はじめによんでください

サイボーグ理性

Cybernetic reason; サイバネティクな理性

解説:池田光穂

サイボーグ(cyborg)とは、サイバ ネティック・オーガニズム(cybernetic organism, cyb. + org. = cyborg)のそれぞれの省略形による合成語である。

サイバネティックサイバネティクスという学問の形容詞形)の言葉を意味する学問としてのサイバネ ティクスとは、今日で言う制御理論 (control theory)とシステム理論(system theory)が融合した総合的な学問であり、ノーバート・ウィナーがその命名者であり創始者だと言われる。もともと空中を移動中の飛翔体(航空機やミサ イル)などを追尾撃墜する弾道計算を探求する研究のなかから生まれて、生命現象、学習や認知あるいは、社会や文化現象にまで拡張されて、有機体や組織(と もにorganism)の特色を、それぞれが内的な制御システム——その中でもフィードバックがもっとも重要な概念——をもつものと考えことに由来する。

サイバネティック・オーガニズムが、具有 する理性(reason)が、サイボーグ理性 (=サイバネティックな理性)である(→「患者サイボーグ宣言」)。

したがって、サイボーグ理性とは、サイバ ネティクスという学問あるいは思想の基盤を具現化するものと考えられる(→「サイバーパンクに おいて倫理は可能か?」)。

現在のサイボーグ理性が支える概念にとっ て私がより重要だと思えるのは、補 綴(ほて つ・ほてい)の概念である。補綴(prosthesis)とは、おぎなっ てつづりあわせることであり、不足を足すことであるが、医学・保健用語では義手や義足などの義肢(ぎし)である。この概念が拡張し、ハイテクなどの技術と 融合するように、SFなどでは表現される(例えば、映画『スターウォーズ・エピソードV:帝国の逆襲』に登場するルーク・スカイウォーカーの右手の義手) ことが多いが、この拡張版と考えればよい。

 1st.; Cosmas and Damian miraculously transplant the black leg of the Ethiopian onto the white body of the patient. 2nd; Prosthetic Arm of Luke Skywalker.

しかしながら、この拡張として『攻殻機動隊』の登場人物・草薙素子(くさな ぎ・もとこ)のように、大脳と脊髄の一部のみ生体で残りは義体(「義 肢」概念の延長上に造語された義身体、「ぎたい」と呼ぶ)になると、それは果たして身体性を基調とする人格(パーソナリティ)を持ちうるのかという議論は しばしば我々は耳にする。しかし、2nd GIGのエピソード11「草迷宮」(affection)に みられるように、草薙はもともともっていた少女の身体という艤装がほどこされ、さらに成長に 応じて身体化をとげた(=「立派な義体使いとなる」)と説明されているので、彼女の脳は、つぎつぎと成長してゆく身体とともにアイデンティティを形成した ものと思われる。またこのことにより、彼女は色気と戦闘的攻撃性という両極端な女性性——それはともに公安9課での秀逸な活動を保証する——を具有してい る。

しかしながら、これは「桶の中の脳髄」論 文の著者ヒラリー・パットナムは一笑に付す話かもしれない。パットナムならば、素子が桶の中にいながら 「生きる」仮想現実の世界を、映像では、我々が見せられている可能性を我々は考慮していないと指摘されるかもしれない。そして素子がどう現実世界を生きて いるかということを正確に判断できる材料を、ほんとうは我々は——そして素子も含めて誰も——知らないではないか?と反論を喰らうかもしれない。

サイボーグ・ドット・コムでは、池田(online)は、(人体をもつ現代人で ある)「我々はすべてサイボーグであり、その考え方を敷衍すると我々はすべて草薙素 子である」という極端で特異な(異様な)主張をおこなっている。

キーワード:「アクターネットワーク理論 (Actor–network theory ,ANT)」「人工知能(Artificial intelligence)」「ポストヒュマニズム(Posthumanism)」

●サイボーグ意識問題

●中田ヤスタカ - Crazy Crazy (feat. Charli XCX & Kyary Pamyu Pamyu) MV - これは、アバター論で論じるべき話題かもしれませんが

■ノーバート・ウィーナーの学歴社会論 ——《人間は学習を通して異なった人間(サイボーグ?)になれる》というテーゼ

文献

  1. "Cyborgs and Space," in Astronautics (September 1960), by Manfred E. Clynes and Nathan S. Kline.
  2.  Norbert Wiener(1894-1964) -- (1948), Cybernetics: Or Control and Communication in the Animal and the Machine. Paris, (Hermann & Cie) & Camb. Mass. (MIT Press) ISBN 978-0-262-73009-9; 2nd revised ed. 1961.(サイバネティックス : 動物と機械における制御と通信 / ノーバー ト・ウィーナー [著] ; 池原止戈夫, 彌永昌吉, 室賀三郎, 戸田巌訳:東京 : 岩波書店 , 2011.6. - (岩波文庫 ; 青(33)-948-1))
  3. Norbert Wiener, 1894-1964 / by P.R. Masani, (Vita mathematica;v. 5), Boston : Birkhäuser.
  4. The human use of human beings : cybernetics and society / Norbert Wiener, 2nd ed. rev.. - Garden City, N.Y. : Doubleday , 1954 . -  (Anchor books ; A34)/人間機械論 : サイバネティックスと社會 / ノーバート・ウイーナー著 ; 池原止戈夫訳,みすず書房 , 1954.1
  5. Hakken, David. Cyborg@Cyberspace: An Ethnographer looks to the future. New York: Routledge, 1999.
  6. Downey, Gary Lee and Joseph Dunmit eds., Cyborg & Citadels: Anthropological interventions in emerging science and technologies. Santa Fe, NM.: School of American Research Press, 1997.
  7. Should there be a limit placed on the integration of humans and computers and electronic technology? by Steve Mizrach
  8. The Cyborg Cafe, Japan
  9. ダナ・ハラウェイ(2000)「サイボーグ宣言」『猿と女とサイボーグ : 自然の再発明』高橋さきの訳、青土社/Haraway, Danna., 1991. Simians, cyborgs, and women : the reinvention of nature. New York : Routledge/ DHaraway_CyborgMM.pdf with password

● サイバーパンクにおいて倫理は可能か?

● Cyborg anthropology

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医 療人類学辞典

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