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王家の墓、骨持ち去りは「学問の名による暴力」識者に聞く研究倫理

Against a Japanese Scientific Racism

朝日新聞・デジタル版、2022年5月31日 5時00分

池田光穂

「王家の墓、骨持ち去りは「学問の名による暴力」 識 者に聞く研究倫理 聞き手・桜井泉 話し手:いけだ・みつほ(1956年生まれ。大阪大学名誉教授。中米グアテマラの先住民を研究。人類学研究における倫 理のあり方にも詳しい。)

交論 骨から考える沖縄……

※記事の後半では、池田さんがアメリカを例に、先住 民族の遺骨返還に向けた法律が制定されたことを踏まえ、日本も相当の措置を取るべきことを提言しています」。

桜井泉・記者

沖縄では、先祖の骨が神として大切にされてき た。だが1世紀前に本土の学者が持ち去ったままの王家の墓の骨をめぐり、沖縄の人たちが返還を求める訴訟が現在も続いている。遺骨と研究の関係性をどう考 えればいいのか。文化人類学者の池田光穂さんに聞いた。
池田光穂・文化人類学者
リンク先は、https://navymule9.sakura.ne.jp/ のディレクトリーにあるURLから引用。
(1)骨は重要な信仰対象
――沖縄など南方の島々には昔から葬祭をめぐる独特の習俗がありますね。
「今はほぼ火葬ですが、沖縄や奄美などでは風 葬が行われていました。遺体を崖や洞窟に置き、外気にさらし、数年後に白骨化した骨を洗い、墓に納めます。明治時代に前近代的で不潔だという当局の指導な どもあり土葬が広がりましたが、掘り起こして洗骨をするのは同じで、骨は共同体の神として現在もなお重要な信仰対象です」「今はほぼ火葬ですが、沖縄や奄 美などでは風葬が行われていました。遺体を崖や洞窟に置き、外気にさらし、数年後に白骨化した骨を洗い、墓に納めます。明治時代に前近代的で不潔だという 当局の指導などもあり土葬が広がりましたが、掘り起こして洗骨をするのは同じで、骨は共同体の神として現在もなお重要な信仰対象です」
沖縄の葬制と墓の形態(典拠に対する補足)
――南方の文化では骨が大事にされてきたのですね。(2022年)4月 には、沖縄の人たちが京都大学に祖先の人骨の返還を求めた訴訟の判決が京都地裁で出ました。
「今はほぼ火葬ですが、沖縄や奄美などでは風葬が行われていました。遺 体を崖や洞窟に置き、外気にさらし、数年後に白骨化した骨を洗い、墓に納めます。明治時代に前近代的で不潔だという当局の指導などもあり土葬が広がりまし たが、掘り起こして洗骨をするのは同じで、骨は共同体の神として現在もなお重要な信仰対象です」


「沖縄県北部、今帰仁(なきじん)村の百按司(むむじゃな)墓には15 世紀の王家、第一尚氏や貴族らの遺骨が葬られていました。昭和初め、京都帝国大学(現京都大)の人類学者、故金関丈夫(かなせきたけお)氏 (1897~1983)らが、その墓から研究目的を理由に遺骨を持ち去ったのです。遺骨は今も京大に保管されています」
・百按司の遺骨を持ち去ったのは、時代順に金関丈夫三宅宗悦.
・金関丈夫ならびに三宅宗悦らが持ち出した遺骨のうち保管場所のいくつかは、台北帝国大学→国立台湾大学→沖縄県埋蔵文化財センター、および京都帝国大学 →(清野謙次自宅)→京都大学理学部→京都大学総合博物館だと推測できる。板垣意見書は、原告側から提出された意見書であり裁判所が依頼した鑑定書の類で はない。また、京都地裁判決文((京都地方裁判所)平 成30年(ワ)第3979号 琉球民族遺骨返還等請求事件、令和4年4月21日判決言渡, pdf)から判断するに板垣意見書を裁判所の今回の判決を採用しているわけではないことがわかる(→「京都大学と南西諸島の遺骨の収蔵ならびにそれらの返還について」「金関丈夫と琉球の人骨」)

「判決は『原告には遺骨返還請求権がない』として訴えを退けました。し かし、『祖先の遺骨を墓に安置して祀(まつ)りたいという心情には、くむべきものがある』として関係機関を交えて返還の是非や、返還する場合の手順、受け 入れ機関を協議するなど環境整備が図られるべきもの、と述べている点に注目すべきです」
・京都地裁判決文((京都地方裁判所)平 成30年(ワ)第3979号 琉球民族遺骨返還等請求事件、令和4年4月21日判決言渡, pdf)を参照してください。
――なぜ研究に遺骨が必要だったのですか。
「当時、世界の人類学者たちは人骨を熱心に集めました。人種の差異や人 類の進化を、骨格や頭骨の計測値を調べて証明しようとした。世界の博物館や大学研究機関などに、数十万体の先住民らの頭骨が保管されているとみられます」
先住民遺骨副葬品返還の研究倫理.
――金関氏はどのようにして人骨を集めたのですか。
「沖縄県庁や警察に事前に申し入れ、地元の巡査を伴い、百按司墓から数 十体の遺骨を持ち去りました。当時は、子孫ら祭祀(さいし)継承者への説明や同意が必要だという考えはありませんでした。人類学者たちは、アイヌや台湾の 先住民、朝鮮の人たちの遺骨も集め、学問研究のためと正当化しました。日本政府は『琉球の民』を先住民として今も認めていませんが、当時、本土から来た人 類学者が、その先住性を学術的に証明できると確信していたのは皮肉なことです」
・「金関丈夫と琉球の人骨
・「琉球コロニアリズム年表
――琉球王国は明治初期の「琉球処分」により日本に併合されました。先住民や植民地など、日本の支配下で弱い立場の人の遺骨が研究対象になっています。
「背景には、欧米で発達した誤った人種主義がありました。当時、宗主国 など支配する側にいた学者は、自分たちの民族が最も優れ、先住民や植民地の人々は劣っているのではないかと『科学的』に証明しようとした。政治的支配や社 会的差別の正当化に学問が手を貸したのです。研究対象とされた側からすれば、まさに『学問の名による暴力』でした」
・「人種主義
・「日本文化人類学史
・私はある特定の分野の学問的研究が、先住民(先住民族)に対して暴力的であったと主張しているわけではありません。少なくとも文化人類学(民族学)は、そのような暴力の当事者であり、また連累(implication)という関係性をもつものでもあります。(→「学問の暴力」「倫理的法的社会的連累」)

「人種主義は、劣等な要素を断種などで除くことができるとして、優生学を生み出しました。ナチス・ドイツが自民族を卓越したものと考えてユダヤ人を虐殺したり、日本人が他の民族を指導する大東亜共栄圏構想につながったりしました」
・「人種主義
(2)遺骨返還、倫理意識薄い日本の学会
――日本で「遺骨返還」の先例はありますか。
「先祖の遺骨を奪われた人たちが共通して訴えるのは、遺骨を元あったと ころに返してほしいということです。国連が2007年に採択した『先住民族の権利に関する宣言』は、先住民の遺骨返還の権利を明記しています。アイヌの場 合は、20年に北海道・白老町にできた国立民族共生象徴空間(ウポポイ)のはずれに、各地の大学から返還された遺骨などを納めた慰霊施設を設けましたが、 訪問者のほとんどが、その存在すら知りません」
・「先住民遺骨副葬品返還の研究倫理
・「先住民族(先住民)の権利に関する国際連合宣言
・「アイヌ遺骨等返還の研究倫理

「政府はアイヌを先住民と認めていますが、その差別に対する歴史的反省 を国民にきちんと伝えず、沖縄については先住性すら認めません。米国では1990年に北米先住民の墳墓保護と返還に関する法律が制定されました。日本も法 整備に向かわないと、ますます世界から人権意識のない国と認定されてしまいます」
・「アイヌとシサムための文化略奪史入門
Native American Graves Protection and Repatriation Act.
The Native American Graves Protection and Repatriation Act (NAGPRA), by Archeology Program.
――過去の反省は研究にどう生かされていますか。
「今日では研究倫理が厳しく問われます。米国では70年代に先住民の権 利を回復する社会運動が盛んになり、学会で倫理綱領ができました。日本もその後、学会で倫理綱領が整えられ、人権の尊重や、研究に際して対象者への説明と 同意が必要なことなどが定められました。しかし日本の学会では、90年代以降の国際的な遺骨返還運動に対する倫理意識が希薄であり、喫緊の課題です」
・「先住民遺骨副葬品返還の研究倫理
・それの根拠になる基本的な考え方としての「研究倫理入門
――過去の研究者による「倫理違反」についてはどう考えたらよいのでしょうか。
「法律は原則として過去の行いには遡及(そきゅう)しませんが、倫理や 道徳はそうではありません。今なお、学問によって心に傷を負わされた被害者がいます。学問による過去の過失を反省し、当事者の集団に対して許しを乞うため にすべきことを、今まさに考えるときです。研究者は、過去の歴史とは無関係だとして沈黙せず、過った歴史を明らかにすべきだと考えます。そのためには地元 の人たちとの対話も必要になります」
・基本的な考え方としての「研究倫理入門
・「コミュニティにもとづく参加型研究
・「アクションリサーチ
(聞き手・桜井泉) (話し手・池田光穂)



















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