はじめによんでください

異文化看護を知る

Concept of Transcultural Nursing, 05/10

池田光穂

異文化看護を知る

異文化を把握する重要性とその困難さが理 解されたが、ではなぜ看護において異文化理解がそれほど重要なのだろうか。日本の看護倫理綱領が示すように、看護者は人種や年齢、性別にかかわらず平等に 看護を提供すべきなのではないのだろうか。しかし私たちは歩き方一つとっても女性的な歩き方、大股で歩く、などその地域や時代の文化に影響を受けており、 実は身体は文化によって枠付けられているといえる。よって看護においてはただ単に患者の尊厳に対する権利(リスボン宣言、1981年)を保障するためだけ に異文化を理解すべきなのではなく、対象者の健康に関する文化的実践や信念を知ることで、臨床現場において安全で適切なケアが提供出来るからこそ理解すべ きなのである。対象者の文化を尊重することによって、より安全で適切なケアを提供できるからこそ、文化を理解する必要があるのだ。

異文化を理解するには異文化看護の教科書 やテキストを読む方法も重要である。例えば『文化的健康アセスメント』 においては、日本人は直接目を合わせることを無礼と感じ、握手は容認できるが肩をたたくのは失礼と考え、痛みが原因で泣くことは恥ずかしいと思う、とされ ている。そして西洋医学が主流だが、鍼や漢方といった東洋医学も用いられる、と説明されている。同じようにインドネシア人にとって直接目を合わせることは 無礼であるが、タッチングや子どもの頭を触るのは厳禁であり、都会では近代医学が主流だが、地方地域によっては民間医療や神秘的な存在が信じられていたり するという。このように国や地域別の知識は、自分とは違う文化圏の人々をケアする際に基礎的に必要となる知識である。

しかしこうした視点からのみ対象者の文化 を捉えようとすると、相手を教科書的な文化の定義の枠組みに押し込めてしまい、「○○人だから○○をする」と理解してしまう危険性がある。これが先述の 「文化的ステレオタイプ」である。こうした先入観は却って対象者理解をゆがめてしまうことになるだろう。そこでより繊細に対象者の文化を理解していく必要 がある。その際に手がかりとなるのが「文化看護モデル」といったものである。

Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099

看護人類学入門

池田光穂