はじめによんでください

異文化間コミュニケーション能力

Concept of Transcultural communication

池田光穂

私はかつて「異文化看護をアセスメント」 すると称して、以下のような、「自分がおかれた実践の現場」を「自分にとってより客観的に」モニターすることができるのかということを提唱した。このこと が、異文化間コミュニケーションに寄与することができるのかわからないが、自分が置かれた状況に対して、自分が受けてきた知識システムを動員して「自己と 他者」の関係をモニターすることができれば、無用とも思える「カルチャーショック」などを回避して、よりストレスのかからない「対話」が可能になるのでは ないかと考えるのである。

異文化を理解する際には、文化を文化モデ ルのように普遍的な構造から分析することも役に立つ。看護実践において異文化を理解するためのアセスメントとして、ガイガーJ. N. GigerとデビットハイザーR. Devidhizarは「異文化看護アセスメントモデル」を提案している 。このモデルでは文化的に特有性を持つ個人に対して6つの文化的現象、すなわちコミュニケーション、空間、社会的組織、時間、環境、生物学的多様性からア セスメントする必要があるとしている。

1)    コミュニケーション:会話言語、声の質、発音、沈黙の使用法、非言語コミュニケーション

2)    空間:快適と感じる空間の範囲、会話の際の距離、空間認識

3)    社会的組織:家族構成、宗教的価値や信念、文化や民族に関わること

4)    時間:時間の傾向(過去志向、現在志向、未来志向)、時間感覚(厳格に守る、ルーズ)

5)    環境制御:制御の場(環境を制御する力が人間側・外部にある)、価値の傾向(超自然的力を信じる・信じない、呪術等を当てにする・しない)

6)    生物学的多様性:体格、肌の色、体重、身長

ガイガーらによれば、これらの文化現象は どの文化圏においても共通してみられるものであり、どの文化に対しても適用可能なモデルであるとしている。

こうしたモデルを使用することで、自分と は違う文化を有する人たちへケアをする際に、どこに注目したらいいかが焦点化される。たとえばパーソナルスペースの広さは、清拭やタッチングを快適と考え るかどうかに影響するであろうし、時間感覚がルーズであれば、面会時間や食事の時間を守らない、といった行動に現れるだろう。人間の住む環境や生は人間自 身が制御できない、と考える人々にとっては病もまた運命であるため、ケアを不要と考えるかもしれない。対象者の行動を理解するためには、個人の文化的背景 を知ると同時に、こうしたモデルを使用して文化を構造的に把握する必要もある。

Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099

看護人類学入門

池田光穂