かならずよんで ね!

遺骨はすべからく返還すべし

Every remain has the rights of being returned

池田光穂

世界の先住民遺骨返還運動を調べると、遺骨が地元の 埋葬地から「収奪」されてきた経緯や、それを正当化する「科学の論理」、そして「遺骨はすべからく返還 すべし」という結論に運動の当事者たちが到達するまでは、長く複雑な経緯がありました。遺骨や副葬品を「取り戻す」先住民の思想も実践(作戦)も日々深化 していると言っても過言ではありません。その理由は、世界の先住民同胞が、時には先住民が帰属する国家を巻き込んで、先住民への搾取や差別の実態、そして 略奪行為がなされてきたことを訴えて、博物館や大学・研究機関に遺骨や「文化的略奪物(cultural loot)」の返還を要求してきたことにあります(池田 2000)。またそのような返還要求が現在の政治哲学や国際関係論という観点からみてもまったく正義に叶ったものであることが明らかになってきました (シャプコット 2012)(→「遺骨や副葬品を取り戻しつつある先住民のための試論」より)。

日本という国家形成に周辺民族や領土への植民という行為が欠かせなかったのに、その後の超国 家イデオロギーのおかげで、みんな同じ国民だと思う、足を踏んだ者たちの傲慢を日々感じる次第にて候(→「殖民主義国家・植民主義国家」)。

先住民あるいは地域住民に遺骨を返還しない博物館・大学・研究機関には、どのような社会的反 省が求められるのでしょうか?それには、(チップ・コルウェルさんによると)以下の4つの論拠を指摘することができます。

1【植民地主義

過去の「学問の名における」植民地主義の歴史について無知である:考古学や人類学は、学問のために、先住民や地域住民に 十分なインフォームドコンセントをおこなわず、発掘(あるいは盗掘)行為をおこなってきた。
2【人種差別 先住民に対する人種差別について無自覚 である:先住民は支配民族からみれば、社会的差別の対象になるだけでなく、文明人よりも「劣った存在」と見なされてきた。その屈折した意識が、逆に未開人 を称揚する「高貴なる野蛮人」としてのステレオタイプに反映されてきた。
3【信仰の自由への侵害】 誰もが有する宗教的自由—— とりわけ遺骨や副葬品を必須とする祖先を敬う儀礼実践に関わること——への毀損と考えられる。
4【人権侵害 基本的人権への侵害:上掲の3に関連するが、先住民の遺骨、墓地、埋葬、および副葬品について、支配民族は自分たちに対する基本的人権の尊重と、先住民の それに対する価値尊重のダブルスタンダート(すなわち、後者を前者に対するないがしろにする態度)があることが指摘されている

それに対する、科学者の反論と、返還派による再反論

●科学者の主張
■先住民とその支援者の主張
1)遺骨は世界の遺産である
1)なぜ先住民の遺骨は遺産になり、先進国の学者の家族の遺骨は遺産にならないのか?
2)歴史の真の管理者は専門家である
2)先住民の歴史の再構成になぜ先住民の「参加」がないのか?差別し排除するのは誰か?
3)専門家には守られるべき言論の自由がある
3)返還運動は、言論の抑圧ではない、むしろ奪った側と奪われた側の、真摯な対話を促すことが真の「言論の自由」を保証するものである。
4)専門家が扱う知識は神聖なものである
4)専門家による知識の独占と非専門家への排除の結果、環境問題、人権問題、参加の権利が抑圧されている。そこで研究の「神聖さ」を振り回すことは対話という公共善を毀損する

先住民の諸権利の国連宣言(2007)

「第 12 条 【宗教的伝統と慣習の権利、遺骨の返還】 1. 先住民は、自らの精神的および宗教的伝統、慣習、そして儀式を表現し、実践し、発展させ、教育する権利を有し、その宗教的および文化的な遺跡を維 持し、保護し、そして私的にそこに立ち入る権利を有し、儀式用具を使用し管理する権利を有し、遺骨の返還に対する権利を有する。 2. 国家は、関係する先住民と連携して公平で透明性のある効果的措置を通じて、儀式用具と遺骨のアクセス(到達もしくは入手し、利用する)および/ま たは返還を可能にするよう努める。」

Article 12 1. Indigenous peoples have the right to manifest, practise, develop and teach their spiritual and religious traditions, customs and ceremonies; the right to maintain, protect, and have access in privacy to their religious and cultural sites; the right to the use and control of their ceremonial objects; and the right to the repatriation of their human remains. 2. States shall seek to enable the access and/or repatriation of ceremonial objects and human remains in their possession through fair, transparent and effective mechanisms developed in conjunction with indigenous peoples concerned. - The United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples (UNDRIP).

遺骨返還のための情報プラットフォーム.

アイヌ遺骨等返還の研究倫理
レイシズムと遺骨返還請求
遺骨は自らの帰還を訴えることができるのか?
「琉球民族遺骨返還請求事件」解説
先住民遺骨副葬品返還の研究倫理
遺 骨返還における「皮肉なこと」
アイ ヌ遺骨等返還の手続きについて考える
琉球民族遺骨返還請求事件に関する意見書を書いて 王家の墓、骨持ち去りは「学問の名による暴力」識者に聞く研究 倫理
エドワード・ ハレアロハ・アヤウさんと遺骨返還の活動
今帰仁の骨は泣いている 盗掘の歴史伝える責任
遺骨や副葬品を取り戻しつつある先住民のための試論
霊には自己決定権はないのか?
霊 性と物質性:アイヌと琉球の遺骨副葬品返還運動から
松島泰勝『琉球 奪われた骨:遺骨に刻まれた植民地主義』
京都大学と南西諸島の遺骨の収蔵ならびにそれらの返還について
遺骨と副葬品の返還(遺骨返還のための情報プラットフォー ム)
琉球人遺骨返還運動と文化人類学者の反省
松島泰勝・木村朗編『大学による盗骨:研究利用され続ける琉球人・アイヌ遺骨
先 住民の視点からグローバル・スタディーズを再考する(最終報告書)
司法人類学者
生物考 古学への招待
平村ペンリウクさん のこと
琉球コロニアリズム
三 宅宗悦
Ryukichi OGAWA
金関丈夫と琉球の人骨
先住民学への招待
返還の人類学について
先住民の諸権利の国連宣言(2007)
文化的帰属(cultural affiliation)
A Journey through the Ethics of Repatriation of Remains
葛野次郎さん福島原発冷却水の海洋投棄に抗議してカムイノミを敢行
盗まれた頭蓋骨と奪われた魂 : アメリカ先住民の文化を取り戻す戦いの中で

●アイヌ民族葛野次雄さん「(遺骨は)アイヌプリ (=アイヌの風習)で大地に眠らせてあげたいというのは私の願いです」2020年7月20日

「……亡き父辰次郎は、消滅危機にあるアイヌ語で日常会話ができた数少 ない一人で、儀式の祭主を務めるなど『真のエカシ(長老)』と慕われました。父の口癖は『火葬したら熱いべなぁ』『石の墓なんて、アイヌらしくないな』で した。だから私は父が亡くなった時に、木で墓標を作り、町の許可を得て土葬し、伝統にのっとった葬儀で送りました」葛野次雄(2020年7月20日 北海道新聞・電子版)
琉球遺骨返還訴訟が暴く京大の史的暗部(西村秀樹)——現代の理論

●2023年9月22日大阪高等裁判所での琉球遺骨返還訴訟控訴審の判決の結果

琉球遺骨返還訴訟 戦前に旧京都帝国大医学部が研究目的で国内各地の少数先住民族などの人骨を収集。そのうち昭和初期に、沖縄県今帰仁村の古墳「百按司 (むむじゃな)墓」から持ち出された遺骨の返還などを求めて、被葬者の子孫とされる住民ら京都大を相手取り、2018年12月に京都地裁に提訴した。訴訟 では、原告側が主張する遺骨の所有権の有無や、百按司墓の「祭祀承継者」に原告が該当するかどうかが主な争点となった。同様の訴訟は、北海道のアイヌ民族 の遺骨返還を巡り、民族団体が北海道大を訴えた裁判が、札幌地裁や旭川地裁などで和解が成立している。
京都新聞、2022年4月21日

2019
2020
・基盤研究(A)「先住民族研究形成に向けた人類学と批判的社会運動を連携する理論の構築」(20H00048)が採択。

2021
2022

2023年【速報】「遺骨は故郷に帰すべき」琉球遺骨訴訟で大阪高裁判決、人類学会を異例の批判 原告控訴は棄却
京都大に対し、沖縄県の墓地から研究目的で持ち去られた遺骨の返還を 子孫や沖縄県出身者ら4人が求めた琉球遺骨返還訴訟控訴審で、大阪高裁は22日、請求を退けた一審京都地裁判決(2022年4月)を支持し、原告側の控訴 を棄却した。高裁は判決の付言で、遺骨を保管し研究したいと要望する日本人類学会を批判した。高裁が学会を批判するのは異例。

 大島眞一裁判長は、判決の付言で「遺骨は、単なるモノではない。遺骨はふるさとで静かに眠る権利があると信じる。持ち出された先住民の遺骨は、ふるさと に帰すべきである。日本人類学会から提出された『将来にわたり保存継承され研究に供されるべき』との要望書面に重きを置くことはできない」と述べた。その 上で、京大と祖先の百按司(むむじゃな)墓に安置したいと願う原告、沖縄県教委、今帰仁村教育委員会らで話し合い、解決の道を探るよう求めた。

 京大は、昭和初期に当時京都帝国大医学部の金関丈夫助教授が約80体、三宅宗悦講師が約70体の琉球遺骨を沖縄本島の「百按司墓」や瀬長島の墓地から持 ち帰り、現在その一部26体を保管している。また京都帝大が収集した遺骨の一部は金関助教授の転任で台北帝国大医学部(現・台湾大)に保管されてきたが、 2019年に遺骨33柱が台湾大から沖縄県教育委員会に返還された。百按司墓を村指定文化財とする今帰仁村は、京大に遺骨返還を要請している。
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1115534




●ペンシルヴァニア博物館の返還への取り組み(REPATRIATIONS by Penn Museum.)

●文化的帰属(cultural affiliation)とは?

NAGPRA(アメリカ先住民の墳墓保護と返還に関する法律)が規定する、文化的所属とは、現在のインディアン部族またはハワイ先住民組織のメンバーと、それ以前の識別可能な集団との間に、歴史的または先史的に合理的に追跡できる、集団アイデンティティを共有する関係があることを意味する。より一般的には、文化的所属とは、現在の集団、部族、バンド、または氏族と、識別可能な以前の集団との間に、歴史的に合理的にたどることができる、集団アイデンティティを共有する関係を意味する。(→「文化的帰属」)

★基盤研究(A)「先住民族研究形成に向けた人類学と批判的社会運動を連携する理論の構築」(20H00048)研究クロニクル

〜2019
・1997年「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律(アイヌ文化振興法)〜2019年廃止」
・2007年「先住民の権利に関する国際連合宣言」が国連総会で採択される。
・2009年アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」報告において「民族共生の象徴となる空間」の整備が提言され、アイヌ文化を復興・創造・発展させる 拠点であり、先住民族の尊厳を尊重した多様な文化を持つ社会を築いていくための象徴として複合的な意義や目的を有する空間を整備することが決定(→ウィキ 「ウポポイ」)
・2014年「ラポロアイヌネーション」は、北海道大学に対して、大学が保管していたアイヌの遺骨の返還を求める訴訟
・2018年「ラポロアイヌネーション」は、札幌医科大学に対して大学が保管していたアイヌの遺骨の返還を求める訴訟
・2018年12月琉球遺骨返還訴訟ないしは琉球民族遺骨返還訴訟が京都大学の相手取り京都地方裁判所に提訴。
・2019年「ラポロアイヌネーション」は、東京大学に対して大学が保管していたアイヌの遺骨と副葬品の返還を求める訴訟。
2020 ・2020年4月1日「基盤研究(A)「先住民族研究形成に向けた人類学と批判的社会運動を連携する理論の構築」(20H00048」が採択。
・2020年7月「ウポポイ(民族共生象徴空間)」(国立アイヌ民族博物館、国立民族共生公園、慰霊施設)の開業。
・2020年8月「ラポロアイヌネーション」 の主張に対して東京大学側は主張を否定して平行線をたどったが、2020年8月7日までに大学側が全ての遺骨と副葬品を返還すること、搬送費や再埋葬する 墓地の造成費を負担すること、ラポロアイヌネイション側が損害賠償請求を放棄することで和解が成立。北海道新聞 (2020年7月22日)
2021
2022 ・2022年4月21日琉球遺骨返還訴訟京都地裁判決(判決文全文へのリンク)[pdf]
2023 ・2023年5月「アイヌ民族遺骨4体、豪から返還 研究目的で収集「ようやく帰国」」(朝日新聞 2023.05.08)
・2023年9月22日大阪高等裁判所での琉球遺骨返還訴訟控訴審の判決
2024
2025

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