情報収集 0620
ヘ ルスコミュニケーション2017
この授業のレクチャーは二部構成である。ひとつは 「文献収集、文献読解、インターネットリテラシー」他のひとつは「面接、フォーカスグループ技法、質的情報処理、調査倫理(守秘義務)」である。
最初のテーマは、 「文献収集、文献読解、インターネットリテラシー」である。
次のテーマは「面接、フォーカスグループ技法、質的 情報処理、調査倫理(守秘義務)」
【資料】課題シート(パスワード付き)《kadai+setzumei170620.pdf》/説明シート(パス ワードなし)《Ryuiten170620.pdf》
【シナリオ】
シナリオ:(引用元の文献から固有名の変更をおこな いました。原出典もリンク先に表示しています)データの[恣意的]選別(原著: 10)
「大学院3年目の香織とポスドクの彩加(さやか) は、国立研究所で、高価な中性子分析装置を使って新しい実験用半導体の一連の測定を行っていた。彼女たちは自身の研究室に戻ってデータを検討していると き、新たに提案された半導体の挙動についての数学的理論から一つの曲線を導くような結果が予言されていることを知った。
"Kaori, a third-year
graduate student, and Sayaka, a postdoctoral fellow, have made a series
of measurements on a new experimental semiconductor material using an
expensive neutron test at a national laboratory. When they return to
their own laboratory and examine the data, a newly proposed
mathematical explanation of the semiconductor’s behavior predicts
results indicated by a curve.
国立研究所で測定を行っている間、香織と彩加は制御 も予測もできない電気出力のゆらぎが検出器に影響を与えていることを観測した。彼女たちは、ゆらぎが測定結果のある部分に影響を与えているのではないかと 疑ったが、どのデータ点がそうであるかわからなかった。
During the measurements
at the national laboratory, Kaori and Sayaka observed electrical power
fluctuations that they could not control or predict were affecting
their detector. They suspect the fluctuations affected some of their
measurements, but they don’t know which ones.
論文の出版を準備する最初のステップとなる研究室会 議で報告するために結果をまとめる際、彩加は用意するグラフの横軸近くの二つの異常なデータ点を落とそうとした。彼女は、理論曲線からのズレを考えると、 低いデータ点は明らかに出力ゆらぎが原因だという。実際、そのズレは残るデータ点から計算して予期される誤差範囲を超えていたのである。
When Kaori and Sayaka
begin to write up their results to present at a lab meeting, which they
know will be the first step in preparing a publication, Sayaka suggests
dropping two anomalous data points near the horizontal axis from the
graph they are preparing. She says that due to their deviation from the
theoretical curve, the low data points were obviously caused by the
power fluctuations. Furthermore, the deviations were outside the
expected error bars calculated for the remaining data points.
香織は、二つのデータ点を落とすことはデータの操作 と見られないかと心配になった。彼女と彩加は、出力ゆらぎに影響されているにしても、どのデータ点が影響されているのか確信をもつことができなかったま た、かれらは理論的予言が有効に成立しているかどうかもわからなかった。香織は、異常なデータ点も含めた別の解析を行い、研究室会議で問題点を議論しても らおうと考えた。しかし彩加は、もし発表でそのデータ点を含めると、ほかのメンバーがその問題が重要だ、から予稿論文で議論すべきと考えるかもしれず、そ うなると論文を出版することが困難になってしまうと主張した。そこで、彩加と香織は、この際そのデータ点を落とすことにした」。
Kaori is concerned that dropping the two points could be seen as manipulating the data. She and Sayaka could not be sure that any of their data points, if any, were affected by the power fluctuations. They also did not know if the theoretical prediction was valid. She wants to do a separate analysis that includes the points and discuss the issue in the lab meeting. But Sayaka says that if they include the data points in their talk, others will think the issue important enough to discuss in a draft paper, which will make it harder to get the paper published. Instead, she and Kaori should use their professional judgment to drop the points now."
【課題】
1.彩加と香織は、実験から得られたデータの公表の しかたを決定する際、どのような要素を考慮すべきだろうか?:1.What factors should Sayaka and Kaori take into account in deciding how to present the data from their experiment?
2.結果を予言する新しい説明はかれらの考察に影響 を与えるべきなのだろうか?:2.Should the new explanation predicting the results affect their deliberations?
3.この時点で予稿論文を準備すべきだろうか?: 3.Should a draft paper be prepared at this point?
4.香織と彩加がデータをどのように公表するかにつ
いてー致できないなら、かれらの一人は論文の著者になるべきではないのだろうか?:4.If Kaori and Sayaka can’t
agree on how the data should be presented, should one of them consider
not being an author of the paper?"
■この授業の留意点:(引用元の文献から固有名の変 更をおこないました。原出典もリンク先に表示しています)データの[恣意的]選別 (原著:10)
1. 香織と彩加の関係がどんなものが想像しておく
必要があります。香織は博士課程の院生ですが、まだPh.Dの候補者ではなさそうです。彩加はポスドクで、論文投稿においては先達で、香織の学問的助言者
である可能性があります。
2. データの公表や処理の透明性においては、彩加の香織に対する社会的地位の相対的高さにより、彩加はデータの処理や扱い方に対して、もうすこし誠実で
あるべきです。
3. 著者である米国科学アカデミーによると、著名なJournal of Cell Biology
で投稿された論文の1/4(25%!!!)に、なんと、作図に不適切な操作をしている可能性があると指摘しています(2002年)大きな情報の操作は、そ
れ自体でヤバイことなので、誰しもが不正行為をするわけではありませんが、軽微な操作ならよいと考えるのは、研究者の3つの公理の「研究者間の信頼」を裏
切る行為になるということです。
4. 結果を予言する新しい理論(質問課題の3.で示唆されています)は、それが指し示すもの学問的評価次第ですが、大変魅力的ですが、その傍証のために
は、沢山の時間的および経済的コストが必要になると思われます。「まあ、いいか!」ということが一番危険な発想です。
5. 授業の中で指摘しましたが、ラボノート(Laboratory
notebook)というのが、このような軽微な不正行為を防ぐ可能性があり、彼女たちの研究上の先取権なども保証してくれる可能性があります。実験系の
研究者で、もしご存じない方は、自分の研究成果に科学的信頼性を与え、かつ、特許などの利益の保全のためにも、ただしく、よいラボノートを記述する方法と
習慣を身につけておくことが重要です。
6. 最後に論文の共著になることと、今般のような「データの扱いに関する意見の不一致」の解消法は、それぞれの手続きに、法的な問題がクリアしているの
であれば、共同研究をどのように考え、どのように進展させていくのかについての、研究者の属する分野や文化によって多様な解釈が生じる可能性があります。
チームワークを重んじる日本では、なるべくそれぞれの相違を乗り越えて共著が勧められるでしょう。他方、論理の組み方の独自性やオリジナリティをまず優先
する西欧とりわけ米国の文化的土壌では、意見の相違を議論と論理によって統一するほうが優先されるでしょう。
7. 授業のなかでは、このような議論のほかに、論文の先取権の問題(日本や多くの国では先 願主義[first to file and first
to invent]ですが、米国では先発明主義[first to invent
system]がとられることに、ラボノートの有用性など)や、特許にまつわる利益の配分や、日本とアメリカの違いなどについて興味深い議論が展開しまし
た。
【資料】課題シート(パスワード付き)《kadai+setzumei170620.pdf》/説明シート(パス
ワードなし)《Ryuiten170620.pdf》
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池
内了訳、化学同人、2010年(On Being a Scientist: A Guide to
Responsible Conduct in Research: Third
Edition)https://www.nap.edu/catalog/12192/on-being-a-scientist-a-guide-
to-responsible-conduct-in
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