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インフォーマント

Informants in anthropological studies


Unidentified Native Man (Carrier Indian) (possibly Steward's informant, Chief Louis Billy Prince) and Julian Steward (1902–1972) , Outside Wood Building, 1940

解説:池田光穂

インフォーマント(informant)とは、調査において人類学者に情報 (information)を提供してくれる 人のことです。

ジャーナリズムの用語で言うと、取材を受ける人、情報提供者、被調査者など、さまざまな言い 換 えが可能ですが、人類学は狭義のジャーナリズムではないので、そのようには考えません。また、軍事 作戦におけるインフォーマントは、「現地の情報に精通し、またスパイにもなる民間の協力者」 (内部通報者)ということになるかもしれなませんし、そのように使われています。

インフォーマントは、情報論的にはデータそのものであり、調査者はインタービューを通して、 イ ンフォーマントの情報すなわち地域や文化の情報を引き出すことになりますが、これもまた人類学の理論に おけるインフォーマントのことではありません。

では、インフォーマントとは誰のことか?(Who is informant? Quien es informante?)

人類学におけるインフォーマントは、調査のプロセスで接触するすべての人々のことと考えても ら ってもよいでしょう。現地の人と出会い、話し合うことを通した自分の活動を内省的みれば、人類学者自身もまた相手にとってインフォーマントとなりうる資格 をもっています。したがって、人類学の調査では、あらゆる人がインフォーマントのことになります。

他方、人類学では同時にインフォーマントを[今度は逆に]狭く厳密に捉えることがあります。 この場合のインフ ォーマントは、人類学者の調査の趣旨を理解してくれ、人類学者の対話の相手になる、同僚または先生のこと でもあります。この狭義のインフォーマントは、人類学の著名な調査には人類学者の有能な助手となるだけでなく、人類学者の導きの糸たる先生にもなり、人類 学者の名声と共に人類学の歴史に名を残す人もいます。

よく人類学という学問的枠組みに対する政治的批判において、人類学者がインフォーマントを知 的あるいは経済的に「搾取」するイメージで語られることがありますが、上のように先生(=インフォーマント)と生徒(=人類学者)の関係のようにフィールドワークのプロセスにおいてその地位がしばしば逆転することがあったり、長く友愛の 関係で結ばれることが〈経験的事実〉としてありますので、人類学者がインフォーマントを搾取するというイメージは(全くそのような危険性がないとは言えな いものの)不適切であることは、強調してもよいと思います。

■かなり偏った視点からの自己批判(2017年1月11日)

多文化共生教育の文脈のなかでは民族的/人種的マイノリティが教室の中にひとりでもいると、その 教室の「仲間」はそれを代表するネイティブ・インフォーマントになる。この文脈の中では、僕のインフォーマントの人権と尊厳を高めようという(この項目で の)意見は、悪い言い方をすると改良同化主義者のものになり、多少よい言い方になってもせいぜいパターナリズムから抜けきれない良心的な元奴隷主あるいは 元植民地官僚という政治的位置にいることになる。(→「フィールドワーク研究の倫理」)

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