状況的学習
Situated Learning
解説:池田光穂
さまざまな社会的活動に参与することを通して学ばれる知識と技能の習得実践のことを、状況的学習(situated learning)という。
外部表象化された〈知識や技能〉を学習者の内部に取り込む(=命題的知識の習得)というメタ ファー(例:数式が頭に入った。ろくろを上手に回すことを覚えた)で、語ったり理解したりすることのできない学習——これを古典的学習という——への批判あるいは乗り越えるために、人工知能研究者であるジー ン・レイブと人類学者エチエンヌ・ウェンガーの同名の書籍, "Situated Learning"(1991)において主張された言葉である。
これはウィリアム・ハンクス(による序文)が的確に示すように、学習の構 造が何であるかという考え方に対する根本的な革新に他ならない。
「学習を命題的知識の獲得と定義する(→「古典的学習」)のではなく、レイブとウェンガーは学習を特定のタイプの社会的共同的参加という状況の中におく。学習に どのような認知過程と概念的構造が含まれるかを問うかわりに、彼らはどのような社会的関わり合いが学習の生起する適切な文脈を提供するのかを問う」(ハン クス 1993:7)
状況的学習が成立するための場ないしは学習を成り立たせる構成主体は、実践共同体(実践コ ミュニティ)と呼ばれる。
実践コミュニティのメンバーになることは、参加の概念で説明され(=学習することは「協働の企て(joint enterprise)」である)、状況的学習の場合、その段階の初期は、正統的周辺参加 (Legitimate Peripheral Participation, LPP)と呼ばれる。実践コミュニティへの参加は、状況的学習の深度によりLPPから十全参加(full participation)に移行すると、モデル化されている。
●現場力と状況的学習の関係より
「現場力(げんば りょく)とは、実践の現場で人が協働する時に育まれ、伝達することが可能な技 能であり、またそれと不可分な対人関係的能力などの総称のことをさす。現場力を学問的に議論しようとする際に、欠かせない参照となる議論は、レイブとウェ ンガーに よる状況学習論である。状況[的]学習は、実 践コミュニティに正統的に周辺参加(LPP)するという実践を通して、知識と技能を 学ぶ学習の様式である。正統的周辺参加により構成される状況学習は、先生の教示によって外部の知識を取り込むような古典的学習と、著しく異なる学び方のや り方である。他方、現場力が議論される場は、正統的周辺参加による状況学習論から言えば、十全参加が達成されたメンバーシップが生み出す最大で最良(例え ばミスが少ない高度信頼的)な成果 を生み出す場というように考えられている。状況学習論が力点を置くのは、学習者という主体であるのに対して、現場力の議論が力点がおく のは、そのような(最大ないしは最良)の実践が生みだされ、かつその実践を保証する「現場」である。これらの一連のこと(すなわち古典学習論、状況学習、 現場力)を、認知、身体、状況(場)の 位置づけに関して、それぞれの特性をあげれば下の表のようになる。」
●正統的/周辺的/参与的活動の分析
「古典学習論、状況学習、現場力がもっともよく観察されるのは、それぞれ学校、徒弟制、職場と いうことになるだろう。また、それぞれの場に参与する主体に呼びかけられるスローガン(イデオロギーの響き)は、それぞれ「知識を習得しなさい」「グルー プに周辺参加してみなさい」「[壁にぶち当たれば]現場に還れ」というふうになるなるだろう。ホーリスティク[全体論的]アプローチをする正統的周縁参加 (LPP)理論からみると完全に 邪道だが、状況学習というものは、「正統的」に「周縁的」に「参与」するという三拍子揃った活動であると考えてみよう。そして、それらの構成要素に着目し て、その要素の欠性という観点から、以下のような活動をそれぞれ分析してみよう。下の表のうち、『状況学習』(邦訳:状況に埋め込まれた学習)に出てくる のは、最初の2つの活動すなわち、現行の学校教育と、状況学習の事例でとりあげられ、かつ正統的周縁参加がおこなわれていない「食肉加工」の学習の現場の みであり、それ以下の事例は、引用者(池田)が、それらを説明するために思いついたものである。」
■レイヴとウェンガー著/佐伯胖訳『状況に埋 め込まれた学習——正統的周辺参加』産業図書, 1993.
用語集
附 録 用語集
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099