zはじめによんでください
帝国主義と全体主義下における人種主義に抗して
(シラバス)
Against Racism and
Imperialism cum Totalitarianism
解説:池田光穂
セーフティネット(social
safety
net)あるいは社会的セーフティネットとは、サーカスの空中ブランコの下に張っている文字通りの安全ネット(safty
net)に由来する、リスクに対応する社会的安全を保証する政策および、実際におこったハザードに対する保護対応策などの総称のことである。社会的セーフ
ティネットの発想は20世紀の大戦間期における英国の社会福祉政策とそれに呼応する人間の困難(=貧困、病気、失業、教育および居住確保からの疎外)から
生まれたと言われている。それから1世紀後の現代社会において、人々の世界観、福祉観、国家観の変貌もまた、我々のセーフティネット観への影響を与えてい
る。リスクの予測と判断に関する諸学問の成果により、今日のセーフティネット概念に、最も大きな影響を及ぼしているのが「リスクという現象」である。今日
の社会、とりわけ社会の統治に関する概念は、リスクを制御する統治諸技術によって構成された社会(Risikogesellshaft,
,Ulrich Beck, 1986)としばしば指摘される。
この授業におけるリスクについての
考え方を明らかにしておこう。
この授業では、通常の用語法としてハザードと明確に区分されていないリスクの概念を便宜的に以下のように区分する。リス
ク(危険あるいは危険性)とは、ある事象に関する未来の不確実性のうち、現時点で想定している否定的な意味をもつものを呼ぶ。そして実際に起こりえる/起
こってしまった否定的な意味の事象はハザード(災厄あるいは危険性)と呼んで区別する。ただし例えば「この事態を放置すると以下のようなハザードが生じる
可能性がある」という未来の蓋然性の高いものもそれに含めておく。それに対してリスクは、通例の災厄の概念以上に(先で定義した)ハザードがおきる可能
性、あるいはハザードとなりうる可能態としての潜在的状態というふうに理解する。つまりリスク概念を、ハザードの確率的計算によって管理される統計量ある
いは、そのように人々がハザードを眺めるている状態のことと定義する。
今年の授業テーマは「帝国主義と全体主義下における人種主義に抗して」(Against Racism and Imperialism
cum
Totalitarianism)と称して、ハンナ・アーレントの『全体主義の起源』から、第2部の帝国主義と第3部の全体主義を読みます。セーフティ
ネット論において、この歴史的教材を利用する理由は次の3点です。
- ポストフクシマ期における安倍晋三首相を首魁とする自公連立政権は、しばしば1945年の日本敗戦以前の「戦前回帰」だと批判され
る。だが、それは本当だろか?もし安倍政権と現今の社会状況が「戦前の体制」に似ているのであれば、その批判がどれだけ有効なのかを検証する必要があるよ
うに思われる。
- その際に、何がどのように戦前と似ているのかを指摘するだけでなく、それらの類似の要素の相互連関について「類似」であるという論証
がなされないと、安倍政権の「戦前回帰」への批判は、空回りするだろう(=空理空論を弄ぶ)
- 我々の身の回りには、日本の戦前に関する資料が豊富にあるが、日本の統治システムや、国民世論の形成には、大いなる断絶もあるが、ま
た「日本文化」や「国民文化」の一貫した連続性があると指摘するものもいる。そのため、日本の歴史的、文化的情況に関する今と昔の比較をしても、我々日本
文化に親しんだ人たちには、それを批判的に眺めることができない欠点があることが考えられる。
- そのため、我々の経験から遠い領域(experience
distance)である19世紀後半から20世紀前半のヨーロッパの政治情況と、日本のそれを比較することで、日本の「戦前」の情況を照射する基礎的な
知識となる。
- また、我々が知悉している、政治、経済、そして「人種主義」概念などを、これらの批判的検討から、一般化・普遍化(=共通課題化)し
て議論する糸口が広がる可能性がある。
以上
の観点から、この著作を集中的に読解してゆく。
「全
体主義と闘うためには、ただ一つのことを理解する必要がある。全体主義は、自由の
最も根源的な否定であるということをである。しかし、この自由の否定は、すべての暴政に共通する。それは、全体主義固有の本性を理解するための唯一の重要
な事柄なのではない。しかし、自由が脅かされるときに闘いに参集することができない者ならば、そもそもどのような闘いにも集うことはないだろう」——ハン
ナ・アーレント
- 2014年4月14日(月)18:00-21:00:資料の配付と最初のレクチャー(「帝国主義」と「全体主義」の緒言の内容について講
義します)L-preface-Imperial-Totalitarian.pdf
- 2014年4月28日(月)18:00-21:00:「ブルジョアジーの政治的解放」
- 2014年5月19日(月)18:00-21:00:「人種と官僚制」(「帝国主義」第3章)英文(パスワード
付き)L-RaceBureaucracy.pdf
- 2014年6月02日(月)18:00-21:00:「大陸帝国主義と汎民族運動」(「帝国主義」第4章)/「国民国家の没落と人種の終焉」(「帝国主義」第5章)
- 2014年6月16日(月)18:00-21:00:「階級社会の崩壊」(「全体主義」第1章)/「全体主義運動」(「全体主義」第2章)
- 2014年6月30日(月)18:00-21:00:「全体的支配」(「全体主義」第3章)/「イデオロギーとテラー」(「全体主義」第4章)
- 2014年7月14日(月)18:00-21:00:まとめの授業
- (「帝国主義」第1章)/「帝国主義時代以前における人種主義の発展」(「帝国主
義」第2章)英語版【L-Ch01-Arendt_Imperialism.pdf】
【L-Ch02-Arendt_Imperialism-2.pdf】
- 「ブルジョアジーの政治的解放」(「帝
国主義」第1章)
- 「帝国主義時代以前における人種主義の発展」
(「帝国主
義」第2章)
- 「人種と官僚制」(「帝国主義」第
3章)
- 「大陸帝国主義と汎民族運動」
(「帝国主義」第4章)
- 「国民国家の没落と人種の終焉」
(「帝国主義」第5章)
- 「階級社会の崩壊」(「全体主
義」第1章)
- 「全体主義運動」(「全体
主義」第2章)
- 「全体的支配」(「全体主
義」第3章)
- 「イデオロギーとテラー」
(「全体主義」第4章)
- ・科目名 セーフティネット論
- ・科目名(英): 最初のタイトル:Making Our Social Safety Net
- その語のタイトル変更:Social Safety and Security Network and Risk Phobic
Societies
- ・定員 15
- ・単位数 2
- ・担当教員 池田光穂(メインの内容は池田が担当します:西川勝先生はゲストとして討論などに参加します)
- ・履修対象 全研究科大学院生、3年次以上の全学部生、社会人(5名上限)
- ・開講時期 第1学期=木曜6・7限(隔週開催:開講日)
- ・講義室 豊中キャンパス・オレンジショップ(変更の可能性あり)
- http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/CSCD_New_Orange_shop.html
・授業の目的
授業前の文献の読解・それにもとづく授業での討論・ならびに授業の復習を通した授業個別内容の把握という作業を通して、以下の3つの目的
を、授業の修了にまでに理解・把握することができる、というのが受講者に求められる履修の目的である。
- 1)現代社会におけるセーフティネットの基本的考え方について理解し、その概念の歴史的展開について知る。
- 2)現代社会ではセーフティネットは政治経済的概念であり、保障の基準や制度の維持に関する経済学的根拠があり、かつそれらの思想
史的含
意について、受講者が妥当な判断を下せることができる。
- 3)今日のセーフティネット概念に大きな影響を及ぼしている「リスクという現象」について洞察力を深めることができる。
・講義内容
冒頭の、セーフティネット論に関する本講義の趣旨をふまえて、この授業は2コマ連続(約3〜4時間、休憩を含む)で以下の7つのテーマから
進行する;
・用語の定義
ハザード
リスク
・教科書
毎回、課題書をあげます。市販のものは事前購入したり、図書館でお読みください。また文献のうち入手困難なものは、必要な箇所の情報をイ
ンターネットでダウンロード(パスワード付)して事前に閲覧することを求めます。
- 2014年4月14日(月)18:00-21:00:資料の配付と最初のレクチャー(「帝国主義」と「全体主義」の緒言の内容につい
て講
義します)L-preface-Imperial-Totalitarian.pdf
- 2014年4月28日(月)18:00-21:00:「ブルジョアジーの政治的解放」(「帝国主義」第1章)/「帝国主義時代以前における人種主義の発展」(「帝国主
義」第2章)
- 2014年5月19日(月)18:00-21:00:「人種と官僚制」(「帝国主義」第3章)
- 2014年6月02日(月)18:00-21:00:「大陸帝国主義と汎民族運動」(「帝国主義」第4章)/「国民国家の没落と人種の終焉」(「帝国主義」第5章)
- 2014年6月16日(月)18:00-21:00:「階級社会の崩壊」(「全体主義」第1章)/「全体主義運動」(「全体主義」第2章)
- 2014年6月30日(月)18:00-21:00:「全体的支配」(「全体主義」第3章)/「イデオロギーとテラー」(「全体主義」第4章)
- 2014年7月14日(月)18:00-21:00:まとめの授業
・参考文献(下記に記載)
・成績評価
大学院の授業(学部生も受講可)ですので、学会発表などの特別の事情がないかぎり毎回の出席を求めます。原則として出席回数(時間)8割
以上の者を最終試験(レポート)への有資格者として認めます(補助レポートなどの例外措置もありますので諦めずに教員に照会してください)。授業の進捗状
況に応じて中間レポートの作成を求めることがあるかもしれません。
・関連サイト
・参考文献
その都度、必要な参考書をあげます。市販のものは事前購入したり、図書館でお読みください。また文献のうち入手困難なものは、必要な箇所
の情報をインターネットでダウンロード(パスワード付)して事前・事後に閲覧できるようにします。(下記は順不同です)
- L.コーン他編『人は誰でも間違える』医療ジャーナリスト協会訳、日本評論社、2000年。
- 村上陽一郎『安全学の現在』(村上陽一郎対談集)青土社、2003年
- D・カーネマン『ダニエル・カーネマン心理と経済を語る』山内あゆ子訳、楽工社、2011年
- ディヴィッド・サルツブルグ『統計学を拓いた異才たち:経験則から科学へ進展した一世紀』竹内恵行・熊谷悦生訳、日本経済新聞社、
2006
年
- 村上陽一郎『安全学』青土社、1998年
- ウルリヒ・ベック『危険社会』東廉・伊藤美登里訳、法政大学出版局、1998年
- ウルリッヒ・ベック『世界リスク社会論』島村賢一訳、ちくま学芸文庫、筑摩書房、2010年
- ダン・ガードナー『リスクにあなたは騙される:「恐怖」を操る論理』田淵健太訳、早川書房、2009年
- D・M・カーメンとD・M・ハッセンザール『リスク解析学入門:環境・健康・技術問題におけるリスク評価と実践』中田俊彦訳、シュプ
リン
ガー・フェアラーク東京、2001年
- ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』(上・下)幾島幸子・村上由見子訳、岩波書店、2011年
- 金子勝『セーフティネットの政治経済学』ちくま新書、筑摩書房、1999年【M-kaneko-On_SafeNet1999.pdf】
- Luhman, Niklas., 1996. Modern Society Shocked by its Risks.
Social Sciences
Research Center Occasional Paper 17., Department of Sociology, The
University
of Hong Kong.
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099