池田光穂
■ 医療社会学の定義
医療や保健に関することがらを、社会学の観点と方法
論を用いて研究するのが医療社会学です。研究者により、医療の社会学、医療社会学、保健医療社会学、保健の社会学などと呼ばれることもある。ロバート・ス
トラウスの指摘にあるように、1950年代には、北米では医療社会学という学問の名称は、すでにできあがっていたものと思われる。
社会学者のロバート・ストラウスは1956年当時,
医療社会学と呼ばれている領域の110名の研究者たち(それはアメリカ社会学会会員から成り立ち,関連する医学,人類学,心理学,ソーシャルワークの領域
の研究者を除外した数)についての分析を行いました.具体的な分析の後に,ストラウスは現在でも有名な医療社会学の2つの区分を行いました.それは,
(1)医療の社会学(sociology of medicine)と(2)医療における社会学(sociology in
medicine)です.前者は,医療の組織構造,役割関係,価値体系,儀礼,行動体系としての医療の諸機能を研究するもので,主に医療の領域の外から眺
めて分析するというものです.他方,後者は,様々な概念のまとまり,技能,そして様々な領域の人材が含まれた,医療の領域との協働で行われる社会学的研究
です[Straus 1957:203].
【文献】
■ 中川輝彦・黒田浩一郎編『よくわかる医療社会
学』京都:ミネルヴァ書房、2010年(→解説編はこちら)
1.健康・病の経験
1)意味づけとしての病
2)病人役割
3)病気行動
4)慢性疾患
5)病の語り
6)残余ルール違反——精神疾患の社会学
7)スティグマ——「烙印」としての病
8)ジェンダーと病
9)医師?患者関係
10)死の意識
11)健康至上主義
- コラム1)健康食品
- コラム2)ターミナルケアとホスピス
- コラム3)QOL
2.健康・病をめぐる知識と技術
- 1)医学知識・技術の社会的構築
- 2)生物医学
- 3)特定病因論と確率論的病因論
- 4)医療化
- 5)先端医療
- 6)新遺伝学
- 7)監視医療
- 8)新公衆衛生学
- 9)素人の知識
- 10)意識変容物質——「ドラッグ」の社会学
- コラム4)人体実験
- コラム5)EBMと診療ガイドライン
- コラム6)DSM
- コラム7)抗生物質
- コラム8)予防接種
- コラム9)人間ドック
- コラム10)臓器移植
- コラム11)生殖技術
- コラム12)出生前診断
- コラム13)再生医療
- コラム14)ストレス
3.医療にかかわる仕事・職業
- 1)医療における分業
- 2)医療における専門職支配
- 3)専門職の自己規制
- 4)専門職とジェンダー
- 5)医師と連携する専門職
- 6)感情労働
- 7)インフォーマルケア
- コラム15)赤ひげ——医療不信の神話
4.医療をめぐる制度
- 1)医療をめぐる政治
- 2)近代医療
- 3)医療施設
- 4)多元的医療システム
- 5)医療をめぐる社会運動
- 6)薬の規制
- 7)福祉国家における医療
- 8)グローバリゼーションと医療
- コラム16)健康保険
- コラム17)生命倫理
5.研究者紹介
- 1)タルコット・パーソンズ
- 2)エヴェレット・ヒューズ
- 3)エリオット・フリードソン
- 4)アンセルム・ストラウス
- 5)ミシェル・フーコー
- 6)デイヴィッド・アームストロング
- 7)アーヴィング・ゴッフマン
■ Gabe, Jonathan and
Lee Monaghan eds. Key Concepts in Medical Sociology. 2nd. ed., Los
Angeles: Sage. 2013
Part 01 Social
Patterning of Heatlh
- Social Class
- Gender
- Ethnicity
- Place
- Material and Cultural Factors
- Life Events
- Neoliberal Globalization and Health Inequalities
- Ageing the Lifecourse
- Social Capital
Part 02 Experience of
Health and Illness
- Medicalization
- Illness and Health-Related Behaviour
- Stigma
- Embodiment
- Emotions
- Chronic Illness
- Disability
- Illness Narratives
- Risk
- The Sick Role
- Patient-Client Relationships
- Quality of Life
- Awareness Contexts
Part 03 Health,
Knowledge and Practice
- Medial Model
- Social Constructionism
- Lay Knowledge
- Reproduction
- Medical Technologies
- eHealth
- Geneticization
- Bioethics
- Surveillance and Health Promotion
Part 04 Health Work
and
The Division of Labour
- Medical Autonomy, Dominance and Decline
- Trust in Medicine
- Nursing and Midwifery as Occupations
- Social Divisions in Formal Health Care
- Health Professional Migration
- Complementary and Alternative Medicine
- Emotional Labour
- Informal Care
Part 05 Health Care
Organization and Policy
- Hospitals and Health Care Organizations
- Privatization
- Managerialism
- Consumerism
- Citizenship and Health
- Social Movements and Health
- Medicines Regulation
- Evaluation
- Malpractice
■ 社会学の基礎概念:石川ひろの・進藤雄三・
山崎
喜比古『社会学』(系統看護学講座・基礎分野)医学書院、第6版、2012年、より
この教科書は、医療社会学を学ぶために必要な知
識
が、きわめて整列良く解説されている。スタティックな医療社会学にはぴったりの入門書だ。以下は、その項目である。ただし完全なコピーではなく、引用者
(池田)が勝手に書き換えたり、重要な部分は細かく記していることもあるので、利用者は、原著にあたり確かめること。
- 社会学史
- 現代の社会学
- 保健医療社会学
- 社会学の基礎概念
- 行為、社会的行為
- 相互行為・社会関係・地位ー役割
- 集団、組織、ネットワーク
- 制度、全体社会、グローバルシステム(社会?)
- 変動とグローバリゼーション
- 合意と紛争(コンフリクト)
- 構造と解釈
- 構造と過程
- 意図せざる結果
- モデルの応用
- 社会関係資本
- 公衆衛生と社会医学
- 病者の視点・社会の視点
- 社会システムとしての医療
- 保健医療と社会学
- 社会調査
- 量的調査と質的調査
- 量的調査の企画と実施
- 質的調査の方法
- 社会調査の倫理
- 病気、健康の見方、捉え方と、それらの変遷
- 健康と病気の新しい見方
- 生物医学モデル、生物社会心理モデル
- 客観的健康と主観的健康
- 疾病モデルと健康モデル
- 健康とQOL(生活の質)
- 病いと共に生きる人
- 疾患生成モデル、健康生成モデル
- 健康と病気の要因と社会との関係
- ストレッサーとストレス、ストレス・コーピング(対処)
- ヘルス・ディスパリティ(=[社会的諸要因の帰結としての]健康の不平等)
- 社会的格差と平等
- 健康と病気の社会的格差の諸相
- 社会的格差がどのように健康格差になるのか?(メカニズム)
- マテリアリズム
- 文化的行動論
- 社会選択論
- 社会関係資本による説明
- 格差への取り組み
- 健康格差対策の原則
- 具体的領域
- 我が国の対策の検討
- 労働:働き方と働かせ方
- 働き方と働かせ方の健康への影響
- 過労死、過労による自殺
- バーンナウト(バーンアウト)
- 健康に影響を与える職場の要因
- 仕事要求度=制御モデル
- 努力=報酬の不均衡モデル
- 職場健康モデル
- 仕事の生活の調和
- ワークライフバランス
- ワーク〈対〉ファミリー・コンフリクト(紛争)
- ワークライフバランス支援態勢
- 健康行動と病気行動
- 病い経験
- 病いの語り
- ヘルス・リテラシー
- コミュニケーション
- 医療者=患者コミュニケーション(患者=医療者コミュニケーションとも)
- 医療者=患者関係モデル
- 患者と医療者のコミュニケーション
- 医療者=患者コミュニケーション:我が国の分析
- パターナリズム志向
- おまかせ医療
- 家族の介在(〈対〉個人主義モデル)
- 患者アドボカシー
- 患者と医療者の協働モデル
- 保健医療職種
- 専門職論
- 専門職論と、保健医療の専門職
- 専門職支配
- 病院組織
- 専門職論に関する議論
- 国家との関係
- 市場との関係
- クライアンティズム
- 医療関係職種内での関係
- 看護職論
- 性差と性別、性のあり方の多様性
- ジェンダーとケア役割
- ジェンダーと健康
- 結婚と家族:一般理論
- 結婚と家族:医療や保健との関わり
- 男女共同参画社会
- コミュニティと地域
- 社会支援(ソーシャル・サポート)と社会関係資本
- ソーシャルネットワーク
- ソーシャル・サポート
- 社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)
- ヘルスプロモーションにおける地域
- コミュニティエンパワメント
- 地域の保健力
- ノーマライゼーションと地域
- 福祉国家と社会保障制度
- 保健医療システムと保健医療制度
- 保健医療制度:日本の歴史
- 保健医療システム
- プライバタイゼーション
- ケアと医療
- ケア論
【文献】
石川ひろの・進藤雄三・山崎喜比古『社会学』(系統看護学講座・基礎分野)医学書
院、
第6版、2012年
■ 医療社会学の批判的伝統:現在未整理・現在再構築中
- 0 Introduction, p.1
- 1 Theoretical Perspective on Medicine and Society, p.4
- 1.1 (Introduction), p.5
- 1.2 The Sociology of Health and Illness, p.6
- 1.2.1 Functionalism,
p.6
- 1.2.2 The Political
Economy
Perspective, p.8
- 1.2.3 Social
Constructionism, p.11
- 1.3 Medical Anthropology, p.13
- 1.4 Historical Dimension, p.15
- 1.5 Cultural Studies, p.16
- 1.6 Discourse and the 'Lingustic Turn', p.17
- 1.7 Conclusion: a Merging of Perspcetives, p.19
- 2 The Body in Medicine, p.20
- 2.1 (Introduction), p.20
- 2.2 Social Theory and the Body, p.20
- 2.3 Foucaut, the Body and the Clinic, p.23
- 2.4 The Gendered and Sexual Body, p.24
- 2.5 Public Health and the Disciplined Body,
p.30
- 2.6 Ceanliness, Dirt and Body Boundaries, p.32
- 2.7 The Commodified Body, p.36
- 2.8 Food and the Body, p.40
- 2.9 The Dead Body, p.44
- 2.10 Conclusion, p.48
- 3 Representations of Medicine, Illness and Disease in Elite and
Popular
Culture, p.50
- 3.1 (Introduction), p.50
- 3.2 Desease and Death in Elite Culture, p.50
- 3.3 Medicine, Illness and Death in Popular
Culture,
p.52
- 3.4 Illness and Metaphor, p.54
- 3.4.1 The Machinary of
the
Body, p.59
- 3.4.2 The Military
Metaphor,
p.61
- 3.4.3 The Body against
Itself: Metaphor of the Immune System, p.64
- 3.4.4 Cancer
Metaphors, p.66
- 3.4.5 Metaphor, Gender
and
Medicine, p.69
- 3.5 The Iconography of Illness, Disease and
Death,
p.71
- 3.6 Countering the Oppressive Image: Cultural
Activism, p.76
- 3.7 Conclusion, p.78
- 4 The Lay Perspective on Illness and Disease, p.79
- 4.1 (Introduction), p.79
- 4.2 Historical Perspactives on the Illness
Experience, p.79
- 4.2.1 Emergence of
Scientific Medicine, p.83
- 4.3 Comtemporary Perspectives: Rationality,
Morality
and Control, p.86
- 4.4 The Moral Dimensions of the Illness
Experience,
p.89
- 4.5 Experiencing Illness, p.92
- 4.6 Hospitalization, p.94
- 4.7 The 'Potential Sick Role', p.98
- 4.8 Causes of Disease and Illness from the Lay
Perspective, p.100
- 4.9 Conclusion, p.104
- 5 Power Relatuions and the Medical Encounter. p.105
- 5.1 (introduction)
- 5.2 The Functional Perspective on Power, p.105
- 5.3 The Political Economy Perspective on
Power, p.107
- 5.4 The Foucauldian Perspective on Power, p.111
- 5.5 Patient's Resistance to Medical Power,
p.113
- 5.6 The Doctor's View, p.117
- 5.7 The Nurse's Perspective, p.121
- 5.8 Moral Values in the Medical Encounter,
p.123
- 5.9 Alternative Therapies and Self-help
Groups:
Challenging Medical Dominance?, p.125
- 5.10 Conclusion, p.129
- 6 Feminisms and Medicine, p.131
- 6.1 (Introduction)
- 6.2 Gynaecology, Sexuality and the Femine
Body, p.132
- 6.3 Contraception and Abortion, p.138
- 6.4 Menstruation and Menopause, p.141
- 6.5 Childbirth and the Struggle for Control,
p.146
- 6.6 Prenatal Screening Technologies, p.151
- 6.7 Assisted Conception Technologies, p.155
- 6.8 Conclusion, p.160
- 7 Conclusions, p.161
- 8 References
テキスト
Lupton, Beborah. (1994)
Medicine as Culture: Illness, Disease and the Body in Western Culture.
London: Sage.