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政治的アイデンティティとしての先住民

indigenous people as political identity


池田光穂

政治的アイデンティティとは、ある種の権力を求めて共通の闘争を行う特 定の集団の一員であることを示す社会的アイデンティティの一形態である。これには政党との同一性(アイデンティファイ)だけでなく、特定の政治問題に対す る立場、ナショナ リズム、民族間関係、またはより抽象的なイデオロギー的テーマも含まれる。政治的アイデンティティは個人の中で発達し、時間の経過とともに進化する。人生 や経験の過程で、特定の政治的軌跡を辿り、時には政治的アイデンティティを変える個人もいる」。このように主体が生きる政治的状況により定義あるいは再定 義されるのが政治的アイデンティティの特徴である。先住民が、非先住民のマジョリティやヘゲモニーを握った権力構造から抑圧者として位置付けられる時、ま た世界的な先住民の権利回復運動がもたらされる時、世界の先住民は、さまざまな状況のなかで、同時多発的にかつ多様な形で、先住民はそれまでの先住民像を リストラクチャリングして「新たな先住民像」を獲得するに至る。これこそが、政治的アイデンティティとしての先住民である(→「先住民の文化的再構成」「政治的アイデンティティ」)。

(1)政治的アイデンティティとは、イ デオロギーが要請した「集団」に対して、政治権力構造が画一的 な対応 をする際に、その構成員とみなされる人々のなかに生まれるアイデンティティのことであ る。端的に言うと、19世紀中葉のマルクスが論じたド イツにおける 「ユダヤ人問題(Judenfrage)」(1843)における、ブルーノ・バウアーなら びにマルクス自身が取りあげている「ユダヤ人」は典型的な政治的 アイデンティティの一つであり、またこの概念を使って議論をした最初のケースであろう。(→「ブ ルーノ・バウアーを批判するカール・マルクス」「ユダヤ人問題」)

(2)この概念を敷延すると、イ デオロギーがつ くりだす秩序や抑圧構造に抵抗する人たちが、集団的行 動や実践をおこなう際に、その人たちの間に生まれる連帯感や一体感あるいは価値観の共有を構成するものもまた政治的アイデンティティと呼ぶことができるで あろう。たとえば、植民地の人たちが宗主国から独立するために、人種や民族の違いを 克服するために「国民=ネイション」を形成する際にうまれるものがそれ に相当する(Benedict Anderson, 1983, 1991)。政治的アイデンティティがナショナル・アイデンティティとして固定化することがこのことの好例である。しかし、他方で、少数民族(例:北アイ ルランド人、バスク人)がそれを包摂する国民国家(例:英国、スペイン)から独立しようとする時、独立運動をめざす政治的アイデンティティが新たにその民 族的アイデンティティに付与されることも起こるだろう。

太田好信(2012:19, 29)によると、彼は 「政治的アイデンティティ」について、次のようにまとめている。

「政治的アイデンティティとは、マムダニ (Mamodani 2001:22)によれば、文化や言語、あるいは歴史の共有から生まれる文化的アイデンティティや生物学的アイデンティティなどとは異なり、法がある特徴 により人びとを集団化し、国家がそう規定された人びとに対して画一的な対処をするとき生まれるアイデンティティである。そのような集団化の 結果特権を付与 される人びともいるが、反対に不利益を被る人びとも出てくる。結果的には、排除を意識し、その是正を求めるときに立ち上がるアイデンティティも政治的アイ デンティティなのである(Jung 2008:30)。なぜなら、パワーにより規定され、その規定が是正されることを求めるという意味で、是正を求める運動も政治的といえるからである」(太 田好信「21世紀における政治的アイデンティティの概念化」2012:19)。

上記の引用文の末尾の脚注によると、……

パワーや資源へのアクセス制限を 媒介させることに より、その制限解除を求め ようと人びとは結集する。そうして構築されたアイデンティティも、政治的アイデンティティである。いいかえると、国家は人びとのアイデン ティティに外在するのではなく、人びとのアイデンティティを積極的に形成したのである。政治的アイデンティティとは、マムダニの定義から一歩進め、民主制 における欠陥を指摘し、民主国家建設に向けた目標に合致するアイデンティティとして再解釈できる(Jung 2008:37)。先住民も近代国家形成において政治から排除されてきた対象として捉えることにより、国家が先住民たちに対して負った責務を優先して考え ることができよう。たしかに、『先住民(族)の権利に関する国際連合宣言』では、先住民には国際法上の自己決定権が認められており、「自らの政治的地位を 自由に決定できる」(United Nations 2007:17)と明記されている。しかし、この条項が先住民だけによる独自の国家形成という意味に解釈されることは稀であり、現時点では先住民を国家と の関係において考察するのは間違いではないと考えている」(太田 2012:29)。

彼が引用する『先住民の権利に関する国際連合宣言』 では、……

Article 3 Indigenous peoples have the right to self-determination. By virtue of that right they freely determine their political status and freely pursue their economic, social and cultural development.

「第3条 先住民は自決権を有する。その権利により、彼らは自由に政治的地位を決定し、自由に経済的、社会的、文化的発展を追求する」。

となっており、この箇所を指しているものと思われる。

以上をまとめると、(1)のアイデンティティはユダ ヤ人のように「人種」や「民族」の ように、当事者ならびに周囲の人々(国際社会を含む)からレッテルづけられたり、そのアイデンティティに追記したり、ま たそこから逃れるためのさまざまな創造行為が生まれ、それらとレッテルや偏見に対する複雑な関係を形成するために「本質主義」化の傾向が強まるだろう。他 方(2)の政治的アイデンティティは、一時的な形成物のようにも感じるが、ナショナル・アイデンティティのように教育や福祉などのような国家制度が整備さ れたり、公教育や公共放送などを通して維持進展させられると(1)のものと峻別がつかなくなる。

政治的アイデンティティ」の内容は下線にリンクする。

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