ。だから文化の違いでエグいことがあっても早急に「気持ち悪い、ダメだ」と価値判断し てはならない(=文化相対主義)
    •    3)機能主義仮説:戦争で敵を殺して食べてしまうことは、戦争で疲弊した兵士の体を癒し、滋養をつけ精をつけることで、戦争で失われた人口をふたたび回復 することにつながる。あるいは社会はそのように進化する。
    •    4)オリエンタリズム仮説:飢餓に陥った時以外は人類は思ったほど食人していない。それに「俺たちは人を食わないが山の向こうのあいつら(=敵)は人を食 べる」という話が、世界に、鬼のようにある。
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  カマキリのオスがメスに食べられるのは交接に時間をかけてメスの卵に精子をより効率的に注入するため!!——チコちゃんではなく進化生物学者の主張

【メスの言い分】:優秀なオスから精子をもらって優秀な子孫を残すことなの。それに交尾が済んだら次に卵を産み付けるために体力を温存しておかなくちゃな らないし。据え膳食わぬはメスの恥っていうでしょう。オスは用済みだわ。

【オスの言い分】:あらゆる生き物は自分が捕食されないように退避行動をとる。だから最初からメスに食われたいためじゃないんだ。だけど確実に受精するた めには長く交接してすることが必要なんだ。それに俺たちは人間とは違って、自分が食べられるリスクよりも遺伝子を残すことから得られる利益のほうが重要な んだよ。

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    •    命題04:今日のカニバリズムについて考える視点で重要なことは「禁忌(タブー)」の観点から考えることが重要。カニバリズムのタブーの典型例は「俺たち は食わない(=タブーを守っている)」が「山の向こうの連中は食っている(=タブーを守らない不届き者である)
    •    人間が知るかなりキツいタブーにインセスト(=近親相姦)のタブーがある。インセスト・タブーは婚姻ないしは性交が禁止された規則で、そのルールの細部は 文化によって異なる。インセスト回避の文化は、フロイト理論ではエディプスコンプレックスという概念で説明されてきた。
    •    ソイレントグリーン問題:食糧難になった近未来に配給された新しい食料は美味しくて大人気。だがそれの原材料は……
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ソイレントグリーンの材料は安楽死センターから供給される死体だった!!

これは究極のSDGsではないか?!
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    •    カニバリズムがタブーとなっているところで食人行為すると、それは異常な犯罪行為として罰せられる
    •    困ったことに現行の刑法には「食人を禁止する条項」はない。せいぜい死体損壊の罪。だったら調理人にならなかったら罰せられないか?トランスセックス志望 者の男性がペニスを切ってみんなでディナーパーティをしたが、食べた人たちの嫌疑は、食品衛生法違反の幇助疑いのみ)
    •    血をすすること、精液や排泄物を口にすること、その延長上にカニバリズムがあると「解釈」したら、カニバリズムは限りなく性行為のレパトリーに入る。 未婚ないしは不倫の男女(同性でもOK)が2人で食事をすることをセックスと見なすことは奇矯だが、性行為にいたる前戯と考えることは奇妙ではない。
    •    実際、快楽殺人の後にカニバリズムに至る犯罪者がいるが、犯罪心理学者は「異常性欲」として位置付ける。
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命題05の解説:セックスとは禁じられている相手以外とおこなう性行為である。カニバリズムは他者の身体を自分の体のなかに取り込む行為である。セックス もカニバリズムも他者をお互いに取り込む行為である。
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積み残したアイディアや研究上のジレンマ

・遺骨分析から生前の人為的暴力の被害者には、男性兵士か女性のものがみられる。前者は戦争の供犠だが、後者の理由は明らかではない(DVは文化的パター ンとして広く見られる可能性→今後の定説の変化)

・異文化の研究は、人間を自由にする教育的に有益な方法だと言われることがあるが、カニバリズムの研究は、そのことを体現できたか?(他の例:犬食の文 化)

・文化人類学は(白黒決着をつける)法廷にはなじまない知識の方法であるが、これがしばしば「文化相対主義者」はニヒリストだと揶揄される原因になってい る。(→現在は役に立たない学問が生きづらい時代)
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    •    1)カニバリズムの定義
    •    2)カニバリズムの種類
    •    3)カニバルのレシピ
    •    4)カニバリズムの意味や解釈
    •    5)今日のカニバリズム
    •    6)セックスとカニバリズム
    •    そして、本日の結論……
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    •    本日は、カニバリズムについてのさまざまなメニューを味わってきた。カニバリズムは、その行為そのものは誰しもが嫌悪感をもつ不快なものだが、カニバリズ ムというものを人間がどのように考えどのように扱うのかを調べることは、想像以上に面白かった!!
    •    僕たちがこの授業で知り得たことが、本日の単純な結論であり、それは決して覚えにくい、ムズいことではない!!

   7)本日の結論「人を食べるという話は存在するが、その頻度は圧倒的に自分たちより他者たちのものの話のほうが多い」Very very simple, we get result!!!
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2006年3月13日撮影:奥野克己



◎カニバリズム分類学——ウィリアム・アレンズは、 明らかにこのようなヲタ的な分類を(本質的な議論を外れるものとして)小馬鹿にしている。

1. フォルハルト(Volhard)『カニバリズ ム』 の4分類を紹介(pp.315-316)

2. 桑原隲蔵のカニバリズム分類

3. アレンズが、ヲタ的な分類を(本質的な議論を 外れるものとして)小馬鹿にしている理由は、もっともらしいことを言って自分たちの頭の中の秩序を押し付けることである(アレンズ 1982:20)

◎もっとも初期の喰人風景の木版画イラスト: Original 1557 Hans Staden woodcut of the Tupinambá portrayed in a cannibalistic feast; Staden is the naked bearded man at right labeled "H+S"

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《事前課題の解説》

1)弘末雅士『人喰いの社会史:カンニバリズムの語りと異文化共存』の書評、フルコース メニュー.

2)池田光穂「テクストと方法につ いて:ショロイツクイントゥリを事例にして(pdf_direct)」Co*Design. 1 P.53-P.66, https://doi.org/10.18910/60554
《授業後の課題》

授業終了後に発表します!!!

(再掲ですが、回答へのリンクが張ってある)

《授業後の課題》

い)カニバリズムを事例にして、エスノセントリズム(=自 民族中心主義)という言葉について、簡単に説明してみよう。

ろ)なぜ、猿は人間に似ているから、他の動物を狩猟 するよりも、気が咎めるのか? 猟師(ハンター)の気持ちになって説明してみよう(→擬人化)。

は)カニバリズム(喰人)は、日常生活のルーティン (通常の作業)というよりも、なにか特殊な宗教的行為のように思える。文化人類学者は、このような行為に対して《ほにゃらら》だと言ってきた。《ほにゃら ら》行為とも呼ばれる、この《ほにゃらら》の中の言葉を埋めてみよう。

に)なぜ、カマキリのオスはメスに食べられてしまう 危険性を侵してまで交尾(セックス)を続けようとするのか?生物学的な「合理性」——説明することで意味が通り反論を受け付けなくなること——で説明して みよう。

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その他の情報

Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1997-2099


ルネ・マグリット「陵辱」(1934)とアルブレヒト・デューラーとの共作(左:垂水源之介)