かならずよんで ね!

奴隷状態への帰還あるいは啓蒙の逆説

Return to Slave, or Paradox of Enlightment

池田光穂

O嬢の物語(角川文庫)序:奴隷状態における幸福 (澁澤龍彦訳)

「1838年、平和なバルバドス島(西インド諸島小アンティル列島中の島。英領)で血みどろの暴動が起こっ た。 つい最近の三月の法令により、自由の身分に昇格したばかりの男女約二百名の黒人たちが、ある朝、かつての彼らの 主人であるグレネルグという者の家に、自分たちをふたたび元の奴隷の身分にしてくれと陳情しに来たのであ る。陳情書を起草し、グレネルグの前でこれを読んだのは、仲間の一人である再洗礼派(アナバブティスト)の牧師であった。それか ら議論が始まった。しかしグレネルグは臆病であったのか、良心の疑懼(ぎく)を感じたのか、それともただ法律がこわ かったのか、彼らの陳情に屈することを拒んだ。すると黒人たちは、まず最初、グレネルグを軽く押しこくり、 それから家族もろとも彼を虐殺し、その晩、ふたたび自分たちの奴隷小屋に帰り、また元のように習慣的な会合 やら、労働やら、儀式やらを始めたのである。事件はマグレガー知事の配慮によって、すみやかにもみ消され、 奴隷解放の運動は、着々として進展した。陳情書はというと、その後二度と見つからなかった。/ わたしは、この陳情書について時々考える。それにはたぶん、労働の家(救貧院)の組織についての正しい訴 えとともに、鞭を独房に代えることの要求、また病気にかかりやすい〈徒弟〉——新しい自由労働者をこのよう に呼んでいた——の公民権を停止することの要求、そして少なくとも奴隷の身分に対する弁護論の草案がふくま れていたにちがいないのである。たとえば、わたしたちの感じうる唯一の自由が、互い に交換可能な一種の屈従 のなかに他人をおとしいれる自由であるということに注意されたい。自由に空気を吸うことを楽しむ人間はいな い。しかしながら、たとえば、もしわたしが午前2時まで陽気にバンジョーを鳴らす自由を手に入れるならば、 わたしの隣人は、わたしの鳴らすバンジョーを午前2時まで聞かないでいることの自由を失うのだ。もしわたし が何もしないでいられるならば、わたしの隣人は2人分はたらかなければならないのだ。そしてまた、この世の 自由に対する無条件の情熱は、やはりそれに劣らず無条件の闘争や戦争をただちにひき起こさずにはいないとい うことを、誰でもが知っている。さらに付け加えて言うならば、たとえ弁証法の配慮により、奴隷がいずれは主 人になることに定められているとしても、ここで急いで自然の法則などを持ち出すのは、おそらく間違いである にちがいない。結局、恋人や神秘主義者によくあるように、他人の意志に身をまかせる ということ、自分一個の 快楽や利害や複合感情から解放されたわが身を知るということは、崇高なことなのであり、歓びを伴うことなの である。要するに、このささやかな陳情書は、今日、120年前よりももっと、異端の相貌をあらわすであろう し、危険な書物の相貌をあらわすであろう」——O嬢の物語(角川文庫)序:奴隷状態における幸福 (澁澤龍彦訳)。

◎日本国憲法第18条

「第十八条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けな い。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」英訳:Article 18.No person shall be held in bondage of any kind.Involuntary servitude, except as punishment for crime, is prohibited.

◎Elenore Smith Bowen, Return to Laughter: An Anthropological Novel. 1964.

"About to go to Africa for the first time, I had conscientiously rooted about among my acquaintances for helpful information. On their advice I'd been inoculated for yellow fever, smallpox, typhoid and paratyphoid, tetanus, typhus, and only my own reluctance had saved me from a cholera shot. I had gone to a tropical outfitter in England, and had been expertly outfitted with all manner of folding equipment, with evening dresses ( trouble to pack and seldom worm), a soda siphon (an unmixed blessing) and an elaborate set of silver, dishes and glassware (a nuisance, but good for my steward's morale). The outfitters said I would be able to get nothing at all in West Africa. The wife of a trader on leave told me I could get everything I might want there. Both were right, from time to time./ My main trouble had been that I had no idea of what I might need. My own imagination carried me no further than a typewriter, paper, notebooks, and a miscellany for reading: detective stories, desert-island stand-bys like Shakespeare and the Bible, and a terrifying handbook of tropical diseases. I had myself Introduced to ex-traders and retired administrators. They all recommended a meat grinder to make goat meat edible and curry powder to make it palatable; unanimously they instructed me to trek early (•trek"' in West African English covers almost any distance of walking), to sleep in the heat of the day, and at sundown to bathe, put on a sweater and have one drink with my quinine. I was grateful, but I wanted to know more./ Anthropological advice, though much less consistent, was equally limited. "Always take your boys from among the tribe you are studying, or there will be trouble."" Always take a boy who is a stranger; then he'll be your man..."- Elenore Smith Bowen, Return to Laughter: An Anthropological Novel. 1964.

「初めてアフリカに行くことになった私は、知人たち の間で有益な情報を根こそぎ聞き出した。黄熱病、天然痘、腸チフス、パラチフス、破傷風、チフスの予防接種を受け、自分の不本意な気持ちからコレラの予防 接種を免れた。私はイギリスの熱帯地方の艤装業者に依頼し、あらゆる種類の折りたたみ式の道具、イブニングドレス(荷造りが面倒で滅多に汚れない)、ソー ダサイフォン(混じりけのない恵み)、銀食器、ガラス食器の凝ったセット(厄介だが、執事の士気には良い)を巧みに装備させられた。西アフリカでは何も手 に入らないだろうと艤装屋は言っていた。休暇中の貿易商の奥さんは、西アフリカでは欲しいものは何でも手に入ると言った。私の最大の悩みは、何が必要なの か見当もつかないことだった。私の想像力は、タイプライター、紙、ノート、そして探偵小説、シェークスピアや聖書といった砂漠の島の定番本、そして恐ろし い熱帯病のハンドブックといった読書用の雑多なものまでしか持っていなかったのだ。元トレーダーや元管理職を紹介された。彼らは皆、ヤギ肉を食べられるよ うにするための肉挽き器と、カレー粉を勧めてくれた。そして、早くからトレッキングをし(西アフリカ英語で「トレック」は、ほとんどすべての距離を歩くこ とを指す)、日中の暑いうちに寝て、日が暮れたら風呂に入ってセーターを着て、キニーネで一杯やるようにと教えてくれた。人類学的なアドバイスも、一貫性 はないものの、同様に限られていた。"男の子は必ず研究対象の部族の中から連れてこい、さもないとトラブルが起きるぞ" 常に見知らぬ男の子を取りなさい、そうすれば彼はあなたの部下になるでしょう...」

◎免疫の問題

「「私」は以前出逢った砲兵と再会し、人類が負けた 事と将来の事について話し合う。砲兵と別れたあと静寂に包まれたロンドンに入った「私」は、そこで戦闘機械を見つける。死を決意し近づいていくが、そこで 見たものは火星人たちの死体だった。彼らを倒したのは、人間の武器や策略ではなく、太古に神が創造した病原菌であった。地球の人間と違って、これらの病原 菌に対する免疫が全くなかった火星人たちは、地球で呼吸し、飲食を始めた時から死にゆく運命だったのである」Wikipedia-H.G.ウェルズ『宇宙 戦争(The War of the Worlds)』より」

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