書評:花渕馨也『精霊の子供――コモロ諸島における憑依の民族誌』横浜:春風社、2005年
『文化人類学』71巻2号、Pp.266-269、2006年9月 による変奏エッセイ
4.0 このことを理解しようとする時、スンニー派ムスリム村であるニュマシュワにおける憑依現象は、我々に対して興味深い実態を示す。それは、人口2千人ほどの村落のうち100人近い村人が憑依霊(ジニ)をもっているが、その9割が女性であるということ。またジニの集団には数種類の親族集団ならびにその数世代にわたる系譜関係があること。そしてジニには性別があり、女性がもつジニには男性が多く、憑依されると反対の性別に憑依される人たちが振る舞うという現象があること。また病気治療をおこなう施術師のジニの多くの性別は男性であり、男性の多くは憑依に関わることを忌避する傾向があることだ(p.109)。憑依現象の女性への偏りや、憑依する精霊のジェンダーが反転することは、ムスリム社会における女性の社会的位置、憑依とジェンダー、ジェンダーを弁別特徴とする男性の権威表象の模倣論など、先行する研究領域の種々の論争的テーマと比較検討するための、格好の民族誌事例を提供する。憑依をめぐるこれまでの先行研究の紹介とそれに対する批判は、広範な文献渉猟と的確な批判的読解に裏付けられている。
書評:花渕馨也『精霊の子供――コモロ諸島における憑依の民族誌』横浜:春風社、2005年、『文化人類学』71巻2号、Pp.266-269、2006年9月
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