書評:花渕馨也『精霊の子供——コモロ諸島における憑依の民族誌』横浜:春風社、2005年
『文化人類学』71巻2号、Pp.266-269、2006年9月 による変奏エッセイ
5.0 第4章「病気と負債」は、人々が種々の儀礼を通して憑依の技法を確立してゆくプロセスが書かれてある。他方、精霊(ジニ)の側からみる と、憑依される人々を操作してこの世に生まれ出てくる過程、あるいはこの世の人々と長期に安定した関係を確立する初期のプロセスの記述と分析であるとも言 える。また民族医療という観点からみると、治療選択のオプションとして生物医学が選ばれる病気とは別種の「神の病い、呪術の病い、精霊の病い」という異常 事態がいかなるように、憑依システムの中に組み込まれていき[狭義の]病気ではなくまさに憑依として取り扱われるようになるかという過程が描かれている。 ンゴマと呼ばれる饗宴のなかでおこなわれる憑依したジニが名乗りをあげる場面の記述は、本書の中盤に現れる最初のクライマックス部分である。ジニとの長く 続く関係が確立されるンゴマでは、その関係を村人たちは、治療の語り口、結婚の語り口において語るという。しかしながら、ンゴマが失敗し再度試みられる希 有な事例の検討では、シュングと呼ばれる儀礼的地位の階梯制度(p.83)、つまり通過儀礼において饗宴をおこなう義務とその履行にもとづく地位の達成の 不調という観点から儀礼が見直され「マウを課す」という制裁行為によって、儀礼プロセス全体がやりなおされることが詳細に分析される(pp.260- 3)。したがってシュングの語り口によってもンゴマを理解することができるのだ。
書評:花渕馨也『精霊の子供——コモロ諸島における憑依の民族誌』横浜:春風社、2005年、『文化人類学』71巻2号、Pp.266-
269、2006年9月
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