Reimagining the Ryukyu Nation
京都地裁への提訴で入廷する原告団ら。横断幕の左端が丹羽正雄弁護団長、前列右端が松島泰勝原告団長=2018年12月4日(沖縄タイムス
2021年9月29日)
琉球の定義というのはむつかしい。古くは 琉球王国だ が、これは沖縄本島と先島(宮古・八重山)を含んだ王国の領土区分だが、沖縄やウチナーに先島が含まれるのかというのは、歴史的にはアイデンティティ問題 も含めて複雑な歴史的事情がある。島津藩は、江戸幕府の琉球征服の過程のなかで奄美を侵略併合したという経緯がある。明治政府の琉球処分は、沖縄、先島を 含めて南北の大東島と尖閣諸島をすべて包摂して沖縄県とした。そのため、ここでの琉球の定義は、歴史的かつ広域的に言語文化圏としてみなしてよい、奄美か ら八重山までを含む領域を緩やかに「琉球」と呼ぶこととする(→「琉球コロニ アリズム」より)。
このページの制作趣旨は「琉球民族遺骨返 還請求訴訟」こそが、21世紀の沖縄人・琉球人の民族的アイデンティティ(ethnic identity)を新しく作り直した、再想像行為であると論拠づけるためにある。ここで、なぜ再想像と呼ぶのか?それは、琉球の民 (indigenous people of the Ryukyu)が、「琉球処分」以降、日本社会・日本民族から同化政策を押し付けられ、日本化政策を今日に到るまで続いてきたことに鑑みて、沖縄人・琉球 人の民のさまざまな局面における自己決定権(the rights of self-determination)を復権することを、さまざまな文化運動、政治運動、社会運動を通して主張してきた。民(people)としての、 集団的自衛や自治ならびに自己決定という国際基本人権に謳われた精神を取り戻すプロセスとして「琉球民族遺骨返還請求訴訟」というものがある。
再想像だから最初の想像も含めて実体とし ての「琉球民族」や「沖縄人・琉球人の民」はなかったということにならない。琉球国の存在や、琉球沖縄とのそこに住まう民を、実体としてあったあるいは、 あり続けているからこそ、日本国民として統合——これは沖縄人・琉球人の民からみれば日本への同化にほかならない——されたわけである。にも関わらず、沖 縄人・琉球人の民は、政策のみならず、ヤマトの民により不当に差別され取り扱われてきた歴史があるからこそ、「沖縄人・琉球人の民」を文化的・言語的差異 をリスペクトして同じ同胞として、平等に取り扱われるべきだという、基本的人権の希求を沖縄人・琉球人の民はこれまで、主張してきたし、これからも主張し ようとするわけだ。その意味で、「琉球民族遺骨返還請求訴訟」は、先に触れたように、21世紀の沖縄人・琉球人の民族的アイデンティティを新しく作り直 し、現在を生きているすべての人たちの相互承認を待つための、再想像行為なのである。
以下、「琉球コロニアリズム」より、この訴訟に与る記述を再掲する。
琉 球先住民というのは、もともとに琉球に居住し、独自の文化と言語を維持継承発展させてきた人たちのことである。これを《琉球先住民Ver 1.0 》と呼んでもいい(→「琉球コロニアリズム年表」)。しかし、1972年 「琉球返還」後、琉球が日本に再度併合されて、日本国の都道府県のひとつ「沖縄県」になってから以降の、中央政府とのさまざまなやりとりを通して、琉球コ ロニアリズム(あるいは沖縄コロニアリズム)の兆候を歴史年表から読み取ることは容易である。
琉 球の先住民性を更新する新たな出来事が2023年9月に2つあった。
そ れは、玉城デニー知事が、2023年9月18日(日本時間19日)、「スイス・ジュネーブの国連欧州本部で開かれている国連人権理事会に出席し、在日米軍 基地が沖縄に集中している現状や、日本周辺の緊張を高める軍事力増強への懸念について訴えた」(朝日新聞)。 玉城知事の重要性は、中央政府が進める米軍辺野古基地移設に関して県民投票などの民意が一切聞き取ることをせず、基地建設を反対派の運動を暴力で押さえつ けて実行していることを伝え、県民の人権と福利が阻害されていることを、人権理事会で発言が認められている非政府組織(NGO)側の参加者として演説した ことである。つまり、知事の立場を超えて、(文化的独自性をもつ)沖縄人民の一人として発言したことである。これは、地域的独自性をもつ、民族集団として の沖縄県ないしは琉球人としての発言としてみなしてよいのである。玉城知事が、国際社会にその人権擁護を訴えたことはまことに素晴らしい発言である。
(https://www.asahi.com/articles/ASR9M72H1R9JUTIL00C.html)
次 に琉球遺骨返還訴訟控訴審の同年9月22日の結審で、大阪高裁の大島眞一裁判長が、控訴審そのものは、第一審の京都地裁判決(2022年4月)を支持し、 原告側の控訴を棄却したが、判決には異例の次の文章の付言(一部)を表現した。
「遺 骨は、単なるモノではない。遺骨はふるさとで静かに眠る権利があると信じる。持ち出された先住民の遺骨は、ふるさとに帰すべきである。日本人類学会から提出された『将来 にわたり保存継承され研究に供されるべき』との要望書面に重きを置くことはできない」
(https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1115534)
大 島裁判長は、第一審判決での「琉球民族」という名 称認定に加えて、その民族が「先住民」であることを示唆している。裁判長がこのような語彙を判決文に付記することは、日本の裁判史上画期的なことであり、 これは、琉球先住民 Ver 1.0で前提としている歴史的事実から発言ではないことは明らかである。むしろ、これまでの琉球先住民 Ver 1.0への差別や中傷——玉城知事の国連人権理事会での発言に産経新聞などは琉球先住民という概念に対してほとんどヘイトに限りなくちかい批判論難を展開 することに着手していている——に対して沖縄の内部から、そうではなくて、沖縄の新しい自己の存在という民意すなわち琉球先住民 Ver 2.0が生まれつつある、あるいは少しづつ確固としたものになりつつあるということだ。琉球先住民 Ver 2.0 は、琉球の人たちの中央政府からの抑圧に対して対抗的に形成されたことがあきらかであるが、自らの被抑圧な状況に対する現状認識があることは明らかであ る。
つ まり、沖縄県民が国際社会に訴えて、日本の国内に おいて、文化的独自性をもつある種の民族集団——先住民としての琉球人——の人権が侵害されていること。そして、琉球遺骨返還訴訟控訴審において、琉球の 人たちの文化的独自性が侵害されていることが、公に指摘されたこと。これらのことを通して、新たな琉球先住民 Ver 2.0が内部から生まれると同時に、琉球アイデンティティをもたない人からも、そのような民族的文化的独自性を認定しないと、そのような差別と人権侵害の 実態が明らかにされないと、指摘されている歴史的事実を我々は真剣に考える時が来ている。
2023年10月10日付で、琉球民族遺骨返還請求訴訟原告団の松島泰勝氏と、琉球民族遺骨返還請求訴訟弁護団長の丹羽正雄氏は、ともに声明を発表し、大
阪高裁判決について積極的に上告しないという決断を下している。
カンテレの報道は次のとおりです。
ヘッダー:「琉球民族の遺骨返還訴訟 原告が上告しないことを決める 遺骨の返還を願う異例の付言など評価し」
「京都大学に対し、琉球民族の墓から持ち出された遺骨の返還を求め子孫たちが起こした裁判で、敗訴した原告側が控訴審の判決に「意義がある」などとして、上告をしないことを決めました。 琉球王朝の王の子孫などである原告たちは、沖縄県にある百按司墓からおよそ90年前に京都帝国大学の研究者が無断で遺骨を持ち出したとして京都大学に返還を求める裁判を起こしていました。 一審、控訴審ともに原告たちは「請求権がない」などと訴えを退けられていました。 一方原告たちは控訴審判決で、琉球民族が「沖縄地方の先住民族」と言及されたことや、遺骨の返還を願う異例の付言がなされたことに「意義があり、問題解決に大きな効果がある」などとして上告しないことを決めました。 また原告側は「話し合いでの解決を願う」とした控訴審判決の付言を踏まえて来月にも京都大学に対して返還の交渉をすると話しています。」(https://x.gd/LsdbA)
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