か ならず読んでください

宗教人類学

Introduction to the Anthroplogical Studies of Religions

解説:池田光穂

授業題目:宗教人類学入門 (Introduction to the Anthroplogical Studies of Religions)

宗教Religion)は、超自然的、超越論的、あるいは霊的な要素に人間 が関わりをもつ、行動と実践、道徳、世界観、テキスト、聖なる場所、預言者たち、倫理、あるいは組織の社会文化的システムのことであると、 ここでは定義し ておこう(→ギアツ「文化体系としての宗教」)。

宗教研究という学問が厳密になればなるほ ど、そこからこぼれ落ちる研究上のカテゴリーがある。つまり、本道の宗教研究からは、副次的などと 判断されるジャンルに属するものがある。

宗教の土着化はそういったもののひとつで ある。そしてこれは主に歴史研究が主なその論戦の場であったが、粗雑な進化論や類推にもとづく伝播 の分類論などがそのパラダイムを占めており、その分析はまさに静態的か、その世界を生きている者のリアリティを欠いたものであったと言わざるを得ない。

文化人類学は、宗教現象のダイナミズム や、しばしば奇妙な社会現象との節合、あるいはハビトゥスへの効果などに着目するために、この種の宗 教研究にはなかなか食指が動いてこなかった。

この授業は、宗教研究における以上のよう な「偏向」について修正・脱構築を試み、文化人類学の豊かな「奇妙さ」の紹介と、その実践的解釈に むかうことになる。

デュルケームはオーストラリア・アボリジ ニー(アボリジナル)の英語のエスノグラフィーを渉猟して、かつ、自文化の宗教状況を分析して、宗教 (ないしはその基本形態)には次ような5つの特徴がみられるとした(→「デュルケームの宗教に関する5つのテーゼ」)。

「religion と翻訳できるような印欧語族の諸言語に共通する言葉はありません」——ロドニー・ニーダム(1981)

宗教人類学における最大の落とし穴は、 「人間にとって《宗教》は時空間を超えて普遍的に存在する」という思い込みです——垂水源之介(2020)。

《Homo religio の今日的定義》「宗教」が実在するとはどう言うことか?古典的定義や文化庁の定義では、信徒や教団がいることをその条件にしていますが、これは宗教を呪術 (=科学のできそこない)と切り分ける今ではナンセンスな分類整理法の産物だといわれています。宗教の定義は、実在しない道徳的観念をこの地上で行動の倫 理(=儀典行為も含めた広義の道徳実践)の形で実現することだと思います——垂水源之介(2020)。

★(「俺/私ゃ、宗教なんざ信じないから、宗教人類学の授業を受けないぜ、という方は、ぜひとも「無宗教人類学」入門を受講してください:現在準備中!!!)

★リアリティ(現実性)と宗教について

リアリティ=現実は、私たちに何をもたら すのでしょうか?(「文化」と「言語」/文 化人類学言語人類学

マイケル・サンデル『公共哲学』ちくま文 庫、27章のなかに、宗教人類学は、形而上学的(=宗教のメタ分析を教えてくれる)であると同時 に、規範的(=人間と超越的なものの関係を説明してくれるためにあるべき姿や望まし生き方を教えてくれる)でもあるという文言がある。このことは重要です ね。295ページ。問題は形而上学と規範の相互関係ということか

★無神論から入る宗教人類学、あるいは、 無宗教人類学入門

不可知論者の系譜:「不可知論とは、神、神的なもの、超自然的なものの存在は、原理的に知る ことができな いか、事実として現在知られていないという見解や信念のことである。また、そのような宗教的信念に対する無関心を意味することもあり、世界観というよりは むしろ個人 的な限界を指すこともある。もうひとつの定義は、「人間の理性は、神が存在するとい う信念と、神は存在しないという信念のいずれをも正当化する十分な合理的根拠を提供することができない」という見解である」

 無神論の系譜:「無神論とは、広義には神々の存在を信じないことであり、より狭義には、いかなる 神々も存在するという信念を否定することである。無神論は、最も一般的な形で、少なくとも一つの神が存在するという信念である神論と対比される」


授業目標:(ヴァーチャルシラバスで実際の授業ではありません)

授業が終わった時に受講生は、次の3つの ことが達成されていなければならなりません。

  • (1)世界の宗教について概観的知識と 理解が得られている。
  • (2)宗教現象には、人間の生活のさま ざまな諸相が絡んでいることを理解する。
  • (3)宗教を〈信じること〉と〈理解す ること〉の概念的区別ができる。
  • 授業内容:

      この授業は、宗教人類学に関する基礎的な知識や理解のための方法を紹介し、日常生活に深くむすびついた〈宗教なるもの〉について文化人類学 的研究——これが宗教人類学の一般的定義です——への理解を深める授業です。宗教人類学についてコンパクトにまとめられた関・大塚編『宗教人類学入門』 (2004)を教科書に使い、次のような順序(開催順序と対応するテキストの内容)ですすめていきます。

      1. (1)宗教人類学とはなにか
      2. (2)生きること(教科書の第二部1、2−1と書き、以下同様)
      3. (3)イスラーム(1−6)
      4. (4)祝う(2−2)
      5. (5)キリスト教(1−6)
      6. (6)祀る(2−3)
      7. (7)仏教(1−4)
      8. (8)呪う/病む(2−4)/(2−5)[→宗教と医療は分離できない 側面 がある
      9. (9)儒教(1−3)
      10. (10)語る(2−6)
      11. (11)ヒンドゥー教(1−2)
      12. (12)語る(2−6)
      13. (13)分ける(2−7 )
      14. (14)抗する(2−8)
      15. (15)魅する(2−8)とまとめの授業。

      なお、この授業は隔週開講で、かつ一部集中の補講をおこないますので、授業開始後に発表されるスケジュールに十分に注意してください。

    キーワード:宗教、文化、人類学、〈信じ ること〉、超自然、魂、霊的なもの、情熱

    以下は、ウィキペディアの"Anthropology of religion"に収載された60弱の語彙(リンク)集である。これらの用語は宗教人類学を学ぶために重要な用語であるが、大切なことはこれは 文化と歴 史的時間を異なる「時空間を超えて普遍的であるとは限らない」という警戒心を皆さんにもってもらうことです。

    Apotheosis
    Apotropaic magic
    Amulet
    Animism
    Cult (religious practice)
    Deity
    Demon
    Divination
    Esotericism
    Exorcism
    Evil
    Fertility rite
    Fetishism
    Genius (mythology)
    God
    Ghost
    Greco-Roman mysteries
    Heresy(異端)
    Icon
    Immortality
    Intercession(神へのとりなしの祈り)
    Kachina(北米先住民プエブロの精 霊)
    Magic and religion
    Mana(マナ)
    Mask
    Miracle
    Medicine(医薬と呪薬)
    Modern paganism
    Monotheism
    Mother goddess
    Mythology
    Necromancy
    New Age
    Occult
    Omen
    Poles in mythology
    Polytheism
    Prayer
    Principle of contagion
    Prophecy
    Reincarnation
    Religious ecstasy
    Ritual
    Sacred food as offering
    Sacrifice
    Shamanism
    Spell (paranormal)
    Supernatural
    Supplication
    Sympathetic magic
    Theism(有神論)/atheism(無神論)
    Totemism
    Veneration of the dead (祖先崇拝)
    Western esotericism






    テキスト:関一敏・大塚和夫編『宗教人類学入門』弘文堂、2004年

    ★ダニエル・デネット『呪文(呪縛)を破る:自然現象としての宗教』(「解明される宗教」)阿部文彦訳、青土社、2010年

    Dennett, Daniel Clement, Breaking the spell : religion as a natural phenomenon, Penguin Books, 2007.

    第1部パンドラの箱をあける
    1. どの呪縛(呪文)を解くべきか


    2. 科学に関する諸問題


    3. なぜ良いことが起こるのか

    第2部宗教の進化
    4. 宗教のルーツ


    5. 宗教、その黎明期


    6. 管理運営の進化


    7. 団体精神の発明


    8. 信じることに価値がある

    第3部
    9. 宗教選びの手引き


    10. 道徳と宗教


    11. 何をすれば良いのか

    補論
    A. 新しい自己複製子


    B. 科学に関する諸問題


    C. ベルボーイとタックという名の女性


    D. 根底的解釈の不確定性の実例として のキム・フィルビー


    ● フリードリヒ・シュライアマハー『宗教について : 宗教を侮蔑する教養人のための講話』深井智朗訳、春秋社、2013年

    書籍案内:「宗教論の古典にして金字塔、 待望の新訳。宗教の本質は宇宙の直観と感情であると喝破し、その法悦を甘美な筆致で描写して、キリスト 教の枠を超え、宗教哲学の祖ともなった名著。その衝撃をストレートに伝えるべく、底本に1799年の初版(Schriften aus der Berliner Zeit, 1796-1799, herausgegeben von Günter Meckenstock (Berlin : De Gruyter, 1984))を用い、時代背景とシュライアマハー個人の思想・精神状況を精査して、本書に託された真の意義を探る充実した解題を付す」

    Friedrich Daniel Ernst Schleiermacher, Schriften aus der Berliner Zeit, 1796-1799, herausgegeben von Günter Meckenstock. Berlin : De Gruyter, 1984.

    目次
    ノート
    第1講話 弁明
    第2講話 宗教の本質について

    第3講話 宗教への教育について

    第4講話 宗教における社交、あるいは教 会と聖職者について

    第5講話 諸宗教について

    シュ ライアマハーの「宗教」とは、宗教一般ではなく、むしろ、キリスト教とりわけプロテスタンティズムを想定している。また「宗教を侮蔑する教養人」は、教会 の内部から、教会をもたないキリスト教徒に批判をする人が想定されている。要するに、イエスの宗教性を主張している。

    参考文献:(日本語で書かれたものを紹介 します:図書館にもあります)

    1. 神と仏と日本人 : 宗教人類学の構想 / 佐々木宏幹著, 東京 : 吉川弘文館 , 2010.11. - (歴史文化セレクション)
    2. 宗教人類学入門 / 関一敏, 大塚和夫編, 東京 : 弘文堂 , 2004.12
    3. 木曽御嶽信仰 : 宗教人類学的研究 / 菅原壽清著, 東京 : 岩田書院 , 2002.7
    4. 聖と呪力の人類学 / 佐々木宏幹 [著], 東京 : 講談社 , 1996.10. - (講談社学術文庫 ; [1251])
    5. 神と仏と日本人 : 宗教人類学の構想 / 佐々木宏幹著, 東京 : 吉川弘文館 , 1996.3
    6. 宗教人類学 / 佐々木宏幹[著], 東京 : 講談社 , 1995.1. - (講談社学術文庫 ; 1161)
    7. 宗教人類学 : 宗教文化を解読する / 佐々木宏幹, 村武精一編, 東京 : 新曜社 , 1994.6
    8. 宗教人類学者の回想 / 古野清人著, 東京 : 南斗書房 , 1990.7. - (古野清人著作集 / 古野清人著 ; 別巻)
    9. コスモスと社会 : 宗教人類学の諸相 / 吉田禎吾, 宮家準編著, 東京 : 慶應通信 , 1988.6
    10. 宗教人類学 / 吉田禎吾著, 東京 : 東京大学出版会 , 1984.9
    11. 憑霊(ひょうれい)とシャーマン : 宗教人類学ノート / 佐々木宏幹著, 東京 : 東京大学出版会 , 1983.9
    12. 沖縄の宗教人類学 / 伊藤幹治著, 東京 : 弘文堂 , 1980.4
    13. 宗教人類学者の回想 / 古野清人著, 東京 : 三一書房 , 1974.7. - (古野清人著作集 / 古野清人著 ; 別巻)
    14. 宗教人類学の基礎理論 / E.E.エヴァンス=プリチャード著 ; 佐々木宏幹, 大森元吉訳, 東京 : 世界書院 , 1967.6
    15. 宗教民族學 / 宇野圓空著東京 : 岡書院 , 1929.12. - (人類學叢書 ; 第6編),
    16. 宗教の發達 : 人類學及び社會心理學よりの研究 / キング著 ; 寺澤智了, 高野正治譯, 東京 : 岩波書店 , 1925.2
    17. 現代諸民族の宗教と文化 : 社会人類学的研究 : 古野清人教授古稀記念論文集 / 古野清人教授古稀記念会編, 東京 : 社会思想社 , 1972
    18. 儀礼の過程 / ヴィクター・W.ターナー [著] ; 冨倉光雄訳 東京 : 思索社 , 1976.10
    19. 千年王国と未開社会 : メラネシアのカーゴ・カルト運動 / ピーター・ワースレイ著 ; 吉田正紀訳, 東京 : 紀伊國屋書店 , 1981.2. - (文化人類学叢書)
    20. 伝統宗教と民間信仰 / 白鳥芳郎,山田隆治編, 名古屋 : 南山大学人類学研究所 , 1982.3. - (南山大学人類学研究所叢書 ; 1)
    21. 宗教と世界観 : 文化人類学的考察 / 吉田禎吾著, 福岡 : 九州大学出版会 , 1983.6
    22. 宗教的統合の諸相 / 白鳥芳郎, 倉田勇編, 名古屋 : 南山大学人類学研究所 , 1985.3. - (南山大学人類学研究所叢書 ; 2)
    23. 宗教的シンクレティズム : 特集 / 佐々木宏幹編集, 京都 : アカデミア出版会 , 1986.6. - (文化人類学 ; 3)
    24. 王権 / A・M・ホカート著 ; 橋本和也訳, 京都 : 人文書院 , 1986.12(→岩波文庫にも収載:王権 / A.M.ホカート著 ; 橋本和也訳 東京 : 岩波書店 , 2012.12. - (岩波文庫 ; 白(34)-226-1))
    25. ゴースト・ダンス : アメリカ・インディアンの宗教運動と叛乱 / ジェイムズ・ムーニー [著] ; 荒井芳広訳,東京 : 紀伊国屋書店 , 1989.2. - (文化人類学叢書)
    26. 伝統宗教と知識 / 杉本良男編, 名古屋 : 南山大学人類学研究所 , 1991.6. - (南山大学人類学研究所叢書 ; 4)
    27. 漢民族の宗教 : 社会人類学的研究 / 渡邊欣雄著, 東京 : 第一書房 , 1991.5. - (Academic series new Asia ; 2)
    28. 再生の女神セドナ : あるいは生への愛 / ハンス・ペーター・デュル [著] ; 原研二訳, 東京 : 法政大学出版局 , 1992.2. - (叢書・ウニベルシタス ; 349)
    29. 仏 (ホトケ) と霊 (タマ) の人類学 : 仏教文化の深層構造 / 佐々木宏幹著, 東京 : 春秋社 , 1993.1
    30. 実践宗教の人類学 : 上座部仏教の世界 / 田辺繁治編著, 京都 : 京都大学学術出版会 , 1993.3
    31. 草 木虫魚のたましい : カミの誕生するとき・ところ / 岩田慶治著, 東京 : 講談社 , 1995.3. - (岩田慶治著作集 / 岩田慶治著 ; 2)
    32. スリランカの宗教と社会 : 文化人類学的考察 / 鈴木正崇著, 東京 : 春秋社 , 1996.2
    33. 宗教の現代 / 青木保 [ほか] 執筆, 東京 : 岩波書店 , 1997.5. - (岩波講座文化人類学 / 青木保 [ほか] 編 ; 第11巻)
    34. 呪術・科学・宗教・神話 / ブロニスラフ・マリノフスキー著 ; 宮武公夫, 高橋巌根訳, 京都 : 人文書院 , 1997.7
    35. 北の人 : 文化と宗教 / 大林太良著, 東京 : 第一書房 , 1997.7. - (Academic series new Asia ; 24)
    36. アジア移民のエスニシティと宗教 / 吉原和男, クネヒト・ペトロ編 東京 : 風響社 , 2001.3. - (南山大学人類学研究所叢書 ; 6)
    37. 宗教と文明化 / 杉本良男編, 東京 : ドメス出版 , 2002.3. - (二〇世紀における諸民族文化の伝統と変容 ; 7)
    38. バリ宗教と人類学 : 解釈学的認識の冒険 / 吉田竹也著, 名古屋 : 風媒社 , 2005.3. - (南山大学学術叢書)
    39. 現代台湾宗教の諸相 : 台湾漢族に関する文化人類学的研究 / 五十嵐真子著, 京都 : 人文書院 , 2006.2. - (神戸学院大学人文学部人間文化研究叢書)
    40. 会社のカミ・ホトケ : 経営と宗教の人類学 / 中牧弘允著 東京 : 講談社 , 2006.2. - (講談社選書メチエ ; 355)
    41. 宗教紛争と差別の人類学 : 現代インドで「周辺」を「境界」に読み替える / 関根康正著, 京都 : 世界思想社 , 2006.12
    42. シヴァとディオニュソス : 自然とエロスの宗教 / アラン・ダニエルー著 ; 淺野卓夫, 小野智司訳, 東京 : 講談社 , 2008.5. - (芸術人類学叢書 ; 2)
    43. 社会変動と宗教の「再選択」 : ポスト・コロニアル期の人類学研究 / 宮沢千尋編, 東京 : 風響社 , 2009.3. - (南山大学人類学研究所叢書 ; 8)
    44. 聖母マリア崇拝の謎 : 「見えない宗教」の人類学 / 山形孝夫著, 東京 : 河出書房新社 , 2010.4. - (河出ブックス ; 016)
    45. リアリティと他者性の人類学 : 現代フィリピン地方都市における呪術のフィールドから / 東賢太朗著、東京 : 三元社 , 2011.6
    46. 「精霊の仕業」と「人の仕業」 : ボルネオ島カリス社会における災い解釈と対処法 / 奥野克巳著、横浜 : 春風社 , 2004.2
    47. 宗教の人類学 / 吉田匡興, 石井美保, 花渕馨也共編,横浜 : 春風社 , 2010.11. - (シリーズ来たるべき人類学 : Anthropology ; 3)
    48. ニーダム、ロドニー「宗教の諸特性」『人類学随想』江河徹訳、岩波書店(岩波選書)、1986年(原著1981)

    評価方法:

    履修上の指導:

    事前学習:

    事後学習:

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